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前記事では、理研計器が提案する新システム「RTGMS(Real-Time Gas Monitoring System)」が様々な現場環境の中で、最適なガスモニタリングを実現可能にする「カスタム方式」 について、ご紹介しました。
本記事では、新システムRTGMSにおいて、中心的位置にある防爆型熱量計「OHC-800型」に焦点を当てます。一体どのようにして、複数成分のガスを切り分けて、精度よく測定することが可能となったのかについて、理研計器の創業当初から確立されていた独自技術の応用に成功した歴史的背景から探り、明らかにしていきます。そして、「OHC-800型」における現在の社会的評価についてもみていきましょう。
RTGMSの開発には、3つの市場要求が背景にありました。(詳しくは、「RTGMS初級編~カーボンニュートラル時代における新ガス測定技術RTGMSについて~」を振り返ってみましょう。) 1つ目は「複数成分のガスを精度よく測定したい」というもの、2つ目は「ほぼリアルタイムでの測定・確認を行いたい」、そして3つ目は「様々な環境に対応可能な堅牢な機構を求めたい」というものです。この1つ目と2つ目の市場要求を実現させるために理研計器では、既存製品の中でも熱量計の技術を応用しました。
一般的に、熱量計は混合ガスの熱量を高速応答で測定することが求められます。独自のガスセンシング技術である光波干渉式センサと超音波式センサの2つの物理センサを搭載した新しいオプソトニック熱量計(OHC-800型)の開発に成功した理研計器は、高精度、高速応答を体現しました。このオプソトニック熱量計がRTGMSの技術的な支柱となり、新しいガス測定ソリューションであるRTGMSへと昇華させました。
光波干渉式センサのイメージ図
まずは、独自のガスセンシング技術である光波干渉式センサをご紹介いたします。光波干渉式を端的に説明すると、気体の屈折率の変化をとらえるセンサです。ガスには、それぞれ固有の数値を有していて、基準とするガスと測定したいガスの2つの屈折率差を捉えることでガス濃度を求めることができる仕組みとなっています。屈折率の測定において、化学反応を伴わないため、常時ガスが存在するような環境下でもセンサが劣化しにくいという特長があります。
光波干渉式におけるガスセンシング技術の開発は、理研計器株式会社の設立前までさかのぼります。
オイルタンカーの爆発事故
今からおよそ100年前、1920年代は、オイルタンカー、炭鉱における爆発事故が多発していました。理研計器の前身である財団法人理化学研究所(現国立研究開発法人 理化学研究所)は、オイルタンカーの爆発防止のためのガス濃度計を発明していました。それが、世界初の「光波干渉式ガス検定器」となります。この発明された光波干渉式ガス検定器の量産化を目的として、理研計器は創業に至ります。
光波干渉式ガス検定器
これはのちに、炭鉱および鉱山関係者の要望により、小型・軽量化し、気温と温度の変化に耐えうる改良がなされました。こうして、1937年には、理研ガス検定器「4型」がパリ万博へと出品され、その知名度を上げて全国に普及して行きます。さらに改良を加えた、「18型」が1950年代に発売されると、販売台数が世界で累計約25,000台となり、爆発事故の減少に貢献しました。
光波干渉式ガス検定器は、普及していくその過程で、単にガス濃度を求める役割だけでなく、熱量を求める用途として製品化されていくようになります。これは、屈折率と炭化水素(HC)系のみで構成される混合ガスの熱量に相関があることを発見できたことに由来します。屈折率を代替物理量として熱量を求める独自の「屈折率式」熱量計の開発、これが後に独自の熱量計を生み出すに至る素地となりました。
しかしながら、光波干渉式センサは、HC(炭化水素)系のみのガスに対する測定精度や応答速度が優れているものの、N2やCO2などHC系以外のガスが混入していた場合、測定誤差が生じてしまうという特性がありました。これは、N2やCO2などHC系以外の一部のガスは、熱量を有さず屈折率を持つためです。この課題に対し、2000年代初頭まで屈折率式熱量計で対応してきましたが、その限界を迎えることになります。
