2023年ノーベル化学賞について分かりやすく解説!『量子ドットの発見と合成』

2023.10.05

 

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回はみんな大注目!2023年ノーベル化学賞の解説だよ!

まず、今回の受賞者と授賞理由は以下の通りだよ!

 


2023年10月4日、スウェーデン王立科学アカデミーは、本日、2023年のノーベル化学賞を以下の者に授与する事を決定しました。

ムンジ・G・バウェンディ (Moungi G. Bawendi)
マサチューセッツ工科大学 (MIT) 、ケンブリッジ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国

ルイス・E・ブルース (Louis E. Brus)
コロンビア大学、ニューヨーク、ニューヨーク州、アメリカ合衆国

アレクセイ・I・エキモフ (Alexei I. Ekimov) 
ナノクリスタルズ・テクノロジー社、ニューヨーク、ニューヨーク州、アメリカ合衆国

「量子ドットの発見と合成」に対して。

【彼らはナノテクノロジーへの重要な種をまいた】
2023年のノーベル化学賞は、大きさによって特性が決まるほど非常に小さなナノ粒子である量子ドットの発見と開発に与えられる。このナノテクノロジーの最小部品は、現在テレビやLED照明の光を拡げ、また外科医が腫瘍組織を除去する際の目印となるなど、さまざまな役割を果たしている。

賞金額: 1100万スウェーデンクローナ、受賞者間で均等に分配。

選考委員: Heiner Linke

 


Moungi G. Bawendi

 

منجي غابرييل الباوندي (ムンジ・ガブリエル・バウェンディ)
フランス共和国、イル=ド=フランス地域圏、パリ市出身
1961年3月15日生まれ (62歳)[注1]
マサチューセッツ工科大学 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3

 

Louis E. Brus

Louis Eugene Brus (ルイス・ユージーン・ブルース)
アメリカ合衆国、オハイオ州、クリーブランド出身
1943年8月10日生まれ (80歳)[注2]
コロンビア大学 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3

 

Alexei I. Ekimov

Алексей Иванович Екимов (アレクセイ・イワノヴィッチ・エキモフ)
旧ソビエト社会主義共和国連邦出身
1945年2月28日生まれ (78歳)[注3]
ナノクリスタルズ・テクノロジー社 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3

 


 

「量子ドット」は何千年も身近にあった!

「私たちはそれとは気づかず、量子ドットを何千年も使ってきた」発想の源や類似したものではなく、直接それを使っているという点で、こんな書き出しで始まるノーベル賞の解説記事はかなり珍しいと思うよ!

 

実際、量子という名前から身構える人も多いと思うけど、その原型はかなり簡単な話から始められるよ。ガラスに色を付けた「色付きガラス」には、着色の理由が量子ドットであるものが含まれているよ。

 

色付きガラスの考古学的な最古の例は数千年前のものであり、かなり昔からガラス職人はガラスに金・銀・カドミウム・硫黄・セレンなど、意図的に不純物を混ぜると色がつくことを知っていたはずだよ。

 

そして不思議なことに、全く同じ種類と量の原料を混ぜても、温度を変えることで色が変化することを知っていたよ。例えば硫化カドミウムとセレン化カドミウムの混合物は、ガラスを赤色・オレンジ色・黄色にするよ。

 

同じ原料を混ぜても色が変化する理由は、ガラスを融かす温度や冷却する温度によることは職人の間で経験則的に知られていたよ。しかし、その詳細な理由を職人も科学者も知らない時代はかなり長く続いたよ。

 

Lycurgus Cup

4世紀頃にローマ帝国で作成された「リュクルゴスの聖杯」は、光が通る方向によって色が変わる不思議なガラスでできているよ。現代的な分析から言えば、これは金と銀の合金できた量子ドットによって生成された色であると言えるよ。 (Possession: British Museum / Photographer: Marie-Lan Nguyen / Creative Commons: CC BY-2.5 / Source: WikiMedia Commons)

 

後の時代に、目に見えないほど小さな粒が全体に分散している「コロイド[注4] が、ガラスの色を決める理由の1つであることは分かったけど、この先の理解は「量子力学」が登場するのを待たねばなかなかったよ。

 

これは物質が見えるという現象に根本的理由があるよ。物質が見えるには、物質が自ら放つ光、もしくは反射した光が目に届く必要があるよ。この時どんな光が届くのかは、物質からやってくる光の波長に依存するよ。

 

