環境負荷を抑えた、効率99%の新たな「リチウム」抽出法を開発!

2025.05.09

リチウムの新たな抽出法 サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、「リチウム」の新しい抽出法の開発についてだよ。リチウムイオン電池を始めとして、リチウムは現代社会を支える重要な元素なんだけど、現在使われている抽出法には様々な課題があるんだよね。今回の研究ではその弱点を改善する方法を開発したよ。

 

この方法を使えば、従来の抽出法のいくつかのステップを飛ばせるのでコストや環境負荷を抑えられるだけでなく、今までアクセスが難しかったリチウム資源や、ルビジウムやセシウムのような他の希少なアルカリ金属の抽出にも応用できるなど、かなりの広がりがある内容だよ!

 

ちなみに、新しい抽出法について簡単に言えば、リチウム鉱石の粉末に水酸化ナトリウムを加えて“レンジでチン”する方法だと言えるよ!

 

現代社会を支える「リチウム」の抽出は課題が多い

リチウムの用途

リチウムと言えばリチウムイオン電池が真っ先に思い浮かぶけど、他にも様々な用途で使われているよ。 (画像引用元番号②③④⑤⑥⑦⑧)

 

リチウム」は現代社会を支える上で欠かせない元素だよ。特に知られているのは、その名前を含む「リチウムイオン電池」だよね。優れた充電容量と、繰り返しの充電でも容量が下がりにくいことから、スマートフォンから電気自動車まで、様々な用途に使われているよね。

 

そして、リチウムは電池向けの用途以外にも、陶器のうわぐすり、潤滑グリース、気分安定薬、原子力発電所の冷却材まで、実に幅広い産業で使われているよ。その需要は年々増大傾向で、オーストラリア、チリ、中国は、世界中のリチウム生産をリードしている状況だよ。

 

しかし、それだけ大量に使われる元素ということになると、問題になるのはその抽出作業になるよ。リチウムの抽出には主に「リチウムを豊富に含む塩水の蒸発」と「リチウム鉱石からの抽出」になるけど、塩水からの蒸発は水を大量に使う上に、世界のリチウム需要を満たすには時間がかかりすぎる方法になるよ。

 

従来のリチウム抽出法

従来のリチウム抽出法は、1100℃に加熱したり、腐食性の強い硫酸を加えたり、それを中和するために大量の塩基性物質を入れたり……と色々課題があるんだよね。 (画像引用元番号①②)

 

一方でリチウム鉱石からの抽出の場合、主な対象として「リチア輝石 (Spodumene)」という鉱物から得ることになるよ。しかしそれには、1100℃での2時間の加熱、続いて硫酸を加えて250℃で2時間加熱、それに水を加えてリチウムを溶かした後、炭酸カルシウムと炭酸ナトリウムを加える、という多段階処理が必要になるよ。

 

高温の加熱には大量の二酸化炭素排出を伴うし、硫酸は腐食性が強いので設備投資にお金がかかる、最終工程で加える炭酸カルシウムや炭酸ナトリウムの消費量が多い、生産過程で生じる副産物に猛毒の三酸化二ヒ素があるなど、この製造方法には環境だけでなく設備にも人員にも大きな負荷を与えるという問題があるんだよね。

 

水酸化ナトリウムと“レンジでチン”でリチウムを抽出!

リチウムの新しい抽出法

今回開発した方法は、従来の方法のいくつかのステップを省略することで、低温でもリチウムを効率的に抽出する方法となったよ! (画像引用元番号①)

 

ペンシルベニア州立大学のH. C. S. Subasingheスバシンヘ氏とMohammad Rezaeeムハンマド・レザーイー氏の研究チームは、このリチウム抽出法の改善を考えている中で、ある発見をしたんだよね。それは、リチア輝石の中に水酸化ナトリウムを入れると、予想外に多くのリチウムを抽出できることだよ。

 

