ウシマンボウ博士、はじめての隠岐の島フィールド調査!

2024.08.12

2024年初め、海とくらしの史料館(海くら)から、今年の企画展「マンボウ祭」で講演する話が来た時、私はふと思った。今まで境港には何度も足を運んだことがあるものの、その対岸に位置する隠岐諸島には一度も行ったことがないなと。日本海側のマンボウ類の情報は少ないが、隠岐諸島でもマンボウ類は獲れているのだろうか?と(後で文献調査したら一応漁獲記録はあった)。コロナ禍も現状曖昧な感じだし、そろそろフィールド調査に出かけてもいいのではないか?とそう思った。

5月の隠岐諸島へ

今年は隠岐諸島に行くぞと決め、海くら館長に話をしたところ、5月は海も穏やかで隠岐諸島に行くには最適な季節であるとの返事をもらった。一方、遮るものが無い分、島の天気は変わりやすく、海が荒れると船が欠航することもあるので注意が必要というアドバイスも頂いた。

 

隠岐諸島には、海くらでの講演がすべて終わった後に行くことに決め、私は天気が晴れることを願った。1週間前の天気予報では、雨模様でどうしようかなと思ったのだが、直前になって天気は良くなってくれた!これは本当にラッキーだった。

 

本記事の読者の方でも、隠岐諸島に行ったことがある人は少ないと思われるため、私の備忘録も兼ねてやや詳しめに今回のフィールドワークの話をしたいと思う。なお、隠岐諸島がどういう場所であるのかについては、参考文献にある隠岐ジオパーク推進協議会(2012)に詳しく書かれているので、そちらを見て欲しい。本記事では私が2024年5月に現地に行って感じたことや体験したことを中心に記している。

 

フェリーに乗って

隠岐諸島は4つの有人島と180前後の無人島から成り立つ島々で、有人島はさらに「島前どうぜん」と呼ばれる3つの島[知夫里島(知夫村)、中ノ島(海士町)、西ノ島(西ノ島町)]と、「島後どうご」と呼ばれる1つの島[隠岐の島(隠岐の島町)]で構成される。

4つの島々を数日掛けて一気に見て回るのも楽しそうだが、情報過多になりそうだったので、今回は隠岐の島(隠岐の島町)と中ノ島(海士町)(こちらの話は後日)の2つの島に行くことにした。

 

隠岐諸島に行くためには、隠岐汽船の船に乗るか、飛行機に乗るかの2択しかない。さらに隠岐汽船の船には、安くて時間がかかるフェリー(「おき」、「くにが」、「しらしま」)、高くて速い高速船(レインボージェット)の2タイプがある。

船によって乗り場や発着時刻が違うため、事前に隠岐汽船のサイト でよく確認する必要がある。私は今回、境港からフェリーで隠岐諸島へ行き、2泊してフェリーで境港に返って来る旅の計画を立てた。

 

境港から隠岐諸島に出発するフェリーは、14時25分発の「しらしま」で1日に1本しかない。逃すと大変なことになる。私は2024年5月19日の海くらでの講演が終わると、館長に境港駅まで送ってもらった。今まで全く知らなかったのだが、境港駅のすぐそばにフェリー乗り場があるのだ。

 

フェリー乗り場の受付前に設置されている片道乗船名簿に必要事項を記入し、それを受付に渡して代金を支払い、切符を購入する(クレジットカードも使える)。この切符は下船時に回収されるので、大切に持っておかなければならない。



フェリーへはフェリー乗り場の2階から橋を渡って乗船する。乗船時間は受付で聞いていた方がいいだろう。船内の部屋は様々な部屋があるが、私は一番安い2等室にした。大部屋に大人数が座る形式の部屋だが、私が乗った時は十分なスペースがあるように感じた。早めに乗船すると、数少ないコンセントのある場所を確保できる利点があった。

2等室の端にある棚には、枕代わりに使えるものも用意されていた。

 

フェリーの中にはスロットをして遊べる小さなコーナーや、売店(隠岐諸島の主要な特産品が良心的な値段で売られていた)、トイレ、自動販売機、隠岐諸島の観光スポットが紹介されたコーナーなどがあり、4時間ほど乗っていたが、特に不自由さは感じなかった。

ケータイ会社によるかもしれないが、私が使っているauは海の上でも電波が繋がっており、Google地図で航路を確認することもできた。凄い時代である。


フェリーは外の甲板にも出ることができ、海の様子を見ることもできた。5月は隠岐諸島近海でマンボウが漁獲された記録があるため、私は甲板からマンボウの浮かんでいるところが観察できないかと乗船中ずっと探していた。マンボウはいつどこに浮上してくるか分からない。

