最大級の角竜類! トリケラトプスはどう成長する?

2023.10.23

成体のトリケラトプスの3D復元

 

 こんにちは! 恐竜好きな方へのサポートなどを行っているタレント、「恐竜のお兄さん」加藤ひろしと申します。

 

     トリケラトプス Triceratopsといえば、角を持つ恐竜(角竜類)のなかでも一番有名で、白亜紀末期(6800万年前~約6600万年前)のカナダとアメリカ*1に生息した大型の角竜類です。

     

     しかし、いくらトリケラトプスが大きいとはいえ生まれた頃からあんなに大きかったわけではありません。トリケラトプスも動物ですから、卵から生まれて大きく成長していきました。

     そして目の上の角の向きやえり飾り(フリル)の縁にくっ付く骨の形は、成長とともに大きく変化していったのです。

    手前から奥にいくにつれて若くなる、トリケラトプスの成長段階ごとの頭骨レプリカ

     

     それでは、そんなトリケラトプスの成長にともなう変化は一体どのように研究されているのでしょうか?

     

     今回はトリケラトプスの

     

    • “成長”についての研究が行われるようになるまでの歴史
    • “それぞれの成長段階”

     

    を紹介します!

     

    “成長”についての研究が行われるようになるまでの歴史

     

    トリケラトプス Triceratopsという属名は1889年の研究論文で命名されましたが*2、トリケラトプスの成長についての研究論文は117年後の2006年まで出版されていませんでした*3

     

     何故100年以上も成長についての研究論文が出版されていなかったのかというと、「発掘されたトリケラトプスの化石の数が少なかったから」ではありません。

    それどころか、白亜紀末期のカナダとアメリカに生息した恐竜の化石の産出数を調べた2018年の研究論文によるとトリケラトプスと同定できた化石標本だけでも2018年までに325体以上が発掘されています。しかしそのトリケラトプスの化石のほとんどは成長した個体の化石であり、若い個体の化石はとてもレアでした*4

    この、若いトリケラトプスの化石がレアである理由については「若者の小さくてバラバラになった骨化石は、昔のコレクターには見逃されていたのだろう」と2010年の研究で考察されています*5

    実は私たち人間の骨もそうですが、動物の骨は、ある部位(例えば頭)を構成しているそれぞれの骨同士が成長に伴ってつながることで最終的に一つのまとまりになりますので、ただでさえ小さな若いトリケラトプスの骨は化石になる過程でバラバラになってしまい、より一層見つかりにくくなるのです。

     

     そんななか、2006年にとても小さなトリケラトプスの化石の記載を行った研究論文が出版されました*6。この個体の頭骨は目から先の部分が失われていましたが、下顎から推定した頭骨の長さは推定38センチメートル*3、長さ35ミリメートルの2本の目の上の角とトリケラトプスならではの穴が開いていないフリルが残されていたため、トリケラトプスと同定されました*6

     

     そして同じ2006年に、このとても小さなトリケラトプスの頭骨から得られたデータも含めた「トリケラトプスの成長に伴う頭骨の変化」についての研究論文がようやく出版されました*3

     この2006年の研究論文ではトリケラトプスの成長ステージを4段階ごとに分けていますので、今回の記事ではその段階を若い順にそれぞれ紹介していきます。

     

    “それぞれの成長段階”

    とても小さな仔

     まず、発見されたトリケラトプスのなかで一番小さな時の成長段階である【幼体】についての紹介です。

     卵から生まれたばかりの【赤ちゃん】トリケラトプスの化石はまだ発見されていませんが、【幼体】の個体の代表例となるのは先述したとても小さなトリケラトプスです。

    この個体の化石は頭骨だけではなく、少なくとも3つの断片的な背骨(椎骨)・骨でできた腱(骨化腱)も産出しています*6

    【幼体】のトリケラトプスの頭骨のレプリカ

     

     【幼体】の頭骨にみられる特徴は「短い箱型のフリル」「フリルの後ろの縁がホタテ貝みたいな形をしている」「短くてちょこんとした目の上の角」「眼球が入る穴(眼窩)が顔に対して大きめで、顔そのものは小さめである」であり*3、成長したトリケラトプスの頭骨とは大きさも形もかなり違います。

     