では光の波長を決める原因は何か?これは突き詰めれば、物質を作っている「原子」の外側にある「電子」の状態によって決定されることが、19世紀から20世紀にかけて原子の理解が進むようになって分かってきたよ。

 

電子の様子を考えないといけないとなると、電子スケールの世界を技術する量子力学の効果を無視して物事を語ることはできないよ。一方で量子力学は大きな物質になるほど効果がどんどん弱くなっていくよ。

 

なので量子力学の黎明期では、物質の表面における量子力学の効果が研究されるようになり、物質の色の理由などが分かってきたけど、それはあくまで大きな塊 (バルク) の物質の表面だけに限定されてきたよ。

 

量子ドットが研究されるまでの出来事

では、大きな塊の物質表面の電子ではなく、物質そのものが量子力学の効果を無視できなくなるほど小さな粒だったら、物質の性質は大きな塊の時と比べて大きく変化するのかな?

 

その疑問は、1937年にヘルベルト・フレーリッヒによって最初の答えが与えられたよ。フレーリッヒは極めて小さな粒となった金属の性質は、大きな塊の時と比べて大きく変化することを世界で初めて計算で導いたよ。

 

フレーリッヒは、小さな粒の金属と大きな塊の金属とでは、電子の振る舞いに違いがあるので、これは金属が保持できる熱 (比熱) のうち、電子が担当する部分 (電子比熱) で測定可能な違いが現れるはずだ、と考えたよ。

 

ただしこの効果が表れるのに必要な金属の粒の大きさはたったの10nmだよ!1nm (ナノメートル) は1mの10億分の1、または100万分の1mmで、このスケールは長さが原子数百個から数千個程度の大きさになってしまうよ!

 

2023 Chemistry Prize Fig1

量子ドットはナノスケールの粒子で、とてつもなく小さいよ!量子ドットとサッカーボールで大きさ比べをするのは、サッカーボールと地球で大きさ比べをするくらいのスケールになるよ! (Image Credit: Johan Jarnestad, The Royal Swedish Academy of Sciences / 日本語訳は筆者による)

 

ナノスケールの粒「ナノ粒子」がどの程度の大きさかというと、ナノ粒子とサッカーボールの大きさを比較するのは、サッカーボールと地球の大きさを比較するのと同じくらい、途方もない差があるよ!

 

これほど小さいサイズだと、原子数個レベルほどではないにしても、量子力学の効果が表れるには十分な大きさと考えられるわけだから、とても気になるよね。ただ、当時はとても作り出せるような大きさじゃなかったよ。

 

その後の数十年間、中々実験的な進展はなかったものの、とはいえ科学者たちは理論的な探求を進め、ナノメートルの世界における様々な物質の振る舞いについて探索したよ。

 

特に重要な進展の1つはV. B. Sandomirskiiによる1967年の研究で、金属よりも半導体[注5] の方が量子力学の効果が表れやすく、それが色の変化として観察できることなど、後の研究で直接生かされることに言及があったよ。

 

また、1960年代はマイクロエレクトロニクスの発展によって、ナノメートルの世界での半導体の振る舞いに大きな関心がもたれるようになり、製造技術もナノテクノロジーの黎明期にようやく到達したよ。

 

ようやく、数十年前からの理論的な予言がようやく実験で試せるようになり、1980年代初頭までに、非常に薄い半導体の膜で発生する電子の振る舞いなど、理論的に予言されてきた現象がようやく実証されるようになったよ。

 

この研究は、2000年にハーバート・クレーマー氏とジョレス・アルフョーロフ氏がノーベル物理学賞を受賞する理由となったヘテロ構造のように、これはこれで大きな発展を遂げた研究もあるよ。

 

しかしそれはあくまでも、大きな塊の物質の表面に広がる非常に薄い膜ということで、フレーリッヒが提唱した微細な粒とは異なるものだから、この辺の性質の謎は相変わらず未解決のままだったよ。

 

ガラス中の微粒子が受ける量子力学の効果を初めて解明!

この長年の問題について最初に大きな答えを与えたのは、当時旧ソ連のS・I・ヴァヴィロフ国立光学研究所に所属していた、1人目の受賞者であるアレクセイ・エキモフ氏だよ!