 

私が漁師さんから教えてもらったマンボウの海上での探し方は、下の図のように、右から左へ(もしくは左から右へ)手前から奥へ、奥から手前へとゆっくりと見ていくことだ。

 

こうすることで、視界に入る異変に気付きやすくなるとのことだ(マンボウがいると背鰭の先端が左右に動きながら海上に出ていることがある)。実際、乗船調査でこの方法を試していて、マンボウを海上で発見できたことが数回あった。今回は残念ながらマンボウと遭遇することはなかった。



隠岐諸島が近付いてくると、有人島の周りにある様々な形の島や奇岩を見ることができる。境港⇒隠岐の島への航路は、島前の3島の間を進んでいくので、澤井・大池(2024)で報告した中ノ島沖でマンボウが漁獲された海域(Google地図でおよその位置を確認)を見ることができた!

 

定置網自体は見えなかったが、現場周辺の海域を直接見ることができたのはなんだか嬉しかった。中ノ島は2日後に行く予定だ。

 

船は西ノ島に少し立ち寄り、隠岐の島に向かって再び進み始める。日暮れが近くなると、甲板も風がきつくなり、寒くなってきた。入港する様子も見たいと思って甲板にいると、乗船客はすぐに降りてしまい、私が最後の乗船客になってしまい、少し焦った。

隠岐の島に到着

無事、隠岐の島の西郷港に到着すると、島根大学隠岐臨海実験所に勤められている吉田さん(吉田真明准教授)が出迎えてくれた。


私がX(旧Twitter)で隠岐諸島に行く話をしていると、吉田さんからリプを頂き、実験所を利用させて頂けることになっていた。私がローカルなものを食べたいという要望を受けて下さり、ローカルスーパーであるサンテラスに連れて行ってもらった。旬であるイワガキ、ローカルなパン、赤てんぷらなどを購入後、実験所の使い方の説明を受け、隠岐の島1日目の夜は更けていった。

 

2024年5月20日、隠岐の島2日目。隠岐諸島で一番大きな島である隠岐の島で私が一番やりたいこととして、できれば自転車で島を1周したいと考えていた。フィールドとしてどういう場所であるかを知るためには、まず島全体の地理を把握しておくことが重要だ。私は車は乗らないため、自転車で走るしかない。

 

隠岐の島では、海洋スポーツセンターと隠岐の島町観光協会がレンタサイクルを行っており、事前にインターネットや電話で予約しておくことができる。私がレンタルした隠岐の島町観光協会 では、e-bike(電動アシスト付きマウンテンバイク)、電動アシスト付き自転車(籠付き)、普通自転車の3種類の自転車を貸し出しており、それぞれレンタルできる時間や値段が異なる。

 

町の中を観光するだけなら普通自転車でもいいかもしれないが、島のあちこちを見て回りたいなら、電動アシスト付きの物を借りた方がいい。事前に吉田さんや海くら館長からも言われていたことだが、道は基本的にアップダウンが激しく、自力で何度も急斜面を登るのは体力的にきつい。私は値段と自分の体力を天秤に掛けて、電動アシスト付き自転車を借りることにした。

 

Google地図で事前に調べたところ、実験所から隠岐の島町観光協会までは、徒歩で1時間40分ほど掛かる。隠岐の島町観光協会は8時に営業開始するので、余裕を持って6時過ぎに実験所を出発した。YAMAPのアプリで歩いた道のりと時間を記録したところ、確かに1時間半くらい掛かっていた。

 

この日は幸運にも晴れ。良いサイクリングができそうな予感がした。インターネットの情報では、自転車で隠岐の島を一周するには8時間ほど掛かると書かれていた。隠岐の島町観光協会に事前に問い合わせをしてみると、営業時間は8時~17時30分……つまり、9時間30分以内に島を一周して返却しなければならない(この日のうちに返却できなかった場合、翌日の料金も取られてしまう)。初めてサイクリングする場所なので、距離的感覚が全く分からない。私はとにかく急いで自転車を走らせることに決めていた。

 

8時前に無事、隠岐の島町観光協会に到着し、電動アシスト付き自転車をレンタルした(e-bikeの方を薦められたが、籠が無いしレンタル料が高かったので断った)。電動アシスト付き自転車は、三段階の電動アシストが可能で(レベル3にしていると上り坂は楽に上がれるが、電池はすぐに減る)、ボタンを長押しすると電源が切れて普通の自転車になる。平地や下り坂は電源を切り、きつい上り坂やトンネル内だけ電源を入れる作戦で、何かあった時のために出来る限り電池は温存する作戦で走り始めた。

