“永遠の化学物質”PFASを“食べる”能力を持つ細菌を発見!

2025.01.31

PFASを分解する細菌 サムネ

(画像引用元番号①)

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、“永遠の化学物質を食べる”細菌についての研究だよ!どういうことかと言えば、「ラブリス・ポルツカレンシス」という細菌が、有害性と難分解性で知られる「PFASピーファス」を代謝する能力があるのを見つけた、ということだね!

 

過去にも似たような研究があるにはあるけど、分解に関する証明が不十分だったり、分解物の有害性についてきちんと調べた研究は少なかったんだよね。今回はPFASが細菌によって分解されている確実な証拠を示すとともに、分解物が有害ではないことを示した、という点で結構重要だよ!

 

「PFAS」は便利なものから厄介者へ

PFAS概要

「PFAS」はかつて色んな場面に使われていたんだけど、有害性が明らかになったこと、「永遠の化学物質」と呼ばれるほど分解が困難であることから、今度は厄介者になっちゃたんだよね。 (画像引用元番号②)

 

PFAS」という単語は、一昔前は知る人ぞ知るという感じだったけど、近年はニュースでも取り上げられることが増えたから、知っている人も増えたんじゃないかな?これは「ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物」という長ったらしい単語の略称だよ。

 

長いけど何となく察せられるように、PFASは何か1個の化合物を指す単語ではなく、似たような化学構造を持つ化合物の総称なんだよね。細かい定義はデータベースによって異なるけど、概ね1万種類以上[注1]の分子がPFASとして分類されているんだよね。

 

PFASは様々な分子を含むため、その性質は千差万別だよ。特に水や油になじむのか、それとも弾くのかは物質によって大きく異なり、そのために用途も変わってくるよ。水や油になじみやすいPFASは、起泡性の高さを生かして泡消火剤やメッキ液に、逆に水や油を弾きやすいPFASは、撥水加工や油汚れ防止剤などに使われていたよ。

 

PFASは幅広い製品や加工現場に使われていたんだけど、徐々にPFASの一部に、生物に対する有害性[注2]があることが判明したんだよね。そのために2000年代からは使われなくなったけど、しかし厄介なことに、PFASは化学的にも物理的にも分解の難しい分子だったことで、今度は環境に漏れ出したPFASの処理が課題となってしまったよ。

 

これは、PFASの名前にもついているフッ素の影響なんだよね。フッ素原子と炭素原子との化学結合は、様々な化学結合の中でもかなり強いことが知られているよ。PFASはしばしばフッ素-炭素結合がたくさんあるので、様々な化学反応や物理的ストレスに耐性を示すことが、この厄介な性質に現れるんだよね。

 

PFASの広い用途のせいで、工場や飛行場のように汚染濃度の高い場所こそあれど、汚染のない場所はほぼないという状況になってしまったんだよね。土壌や水に広く薄く分散したPFASの処理は、高濃度だけど場所が絞られるところと比べて、より対処が厄介と言うことになってしまうよ。

 

何より、薄く分散したPFASを、細菌などの生物は分解してくれそうにないんだよね。それゆえに長期間環境中に残留しそうなことを指し、2018年にアメリカのワシントン・ポスト紙は論説内で「永遠の化学物質 (Forever Chemicals)」と呼んだよ。これはPFASの別名として、現在では広く使われるようになったんだよね。

 

細菌はPFASを本当に“食べている”のか?

細菌はPFASを代謝しているのか?