 

エキモフ氏は色付きガラス中のコロイドを研究し、その化学組成や構造、および成長のメカニズムを解明することを試みていたよ。この研究には、自身の博士課程で得られた半導体分析技術の知識が生かされたよ。

 

エキモフ氏は1979年に、ケイ酸塩ガラスに「塩化銅」を混ぜ、できた色付きガラスが極低温下ではどの波長の光を吸収するのか、という実験を、ガラスを融かす温度や時間を様々に変えてひたすら繰り返したよ。

 

分析を繰り返すと、ケイ酸塩ガラスが吸収する光の波長は、塩化銅の薄膜が示すのとそっくりなことに気づいたけど、同時にガラスを作った時の条件で微妙に吸収波長が変化することにも気づいたよ。

 

これは、ガラスを作り出す過程でできる微細な塩化銅の結晶の大きさに依存するのではないか?とエキモフ氏は考え、X線で塩化銅結晶の平均サイズを測定し、吸収される光の波長の変化との関係性を調べたよ。

 

その結果、ガラス中の塩化銅結晶の平均サイズは2nmから30nmで変化すること、大きさはガラスを加熱した温度に依存することが分かったよ。これは理論的な予測とよく一致する結果でもあったよ。

 

更に重要なこととして、塩化銅結晶の大きさが小さくなればなるほど、吸収される光の波長が青色に、つまり波長が短い方へとシフトしていくことをエキモフ氏は突き止めたよ!

 

ここまでデータが揃えば、エキモフ氏にはピンとくるものがあったよ。塩化銅結晶の大きさと吸収する光の波長の変化に関係性があるのは、塩化銅結晶そのものが量子力学の効果を受けているのでは?と考えたわけ!

 

エキモフ氏は、大きな物質の塊や広く拡がる薄膜とは異なり、非常に小さなサイズの粒子では電子の振る舞いが制限されることを考慮した計算を行い、理論計算と実験結果がよく一致することを示したよ。

 

エキモフ氏の研究により、当時まだ量子ドットという言葉はなかったけど、初めての半導体量子ドットが発見されたことになるよ。先駆的な研究がノーベル化学賞を授与されるほどのスゴい評価となったわけだね!

 

エキモフ氏の研究は、数千年も繰り返されてきたガラス製造プロセスでも量子力学の効果の影響を受ける微細な粒子があることを示した画期的なものだけど、とはいえこの発見からの発展には限界があったよ。

 

なぜなら、生み出された塩化銅量子ドットはガラスの中に封印されており、これを取り出して更に研究を、というのは不可能だったからだよ。

 

また、エキモフ氏の研究は1981年に旧ソ連の科学誌に掲載されたものの、この発見に関する情報は米ソ冷戦時代の鉄のカーテンに "封印" されてしまい、当時の西側の研究者は全く知らなかったよ。

 

溶液中のナノ粒子の性質を解明!

当時アメリカのベル研究所に所属していた、2人目の受賞者であるルイス・ブルース氏は、太陽光など、光エネルギーを使って化学反応を進行させる化学の分野である「光電気化学」の研究を行っていたよ。

 

1970年代から半導体での光電気化学に関心が向けられており、これは化学反応を進めるだけでなく、太陽エネルギーを化学エネルギーに変換したり、太陽光発電に応用するなど、現代にも通ずる課題に関連していたよ。

 

ブルース氏は1983年に「硫化カドミウム」のナノ粒子を作って実験を行う研究を行っていたよ。この頃にはナノ粒子を液体中に作る方法がある程度確立していたので、ブルース氏もこの手法を使っていたよ。

 

硫化カドミウムのナノ粒子は、勝手にくっ付いて凝集しないようにスチレンと無水マレイン酸の溶液中で作られたよ。ところが溶液を1日放置すると光学特性 (光に対する性質や反応) が変化していることに気づいたよ。

 

透過型電子顕微鏡で硫化カドミウムのナノ粒子を観察してみると、出来立ての頃は平均直径が4.5nmだったのに対し、1日放置した場合は平均直径が12.5nmまで拡大していたことを突き止めたよ。

 

これは「オストヴァルト熟成」[注6] と呼ばれるプロセスで起きたことであり、一度結晶としてできたナノ粒子が再び溶媒に溶けた後、再度結晶化する過程で大きな結晶に成長するという変化が起きたんだよ。

 

重要なこととして、1日放置した大きなナノ粒子は、大きな塊と比べて光学特性に差はなかった一方で、出来立ての小さなナノ粒子はより青色の光を吸収するように性質が変化していたことが分かったよ!

