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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、恐竜は天体衝突の直前まで繫栄していることを、数学的手法で解明したというお話だよ。どういうことかというと、恐竜の化石の発見数は、天体衝突の直前に減少傾向にあることから、大量絶滅は天体衝突の前に始まっていたのではないか?とする説が根強くあったんだよね。
恐竜化石の発見数が少ないのは、単に見つけていないことによるバイアスによるものか、それとも実際に天体衝突の前から恐竜の絶滅が始まっていたのか、というのは、解決するのが難しい問題な訳だけど、今回は数学的な手法によってその問題を解決する事を試みたんだよね。
今回の研究は、化石の発見数を額面通りに捉えて生物の栄枯衰退を判断すべきではないという教訓めいた話にも繋がるよ。そして何より、あの日の天体衝突が無ければ、もしかすると6600万年後の現在も恐竜の時代が続いていたのかもしれないというifの話を肯定する材料にもなるよ!
CONTENTS
白亜紀末の大量絶滅の原因が天体衝突であること自体に異論は少ないけど、唯一の原因かについては異論があったよ。これは、天体衝突の直前の時代で、恐竜化石の数が少ない傾向にあることが理由として挙げられているんだよね。 (画像引用元番号①②)
今から6600万年前の白亜紀末、地球に直径10kmくらいの小惑星が衝突し、多くの生物が絶滅した……というのはよく知られているよね。白亜紀末の大量絶滅は、有名な古生物である恐竜が、鳥類の系統を除いて絶滅したという意味で、他の大量絶滅よりもよく知られていると思うんだよね。
白亜紀末の大量絶滅は歴史上最大級の大量絶滅の1つに数えられる規模であり、そして (現代を除けば) 最も近い時代の大量絶滅なことに加え、恐竜というみんなが知る古生物が絶滅したせいか、研究に関しても関心が高いんだよね。そして研究者の間では、大量絶滅の正確な原因について何十年も議論されているよ。
白亜紀末の大量絶滅は天体衝突によって起きた、とする説自体には、1990年代以降ほとんど異論はないんだけど、その詳細について「天体衝突が大量絶滅の唯一の原因」だとする説と、「天体衝突はトドメの一撃となったが、それ以前から大量絶滅が始まっていた」とする説とが、結構対立している構図なんだよね。
なぜこのような議論が起きているのかと言うと、大量絶滅が起こる直前の時代、「マーストリヒチアン期」[注1]の約600万年間は、他の時代と比べて恐竜化石数が少なくなっているように見えるからなんだよね。つまり、大量絶滅の約600万年前からすでに恐竜の数の減少傾向、つまりは絶滅が始まっていた、という考えが成り立つんだよね。
もしこの考えが正しい場合、天体衝突とは関係のない別の原因で、当時の地球の支配者だった恐竜の絶滅が始まっており、天体衝突は恐竜にトドメを指したとはいえ、唯一の原因ではない、ということになるよ。もしかすると、天体衝突が無かったとしても、恐竜は絶滅の運命を辿っていた可能性も否定できないわけだね。
一方、この解釈は成り立たたないのではとする反論もあるよ。そもそも、生物が化石になることはとても稀な出来事だし、全ての地層が掘り返されているわけでもないから、化石の発見数が少ないのはその時代特有の事情か、もしくはたまたま化石の発見数が少ないだけだ、と反論することも可能だからね。
一応、何十年もの議論の間に「天体衝突が大量絶滅の唯一の原因」だとする説の方に軍配が上がっているような感じにはなってきたものの、それでもまだこの異論が根強く残っているのは、異論が正しいか正しくないかに関わらず、それを証明する手段が中々ない、というところがあるからなんだよね。
実物が見つかっていない以上、化石の発見数が少ない理由を探るのは難しいよね?ということで今回の研究では、「占有モデル」という数学的な手法を使うことで、化石が本当に少ないのか、それとも単に見つかっていないだけなのかを推定することにしたよ。 (画像引用元番号③)
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのChristopher D. Dean氏などの研究チームは、白亜紀末の恐竜化石が少ないのは、単に見つかっていないだけなのか、それとも本当に数が減っているのかという、回答が難しい難しい課題に挑戦する研究を行ったよ。
Dean氏らは、マーストリヒチアン期の恐竜化石が少ない理由を探るための研究を行ったよ。と言っても、それは単純に数を数えるのではなく「化石はあるけど見つかっていないだけ」という未発見状態がどれくらいあるのかを推定する手法で比較したんだよね。
見つかっていない化石をどのように数えるのか?という疑問が浮かぶと思うんだけど、Dean氏らは「占有モデル」と呼ばれる数学的手法を使うことで数を推定したよ。占有モデルの詳しい説明は省くけど、簡単に言えば「この地域にどれくらいの生物個体数がいると推定できるか」ということを考える手法なんだよね。
例えば、ある地域に生息する生物の数を数える時、理想的には全部の個体を数えれば正確な数が求まるけど、どう考えても非現実的だよね?これに対し占有モデルでは、対象とする地域を細かくエリア分けした上で、細分化された1つ1つのエリアに生物がいる確率がどの程度なのかを推定するよ。
