トリケラトプスは2種いる!|トリケラトプスの種の見分け方を解説

2024.07.14

図1: トリケラトプス・ホリドゥス “ケルシー”(左)と国立科学博物館に展示されているトリケラトプス・プロルスス(右)の頭骨レプリカ(筆者撮影)

こんにちは!恐竜好きな方へのサポートなどを行っているタレント「恐竜のお兄さん」加藤ひろしと申します。

角竜類に分類されるトリケラトプスはとても人気のある恐竜です。トリケラトプスについてはこれまでにバズったネタについての記事成長についての記事、そして角とフリル(えり飾り)の機能についての記事を執筆しましたが、現在この恐竜にはトリケラトプス・ホリドゥス Triceratops horridusとトリケラトプス・プロルスス Triceratops prorsusの2種(図1)が分類されているのをご存知でしょうか?

実はトリケラトプス属における種の分類の歴史はかなりややこしく、[16種もの種が乱立]⇒[ホリドゥスのみが有効な種(Ostrom and Wellnhofer, 1986)]⇒[ホリドゥスとプロルススのみが有効な種(Forster, 1996)]⇒ [ホリドゥスとプロルススのみならず、中間の特徴を持つ個体がいる(Scannella et al., 2014)]のように年代によって大きく変わってきました。 
古い本や博物館の古くなった展示解説にホリドゥス種とプロルスス種以外のトリケラトプスの種が載っているのは、この恐竜の種の分類についての複雑な歴史を反映しているためです。

今回はトリケラトプス属のなかで現在も有効な種と考えられている2種、およびその2種の中間の特徴を持つ個体を紹介し、それぞれの見分け方も説明します。

トリケラトプス・ホリドゥス Triceratops horridus

図2: トリケラトプス・ホリドゥスの復元
引用元: File:Triceratops UDL.png - Wikimedia Commons

トリケラトプス・ホリドゥスは1889年にトリケラトプス属として命名された最初の種になります。種の基準となる化石(ホロタイプ標本)は当初、当時知られていた角竜類“ケラトプス”属の新種 “ケラトプス”・ホリドゥスと命名されたものの(Marsh, 1889a)、その年のうちに新しい属 トリケラトプス・ホリドゥスと改めて命名されました((Marsh, 1889b)。ちなみに“ケラトプス”属は化石の少なさから現在では不明確な学名(疑問名)とされています(Dodson et al., 2004)。

日本の博物館では、福岡県の北九州市立いのちのたび博物館などで全身骨格レプリカ、熊本県の天草市立御所浦恐竜の島博物館などで頭骨レプリカを見ることができます。

トリケラトプス・ホリドゥスを見分ける主なポイント

図3: 若いトリケラトプス・ホリドゥスの頭骨レプリカ(筆者撮影)
青色で鼻角の骨、黄緑色で上顎の骨の鼻角を支える部分を示す。※実際の鼻角の骨は未発見であることに注意!

動物を見分ける時に大切なのは「同じところ」と「違うところ」の両方を見つけることです。
 今回の場合、まずはトリケラトプス・ホリドゥスとトリケラトプス・プロルススの「同じところ」を探します。トリケラトプス属だけに見られる大きな特徴は(ウマの背中に付ける)鞍のような形をした、真ん中の骨に穴が開いていないフリル(Forster, 1996)」です。
 次に「違うところ」です。トリケラトプス・ホリドゥスだけに見られる主な特徴は短い鼻角(Forster, 1996)」・「(横から見た時に)上顎の骨の鼻角を支える部分の幅が狭く、斜め上を向いている(Scannella et al., 2014)」です(図3)。

この上顎の骨の特徴を踏まえて、図3の頭骨を横から見ると、プロルスス種と比べて「尖った口先」という印象を受けます。

トリケラトプス・プロルスス Triceratops prorsus

図4: トリケラトプス・プロルススの復元
引用元: File:Triceratops prorsus Restoration.jpg - Wikimedia Commons

トリケラトプス・プロルススはトリケラトプス・ホリドゥスが命名された1年後の1890年に命名された種です。種の基準となる化石(ホロタイプ標本)は保存状態が非常に良く(Marsh, 1890)、一目でトリケラトプスと分かります。
 
 日本の博物館では、東京都の国立科学博物館などで全身骨格レプリカ、ミュージアムパーク茨城県自然博物館などで頭骨レプリカ、群馬県立自然史博物館などで実物化石を見ることができます。

トリケラトプス・プロルススを見分ける主なポイント

図5: トリケラトプス・プロルススの実物の頭骨(筆者撮影)
青色で鼻角の骨、黄緑色で上顎の骨の鼻角を支える部分を示す。

トリケラトプス・ホリドゥスとの「違うところ」、トリケラトプス・プロルススだけに見られる主な特徴は長い鼻角(Marsh, 1890; Forster, 1996; Longrich and Field, 2012)」・「(横から見た時に)上顎の骨の鼻角を支える部分の幅が広く、上を向いている(Longrich and Field, 2012; Scannella et al., 2014)」です(図5)。
 
