海くらマンボウ祭2025振り返り:マンボウ養殖を考える

2025.09.01

今年も2025年4月26日~5月25日の期間に海とくらしの史料館(通称海くら)でのマンボウ特化型企画展「マンボウ祭2025」が行われた。前回の記事ではその中でもメインイベントである5月10日に行われたヤリマンボウの公開解体調査の様子をお伝えした。今回は5月11日に行われたもう一つのメインイベントの様子をお伝えしよう。

ヤリマンボウの解体とマンボウ入りたこ無したこ焼きの試食

2025年5月11日、この日は私と鳥取県境港市の水産系YouTuberのさかひこさんとコラボトークイベントが昼から行われた。しかし、その前に……私には前日にやり残したヤリマンボウの解剖調査を終わらせる必要があった! この日、館長と共に海くらに到着後、私はすぐにヤリマンボウの残りの解剖調査を行った。昼からは館長がマンボウ入りタコ無したこ焼きを作るので、午前中に作業を終わらせて欲しいとのことだったので、私はすぐに作業に取り掛かった。

私がこの時行った調査は、眼球蛍籠用に眼を摘出、脳重量の計量、平衡砂(耳石のようなもの)の摘出、消化管長の計測、脊椎骨数の計数、背鰭・臀鰭・舵鰭の計数、咽頭歯の計数、軟骨ボール実験……などなど朝からやることはたくさんあった。すべての調査を解説すると記事を圧迫してしまうため、詳しい話はまた別の機会に回すが、いくつか興味深いヤリマンボウの体の部位を紹介しよう。

この手に乗っている透明なガラス玉みたいなものは、ヤリマンボウの眼の水晶体だ。おそらく詳しくは研究されていない部位だと思われる。ヤリマンボウの水晶体はまん丸の球体をしていて、写真で見るとボールみたいに跳ねそうと思われるかもしれないが……弾力はあるが柔らかく、例えるならグミような触り心地で、地面に落としても全然跳ねない。ヤリマンボウの水晶体は今回慎重に解剖して私も初めて見た。どういう研究に役立つのかは分からないが、誰かの研究の役に立つよう、ここに写真を載せておく。

もう一つ、面白い体のパーツを紹介しよう。こちらはヤリマンボウの咽頭歯(上咽頭歯)だ。先端に向かって少しカーブした棘が櫛状に3列並んでいるのがお分かり頂けるだろうか(本当は左右一対あるが、写真は左側だけ)。咽頭歯は魚種によって大きく形状が異なっており、マンボウ類はこういう櫛状になっている。一般的にはこの咽頭歯で吸い込んだクラゲなどを、ところてんを押し出すように引き裂いて飲み込むと言われているが……本当にそういう機能があるのかはよく分かっていない。棘の部分は骨のように硬く、刺さりはしないが、当たると痛い。

他にもヤリマンボウの体の面白いパーツはあるのだが、より詳しく知りたい方は参考文献にある澤井・大池(2025a)を見て欲しい(内臓の写真が多いので、それを見る覚悟がある方だけ)。

消化管内容物などは調べられなかったので、欲を言えばもう少し時間が欲しいところだったが、何とか取りたいデータは取ることができ、午前中に調査を終えることはできた。

予告通り、昼になると館長が中庭にやって来て、淡々とマンボウ入りタコ無したこ焼きを作り始めた。マンボウ祭の期間(隔日)は毎年のように作っているので手慣れたものである。マンボウ入りタコ無したこ焼きはマンボウ祭定番の試食だ。

 

メインイベント・トークイベント開始

館長がマンボウ入りタコ無したこ焼きをその時館内にいたお客さんに配布し終えると、いよいよこの日のメインであるトークイベントが始まった。トークイベントは3部構成になっており、まずはさかひこさんによる境港サーモンの話。続いて、私によるマンボウ類の話。最後に私とさかひこさんと館長で議論するマンボウ養殖についての話。

最初のさかひこさんによる境港サーモンの話は、私の知らない情報だらけだった。そもそも境港には何度も足を運んでいたのに、ギンザケが養殖されていたことも知らなかった。境港サーモンは東日本大震災で被災した宮城県女川町の水産会社が、14年前に鳥取県境港市に拠点を移してギンザケを養殖し始めたことから始まったという。鳥取県は宮城県より南に位置するため、ギンザケの養殖に適する低水温期も宮城県より短い。そのため、境港でも早く大きく育つように自社で品種改良を行い、人工受精→ 淡水養殖→ 海面養殖→ 水揚げ・加工まで完全養殖を行っている。境港サーモンの話を聞いてから現地で一度食べてみたが、確かに美味しかった。この時に講演されたものと同じような内容は既にYoutubeの方で配信されているため、気になった方はさかひこさんのチャンネルを見てみて欲しい。

 続いて、私の講演であったが、前半は私のこれまでに行ってきたマンボウ類の分類の話をし、後半はせっかく前日にヤリマンボウの解剖調査を行ったので、予定を変更してヤリマンボウの形態的特徴を詳しくお話しした。おそらくこんなマニアックな話は他では聞くことはできないだろう。

マンボウの養殖は可能なのか・・・?

少し休憩を挟んで最後のセッション「空想科学マンボウの養殖を考える」が館長主導のもと始まった。何故空想科学なのかというと、実際には実現しなさそうだが、仮に実現するならどういうことが考えられるか?ということを議論するために、館長が出したアイデアだった。確かに野生個体重視の研究をメインで行ってきたので、私もマンボウの養殖について考えたことはほとんどなかった。私が考えるに、時間はかかってもマンボウの養殖はお金さえあれば可能だと思う、お金さえあれば。成熟したオス個体は日本近海でも確認しているので、問題は成熟したメス個体をどうやって得るか?が大きな焦点になるだろう。一応、鴨川シーワールドでマンボウが産卵した事例が1件だけ知られているが、どういう条件で産卵したのかは詳しく調べられていない。その前にまずはマンボウを飼育した状態で雌雄判別する技術を確立させる必要があり、その上でマンボウのメスを成熟・排卵促進させるホルモンを開発し、成熟オスと人工授精させることができれば、受精卵は得ることができると思う。

しかし、受精卵からどのようにして成魚まで育てるのかは仔稚魚期の餌がよく分かっていないので特定するまで時間がかかりそうだ。普通の魚類より大きな水槽も必要になる。そもそもマンボウの食としての需要は現状あまり高くない……ので、マンボウの養殖は現実的では無いのだが、もし実現できたのなら、活用方法はいくつか考えられる。マンボウの肉は熱を通すと鶏肉のような食感になるので、濃い味付けで料理すれば鶏肉の代替商品になる可能性がある(最近鳥インフルエンザが問題となっているし)。また仔魚から成魚まで著しく形態変化するため、水族館でその成長過程を展示できれば科学教育の役に立つ。マンボウの体のパーツを使った何らかの商品があるのかは知らないが、皮は割と丈夫であるため、なめし皮などにして使える可能性がある。マンボウの活用アイデアは色々湧くのだが、やはりそれを実現するためには膨大なお金が必要になる。しかしながら、世界的にマンボウが減少しているような気配があるので、遠からずマンボウの個体数を増やす政策が必要になってきそうな予感がある。保護的観点からもマンボウの養殖技術の開発は今後必要になっていくかもしれない。