エネルギー資源を諸外国からの輸入に依存する日本は、液化天然ガス(LNG)における輸入元の多様化が進展していきます。輸入したLNGをエネルギー(都市ガス)として利用するためには、定められた熱量の規定があり、その基準を満たすために、熱量調整(熱調)がおこなわれています。都市ガスの原料となるLNGは、メタンを主として、エタン、プロパン、ブタンなどが含まれていますが、この組成が産地によって異なるため、従来の屈折率式熱量計では、測定誤差が生じる課題が浮き彫りとなりました。
先述の社会的背景を受けて、理研計器の光波干渉式熱量計はその技術的な点での限界を経験します。そこで、理研計器では自社で様々なガスセンサの開発・生産を行っている専門メーカーというバックグラウンドから、光波干渉式センサと超音波式センサの組み合わせに着目します。
光学センサと音速センサの誤差の比率が、ガス種を問わず約2.20倍で一定になる
研究開発における不断の努力の結果、N2やCO2など干渉ガスから受ける光学センサと音速センサの誤差の比率が、ガス種を問わず約2.20倍で一定になる性質を発見しました。この性質を応用し、光波干渉式センサと超音波式センサの2種類のセンサで測定したデータをもとに演算処理を行い、課題であったHC系以外の雑ガス成分が混入している場合の干渉影響を除去することに成功しました。これがOHC-800型の根幹技術である「オプトソニック演算」(特許第5184983号)です。このオプトソニック演算により雑ガスの影響を受けず、またガス検知警報器に求められる防爆・防塵・防滴の堅牢な設計を組み合わせることで、様々な制約環境下における複数ガス成分の測定を可能としました。このようにして、2010年代初頭に誕生に至った独自技術による防爆型爆熱量計が、「OHC-800型」なのです。
今日のデジタル時代におけるガス測定のあり方を再定義する試みとして、2024年 1月11日~2024年2月22日にかけて、デジタル庁管轄によるアナログ規制の見直しに関する技術実証事業にOHC-800型を用いて実施しました。このデジタル庁による技術実証事業は、安全性や実効性の観点から技術検証を必要とするものについて、デジタル原則を踏まえたアナログ規制の見直しを行うものです。
【技術実証の概要】
ガス事業法施行規則では、ガス事業者に対し一日一回の熱量及び燃焼性の測定業務と校正業務を定めています。これらの法定測定は、ガスクロマトグラフなどの分析機器を用いて測定することが求められています。 従来の分析機器は結果を得るまでのプロセスが複雑で、機器のメンテナンスや使用環境の整備に多くの費用を要してしまいます。
実証事業では、OHC-800が法令で求められている熱量及び燃焼性の測定を、精度よく容易な操作で行える能力を有し、校正頻度を減らしても、長期にわたってその精度を維持できることを実証しました。
【技術実証の結果】
実証実験の結果、以下の4点が実証されました。
RTGMSのコア技術である「OHC-800型」は、高精度、連続測定、高速応答を実現した世界で唯一の熱量計です。理研計器における熱量計としての1つの到達点といえます。
これは、理化学研究所をルーツに持つ理研計器が、産業用ガス検知警報器の専門メーカーとして、ガスセンシング技術の発展に情熱を注いできた結果と自負します。光波干渉式の測定原理を屈折率式熱量計として製品化させ、さらには、屈折率センサと音速センサの2種類のセンサによるオプソトニック演算へと進化させたことで、「OHC-800型」を生み出すことに成功しました。
「OHC-800型」は、大手エンジニアリング会社をはじめ、ガス会社、タービンメーカーなど、すでに200台以上をご採用頂きました。また、先述のデジタル庁の承認を通じて、デジタル時代におけるガス測定ソリューションとして社会的、客観的に高い評価を得ることができました。DX(デジタルトランスフォーメーション)が求められている現代社会において、理研計器は世界で唯一の熱量計で、デジタル化や省人化という社会的課題に対しても挑戦を続けます。