 

ブルース氏は過去の研究を調査したところ、微粒子の光学特性に関する研究が次々と見つかったよ。例えば臭化銀やヨウ化銀の微粒子のサイズと吸収波長の変化は、既に1967年に報告されていたよ。

 

1年前の1982年にはブルース氏自身が硫化カドミウムの微粒子の光学特性の報告をしており、同時期にArnim Henglein氏は二酸化ケイ素表面に成長させた硫化カドミウムの微粒子の色が変化していることに気づいていたよ。

 

2023 Chemistry Prize Fig2

セレン化カドミウムを例に量子ドットを説明するとこんな感じだよ。バンドギャップと呼ばれる電子の性質を測ってみると、塊の時と量子ドットの時では差が現れているよ。これが量子ドットの性質を塊とは異なるものにし、同時に量子ドットそのものの性質を決めるよ。 (画像引用元: Alexander L. Efros & Louis E. Brus. "Nanocrystal Quantum Dots: From Discovery to Modern Development". ACS Nano, 2021; 15 (4) 6192-6210. DOI: 10.1021/acsnano.1c01399 / 日本語訳は筆者による)

 

Henglein氏は硫化カドミウムの色の変化が結晶構造の違い (非晶質構造) によるものだと考えたけど、ブルース氏の発見を受けて結晶構造を確認したところ、結晶構造は大きな塊の時と同じであることを突き止めたよ。

 

この結果を受けてブルース氏は、吸収される光の波長の変化、つまりナノ粒子の色の変化は、粒子サイズによって受ける量子力学の効果の違いによるものであると考え、1983年にこの考えを発表したよ。

 

ただしこの時、ブルース氏は包括的な調査を行ったにもかかわらず、より先駆的なエキモフ氏の研究に言及することはなかったよ。米ソ冷戦という当時の状況を端的に表す話でもあるね。

 

1986年にはこの分野の包括的なレビューがまとまり、その中には金属ナノ粒子がサイズに依存して性質が変化することを示唆したいくつかの研究への言及もあるよ。

 

しかしながら、この当時は様々な限界から、金属ナノ粒子における量子力学の効果は観察されていないと結論付けられていたよ。

 

量子ドットのスゴい点は “色々” ある!

ところで「ナノ粒子の光の吸収波長は、サイズが小さいほどわずかに青色寄りに変化する」というだけでは、何がどうスゴい発見なのかが伝わらないよね。

 

これは1986年にMark Reed氏によって「量子ドット (Quantum Dot)」という名前が付けられたことと少なからず関連があるよ。ドット (点) という名は、量子ドットが0次元的な量子力学の振る舞いで表せることを意味するよ。

 

Reed氏がこう名付けたのは、既に名付けられていた「量子井戸 (Quantum Well)」や「量子細線 (Quantum Wire)」に倣ったものだけど、これらはそれぞれ2次元と1次元での量子力学の振る舞いで表せるものだよ。

 

これに対して量子ドットは、0次元という点での振る舞いだよ。これと非常によく似たものは、原子や分子と言ったより小さなサイズの点だよ。つまり量子ドットは全く異なる種類の "原子" であると言い換えることができるよ!

 

このように言えるのは、電子の状態によって色が決定されるという最初の説明と良く関連しているよ。電子の状態は物質の色だけでなく、化学的性質や電気的性質といった、他の性質にも関連してくるよ。

 

つまりエキモフ氏とブルース氏による量子ドットの発見を言い換えるなら、これまで2次元的であった周期表に、「粒子の直径」という3つ目の軸が追加され、周期表が3次元に広がったこととほとんど同じ意味になるよ!

 

量子ドットの発見は、物質の性質が極めて大きく拡張されたことを意味するから、科学者たちは一気に量子ドットに注目するようになったよ。ただし、これには大きな問題もあったよ。

 

当時の量子ドットの製造方法は不完全で、出来上がった量子ドットの大きさや形状は不揃いで、結晶構造や電子の配置に欠陥があるなど、量子ドットの性質を決める重要な部分に大きな欠陥が存在したよ!

 

また、量子ドットの平均サイズを狙ったものにすることはできても、他のサイズの粒子も混ざっているので、合成した後に粒子サイズ別に分離するという手間がかかってしまうよ。

 

こんな感じなので、1980年代後半の製造過程では、狙った量子ドットは全体の数%しか含まれていないことがザラにあり、基礎研究を行うことすら大変な状況だったよ。

 

ましてや、量子ドットの種類によっては、極度の低温のようなコストのかかる環境が必要だったりするので、製造の大変さを合わせると、量子ドットが実用分野に生きるとは、当時はほとんどの人が考えてなかったよ。

 

量子ドットの製造を容易にする「ホットインジェクション法」を開発!

