「1831年の謎の噴火」の正体を特定! 天保の飢饉の原因の1つかもしれない噴火

2025.01.10

1831年の謎の噴火の正体 サムネ

(画像引用元番号①②)

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、「1831年の謎の噴火」と呼ばれた大規模噴火がどの火山で起きたのかを特定した、という研究だよ。この噴火は、地球の平均気温を下げ、冷夏などの異常気象を招き、「天保てんぽう飢饉ききん」の原因となった可能性もあるんだけど、その正体が長らく不明だったんだよね。

 

今回の研究により、噴火したのは千島列島にある「新知島しむしるとう」の「緑湖みどりこカルデラ」であると特定されたよ。場所が正確に分かれば、地球環境に対する影響を正確に推定することができるようになるよ。1800年代前半には他にも大規模噴火があるので、どの噴火がどの程度影響したのか、その割合を正確に特定することに繋がるよ。

 

また、この研究は過去の噴火を知るだけでなく、現在や未来にも起こるであろう大規模噴火に対する警鐘を鳴らす意味合いもあるんだよね。

 

1800年代前半は大規模噴火が複数回あった

1800年代前半の大規模噴火

1800年代前半には、1つだけでも大規模と言える噴火が4回もあったんだよね!これにより地球は小氷期と呼ばれるほどの寒冷化の時代を迎えていたよ。そのうちの2つは噴火した火山が特定されているけど、2つの噴火はどこの火山なのか不明な“謎の噴火”だったんだよね。 (画像引用元番号①③④)

 

1833年 (天保3年) から1837年 (天保8年) にかけて、日本では江戸三大飢饉の1つに数えられる「天保の飢饉」が起きたよ。餓死者や感染症の蔓延などで日本の人口は100万人以上減少したと推定され、各地の百姓一揆や大塩平八郎の乱などが発生、最終的には天保の改革が起こるまでになったんだよね。

 

天保の飢饉の背景には、東北地方を襲った深刻な冷夏や大雨などの気象災害での極端な米不足があったわけだけど、更に元を辿れば、東北地方どころか地球全体が寒冷化していたんだよね!原因は大きく分けて2つあり、1つには14世紀から19世紀にかけて、地球の平均気温が低かった「小氷期」と呼ばれる期間にあったことだよ。

 

小氷期の原因は大きく分けて7つほどが複合している[注1]、と考えられているけど、その原因の1つが火山噴火にあると言われているよ。特に1800年代前半は大規模な噴火が頻発していたという点で (小氷期の原因に内包されるとはいえ) 、1800年代前半の寒冷化は火山噴火が独立した原因として挙げられるような感じになっているよ。

 

火山噴火で放出する物質のうち、二酸化硫黄は大気中で酸化され、硫酸エアロゾルとなるよ。硫酸エアロゾルはまるで極所の鏡のように太陽光を反射するため、地球に入り込む熱を少なくしてしまう「日傘効果」が起こるよ。特に、大規模な火山噴火で成層圏に大量の二酸化硫黄が注入されると、かなり困った事態になるよ。

 

成層圏では大気循環が極めてゆっくりなので、一度生じた硫酸エアロゾルは何年も地上に落下しないよ。すると、数年間も地球の平均気温が低下しっぱなしなので、農業生産に打撃をもたらすような異常気象が続き、数年に渡る大規模な飢饉が発生することになるんだよね。

 

1800年代前半は、1808年か1809年、1815年、1831年、1835年の4回も大規模な噴火が発生した、人類にとっては過酷な年となったよ。ところで、過去の大規模な火山噴火の時期や規模がこれほどの精度で分かるのは、世界中の堆積物に含まれる火山灰などの分析、あるいは気候変動の影響を受けた植物の成長度合いなどで判断するよ。

 

しかし、やはり200年も前の出来事では、分かることに限界があるんだよね。火山の近くに都市があれば、人々によって記録が残って精度の高い検証ができることもあるけど、絶海の孤島や人口の希薄な地域にも火山がある訳なので、そこで噴火が起こると記録そのものが存在しないってことになり、噴火した火山の特定は難しくなるよ。

 

1800年代前半に起きた4回の噴火について言えば、1815年の噴火はインドネシアのタンボラ山、1835年の噴火はニカラグアのコシグイーナ山だと特定されているけど、1808年か1809年に起きた噴火、および1831年に起きた噴火は、どの火山が噴火したのか不明な“謎の噴火”として、火山学における大きな謎となっていたよ。

 

1831年の謎の噴火は天保の飢饉の原因の1つ?