PFASを代謝して分解する、いわば“食べる”細菌が見つかったとする報告は時々あるけど、研究手法に問題があるものがいくつかあるんだよね。 (画像引用元番号③)

 

ただし、「例外のない規則はない (There is no rule without exceptions)」というフレーズがあるように、何事にも例外があるよ。生物の多様性はとんでもなくて、強固なPFASを代謝・分解する生物、もっと簡単に言えば“永遠の化学物質を食べる生物”が少数ながらもいそうだ、という研究がいくつかあるよ。

 

ただ、この種の研究には問題もあるんだよね。まず、試料を自然環境から持ってくる関係や細菌同士でも生態系があるという観点から、複数種類の細菌が混ざった状態で実験を行うんだよね。だから、培養環境でPFASの量が減ったとしても、どの細菌が分解してくれているのかを特定するのが困難になるよ。

 

加えて、PFASの分解に関する評価も問題となってくるよ。例えばいくつかの研究では、試料中のPFASが減ったけれども、分解時に出てくるであろうフッ化物イオン (フッ素の陰イオン) やその他の有機化合物が検出されていないんだよね。これは単に細菌の体内にPFASが分解されずに吸収されただけではないかと見られているよ。

 

別のいくつかの研究ではフッ化物イオンが生じていることから、PFASが分解された可能性が高いと考えられるよ。ただし分解で生じた化合物がどのような種類であるのかを特定していない、という点で問題ありなんだよね。なぜなら、PFASの分解物の方がより有害になるケースもあるからだよ。

 

細菌が実際にPFASを“食べている”証拠を提示!

ラブリス・ポルツカレンシスF11株

今回研究された「ラブリス・ポルツカレンシスF11株」は、本当にPFASを分解しているだけでなく、代謝物も無害らしいことが分かったんだよ! (画像引用元番号④)

 

ニューヨーク州立大学バッファロー校のMindula K. Wijayahena氏などの研究チームは、「ラブリス・ポルツカレンシスF11株 (Labrys portucalensis F11)」という細菌に着目したよ。ポルトガルの汚染された工業地帯の土壌から2008年に発見されたこの細菌は、とてもユニークな生態を持っているよ。

 

有機フッ素化合物を分解するかどうかを調べたいくつかの実験では、例えばフルオロベンゼンのような単純な分子に加え、シプロフロキサシン (シプロキサン) やオフロキサシン (タリビッド) のような抗菌薬すらも分解することが分かったんだよね。

 

おまけに抗うつ薬の「フルオキセチン (プロザック)」の分解実験では、-CF3とたくさんのフッ素がついている部分からフッ素原子を分離できることが分かったんだよね。これはPFASのような、よりたくさんのフッ素原子がくっついている物質すらも分解できる可能性を示しているよ。

 

そこでWijayahena氏らは、ラブリス・ポルツカレンシスのPFAS分解能力について調べてみることにしたよ。潜在的な栄養源を断つためにPFAS以外の有機物を入れないまま、最大で194日間培養し、フッ化物イオンの濃度や、分解で生じたであろう有機分子の大きさを測定したよ。

 

PFASそのものは無数にあるので、今回の研究ではPFASの中でも多く存在し、毒性があることが分かっている「PFOS」[注3]と、分子の細かい構造が分解に影響するのかを確かめるため「6:2 FTS」[注4]と「5:3 FTCA」[注5]と呼ばれるPFAS、合わせて3種類で実験を行ってみたよ。

 

その結果、194日間の培養期間中で、ラブリス・ポルツカレンシスはPFOSの96%、5:3 FTCAの58%、6:2 FTSの21%を分解できることが分かったんだよね!有機化合物の分子量は小さくなり、フッ化物イオンの濃度は上昇したことから、これは実際にPFASの分解が進んでいることを示したんだよね!

 

今回の研究結果は、ラブリス・ポルツカレンシスがPFASを確実に“食べて”いることを示し、しかも有害な分解物が少ないであろうことを示唆しているんだよね。他の似たような研究はここまで深堀りしていないことを考えれば、これは予備的ながらも結構重大な結果を示していると言えるよ。

 

実験内容の関係上、実用化はもうちょい先

PFASを代謝する細菌の実験デザイン

今回はあくまでPFAS分解能力を確かめる実験なので、自然界のPFAS汚染に対処できるかどうかは分からないよ。より正確な条件面を探る研究が必要になってくるね。 (画像引用元番号⑤)

 