3人目の受賞者であるムンジ・バウェンディ氏は、1988年からブルース氏の研究室に入り、量子ドットの研究を行ったよ。当時の研究室では、量子ドットを様々な条件で合成し、製造方法を改良することを試みていたよ。

 

バウェンディ氏がマサチューセッツ工科大学に移籍し研究リーダーとなってからもそれは変わらず、中々改善しない状況が何年続いても決して研究をあきらめることはなかったよ。

 

2023 Chemistry Prize Fig4

バウェンディ氏が開発した「ホットインジェクション法」は、量子ドットの研究と実用化を加速したよ! (Image Credit: Johan Jarnestad, The Royal Swedish Academy of Sciences / 日本語訳は筆者による)

 

そして1993年、バウェンディ氏はついに大きな成果を得たよ!その方法は、量子ドットの素となる有機金属を、量子ドット同士がくっつくのを防ぐ加熱した溶媒に急速に流し入れることから始まるよ。

 

急激な流し入れが重要で、ある瞬間に量子ドットの核となる小さな粒が発生し、すぐに停止するよ。その後溶媒を加熱すると、核が結晶として成長し、大きさの揃った量子ドットができるようになったよ!

 

溶液から沈殿する方法で取り出した量子ドットはとても良質で、例えばエネルギーを与えると発光する量子ドットについては、これまでよりずっと効率的である10%の収率を達成したよ!

 

温度を制御すれば、量子ドットの大きさのカスタマイズも可能となったこと、そして室温で可能な簡単な合成法だったので、量子ドットの基礎的な研究だけでなく、その先の実用化にも一気に弾みがついたよ!

 

バウェンディ氏が開発した「ホットインジェクション法」が無ければ、量子ドットの研究の加速や実用化はあり得ず、エキモフ氏とブルース氏の重大な発見は研究室の奥深くで眠ったままであったかもしれないよ!

 

また、1986年のレビュー当時で結論を避けた事項の「金属でできたナノ粒子も量子力学の効果を受ける」、つまり「金属の量子ドット」も、後の研究で存在することが明らかになっているよ。

 

量子ドットの活躍はこれからが本番!

バウェンディ氏が開発したホットインジェクション法や、既に1938年に原型があった「ストランスキー=クラスタノフ成長」という別の方法の改良で、量子ドットの基礎研究や実用化は一気に加速したよ!

 

それまでガラスの着色や、せいぜい髪の毛を黒く染める古代の方法[注7] だけに使用されていた量子ドットは、研究の加速によって一般製品にまで使用されるようになってきたよ。

 

2023 Chemistry Prize Fig3

量子ドットの性質は直径によって決まるので、量子ドットの大きさを変えると、エネルギーを与えた時に放出される光の波長も変化するよ! (Image Credit: Johan Jarnestad, The Royal Swedish Academy of Sciences / 日本語訳は筆者による)

Luminescent cesium lead halide nanocrystals

ハロゲン化セシウム鉛の量子ドットによる発光色。結晶粒子の大きさを制御することで、可視光線の領域全ての色をカバーすることができるよ! (画像引用元: Loredana Protesescu, et al. "Nanocrystals of Cesium Lead Halide Perovskites (CsPbX3, X = Cl, Br, and I): Novel Optoelectronic Materials Showing Bright Emission with Wide Color Gamut". Nano Letters, 2015; 15 (6) 3692-3696. DOI: 10.1021/nl5048779 / CC BY-4.0)

 

例えば、量子ドットに青色の光を当てると、それを吸収して別の色の光を出すよ。この時に発せられる光は、量子ドットの大きさによって厳密に制御することができるよ。

 

これまでの白色光源は、2014年のノーベル物理学賞の対象となった「青色発光ダイオード」[注8] に、蛍光剤を合わせる、赤色&緑色発光ダイオードを組み合わせるなどして、光の三原色を満たしていたよ。

 

しかしこの組み合わせは、厳密には全ての光の波長をカバーしていない関係で、太陽光などの自然な白色光とは少しだけ違う色になったり、どうしても表現できない色がある、などの問題があったよ。

 

これに対して量子ドットは、青色の光を与え、大きさに応じた色の光を出すことで、ほぼ100%の色を表現することが可能になったよ!これは既に「QLED」などの名称でハイエンドディスプレイが販売されているよ。

 

これは同時に、必要な発光ダイオードが青色のみになることで、必要部品が減り、画素 (画像の最小単位) が小さくなることで、これまでよりも精細な画像・映像を表示することが可能になることにも結び付いているよ!

