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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、環境にやさしい「銀ナノ粒子」の合成法についてだよ。銀ナノ粒子は医療分野で注目されている物質の1つで、今回はあの「COVID-19 (新型コロナウイルス感染症)」の原因となる「SARS-CoV-2 (新型コロナウイルス)」に効果があるかどうかを検証したんだよね!
コンピューターによるシミュレーション、ヒトの培養細胞による実験、そしてハムスターへの感染実験を通じて、銀ナノ粒子はSARS-CoV-2の細胞侵入の割合を50%低下させただけでなく、深刻な合併症を起こす恐れを軽減させたんだよね!これは文字通り、COVID-19に対する“銀の弾丸”になり得る成果だよ!
もちろん、今は実験の初期段階なので、本当に銀ナノ粒子がCOVID-19に対する予防薬・治療薬になるかどうかは別問題だよ。ただ、銀ナノ粒子を安定的に、かつ環境負荷が少ない状態で合成できる技術は希少なので、環境にやさしい銀ナノ粒子合成法としても、この研究は興味深いものになるよ!
CONTENTS
2019年末より世界中で猛威を振るった、「SARS-CoV-2 (新型コロナウイルス)」を原因とする「COVID-19 (新型コロナウイルス感染症)」は誰の記憶にもまだまだ新しいものだと思うんだよね。出現から数年経ち、このウイルスや感染症に対する対策の研究はだいぶ進んでいるけど、まだまだ改善の余地があると言えるよ。
現在進められている研究の1つに、ナノテクノロジーの応用があるよ。ナノスケールの物質は実に多様な性質を示すので、ウイルスが細胞に付着するのを阻害するものから、ウイルスそのものを破壊するものまで、様々な方法でウイルス感染症を防ぐ方法が考案されているんだよね。
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その中でも特に注目されているのは、銀のナノスケールの粒子である「銀ナノ粒子 (AgNP)」なんだよね。銀はそれ自体が抗菌・抗ウイルス作用を持つ元素として知られているよね。そんな銀をナノ粒子にすれば、表面積が増え、その小ささから細菌やウイルスに付着しやすくなるなど、さらなる利点を追加することができるよ。
しかし、銀を含めたナノ粒子には、製造面に大きな課題があるんだよね。ナノ粒子を作るには材料を高温で蒸発させたり、特殊な化学的環境で成長させたりなどの方法が取られるけど、これは大量のエネルギーや危険な化学薬品を取り扱うことから、工場設備が巨大化したり、環境負荷の面から問題視されてきたんだよね。
また、欲しい大きさのナノ粒子がなかなかできない場合も珍しくないよ。ナノ粒子の性質はその直径によって大きく変化するため、大きなコストをかけた割に、粒揃いのナノ粒子を安定して製造できないことも、ナノ粒子の実用化を阻む要素になっているんだよね。
この、製造コストの高さや環境負荷、そして品質の問題から、銀ナノ粒子を医療の現場に生かそうという考えはあっても、中々実用化に結び付かないんだよね。銀ナノ粒子は感染症に対する文字通りの“銀の弾丸”になる可能性を秘めているのに、これはもったいないよね!
そこで代替案として浮上しているのは、生物を利用したグリーン合成 (Green synthesis) と呼ばれる方法だよ。生物の中には、その活動の中で金属を体内に貯めこんだり、逆に排除して無害化するようなものがいるよ。銀の抗菌作用は生物に対する有害性の裏返しだけど、ある程度高濃度の銀にも耐える生物も結構いるよ。
そこで、うまいこと生物の活動を利用し、銀ナノ粒子の製造職人として利用すれば、はるかに少ないコストと環境負荷で銀ナノ粒子を入手できるというわけ。生物による銀ナノ粒子のグリーン合成には、既に酵母、細菌、藻類などの利用による先行研究がある状態だよ。
今回研究を行ったのは、サン・パウロ大学のMarcus V. M. V. Amaral氏などの研究チーム。対象としたのは「トリコデルマ・リーゼイ (Trichoderma reesei)」という真菌 (菌類) の仲間だよ。真菌は金属を蓄え、耐性が高い上に、金属イオンを還元して単体の金属にする酵素を持っていることから、注目度が高いグループになるよ。
トリコデルマ・リーゼイ自体は、その極めて高いセルロース分解能力で知られていて、従来からバイオテクノロジー分野でたくさん使われているよ。つまり、どういう生物であるのかがよく分かっていることになるので、取り扱いがしやすいと言い換えることが言えるね。
