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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、深海に生息する巨大なヨコエビ類「ダイダラボッチ (Alicella gigantea)」の分布域を推測した研究だよ。研究の結果として、ダイダラボッチは珍しい生き物どころか、世界の海の約59%に分布する、かなり普通の種である可能性が見えてきたよ!
とはいえ、私たちは深海に関する知識をほとんど知らず、調査領域の狭さからすると「陸地全体の生態系を香川県より狭い調査範囲から推定する」と喩えるほどの知見しかないんだよね!それでも工夫さえすれば、完全に調査ができていなくても多くのことが分かるようになる、と今回の研究は示唆しているよ。
今回の研究で使われた技術は、今まででは難しかったものの、現在では技術的に進歩している物も含まれているので、今回のような研究は今後どんどん出てくることも予測されるよ!
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「海は広いな大きいな」と童謡でも歌われる通り、海というのは本当に広くて、未だにほとんどが探索されていないと言われているよ。実際、つい直近の研究論文 (原著論文1) によると、海の93%を占める深海底 (水深200m以上) のうち、私たちがちゃんと探索したのは3823km2と、全体の0.001%未満でしかないと推定されているんだよね。
しかも、探索された深海底のうち、65%はアメリカ、日本、ニュージーランドから200海里 (370km) 以内であり、97%の探索はアメリカ、日本、ニュージーランド、フランス、ドイツというわずか5ヶ国のみで実施されているよ。そして探索対象の多くは、水深が2000mより深い、かなりの深さに注力されているんだよね。
つまり、私たちの海に対する知識は相当な偏りがあることになるよ。喩えるなら、地球の陸地全体の生態系について、最小の都道府県である香川県よりも狭い面積の調査結果のみしか持ち合わせていないのと同じようなものだよ!日本全体ではなく世界全体に対する香川県なので、本当にほとんどのことを知らないってことになるね。
そうなってくると気になるのは、海底に生息する生物の数だね。深海の生物は、面白い姿かたちをしていたり、浅い海に生息する近縁種と比べて異様に巨大だったりするなど、様々な特徴を持つことで注目されるけど、何より「珍しい生き物」という冠詞が付くことも珍しくないよね。
ただ、これほど狭い海域でしか調査されていないことを踏まえれば、その生き物が本当に珍しい存在なのか、それとも調査領域が狭いので珍しく見えているだけであり、実際にはありふれた生物なのか、まだ本当のところは分かっていないだろうと考えることもできるよね?
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ただ、相手が生き物なら、工夫次第で少ないサンプル数からも豊富さを知ることは不可能ではないよ。今回紹介する、西オーストラリア大学のPaige J. Maroni氏、Yakufu Niyazi氏、Alan Jamieson氏による研究は、まさに工夫による生物分布の推定の一例とも言えるよ (原著論文2) 。
研究対象としたのは「ダイダラボッチ (Alicella gigantea)」。伝説の巨人じゃんと思いきや、近縁種のヨコエビ類 (端脚目) と比べてあまりに巨大だから、というのが名前の由来だよ。実際、ほとんどのヨコエビ類は体長数mmで滅多に1cmを越えないのに対し、ダイダラボッチは最大で34cmの個体が発見されているんだよね!
人間とウルトラマンくらいのサイズ比があるダイダラボッチは、1899年に学名が記載されるなど、比較的古い時代から認知されていたんだけど、問題は発見が珍しいことなんだよね。この1世紀に渡り、発見場所は太平洋・大西洋・インド洋の三大大洋全てで見つかっているけど、発見報告はかなり少ないんだよね。
そんな感じなので、ダイダラボッチのDNA配列に関する正確な報告は、わずか7件に留まっているよ。広範囲に分布するダイダラボッチの個体群同士がどの程度近い関係にあるのかを知るには、DNA配列を比較してどの程度似ているかどうかを調べなきゃならないので、このデータ不足はかなり深刻な問題となるよ。
そこで今回の研究は、過去の研究データの分析と、新たに採集された個体からDNAを抽出・分析することで、ダイダラボッチのより正確な分布について推定を行ったよ。まずは、過去に発表された18本の論文で言及されている、世界中の深海75ヶ所での195件のダイダラボッチの捕獲事例に関するデータを収集したよ。
また、並行して既にDNA配列が決定されている個体のデータに加え、さらに新たに採集した個体のDNA (ミトコンドリアDNAと核DNA) 配列を決定し、それらを比較することで、個体群の遺伝的な多様性、特に地理的に離れているダイダラボッチ同士が系統的にどれくらい近いかどうかに注目して分析したよ。
その結果驚くべきことに、全ての個体標本に遺伝的な類似性 (共有ハプロタイプ) が見つかったよ!深度にして5000m、地理的にはケルマデック海溝から日本海溝まで最大8000kmも離れていることを考えれば、この類似性は驚くべきものがあるよね!
また、ダイダラボッチが採集された場所の深度や海底地形は、ダイダラボッチの生息に適した場所であると推定できるよね。それならばm採集場所が環境的に適するのならば、まだ探査されていない場所であっても、似たような環境の深海にダイダラボッチがいてもおかしくない、と考えることもできるよね?
今回の分析で示された遺伝的な近さに加えて、海底地形も考慮すると、未だに見つかっていない北極海・南極海・地中海を含め、ダイダラボッチは世界の主要な海洋全て、面積にして約59%という非常に広い分布を持つことが推定されるんだよね!これはスゴいことだよね!
この推定が正しいとすると、ダイダラボッチは珍しいどころか、深海において普通に存在する種である可能性すらあるよ。これほど巨大な生物が深海に広く分布しているとなると、深海の生態系全体を考える上で重要になるかもしれないね。
今まではこの種の研究は、サンプルの劣化などの技術的理由で難しい部分があったよ。しかし現在の技術はかつてよりずっと進歩しているので、今後似たような研究が増える可能性は十分にあるよ。 (画像引用元番号④⑥)
一応、今回の研究はいくつかの限界があるよ。まず、今回の研究結果の基盤となる過去の研究データ、つまりダイダラボッチの捕獲事例のほとんどは太平洋であり、大西洋やインド洋での捕獲事例は限られているよ。今回の研究結果で示された遺伝的多様性の乏しさについて、サンプル数の少なさが多少影響している可能性はあるよ。
しかしそれでも、今回の研究が示唆した結果は大きいよ。深海のほとんどが調査されていないことに加え、特定の生物の遺伝子の多様性について検討した研究はほとんどないため、その生物の豊かさに関しての知見はほとんど不足している状態なんだよね。
また、ダイダラボッチのような巨大なヨコエビ類はDNAのサイズが大きい事、深海から引き上げる際に温度や水圧の変化で劣化が進行しやすいなどの理由から、これまでこの種の研究は難しかったんだけど、海底探査の進歩や、速やかにDNAを分析する次世代シーケンシング技術の発達により、研究の障壁は少しずつ取り払われているよ。
今回の研究を動機づけとして、他の深海生物の多様性を調べる足掛かりとして、今回の研究は生かされるかもしれないよ!
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)