モリフクロウは同種でも色が異なると生態も変わる|灰色、褐色それぞれの面白い生存戦略とは?

2024.06.19

生き物の色合いというのは多様なものです!周りの色と同化し、自らの体を隠す生き物がいる一方、自らの体をより美しく見せようと派手な色を持っているものもいます……

また、生き物の中には同じ種なのに別の色を持っているものがいます。フクロウなどはその一例です。今回はモリフクロウの色彩と生存戦略について見ていきましょう!


「褐色」と「灰色」

灰色が強い個体と褐色が強い個体……画像引用元①-1,2 (ふたつに明確な境界線はないのです!)


モリフクロウStrix alucoの色彩には大きく分けて「褐色」と「灰色」のふたつの種類があります。ヨーロッパに広く分布していて雨の少ない寒冷な環境や北部では灰色がより多くみられるそうです!

動物の色には多くの物質がかかわっていますが、今回のモリフクロウの色の多様性を作り出しているのはメラニン色素です。

 

メラニン色素には黒く見えるユーメラニンと赤や褐色などに見えるフェオメラニンの二種類があり、これらのバランスによって見えている色が決定します。ヒトの髪の毛もこのふたつの比率によって黒髪や茶髪等の多様性が生まれるのです。

 

モリフクロウの場合、フェオメラニンの多い「褐色」と少ない「灰色」となっていますね。このメラニンの役割としては化学的な防御や光を吸収して熱にすることによる体温調節などが挙げられますが、灰色のモリフクロウにはフェオメラニンが少なく生存に不利な形質なのでしょうか。

 

灰色のモリフクロウは雨の少ない寒冷な環境や北部で多く見られますが、それらは積雪の多い地域です。すなわち雪景色に紛れる灰色の色彩は彼らの生存確率を上げているのです。積雪した場所では褐色の個体には強い選択圧が掛かるため、フェオメラニンが少ないことが有利に働くわけですね。

 

寒冷な地域では体温調節が重要であり、メラニン色素が寄与している機能のひとつでもあります。体温調節にも役立つフェオメラニンがある一方、捕食者に見つかりやすくなってしまうというトレードオフがあるわけです。

しかし灰色のモリフクロウは褐色のものに比べて小羽枝の密度が高いことがわかっていて、断熱性が褐色の物に比べて高い可能性が示唆されています。

色と生存戦略

褐色の強いモリフクロウ……画像引用元②


褐色と灰色の違いはそれだけではありません!褐色のモリフクロウと灰色のモリフクロウでは繁殖シーズンの時期によって産む子供の性別の比率が異なります。

褐色のモリフクロウでは、シーズン前半はメスの比率が高く、後半にかけてオスの比率が高くなっていき、灰色では逆に最初はオスが多くだんだんとメスが多くなるという傾向にあります。

 

これはそれぞれのフクロウの特性と戦略が異なるためです!褐色のモリフクロウのオスは環境の条件によらずヒナに一貫した給餌を行い、灰色同士のペアや灰色と褐色のペアよりも体重の重い良好な状態の巣立ちヒナを育て上げます。

さらに褐色のモリフクロウはエサを効率的に体重にすることができ、エサが豊富な環境であれば灰色のヒナよりもよく成長するのです。

 

対して灰色のモリフクロウは環境の条件によって繁殖努力を調整するという戦略をとっています。またエサが豊富な環境下であってもそれほど効率的に体重に変換できませんが、エサが乏しい環境であれば体重の減少が少なく褐色のヒナよりも重くなります。

 

一般的にモリフクロウではオスよりもメスの方が約20%体が大きいため、育てるのにより多くのエサが必要となるためオスかメスかというのは大きな問題です。


褐色のモリフクロウは繁殖期の前半に産んだ子孫、すなわちエサが豊富にあるうちに孵るヒナはメスが比較的多くなります。褐色のメスのヒナは必要なエサの量も多いですがよく成長するため、生存率が上がり翌年に繁殖に参加する可能性が上がるわけです。

対して子育て時期の後半はエサが乏しくなるため、必要なエサの量が比較的少ないオスを優先するようになった、という適応がなされた可能性があります。

 

一方、灰色のモリフクロウでは子育て時期の前半にはオスのヒナが比較的多くなります。これはエサが豊富な時期は競争も多いため、より必要なエサの量が少ないオスが有利となる可能性があるのです。

対して子育て時期の後半はエサが乏しくなり、巣立ったヒナ同士の競争では灰色のメスは褐色のものよりも有利、という可能性が考えられます。

色の差異で外見だけでなく、繁殖戦略も異なっているわけですね!

 

また、今回紹介した調査の全体としてのモリフクロウの最終的な性比はオスが53.7%となり、過去の調査でも若干オスに偏ったデータが多いものの基本的に50%を前後するようです!面白いですね!

 

まとめ

灰色の強いモリフクロウ……画像引用元③


モリフクロウには大きく分けて「褐色」と「灰色」のふたつの色彩があります。

褐色のモリフクロウはエサが豊富なうちに栄養状態のいいヒナを育て、灰色のモリフクロウはエサの乏しい状況でもしたたかに育てているわけです!またそれぞれの戦略によって性別比が時期で変わるのも興味深いところです!

 

この色の多型を司る遺伝子の詳細は今のところ不明です。

通常メラニン色素を制御する受容体タンパク質をコードするMC1R遺伝子ではなく、脂肪代謝等のFAM135A遺伝子や葉酸代謝等のFTCD遺伝子の非コード領域、食欲制御等の機能を持っているMCHR1遺伝子などが候補として挙げられています。

誰もが知っているフクロウですが、まだまだわからないことも多いですね!

 

生物の色というのは我々にとって一番わかりやすい生き物の情報ですが、それはあくまで一端!生態の面から見ても非常に興味深いですね!

 

今後も色に関する研究に注目です!


最後にフクロウに関する雑学!
「ほとんどのフクロウは羽音が小さい……が、ステルス性が必要ないので騒々しく飛ぶ種もいる」

 

それではまた!