1831年の噴火の候補

1831年の噴火は天保の飢饉の原因となったかもしれないよ。その“容疑者”には2つの火山が挙げられていたけど、どちらも様々な証拠と噴火の実態が一致しないという問題があったんだよね。 (画像引用元番号①⑤⑥⑦)

 

1800年代前半の2回の“謎の噴火”のうち、1808年か1809年に起きた噴火の方が大規模なので、どちらかと言えばこちらの方が研究の関心が高いと言えるよ。両者を比較してみると、1831年の噴火で放出された二酸化硫黄の推定噴出量は、1808年か1809年に起きた噴火の3分の2程度なのよね。

 

ただ、1831年の噴火でも、二酸化硫黄の推定噴出量は1700万tから3100万t[注2]と、比較論としては小規模であっても、絶対値としては決して小規模とは言えないんだよね。20世紀最大の噴火であり、地球の平均気温が0.5℃下がった1991年のピナトゥボ山の噴火の噴出量1400万tから2000万tよりずっと大規模な値でもあるのよ。

 

1831年の噴火では地球の平均気温が0.5℃から1.0℃下がったと言われ、アフリカやインドのモンスーン地域は、本来多雨であるはずの地域で降水量が減少したよ。特にインドの少雨では農業生産が壊滅的なダメージを受け、1832年から1833年にかけてにグントゥール飢饉と呼ばれる飢饉が発生したよ。

 

また1831年8月頃には、太陽の色が青色・紫色・緑色のような、明らかに変な色の太陽の記録が北半球のあちこちで記録されているんだよね。これは大気にばら撒かれた火山由来の物質が、太陽光を散乱・吸収して、普段は見られないような色を発生させたため、と考えられているよ。

 

ヨーロッパでも、『ヴァイオリン協奏曲』や『フィンガルの洞窟』で知られる作曲家のフェリックス・メンデルスゾーン (1809-1847) は、1831年夏のアルプス旅行にて、大雪や雹を含む荒涼とした酷い天気を書き残しているよ。1831年の噴火の影響は、決して侮れないんだよね。

 

当初、1831年の噴火はフィリピンの「バブヤン・クラロ」が噴火したものだと考えられてきたよ。しかし当時の歴史資料を探索した2018年の研究では、1831年にバブヤン・クラロが噴火したことを示す資料は見つからなかったんだよね。よって、バブヤン・クラロは“容疑者”としては弱いよ。

 

一方で、1831年7月から8月にかけて噴火したことが確実に記録されている「フェルディナンデア」も“容疑者”ではあるよ。イタリアのシチリア島とチュニジアの間にあるフェルディナンデアは、普段は海面下わずか6mに頂上を持つ海底火山だけど、1831年の噴火では一時的に海面から顔を出し、一時は領有権争いになったんだよね。

 

地政学的には熱を帯びたフェルディナンデアの噴火だけど、この噴火はヨーロッパでの太陽の変色の原因かもしれないけど、地球環境を一変させるほどかと言われるとかなり怪しいよ。というのは、噴火で放出された二酸化硫黄の推定量はわずか600万tと、記録された気候変動に必要な量のわずか40分の1にしかならないんだよね。

 

よって、フェルディナンデアの噴火で気候変動を説明するには、海底火山の噴火という場所柄、マグマが海底堆積物の石膏などと化学反応を起こし、大量の二酸化硫黄が放出されたのではないか、とするしかないので、かなり無理をしているというか、他の火山の候補があればそちらに譲るくらいの“容疑者”なのよね。

 

“真犯人”は新知島の緑湖カルデラ!

1831年の噴火の科学的な検証

氷床に残された火山灰を分析すると、化学組成が一致し、噴火の記録が残されていないという点で、千島列島で噴火した可能性が高いと考えられるよ。またフェルディナンデアの噴火の可能性は完全に排除されたよ。 (画像引用元番号①⑧⑨)

 

セント・アンドルーズ大学のWilliam Hutchison氏などの研究チームは、この1831年の謎の噴火の正体を特定するための研究を行ったよ。それはさながら推理小説の犯人捜しのようで、1つ1つの証拠を分析して不可能を消すことで、最後まで残ったものが“真犯人”である、という形式で調査したよ。

 

まず、グリーンランドと南極大陸の氷床コアに残された火山灰を分析してみたところ、量の違いから、噴火の場所は北半球の中緯度である可能性が高いとしたよ。また、硫黄の同位体分析[注3]を行うと、硫酸エアロゾルが氷床へと降下するまでに、成層圏に最大数年間漂っていた証拠を見つけたんだよね。

