LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!
みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回のお話は、「超臨界流体」と呼ばれる不思議な状態の研究。ここ20年ほどで持ち上がっている「超臨界流体は2種類 (2相) である」という説の検証を、実験が難しい水素で行ったというものだよ!
超臨界流体とは、液体と気体の両方の性質を併せ持つ状態であり、かなり不思議な性質を持っているのよね。ただ、その細かい部分についてはあまり分かってない部分も多いのよね。冒頭で挙げた2相説は、まさによく分かってないの研究を進めた過程で出てきた説なのよ。
今回は、実験が難しい部分を大型放射光施設「SPring-8」で克服することで、水素の超臨界流体は「非剛性流体」と「剛性流体」の2相に分かれることを示したのよ! また、まだ予備的な結果であるものの、圧力が高いと水素分子が潰れている兆候も見えてきたのよね!
※今回の記事の一部内容は、論文の筆頭著者の中山敦子さんから頂いた内容に基づきます。ご回答頂きましてありがとうございました。
CONTENTS

図1: 液体と気体の性質を併せ持ったかのような状態のことを「超臨界流体」と呼ぶのよ。液体の溶解性と気体の拡散性を併せ持つことから、例えば二酸化炭素の超臨界流体はコーヒーのカフェインを抜いたり、ニンニクの臭い成分を抜いたりするのに使われるのよ。
多くの人は「物質の状態は固体・液体・気体の3種類」と習うと思うんだけど、実はそれ以外の物質の状態というものがあるのよね。その中でも代表的なのが「超臨界流体」と呼ばれる状態。これは物質を高温高圧にかけることにより、液体と気体の両方の性質を併せ持つ状態ができることを指すのよね。
液体と気体の両方の性質って何なのか? 簡単に言うと、液体のように色んな物質を溶かすことができる一方で、気体のように簡単に空間に広がるというものなのよね。この溶解性と拡散性を利用すると、たとえば効率よく任意の物質を溶かし出す、なんて使い方ができるのよね。
おそらく最も身近な超臨界流体の使い道は食品関係。二酸化炭素の超臨界流体は、カフェインを抜いたコーヒーや、臭い成分を抜いたニンニクの製造なんかに使われるのよね。二酸化炭素は低い温度で超臨界流体となり、食品に残ったとしても無害なことから、よく使われる超臨界流体の1つになるのよ。
さてこんなちょっと不思議な超臨界流体なんだけど、実はまだ未解明な部分があるのよね。それは「超臨界流体とはいったいどんな性質を持っているのか」という点。いやさっき液体と気体の両方を併せ持つって言ったじゃんって? 確かにそうなんだけど、もうちょっと深いところに疑問があったのよね。
長年物理学者は、超臨界流体は1種類しかない、もう少し正確に言えば1つの相しかないと考えていたのよ。つまり超臨界流体という状態であるならば、温度や圧力による性質の差はあったとしても、根本的な物理的性質は1つに収まると考えていたのよ。ところがここ20年ほど、その考えに反する証拠が積み重なっていったのよね。
これまでに報告されてきた理論研究や実験結果は「超臨界流体は2種類、つまり2つの相に分かれるのではないか」という感じに考えが変わってきたのよね。2相の分け方にも何種類か説があるんだけど、近年有力視されているのは「フレンケル線」と呼ばれる境界で「非剛性流体」と「剛性流体」の2つに分かれる、というものになるよ。
いきなり用語が複数出てきて困惑かもだけど、1つ1つ説明するよ。まず非剛性流体と剛性流体とは、超臨界流体が2種類であると考えた時、流体の密度や、原子・分子の瞬間的な並び方で分類した相になるよ。「非剛性流体≒ちょっと気体っぽい超臨界流体」「剛性流体≒ちょっと液体っぽい超臨界流体」と捉えてくれればいいかな。
もちろん、流体は固体と違って決まった構造というのはないので、これは瞬間的なものになるよ。いわば、どんなに揺れ動いている液体であっても、一瞬の写真ならば静止しているようなもの。超臨界流体が1相か2相かという議論は、一瞬で現れては消えていく構造を見ているわけなのよね。
そして、この非剛性流体と剛性流体を隔てる境界がフレンケル線になるわけだけど、ちょっと注意しないといけない点があるよ。それは、今のところフレンケル線は相転移の境界線ではなく、状態の切り替わりを示す「クロスオーバー」の境界であると考えられている点なのよね。
固体・液体・気体という物質の状態の場合、どこかの温度と圧力できっちりと相が変化する相転移が起こり、結晶か流体か以外にも色んな物性が変化するのよね。ところが予想されている超臨界流体の2つの相は、それほど明確に境界線で分かれておらず、連続的に変化すると考えられているのよね。
このような、相転移ほどきっちり明確には分かれていないけど、状態が切り替わっていることをクロスオーバーと呼ぶのよ。なので非剛性流体と剛性流体との間の変化は、一見すると相転移なんだけど、実際には相転移ではなくクロスオーバーである、という点に注意しないといけない訳。
ちょっと用語説明で脱線しちゃったけど、とにかく超臨界流体というのは、最近では1つの相ではなく、非剛性流体と剛性流体という2つの相に分かれると考えているわけ。最近では窒素、メタン、ネオンなどで超臨界流体の性質が研究され、超臨界流体が2相であるという説は、確定ではないもの、かなりの確証が得られているのよ。
本当なら、窒素などの研究についてももっと詳しく説明すれば、もっと深い理解を得られると思うよ。ただ、深掘りすると難しい上に、中々本題に入れないので、窒素などの関連研究については、ぜひ記事末尾の「関連研究」のあたりを読んで貰えると嬉しいかな?