自転車でぐるっと隠岐の島を周る

隠岐の島は、島をぐるっと一周回れるように道路が整備されていて、砂地ではなく、アスファルトの道を進むことができる。そういう意味ではサイクリングしやすい。ただ、山が多いため、車道を上ったり下ったりしなければならず、トンネルも多く、地元民は車のスピードも出しているため、注意が必要だ。

 

複数の地区に分かれているが、基本的に山の上には家が無く、下ったところに人が住む集落があるイメージ(公共トイレやコンビニ代わりとなる商店もある)。自動販売機は所々にあるので、水分補給は問題無いと思われる。

 

隠岐の島はオキタンポポやオキノアザミに代表されるように、その辺に生えている雑草の類いも他では見られない固有種だったりするので面白い[詳しくは隠岐ジオパーク推進協議会(2012)を参照]。

 

最初はサイクリングで出会った動植物も観察しようと思っていたのだが、とりあえず島を一周することに必死になっていたため、全然観察する余裕が無かった。私は隠岐の島町観光協会を出発して、とりあえず東回りに海岸沿いを北上し、半周したあたりの時間を見て、島の中心部を通って自転車を返しに行くか、西回りを南下して1周するかを判断しようと考えていた。

 

海沿いは晴れていれば、隠岐諸島の小さな島々や奇岩を見ることができて楽しい。内湾では海がエメラルドグリーンの色をしているところもあり、綺麗であった。気に入った景色を見付けたら足を止め写真を撮ることができるのがサイクリングの良いところである。

一方、山側の道を行くと、高い山間に田園風景が広がっており、あれ?さっきまで海だったのにとその景色の違いに動揺する。島なのに米作りが行われていることを知らなかったので私は結構驚いた。



展望台や神社などの観光スポットはたくさんあったが、それらに寄っている時間的余裕は無かったので、基本的にスルーして、サイクリングを進めた。しかし、隠岐の島の最北端に位置し、景観が綺麗という白島崎展望台だけは立ち寄った。立ち寄った記念に一枚パシャリ。

誰もいなかったので、今回はマスクも外して撮影した。高台からマンボウが見えたりしないかなーと淡く期待をしたものの、そんな簡単に見付かるはずもなかった。



隠岐の島町観光協会からの島の外周2/5ほどの距離に位置する白島崎展望台に着いた時点で10時40分頃。想定よりもだいぶ早く到着できた。時間的余裕を感じたので、これは島を一周できるのではないか……いや、島を1周してやるぞという強い決意に変わった!

しかし、ここから西方面へと自転車を漕ぎ始めると、ちょうど西からの風が強く吹くようになり、正面から結構強い風を受けることになった。また、天気予報では晴れマークであるものの、山頂付近に霧のようなものが出始め、曇ってきた。雨が降ることを警戒したが、何とか曇り程度でおさまってくれた。島の天気が変わりやすいことを実感した次第である。

 

基本的に海側は電波が入るので問題は無いのだが、山側は電波が入りにくくなるので注意が必要だと吉田さんからアドバイスを受けていた。そのため、電波が入らなくてもGPSで現在地を地図上で確認できるYAMAPのアプリを活用していたが、これは正解だったと思う。スマホも機内モードにして、基本的に電波と繋がらないようにしておけば、電池消費も抑えることができる(予備のモバイルバッテリーも一応準備していた)。

 

サイクリングも半分を超え、西回りに入ると、特に上り坂で足と腰が痛くなってきた。とにかく動き続けているとお腹が空く。そのため、商店を見付けては立ち寄り、ローカルなパンを購入しては食べた。この日はなんだかんだで1日5食くらいしていた。結構カロリーを摂取したので太ったかなと思っていたが……旅行から家に帰って体重を計ると痩せていた。ちょっとビックリ。

 

隠岐世界ジオパーク空港のある方へは行かず、隠岐の島町の主要な道路をなんとかぐるっと一周回ることに成功して、隠岐の島町観光協会に戻ったのは、14時59分だった。約7時間で隠岐の島町を電動アシスト付き自転車で1周できることが分かった。これを後で吉田さんに話すと少し驚かれていた。YAMAPのアプリで記録した私が自転車で走った経路は以下の地図のとおりである。