 

1831年7月のフェルディナンデアの噴火は小規模であり、二酸化硫黄の噴出量を補うためにマグマと海底堆積物との化学反応が必要と言ったけど、分析された硫黄は海底堆積物の特徴とはかけ離れていたんだよね。よってフェルディナンデアは、1831年の謎の噴火の“容疑者”としてはあり得ないと完全に排除することができるんだよ。

 

そして、クリプトテフラと呼ばれる髪の毛の10分の1ほどの細さしかない火山灰の化学成分を調べたことで、有力な手掛かりが得られたよ。1831年の火山灰はカリウムが少ないという特徴を示したんだよね。これはフェルディナンデアはもちろん、アイスランドやアラスカなど、多くの火山とは一致しない特徴なんだよね。

 

最初に候補に挙がったのは日本列島なんだけど、19世紀の日本では多くの火山噴火に関する正確な記録が残されているにも関わらず、1831年には何も記録されていないんだよね。ならばどこなんだという話になるけど、地質学的には日本列島とよく似た特徴を持つ「千島列島」がまだ可能性として残されているんだよね。

 

この頃の千島列島に関する記録は非常に少なくて、アイヌ民族、ロシア人、米露の毛皮貿易会社によって徴兵されたアレウト族[注4]が散発的に入植したらしいんだけど、はっきりとした時期や人数があやふやなんだよね。なので目撃者がいないか、いたとしても記録が現存しない可能性は十分に考えられるんだよね。

 

1831年に噴火したのは緑湖カルデラ

最終的な分析結果は、1831年に噴火した火山は新知島の緑湖カルデラを示したよ。これは様々な角度の証拠と矛盾せず、ついに1831年の噴火は謎でなくなったよ! (画像引用元番号①②⑩)

 

ということで、1990年代初頭に行われた日本・ロシア・アメリカによる科学調査の一環で採集された、千島列島のサンプルを調べてみたところ、化学組成が最も一致したのは「新知島 (シムシル島)」にある「緑湖カルデラ (ザヴァリツキ・カルデラ)」の火山灰 (Zav-1) であることが分かったよ!

 

噴火したであろう火山の近くで降り積もった火山灰堆積物は、比較的新しい時代のものだと正確な年代を絞り込むのは難しいんだけど、数少ない手掛かりから300年以内に積もったものだと推定できたよ。また堆積物の厚さやカルデラの大きさから、1831年の噴火で推定される規模と矛盾しない量であることも分かったんだよね!

 

1831年に最も近い時代だと、1870年代の新知島には、北東部の武魯頓湾ぶろとんわんに50人程度の村があったらしいよ。ただし、1831年当時も人がいたかは分からないし、火山までは30kmも離れているよ。加えて火山灰は南西方向に流れ、北東部ではほとんど積もらなかったことから、噴火自体を見逃した可能性は多いにあるんだよね。

 

Hutchison氏らは、日本やロシアの研究者と連絡を繰り返し、当時未発表だった火山灰の分析結果を照らし合わせることで、1831年の噴火は新知島の緑湖カルデラで起きたと特定したんだよね。苦労の末に“真犯人”を見つけたことを、Hutchison氏は「まさにエウレカの瞬間」とたとえているよ。

 

今回の研究で、1831年の噴火の正確な規模と場所が特定されたことにより、噴火の影響もより正確にシミュレーションできるようになるよね。1831年の噴火は、時期的に天保の飢饉などの原因の1つとなった可能性があるけど、どの程度の関与があったのかをより正確に知ることができるようになるはずだよ!

 

過去・現在・未来に繋がる研究

1831年と違い、今の時代は世界中どの噴火でも知ることができるね。ただ、噴火自体は見逃さなくても、噴火するかもしれない火山を見逃している恐れはあるよ。例えば1982年に噴火したメキシコのエルチチョンは、600年以上噴火が無かった事で油断していたところに大規模噴火があり、大きな被害と気候変動をもたらしたんだよね。

 

1991年のピナトゥボ山も、地震のような噴火の前兆により事前の避難こそうまく行ったものの、きちんと監視が敷かれていたとまでは言えなかったんだよね。火山というのは、人間の寿命よりはるかに長い周期で大規模な災害をもたらすからこそ、油断も隙もあるようなことは世界中どこで起きてもおかしくないんだよね。

 