    フリルにくっ付く三角形

     続く【亜成体】という成長段階では、まずフリルに大きな変化が起こります。

     フリルの縁に三角形の骨が軟らかい組織を通して付くようになり*3*7、トゲトゲした印象のフリルになります。

     

     

    小さな【亜成体】のトリケラトプス『シエラ』の頭骨レプリカ

     

    小さな【亜成体】の目の上の角は、横から見ると後ろ向き、前から見ると上向きに伸びるようになります*3

    前に伸びていく目の上の角

     さらに成長した段階である大きな【亜成体】になると、目の上の角の向きが大きく変わります。

     小さな【亜成体】の目の上の角は横から見ると後ろ向き、前から見ると上向きでしたが、大きな【亜成体】の目の上の角はその頃の角のカーブを少し残したまま、前の方に伸びていきます*8

     

    大きな【亜成体】のトリケラトプス『ホーマー』の頭骨レプリカ
    (フリルの縁に付く三角形の骨はフリルそのものと別々で産出した点に注意!)

     

    大人になる手前

     大人になる手前の成長段階を【サブアダルト】といい、この成長段階以降のトリケラトプスの化石は比較的多く発見されています*4

    【サブアダルト】のトリケラトプス『ゲッタウェイ・トライク』の頭骨レプリカ

     

     【サブアダルト】になると、フリルの縁に付く骨の形はなだらかな三角形になり、フリルそのものと縁に付く骨とが一体化し始めます。また鼻の上の角の骨はその土台となる鼻の骨と一体化します*3*7

     

     【サブアダルト】のトリケラトプスについては、頭骨だけではなく成長に伴う骨格の変化についての研究論文も出版されており、その研究論文では群馬県立自然史博物館に所蔵・展示されている【サブアダルト】の『グンディ』の頭骨や骨格を記載し、他の個体との比較も行いました*9

    【サブアダルト】のトリケラトプス『グンディ』の全身骨格レプリカ
    (緑のラインで肩甲骨、青のラインで烏口骨を示す。フリルの縁に付く三角形の骨が失われている点に注意!)

     

     それによると、『グンディ』と国立科学博物館に所蔵・展示されている『レイモンド』とでは、『レイモンド』の肩の骨(肩甲骨と烏口骨)は一体化している一方で『グンディ』の肩の骨は一体化していません。

    このことからも、彼らの成長段階は同じ【サブアダルト】ではあるものの、『レイモンド』の方が少し成長していたと考えられています*9

    【サブアダルト】のトリケラトプス『レイモンド』の全身骨格
    (肩甲骨と烏口骨が一体化(癒合)した跡を矢印で示す。)

     

    地球史上最大級の頭

     最後は【成体】、つまり大人のトリケラトプスについて説明します。

     【成体】になると、目の上の角はしっかりと前を向き、フリルの縁に付く骨の形が平らになり、フリルそのものと縁に付く骨は完全に一体化します*3*7

    【成体】のトリケラトプス『モート』の頭骨(長さ: 約2.08メートル)レプリカと
    【成体】のトロサウルス*10『トロⅡ』の頭骨(長さ: 約2.52メートル)レプリカ
    (実物はどちらも目の上の角の先が欠けていることに注意!)

     

     ご覧のとおり、【成体】の頭骨は非常に大きく、最長で推定約2.5メートルにもなります*11

    そしてこの数値を踏まえると、トリケラトプスの頭骨は、共存していたトロサウルス Torosaurusの最長で約2.8メートルの頭骨*12と並んで、陸上動物のなかでも史上最大級の大きさの頭骨になります*13

     

    長さが推定約2.5メートルにもなる【成体】のトリケラトプスの頭骨レプリカ
    (実物は目の上の角とフリルの上半分が欠けていることに注意!)