 

また、量子ドットの発光を組み合わせるという同じ理由で、LED照明にも利用されているよ。これは従来のLED白色光よりも自然光に近い照明としての利用が進んでいるよ。

 

特に発光関連の量子ドットは収率の改善が進み、現在では50%というかなりの効率で製造できるようになったので、この分野は更に一般化すると考えられるよ!

 

それ以外の応用例もあるよ。例えば一部の量子ドットは、生体内の特定のタンパク質や核酸 (DNAやRNA) に結合しやすような化学的性質を持っているよ。

 

この性質を利用すれば、例えば量子ドットを体内に入れると、特定のがん腫瘍に量子ドットが集中するので、発光によって容易に腫瘍を見分けられる、なんてことが可能になるよ!

 

従来のがん検査でも発光する物質は使われていたけど、量子ドットは吸収する波長が広いことや物質として安定している点がこれまでより優れているので、医学的な用途はこれから拡大するかもしれないよ!

 

更に今のところレベルでも、従来より優れた光ファイバーや、他の物質では実現しない性能を持つ化学触媒といった部分でも量子ドットは登場しており、可能性はまだまだこれから広がるものと考えられるよ!

 

ただし重要な考慮事項として、一部の量子ドットやその原料は、カドミウム、水銀、鉛といった、毒性の強い重金属元素でできていることがあるよ。

 

毒性の強い元素を使用した量子ドットが回避されるには、より毒性の低い元素でできた量子ドットの開発が必要で、改善の余地もまだまだある、といったところだよ。

 

終わりに

エキモフ氏とブルース氏が発見の基礎を築き、バウェンディ氏が発展させた量子ドットは、将来的には小型太陽電池、極小のセンサー、量子暗号通信など、更なる発展が期待されるよ。

 

2021年の市場規模は40億ドル (約6000億円) 規模と推定される量子ドット市場だけど、その発展は明らかに途上であり、将来の社会においてあって当たり前に化ける可能性が全然あるよ。

 

量子ドットという名を見ない場所であっても、量子ドットが直接使われ、あるいは関わる技術で開発されたものがこれからどんどん増えていくかもしれず、だからこそノーベル化学賞にふさわしい発見なのかもしれないね!

脚注

[注1] ムンジ・バウェンディ氏の生年月日 ↩︎
ノーベル財団の公式ページには生年以外の情報が無かったため、Tunisie Numérique誌の2023年10月4日付の報道を情報源とした。

[注2] ルイス・ブルース氏の生年月日 ↩︎
ノーベル財団の公式ページには生年以外の情報が無かったため、『Who's Who in Science and Engineering 2008-2009』の記載を情報源とした。

[注3]アレクセイ・エキモフ氏の生年月日 ↩︎
ノーベル財団の公式ページには生年以外の情報が無かったため、タス通信社の2023年10月4日付の報道を情報源とした。

[注4] コロイド ↩︎
厳密に言えば、一方が微細な液滴や粒子の形で他方に分散している1組の相の物質状態。本解説記事で言えばガラスの着色剤が例の1つであるが、霧や牛乳もコロイドであり、身近に無数に存在する。色に限定して言えば、粒子の大きさや混合割合によって決定され、特定の条件では白く半透明や不透明になる。霧や牛乳が白っぽく、先が見通せない理由でもある。

[注5] 半導体 ↩︎
簡単に言えば、金属 (良導体) と絶縁体の中間的な性質を持つ物質。電気の流れやすさも電子の振る舞いで決定されるため、金属と半導体では電子の振る舞いが大きく異なる。量子ドットに関して言えば、初期の研究で示された金属より、半導体の方がより量子力学の効果が表れやすいと予測されるため、ナノ粒子の量子力学的振る舞いの研究対象は主に半導体となった。

[注6] オストヴァルト熟成 ↩︎
ヴィルヘルム・オストヴァルトが1896年に初めて記載した、溶液中に含まれる微量の粒子の溶解と再成長のプロセス。身近な例にはアイスクリームがあり、古いアイスクリームほどザラザラした感触になるのは、保管中に細かい氷の結晶が再成長するためである。