 この上顎の骨の特徴を踏まえて、図5の頭骨を横から見ると、ホリドゥス種と比べて「丸まった口先」という印象を受けます。

そして、トリケラトプス属の2種の関係については「(少なくともアメリカ・モンタナ州北東部においては)祖先[ホリドゥス種]と子孫[プロルスス種]の関係だった」と考えられています(Scannella et al., 2014)。

ホリドゥスとプロルススの中間の特徴を持つ個体

図6: “ヨシズ・トライク”の全身骨格レプリカ(筆者撮影)

「アメリカ・モンタナ州北東部においては、ホリドゥス種がプロルスス種の子孫だったと考えられている」と先述しましたが、その研究(Scannella et al., 2014)では、ホリドゥスとプロルススの中間の特徴を持つ個体についても記述されています。

少し詳しく説明すると、アメリカ・モンタナ州北東部の地層 ヘルクリーク層の下側からはホリドゥスが、中間からはホリドゥスとプロルススの中間の特徴を持つ個体が、上側からはプロルススが発見され、基本的には地層が上側になればなるほど時代も新しくなるため、「(少なくともアメリカ・モンタナ州北東部においては)ホリドゥス種が時間をかけてプロルスス種へと進化した」と考えられています。

ここで初めて紹介する、中間の特徴を持つ個体は国内でも展示されています。熊本県の御船町恐竜博物館で“ヨシズ・トライク”というニックネームがつけられた全身骨格レプリカがその個体です(図6、図7)。

ホリドゥスとプロルススの中間の特徴を持つ個体を見分ける主なポイント

図7: “ヨシズ・トライク”の頭骨レプリカ(筆者撮影)
青色で鼻角の骨、黄緑色で上顎の骨の鼻角を支える部分を示す。※実際の鼻角の骨は未発見であることに注意!

ホリドゥスとプロルススの中間の特徴を持つ個体の主な特徴はホリドゥスよりも長く、プロルススよりも短い鼻角」・「(横から見た時に)上顎の骨の鼻角を支える部分はホリドゥスよりも幅広く、上を向いている(Scannella et al., 2014)」です。

 中間の特徴を持つ個体についてはさらなる研究が必要になりますが、トリケラトプス属の進化に関する重要な立ち位置にいるのは間違いないでしょう。

まとめ

これまで行われてきたトリケラトプス属における種の分類についての研究と見分け方をまとめると以下の2点です。

  1. トリケラトプス属にはホリドゥス種とプロルスス種の2種が分類され、主な見分け方は鼻角の長さと上顎の骨の形の違いである
  2. アメリカ・モンタナ州北東部においては、ホリドゥス種が時間をかけてプロルスス種へと進化したと考えられ、それぞれの中間の特徴を持つ個体も発見されている


トリケラトプスの化石はモンタナ州以外のアメリカの州やカナダの地層からも発見されるため、ホリドゥスがプロルススへと進化していったのかどうかを確かめるのにはさらなる化石の発見と研究が必要です。
 今後はホリドゥスとプロルススの頭の骨以外の違いについても研究が進むことを期待しています。

参考文献(本文登場順)

  • ・Ostrom, J. H., and Wellnhofer, P., 1986. The Munich specimen of Triceratops with a revision of the genus. Zitteliana, 14: 111-158.

    ・Forster, C. A., 1996. Species resolution in Triceratops: cladistic and morphometric approaches. Journal of Vertebrate Paleontology, 16(2): 259-270 .

    ・Scannella, J. B., Fowler, D. W., Goodwin, M. B., and Horner, J. R., 2014. Evolutionary trends in Triceratops from the Hell Creek Formation, Montana. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 111(28): 10245-10250.

    ・Marsh, O. C., 1889a. Notice of new American Dinosauria. American Journal of Science, 37: 331-336.

    ・Marsh, O. C., 1889b. Notice of Gigantic Horned Dinosauria from the Cretaceous. American Journal of Science, 38: 173-175.

    ・Dodson, P., Forster, C. A., and Sampson, S. D., 2004. Ceratopsidae. In: Weishampel, D.B., Dodson, P., and Osmolska, H., eds. The Dinosauria, Second edition. University of California Press. Berkeley, 494-513.

    ・Marsh, O. C., 1890. Description of new dinosaurian reptiles. American Journal of Science, 39: 81-86.

    ・Longrich, N. R., and Field, D. J., 2012. Torosaurus Is Not Triceratops: Ontogeny in Chasmosaurine Ceratopsids as a Case Study in Dinosaur Taxonomy. PLoS ONE, 7(2): e32623.

【著者紹介】恐竜のお兄さん 加藤ひろし

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出身地:東京都
誕生日:1993年10月28日
身長:167cm
資格:学芸員資格(博物館資料の収集・整理・保管・展示・調査など)
   大型特殊自動車免許(ブルドーザー・ショベルカー・クレーン・除雪車など)
   車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削)運転技能講習修了

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