     

    まとめ

     「成長に伴って頭の骨の形が変わる」というのは私たち人間にとっておかしなことに聞こえるかもしれませんが、トリケラトプスのような恐竜だけではなく、ヒクイドリ*14などの今生きている動物も成長に伴って頭骨の形がかなり変化します。

    ですから、博物館や動物園に行って動物の骨を見たときには「この子はどれ位成長していたのかな?」と考えてみるのもオススメします。

     

     

     

    参考文献(本文登場順)

    1. Fowler, D.W., 2017. Revised geochronology, correlation, and dinosaur stratigraphic ranges of the Santonian-Maastrichtian (Late Cretaceous) formations of the Western Interior of North America. PLoS ONE, 12(11): e0188426.本文に戻る

    2. Marsh, O.C., 1889. Notice of gigantic horned Dinosauria from the Cretaceous. American Journal of Science, series 3-38(224): 173-175.本文に戻る

    3. Horner, J.R., and Goodwin, M.B., 2006. Major cranial changes during Triceratops Proceedings of the Royal Society of London: Biology, 273(1602): 2757-2761.本文に戻る

    4. Stein, W.W., 2019. TAKING COUNT: a census of dinosaur fossils recovered from the Hell Creek and Lance Formations (Maastrichtian). Journal of Paleontological Sciences, 8: 1-42. 本文に戻る

    5. Goodwin, M.B., and Horner, J.R., 2010. Historical collecting bias and the fossil record of Triceratops in Montana. In: Ryan, M.J., Chinnery-Allgeier, B.J., and Eberth, D.A., eds. New Perspectives on Horned Dinosaurs: The Royal Tyrrell Museum Ceratopsian Symposium. Indiana University Press. Bloomington, 551-563.本文に戻る

      /li>
    6. Goodwin, M.B., Clemens, W.A., Horner, J.R., and Padian, K., 2006. The smallest known Triceratopsskull: New observations on ceratopsid cranial anatomy and ontogeny. Journal of Vertebrate Paleontology, 26(1): 103-112. 本文に戻る

    7. Horner, J.R., and Goodwin, M.B., 2008. Ontogeny of cranial epi-ossifications in Triceratops. Journal of Vertebrate Paleontology, 28(1): 134-144.本文に戻る

    8. Mathews, J.C., Brusatte, S.L., Williams, S.A., and Henderson, M.D., 2009. The first Triceratops bonebed and its implications for gregarious behavior. Journal of Vertebrate Paleontology, 29(1): 286-290.本文に戻る

    9. Fujiwara, S., and Takakuwa, Y., 2011. A sub-adult growth stage indicated in the degree of suture co-ossification in Triceratops. Bulletin of the Gunma Museum of Natural History, 15: 1-17 本文に戻る

    10. Longrich, N.R., and Field, D.J., 2012. Torosaurus Is Not Triceratops: Ontogeny in Chasmosaurine Ceratopsids as a Case Study in Dinosaur Taxonomy. PLoS ONE, 7(2): e32623.本文に戻る

    11. Scannella, J.B., and Horner, J.R., 2010. Torosaurus Marsh, 1891, is Triceratops Marsh, 1889 (Ceratopsidae: Chasmosaurinae): synonymy through ontogeny. Journal of Vertebrate Paleontology, 30(4): 1157-1168 本文に戻る

    12. Farke, A.A., 2006. Cranial osteology and phylogenetic relationships of the chamosaurine ceratopsid Torosaurus latus. In: Carpenter, K., ed. Horns and Beaks: Ceratopsian and Ornithopod Dinosaurs. Indiana University Press. Bloomington, 235-257. 本文に戻る

      • Dodson, P., Forster, C.A., and Sampson, S.D., 2004. Ceratopsidae. In: Weishampel, D.B., Dodson, P., and Osmolska, H., eds. The Dinosauria, Second edtion. University of California Press. Berkeley, 494-513.本文に戻る
    13. Green, T.L., and Gignac, P.M., 2020. Osteological description of casque ontogeny in the southern cassowary (Casuarius casuarius) using micro-CT imaging. The Anatomical Record, 304(3): 461-479. 本文に戻る

     

     

    【著者紹介】恐竜のお兄さん 加藤ひろし

    恐竜についての難しい研究論文について、わかりやすく解説しています。
    そのほかにも、動物園・博物館・恐竜イベント等をさらに楽しむ為に注目すべきポイントについて紹介します。幅広い知識を子供から大人まで、ご要望に応じた層に分かりやすく対応いたします!
    出身地:東京都
    誕生日:1993年10月28日
    身長:167cm
    資格:学芸員資格(博物館資料の収集・整理・保管・展示・調査など)
       大型特殊自動車免許(ブルドーザー・ショベルカー・クレーン・除雪車など)
       車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削)運転技能講習修了

    このライターの記事一覧