[注7] 髪の毛を黒く染める古代の方法 ↩︎
現在では使われていないが、古代ローマ時代では硫化鉛を使用した毛染め法が存在した。これは髪の毛の中で直径5nmの硫化鉛結晶が成長する為であることが明らかにされている。

[注8] 青色発光ダイオード ↩︎
赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏は、実用的な青色発光ダイオードの発明に関する研究に対して2014年のノーベル物理学賞が贈られている。

 

文献情報

[ノーベル財団の公式資料]

 

[受賞理由に関わる主要な論文]

  • A. I. Ekimov, A. A. Onuschenko & V. A. Tsekhomskii. "Exciton light absorption by CuCl microcrystals in glass matrix". Soviet journal of glass physics and chemistry, 1980; 6, 511-512.
  • V. V. Golubkov, A. Ekimov, A. A. Onushchenko & V. Tsekhomskii. "Growth kinetics of CuCl microcrystals in a glassy matrix". Fizika i Khimiya Stekla, 1980; 7, 397-401.
  • A. Ekimov & A. A. Onushchenko. "Quantum Size Effect in Three-Dimensional Microscopic Semiconductor Crystals". JETP Letters, 1981; 34 (6) 345-349.
  • R. Rossetti & L. Brus. "Electron-hole recombination emission as a probe of surface chemistry in aqueous cadmium sulfide colloids". Journal of Physical Chemistry, 1982; 86 (23) 4470-4472. DOI: 10.1021/j100220a003
  • A. Ekimov & A. A. Onushchenko. "Quantum Size Effect in the Optical Spectra of Semiconductor Micro-Crystals". Soviet physics. Semiconductors, 1982; 16 (7) 775-778.
  • R. Rossetti, S. Nakahara & L. E. Brus. "Quantum size effects in the redox potentials, resonance Raman spectra, and electronic spectra of CdS crystallites in aqueous solution". The Journal of Chemical Physics, 1983; 79 (2) 1086-1088. DOI: 10.1063/1.445834
  • R. Rossetti, J. L. Ellison, J. M. Gibson & L. E. Brus. "Size effects in the excited electronic states of small colloidal CdS crystallites". The Journal of Chemical Physics, 1984; 80 (9) 4464-4469. DOI: 10.1063/1.447228
  • A. Ekimov, A. A. Onushchenko, A. G. Plyukhin & A. L. Efros. "Size Quantization of Excitons and Determination of Their Energy-Spectrum Parameters in CuCl". Soviet physics. JETP, 1985; 61 (4) 891-897.
  • C. B. Murray, D. J. Norris & M. G. Bawendi. "Synthesis and characterization of nearly monodisperse CdE (E = sulfur, selenium, tellurium) semiconductor nanocrystallites". Journal of the American Chemical Society, 1993; 115 (19) 8706-8715. DOI: 10.1021/ja00072a025

 

[授賞理由と関わりの深い研究論文]

  • W. Ostwald. 1896. Lehrbuch der Allgemeinen Chemie, 2, 1. Leipzig, Germany.
  • W. Ostwald. "Studien über die Bildung und Umwandlung fester Körper". Zeitschrift für Physikalische Chemie, 1897; 22, 289-330.
  • H. Fröhlich. "Die spezifische wärme der elektronen kleiner metallteilchen bei tiefen temperaturen". Physica, 1937; 4 (5) 406-412. DOI: 10.1016/S0031-8914(37)80143-3
  • Ivan N. Stranski & Lubomir Krastanow. "Zur Theorie der orientierten Ausscheidung von Ionenkristallen aufeinander". Abhandlungen der Mathematisch-Naturwissenschaftlichen Klasse IIb. Akademie der Wissenschaften Wien, 1938; 146, 797-810.
  • V. B. Sandomirskiǐ. "Dependence of the forbiffen-band width of semiconducting films on their thickness and temperature". Soviet physics. SETP-USSR; 1963, 16 (6) 1630-1631.
  • C. R. Berry. "Effects of Crystal Surface on the Optical Absorption Edge of AgBr". Physical Review, 1967; 153 (3) 989. DOI: 10.1103/PhysRev.153.989
  • Chester R. Berry. "Structure and Optical Absorption of AgI Microcrystals". Physical Review, 1967; 161 (3) 848. DOI: 10.1103/PhysRev.161.848
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彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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