今回の研究では次の手順を行ったよ。まず、トリコデルマ・リーゼイの菌糸を酸素が少ない環境の培養液に浸し、酵素などの代謝産物を含む溶液を作ったよ。この溶液の上澄み (上清液) を採集し、硝酸銀 (1mM濃度) と、pHを8.5に調整するための水酸化ナトリウムを入れ、暗所で常に溶液をかき回した状態で保存したんだよね。
すると、10日かけて溶液の色が黄色から茶色、そして濃い灰色へと変化する様子が観察されたんだよね。分析により、色の変化は、酵素による反応で銀イオンから銀ナノ粒子が生成したことによるもので、反応開始から遅くとも24時間後には銀ナノ粒子の生成が始まっていることも分かったんだよね。
このようにして銀ナノ粒子が手に入れられたので、次はその特性を調べてみたよ。まず、ヒト培養細胞 (Calu-3細胞およびVero-E6細胞) とSARS-CoV-2を用意し、銀ナノ粒子を含む溶液を与えた後の変化を調べたんだよね。また、銀ナノ粒子とウイルスとの結合のシミュレーションも実行したよ。
銀ナノ粒子を投与してみると、ウイルスが細胞に感染するために必要なスパイクタンパク質と結合することで、その機能を失わせることが分かったよ。細胞侵入率はなんと50%も低減したんだよね! (画像引用元番号②③)
その結果、ウイルスが細胞に感染するために必要な「スパイクタンパク質」に銀ナノ粒子が結合し、タンパク質の構造を不安定化させ、最終的には機能を失わせることが分かったよ。また、スパイクタンパク質は細胞の受容体よりも銀ナノ粒子の方に優先して結合することも分かったんだよね。
銀ナノ粒子がウイルスのスパイクタンパク質に結合する性質の結果、SARS-CoV-2が細胞に侵入する割合が、何もしていない場合と比べてなんと50%も低下することが分かったんだよね!一方で、少なくともヒト培養細胞においては、銀ナノ粒子が細胞に対しての毒性を示すことは確認されなかったよ。
実際、今回の銀ナノ粒子の投与量は、人体に有害とされるレベルの10分の1以下であり、かつ8週間後には完全に体外に排出されることが想定される量だよ。もちろんこの投与量では、いくら貴金属である銀と言えども、そこまで値段は高くならないよ。
ハムスターの肺に感染させる実験では、ウイルス量が減少しただけでなく、肺組織の損傷も抑えられたよ。ヒト細胞の実験結果を合わせると、過剰な免疫反応や炎症反応を抑える効果もあることが分かったよ。 (画像引用元番号⑥⑦)
また、ゴールデンハムスター (Mesocricetus auratus) の肺にSARS-CoV-2を感染させる実験では、さらに興味深いことが分かったよ。銀ナノ粒子を投与したハムスターは、何もしていないハムスターと比べてウイルス量が顕著に減少しただけでなく、急性肺損傷 (ALI) の発生率も軽減したことが示されたんだよね!
COVID-19の症状の1つには、急性肺炎のような深刻な合併症が問題とされているけど、これは細胞の免疫反応や炎症反応によって引き起こされるんだよね。このため、過剰な免疫反応や炎症反応を抑えることは、合併症が深刻になることを防ぐ1つの手段になるよ。
実際、今回の研究ではハムスターの症例として示されただけでなく、ヒト単球細胞による実験でも、インフラマソームの活性化やインターロイキン-1β (IL-1β) の生成を防ぐなど、過剰な免疫反応や炎症反応を抑えていることが明らかにされたんだよね。
これらのことから、トリコデルマ・リーゼイの産生した物質によってつくられた銀ナノ粒子は、SARS-CoV-2の感染を防ぐだけでなく、COVID-19の症状が重篤化しないように予防する効果もあることが、今回の研究で示唆されたんだよね!
もちろん、今回の研究結果は培養細胞と動物実験によるものであり、実際のヒトの患者に使えるかどうかは分からないよ。また、特に炎症反応を抑えるメカニズムについては十分な理解がされていない、という問題もあるよ。今のところ、銀ナノ粒子がCOVID-19に対する“銀の弾丸”となるかは分からないよ。
ただ、少なくとも抗ウイルス活性としての銀の役割は議論の余地がないレベルで理解されており、だからこそ銀ナノ粒子が注目されているんだよね。その製造にトリコデルマ・リーゼイを使うことは、環境負荷やコストの面で非常に優秀という点で、とても注目できるものだよ。
トリコデルマ・リーゼイ経由で生成される銀ナノ粒子は、直径が7nmから50nmで安定していることも注目すべき点だよ。銀ナノ粒子は医療分野だけでなく、触媒や電子部品など、全然違う分野でも使い道があるので、銀ナノ粒子のグリーン合成という点でも、今回の研究は注目していきたいものだよ!
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)