ただ、いくら確証が強くても確定ではない感じ。このことから岩手大学のプレスリリースでは、これを「熱力学の教科書の未解明の空欄」という風に表現しているのよね。そして、この空欄で大きな謎の1つとなっていたのが、最も単純な原子でできた「水素」の超臨界流体になるのよ。
岩手大学の中山敦子さんなどの研究チームは、水素の超臨界流体に関する研究を行ったのよ。ただこれ、研究を行ったと一言で簡単に言っちゃってるけど、実際にはかなり大変なことをやっているのよ。その理由は、水素が陽子1個、電子1個しか持たないという、軽すぎる原子なことが原因なのよね。
今回知りたいの水素の超臨界流体の構造、つまりは水素分子がどんな風に並んでいるかという情報。これを知るには中性子線を照射する「中性子回折」と、X線を照射する「X線回折」という2つのどちらかが使われるんだけど、このうちの中性子回折は、相当な技術的困難があるんだよね[注1]。
なので幾分かマシなX線回折でアプローチしたいところなんだけど、水素はX線とほぼ反応しないので、得られるデータはとても弱いのよ。しかも今回は超臨界流体を調べるので、高圧で圧縮した1mmにも満たない小さなサンプルにX線を当てなきゃならない。工夫なしには、あまりにもボヤけたデータしか出てこないという課題があったのよね。
そこで今回の研究では、大型放射光施設「SPring-8」という、極めて強いX線を出すことが可能な施設の力を借りたのよ。純度99.99999%の水素を、「ダイヤモンドアンビルセル」という高圧をかける装置の中で圧縮すると、室温でも存在する水素の超臨界流体を作れるので、これにX線を照射し、その曲がり具合から構造を調べたのよね。
今回の実験では、最大で1万1200気圧 (1.12GPa) までの圧力をかけ、条件を変えながら水素の超臨界流体の構造を調べたのよ。これも簡単にはいかず、ただでさえ弱い水素からのシグナルなのに、ダイヤモンドからやってくる別のシグナルがかぶさってしまうので、丁寧にノイズを取り除く作業が必要になったよね。
このように、実験のセッティング自体も相当大変ではあるけど、得られたデータを分析するのも大変と、この実験は苦労だらけだったんだけど、それでも何とかして分析を行うことで、室温における各圧力での水素の超臨界流体の構造を浮かび上がらせることができたのよ。
実験の結果、室温下では5600気圧 (560MPa) 付近で非剛性流体と剛性流体とが切り替わること、つまりクロスオーバーを起こすことを突き止めたのよね! この解釈が正しければ、超臨界流体は2種類あるという説が水素でも実証されたことになるので、証拠がまた1つ積みあがったことになるのよ。
なお、ちょっと液体っぽいと説明した剛性流体な水素は中々興味深いよ。同じ超臨界流体と言っても、こちらの側がわずかに密度が高いという性質があるんだけど、この密度の高さは単に“水素分子が高い圧力で押し込められ、ぎゅうぎゅうに詰まっている”[注2]というだけでは説明がつかないのよね。
今回の実験結果だけでははっきりとは言えず、まだ示唆であることには注意しないといけないけど、中山さんたちはその理由を「水素分子の電子雲の圧縮」と考えているのよ。もうちょっと簡単に言えば、水素分子そのものが潰れているということ! メチャクチャな圧力で変形しちゃっていると考えているわけ!