千島列島は人口が希薄な上に政治的な問題もあるので、火山が多いにも関わらず監視が緩い場所の1つでもあるんだよね。1831年の噴火の場所を特定することは、過去の気候変動や社会に対する影響を分析するだけでなく、現在や未来に起きる大規模噴火に警鐘を鳴らす意味でも意義深いものがあるんだよ。

注釈

[注1] 小氷期の原因
小氷期の原因とされるものは主に7つあると言われていますが、期間が数百年に渡るため、それぞれの時代において影響度が変化したものもあります。原因とされているのは「ミランコビッチ・サイクルで定義される公転軌道の変化」「シュペーラー極小期やマウンダー極小期などの太陽活動の弱い時期」「複数の大規模噴火」「海流の長期的な変化」「気候の長期かつカオス的な変動」「人口増による森林破壊や人口減による森林回復での地球のアルベドの変化」が挙げられています。  本文に戻る

[注2] 二酸化硫黄の推定噴出量
論文では噴出量を硫黄換算量で示していますが、今回は分かりやすくするために二酸化硫黄に換算した値を示しています。二酸化硫黄を硫黄換算量に直すと、ほぼ0.5倍の値となります。  本文に戻る

[注3] 硫黄の同位体分析
同じ化学的性質を示しつつも、重さの異なる原子のことを同位体と呼びます。同位体同士ではわずかに化学的・物理的性質が異なるため、同位体比率は環境の状況を反映します。今回の場合、海底の堆積物に含まれる硫黄の同位体比率と、氷床コアで見つかった硫黄の同位体比率に大きな食い違いがあることが、フェルディナンデアの噴火を1831年の謎の噴火と結びつけることはできないとする根拠となりました。  本文に戻る

[注4] アレウト族
アリューシャン列島の先住民族のこと。  本文に戻る

文献情報

<原著論文>

  • William Hutchison, et al.“The 1831 CE mystery eruption identified as Zavaritskii caldera, Simushir Island (Kurils)”. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2024; 122 (1) e2416699122. DOI: 10.1073/pnas.2416699122

       

      <参考文献>

      • Press Office. (Dec 30, 2024)“St Andrews researchers solve 200 year volcanic mystery”. University of St Andrews.

       

      <関連研究>

      • S. Self, et al.“Magma volume, volatile emissions, and stratospheric aerosols from the 1815 eruption of Tambora”. Geophysical Research Letters, 2004; 31, 20. DOI: 10.1029/2004GL020925
      • Marc-Antoine Longpré, et al.“Sulfur budget and global climate impact of the A.D. 1835 eruption of Cosigüina volcano, Nicaragua”. Geophysical Research Letters, 2014; 41, 19. DOI: 10.1002/2014GL061205
      • Christopher S. Garrison, Christopher R. J. Kilburn & Stephen J. Edwards.“The 1831 eruption of Babuyan Claro that never happened: has the source of one of the largest volcanic climate forcing events of the nineteenth century been misattributed?”. Journal of Applied Volcanology, 2018; 7, 8. DOI: 10.1186/s13617-018-0078-9
      • Christopher Garrison, et al.“The blue suns of 1831: was the eruption of Ferdinandea, near Sicily, one of the largest volcanic climate forcing events of the nineteenth century?”. Climate of the Past, 2021; 17 (6) 2607-2632. DOI: 10.5194/cp-17-2607-2021

       

      <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

      1. 緑湖カルデラの内部の写真: プレスリリースより (Image Credit: Oleg Dirksen)
      2. 新知島の衛星写真: WikiMedia Commonsより (Author: NASA Earth Observatory / Public Domain)
      3. タンボラ山の火口: flickrより (Author: Paul Hessels / CC BY 2.0)
      4. コシグイーナ山の火口湖: WikiMedia Commonsより (Author: Claude Humbert / CC BY 3.0)
      5. 『荒歳流民救恤図』: 早稲田大学図書館より (渡辺崋山 / Public Domain)
      6. バブヤン・クラロの山体: flickrより (Author: Bing Ramos / CC BY 2.0)
      7. 『HMS 'Melville' off the Volcanic Graham Island, 1831』: Art UKより (Artist: British School / Public Domain)
      8. 氷床コアに含まれる硫黄同位体比率のグラフ: 原著論文Fig.2よりDをトリミング
      9. クリプトテフラに含まれるカリウムの濃度のグラフ: 原著論文Fig.3よりDをトリミング
      10. 千島列島における新知島の位置: WikiMedia Commonsより (Editor: Telim tor / Public Domain)

         

        彩恵 りり(さいえ りり)

        「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
        本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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