この手法を使えば、実際には見つけていないけど、いるであろう生物の数を推定することができるわけ。ただ、生きている生物に対する占有モデルの適用はよく見るけど、すでに絶滅している古生物の化石の数を推定するために使ったという点では、この研究は結構珍しいんだよね。
Dean氏らは、白亜紀末の恐竜化石の半分程度が見つかっている、現在の北アメリカ大陸西部の「西部内陸海路」を対象に占有モデルを適用したよ。調べた時代は、恐竜化石が減っているとされるマーストリヒチアン期と、その1つ前のカンパニアン期[注2]を含めており、約1800万年間を4つの時代に分けて分析したんだよね。
また、恐竜はアンキロサウルス科・ケラトプス科・ハドロサウルス科・ティラノサウルス科の4つのグループに分けて、化石数を推定したんだよね。こうすれば、恐竜の生態によって影響が異なったりした可能性を推定することもできるわけだね。
占有モデルによる推定から、恐竜の化石数は大量絶滅の直前でほぼ横ばいで、ケラトプス科はむしろ増えているということが推定されたよ!これは、白亜紀末の大量絶滅は天体衝突が唯一の原因であることを裏打ちするとともに、天体衝突さえなければ、後の時代でも恐竜は絶滅していなかったかもと想像させる結果でもあるよ! (画像引用元番号④)
結果はかなり興味深かったよ。占有モデルから推定される化石の数は、約1800万年間の全ての時代であまり変わらず、むしろケラトプス科については数が増える傾向にあることが推定されたんだよね!なので化石の数が少ないマーストリヒチアン期は、実際にはかなり数の化石が未発見であることが推定されたよ!
ケラトプス科の化石数が多いと推定されることは、推定される当時の環境からも裏付けられるよ。研究対象となった西部内陸海路は、名前の通り大陸を二分する内海だったんだけど、この時代には段々と内海が後退し、内海へと注ぐ河川も干上がって、緑豊かな平原へと変化していたと推定されているんだよね。
ケラトプス科の化石が河川から離れた平原で見つかる傾向にあることを考えると、当時の環境変化から個体数が増え、それによって化石の数が増えたと考えてもおかしくないんだよね。占有モデルという数学的な手法による結果が、別の観点からも裏付けられることで、この推定の正しさが裏付けられると言えるわけだね。
じゃあ、なんで見つかっているべき化石が見つかっていないのか?Dean氏らは、研究者が訪れることが可能な土地の広さ、岩石が露出している面積、研究者が実際に訪れた回数などの要素が、どの程度化石の発見数に影響を与えたのかを推定したよ。
その結果、今回分析された1800万年間の全体において、研究者が訪れることが可能な土地の広さと、岩石が露出している面積が、化石の発見数を下げる主因であることが推定されたんだよね。もう少し探索の範囲を広げることで、見つかっていない化石をさらに発見することができるかもしれないよ。
今回の研究結果は、白亜紀末の恐竜化石の約半分が見つかっているとはいえ、地域限定での数学モデルの適用によるものだから、当然ながら限界はあるよ。違う土地でも同じ研究を行ったとして、同じ結果が返ってくる保証はないわけだから、結果が覆る可能性は残されているよ。
ただ、少なくとも今のところは、白亜紀末の恐竜化石の数の少なさは人為的なバイアスがかかっており、実際の恐竜は天体衝突の直前まで減少傾向になかったと推定されるんだよね。これは、白亜紀末の大量絶滅は天体衝突が唯一の原因であるとする説と合致するものだよ。
そもそも化石が見つかる地層と言うのは、当時そのままではなく、山脈の隆起や海面変動などの地殻変動に晒されているため、ある程度の情報は消えていると考えるべきなんだよね。今回の研究結果は、化石の発見数を額面通りに受け取って栄枯盛衰を判断すべきではないという教訓的な内容も含んでいるのかもしれないね。
ではもし、6600万年前の天体衝突が無かったら、恐竜はどうなっていたんだろう?今回の研究の研究者の1人であるユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAlfio Alessandro Chiarenza氏は以下のような見解を示しているよ。
Dinosaurs were probably not inevitably doomed to extinction at the end of the Mesozoic. If it weren’t for that asteroid, they might still share this planet with mammals, lizards, and their surviving descendants: birds.
恐竜は、中生代の末期に必然的に絶滅したわけではなかっただろう。あの小惑星がなければ、恐竜は現在も哺乳類、トカゲ、そして生き残った子孫である鳥類と、この惑星で共存していたかもしれない。
[注1] マーストリヒチアン期
7220±20万年前から6600万年前までの時代。中生代白亜紀後期の時代区分の1つで、中生代最後の時代のでもある。 本文に戻る
[注2] カンパニアン期
8360±20万年前から7220±20万年前までの時代。中生代白亜紀後期の時代区分の1つ。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)