そりゃ、確かに分子や原子が潰れれば、これ以上詰められない隙間にさらに詰めることができるわけだけど、分子そのものが潰れるというのはかなりスゴいこと! 超臨界流体はいかにスゴい状態であるのか、その一端が見えてくるね。

図5: 水素を液化するに当たっては、「オルソ-パラ変換」という難題があるのよね。今回の実験では、剛性流体の原子核同士の距離が近づいたことが示唆されていることから、超臨界流体における効率的なオルソ-パラ変換の謎と関連しているのかもしれないのよ。
今回の研究は、水素の超臨界流体も2つの相を持つことを実験的に示し、具体的にどの辺で変化するのかという点を突き止めたという点で、基礎研究ながらも面白いのよね。こういう研究は、すぐに役に立つのかと言えばそうではないんだけど、物質の性質という根本的な疑問にアプローチすることから、どう化けるかわからないからね。
例えば、近年注目されている水素エネルギーでは、水素を液化するという部分に課題があるのよね。細かいところは注釈に譲るんだけど、簡単に言えば、水素はただ冷やして液化してもエネルギーロスが発生しやすいので、「オルソ-パラ変換」[注3][注3]と呼ばれるプロセスに工夫を凝らさないといけないという苦労があるのよね。
このオルソ-パラ変換という部分は、本来なら工夫したところで数日かかるところ、実は超臨界流体にすれば数時間で進むことが示唆されているのよね。ただ、なんでそんなに急激に変換が進むのかという点については、未だに多くの謎を抱えているのよ。
今回の研究では、水素の超臨界流体は2相に分かれると分かったわけだけど、この2相の間では似ていながらも異なる性質の差異がある訳。特にオルソ-パラ変換という部分に着目すると、ちょっと液体っぽくて高密度な剛性流体になってから急激に進むということが分かっているのよね。
今回の実験結果は、剛性流体の中では水素分子が潰れ、原子核同士の距離が普段より近づいていることが示唆されているのよ。オルソ-パラ変換は原子核に関連する性質だから、高圧で距離が近づいたことが影響していてもおかしくないよね? まだ確定的なことは言えないけど、そういう可能性は十分考えられるのよ。
今回は水素の超臨界流体の性質に迫るという基礎研究ではあるものの、こういう基礎研究を積み重ねることで、水素の液化におけるオルソ-パラ変換のような、かなり実務的な課題に関する解決策が見つかるかもしれないのよね。だから基礎研究は面白いのよ!
普通の水は「2種類の液体が混ざった超臨界液体」であると実験的に証明! 液液臨界点を発見
二次元物質の「固体と液体との中間相」の観察に成功! “原子サンドイッチ”で実験
液体水素は超流動になる! 固まる温度以下の液体の現象をどのように実証?
[注1] 中性子回折
前提として、水素の流体で中性子回折実験を行うには、軽水素ではなく重水素に置換する必要があります。そして中性子回折でデータを取るには、小さくても数cmくらいの試料が必要です。ところが今回は高圧をかけなければならないため、これほどの大きさのサンプルを用意するのが困難です。今回、事前に分かっている困難があってもX線回折が選ばれたのは、試料がもっと小さくても測定可能であることが理由の1つです。 本文に戻る
[注2] “水素分子が高い圧力で押し込められ、ぎゅうぎゅうに詰まっている”
もう少し正確に言えば、剛性流体となった超臨界水素は「面心立方格子構造 (立方最密充填構造)」に近いを取っており、1個の分子の周りに12個の分子が立方体のように配列しています。超臨界流体であるため、分子は常に動いていますが、非常に緻密な構造を取っていることが今回の実験で明らかとなりました。プレスリリースで言う「動的12分子配位状態」とはこのことを指します。 本文に戻る
[注3] オルソ-パラ変換
水素分子においては、原子核である陽子のスピンがどの方向を向いているかで決まります。同じ向きにある場合はオルソ水素、互い違いになっている場合はパラ水素と呼ばれます。室温付近のオルソ水素とパラ水素の割合はおよそ3:1ですが、低温な水素ではほぼ100%のパラ水素となります。このように、オルソ水素とパラ水素が入れ替わることをオルソ-パラ変換と呼びます。しかしオルソ-パラ変換は非常に起こりにくい変換反応であり、触媒があっても数日かかります。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)