67kmを走破

休憩した時間を抜いて、走った総距離は約67 km。実際は下りもあったので、自転車で足を動かしていた距離はさらに少なくなると思うが、いやー、丸一日よく走ったと思った。

吉田さんから教えて頂いた隠岐の島で大型定置網のある場所は、上の地図で確認すると、五箇地区(2ヶ統あるので範囲が広くなっている)と今津地区(コロナ禍前までは運営していたが現在は不明)の2ヵ所である。

 

サイクリングをする中で定置網のある場所を見られるかなーと思っていたが、見事にその場所を外して走っていた……。吉田さんによると、話題に出したことが無いだけで実際は漁獲されているのかもしれないが、少なくとも五箇地区の定置網漁師から今までマンボウの話は聞いたことがないとのことだった。

 

私が澤井・大池(2024)で隠岐諸島におけるマンボウの記録を調べた限りでも、隠岐の島からの明確な記録は無かったので、おそらく漁獲はされているものと思われるが、その頻度は非常に少ないのではないかと思う。必ずしも欲しいサンプルや情報が得ることができないのもフィールド調査である。

 

しかしながら、定置網のある場所、感覚的にマンボウの漁獲率は少なそうであること、地理的に道のアップダウンが激しいこと、天候が変わりやすいこと、将来調査するとしたら現地調達よりも事前準備をしっかりした方が良いということが分かっただけでも大きな収穫である。今回は半分以上観光も兼ねているが、こうやって少しずつ現地の情報を収集していくことが重要なのだ。

 

昼食はサザエカレー

自転車を観光協会に返し、実験所に歩いて帰る前に何か昼食を食べたいなと思って、15時30分に閉店する船着き場前のさざえ村にギリギリ入り込むことができた!

隠岐の島は15時頃になると閉まる飲食店が多いので注意が必要だ。早速、名物であるサザエカレーを注文する。コリコリ食感が美味しい不思議なカレー。なんとも贅沢な気分。サザエカレーは他の店でも提供しているが、さざえ村は他の店よりも安く、美味であったためおススメである。ちなみにサザエは隠岐の島では5~6月は禁漁期で在庫が少なく、代わりにイワガキが出回っているとのことだ。

 

私は隠岐の島でもう一つ食べてみたいものがあった。それは「ベコ」とこの島で呼ばれるアメフラシの煮付けだ。アメフラシを伝統的に食べる地域は日本でも限られていて、隠岐の島でも知る人ぞ知る珍味。お土産屋では売っていない。インターネットでも情報は少なく、提供している店もほぼ無い。

インターネット情報からベコを提供しているという店に前日に入ってみたが、残念ながらその日は置いてなかった。さざえ村の店員に聞いても、隠岐の島でも田舎の方の老人しか食べないと言っていた。やはり隠岐の島でもレアな食材のようだ。今回は食べることができなかったが、次こそは食べてみたい。

 

サザエカレーを食べ終え、微妙な時間であったが、もう一軒地元スーパーを覗いてみたいと思い、ショッピングセンターひまりへ向かう。流石に自転車を漕ぎ続けたダメージが足にあったが、1時間ほど歩いてひまりに到着した。

その過程で、実験所への帰りは吉田さんが車で拾ってくれることになったので、ひまりで合流することになった。ひまりから実験所までは歩いて1時間半以上掛かる見込みだったので、非常にありがたい。あまりお腹は空いていなかったので、ひまり名物であるばくだんおにぎりと、隠岐誉という隠岐諸島で有名な日本酒などを買って、実験所に戻ることになった。

ちなみに、地元スーパーはひまりよりサンテラスの方が大きく、置いているものもサンテラスの方が多かったので、地元スーパー探索が好きな人はまずサンテラスに行かれることをおススメする。

 

最後に、隠岐の島で私が食べたローカル食品をまとめて載せておく(右上のごぼうサラダは除く)。パン率が高い……パンは特別美味しいという訳ではなく普通なのであるが、地元で作られているため、ここでしか食べることができない。隠岐の島に行った際には是非菓子パンもご賞味あれ。

 

 隠岐の島
  電動自転車
   7時間
    1周するなら
     5月が最適

参考文献

隠岐ジオパーク推進協議会.2012.隠岐ジオパークガイドブック.隠岐ジオパーク推進協議会,島根,183 pp.

澤井悦郎・大池明.2024.写真に基づく中ノ島(隠岐諸島)から得られたマンボウの確かな記録.Nature of Kagoshima, 51: 15-18.

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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