とはいえ、今回の研究はいくつかの点で注意が必要だよ。まず培養環境は、自然界での汚染よりずっと高濃度な10mg/Lという設定で実験を行ったよ。これはPFASの分解能力を確実にみるためと、分解で生じた化合物の量と種類を特定しやすくするために行ったものだよ。

 

さすがにここまで高濃度に汚染されている環境はそうそうないし、自然界にはPFAS以外の有機化合物がたくさんあるよ。ラブリス・ポルツカレンシスがPFASを分解してくれると言っても、他に選択肢がある中でPFASという分解しにくく“硬くて食べづらい”物質を分解してくれるかどうかは分からないよ。

 

また、PFASの分解によって生じた化合物は、量も種類も様々なので、より詳しい分析が必須になるよ。それこそ、分解性生物があまりにも少ないために、今回の研究における分析能力を超えている可能性すらあるからね。

 

それでも、今回の研究は希望を持たせてくれるので、Wijayahena氏らは自然環境に近い培養条件でもラブリス・ポルツカレンシスがPFASを分解してくれるかどうかを調べるつもりだよ。将来的には土壌や下水汚泥中に含まれるPFASを分解するバイオオーグメンテーションの手段としてラブリス・ポルツカレンシスが使われるかもしれないね!

 

PFASで汚染された土壌を窒化ホウ素とボールミルで分解!従来より安全に実行可能

注釈

[注1] PFASの数
2018年の定義では「ペルフルオロアルキル部分を1つ以上含む有機化合物」として4730種が含まれていました。2021年にOECD (経済協力開発機構) により定義が「1つ以上の完全にフッ素化されたメチル基又はメチレン基を含むフッ素化物質」と拡張され、10776種にまで増えました。保健当局によっていくつか細かい違いがあるものの、概ね1万種以上とされています。  本文に戻る

[注2] PFASの有害性
PFASの種類が多いことと、詳しいメカニズムが完全には理解されていないことから、健康への影響に対する証拠の強度は様々なレベルです。可能性が高いとされているものに高コレステロール血症、精巣がん、腎臓がん、妊娠高血圧症候群などがあります。  本文に戻る

[注3] PFOS
正式名称「ペルフルオロオクタンスルホン酸 (Perfluorooctanesulfonic acid)」。水と油のどちらにもなじみやすいため、消火剤、塗料のレベリング剤、メッキ液のミスト防止剤などに多用されてきました。PFASの中でも多用されてきた物質の1つであり、多くのPFAS汚染現場で見つかり、有害性に関する十分な証拠があることでも知られています。  本文に戻る

[注4] 6:2 FTS
正式名称「フルオロテロマースルホン酸 (6:2 Fluorotelomersulfonic acid)」。PFOSの製造過程の途中で、あるいはPFOSの分解物として生成されることもあります。性質が似ていることからPFOSの代替物質として使用されてきました。  本文に戻る

[注5] 5:3 FTCA
正式名称「5:3 ペルフルオロオクタン酸 (5:3 Fluorooctanoic acid)」。いくつかのPFASが分解を受けて生成される分子。(説明文のあとに、空白込みで挿入⇒)  本文に戻る

文献情報

<原著論文>

  • Mindula K. Wijayahena, et al.“PFAS biodegradation by Labrys portucalensis F11: Evidence of chain shortening and identification of metabolites of PFOS, 6:2 FTS, and 5:3 FTCA”.
    Science of The Total Environment, 2025; 959, 178348. DOI: 10.1016/j.scitotenv.2024.178348

       

      <参考文献>

       

      <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

      1. 今回の研究の概要: 原著論文Graphical abstractより
      2. 防水スプレーのイラスト: いらすとやより
      3. サルモネラのイラスト (細菌のイメージとして) : いらすとやより
      4. O157のイラスト (細菌のイメージとして) : いらすとやより
      5. 野菜が嫌いな子供のイラスト: いらすとやより

         

        彩恵 りり(さいえ りり)

        「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
        本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

        このライターの記事一覧

        彩恵りりの科学ニュース解説!の他の記事