従来の方法でリチア輝石を1100℃に加熱するのは、結晶構造の変化でスポンジ状になり、硫酸が浸透しやすいようにしているからなんだよね。しかし今回は、このような高温による結晶構造の変化をさせずとも、比較的低温でも水酸化ナトリウムはリチア輝石から1分以内にリチウムを溶かし出すことに気づいたんだよね。

 

そこでSubasinghe氏とRezaee氏は、ここに加熱を加えたよ。と言ってもその温度は325℃と従来と比べれば低温で、かつ加熱源をμ波としたんだよね。いわば電子レンジで加熱するのと似たような方法で行うことで、従来の方法よりも加熱のエネルギー効率を高めることができたよ。

 

今回開発された、µ波による加熱の下での水酸化ナトリウムを加える方法は、1100℃による加熱と硫酸を加えるステップを省略できる点が画期的だよ。高温を必要とせず、硫酸を中和しアルカリ性にするための塩基性物質も削減できるからね。しかも、抽出率は99%とかなり高いよ!

 

水酸化ナトリウムは工業的に多用されている化学物質だから、それほどコストは高くないよ。また、硫酸と比べれば金属に対する腐食性が小さいので、従来のリチウム抽出過程の設備やノウハウも流用できるという点で、初期投資を最小限に抑えられるのも魅力的と言えるね。

 

また、温度を500℃未満に抑えることで、懸念材料の1つである三酸化二ヒ素の発生も抑えられることもポイントだね。三酸化二ヒ素は水に溶けやすく昇華しやすいことが懸念材料だから、ヒ素化合物の拡散が抑えられるという点でも作業環境を改善するメリットもあるよ。

 

他のアルカリ金属への応用も?

現在、この研究は初期段階であり、工業的にスケールアップできるかどうかは今後の研究次第になってくるよ。ただ、この方法は原理的には「リチア雲母 (Lepidolite)」と呼ばれる別のリチウムケイ酸塩鉱物にも応用できるよ。こっちにも生かせることができれば、さらにスゴい研究成果になるかもしれないよ。

 

リチア雲母を始めとした雲母、言い換えれば粘土鉱物にはリチウムが多少含まれているので、リチウムの濃度が高い粘土というのはあるよ。それらは潜在的なリチウム鉱床となるものの、現在の技術ではあまり利用できないリチウム源なんだよね。今回の方法は、未利用の粘土からリチウムを抽出する新手法になるかもしれないよ。

 

また、リチア雲母はリチウムよりさらに希少なアルカリ金属である「ルビジウム」と「セシウム」も大量に含まれているんだよね。これらは電池や太陽光発電だけでなく、光格子時計や量子コンピューターなどの先端技術にも重要で、今後さらに需要の増加が見込まれるよ。

 

今回の手法はリチウムだけでなく、ルビジウムやセシウムの抽出でも大きな威力を発揮するかもしれないんだよね。環境にやさしく、資源の偏在性を緩和する方法として、今後の発展が気になるよね。

文献情報

<原著論文>

  • H. C. S. Subasinghe & Mohammad Rezaee. “Direct lithium extraction from α-Spodumene using NaOH roasting and water leaching”. Chemical Engineering Journal, 2025; 505, 159661. DOI: 10.1016/j.cej.2025.159661

       

      <参考文献>

         

        <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

        1. 今回開発されたリチウム抽出法における各段階の画像: プレスリリースより
        2. リチア輝石: WikiMedia Commonsより (Author: Géry PARENT / Public Domain)
        3. 金属リチウム: WikiMedia Commonsより (Author: Tomihahndorf / Public Domain)
        4. リチウム電池のイラスト: いらすとやより
        5. お茶碗のイラスト: いらすとやより
        6. 薬のイラスト: いらすとやより
        7. 潤滑油のイラスト: いらすとやより
        8. 原子力発電所のイラスト: いらすとやより

           

          彩恵 りり(さいえ りり)

          「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
          本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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