慢性骨髄性白血病の完全な治療を目指して(9月23日 Nature オンライン掲載論文)

2026.10.11

慢性骨髄性白血病(CML)の新たな治療戦略を紹介。2種類のABL阻害剤をリンカーで連結し、耐性変異への有効性と副作用低減を示したNature論文を解説。

 

慢性骨髄性白血病 (CML) はBcr遺伝子とAbl遺伝子が転座によりキメラ分子を形成することで、Ablキナーゼが制御不能になり、結果、造血幹細胞が増殖を続けるため様々な血液細胞が大量に造られる病気で、通常1万以内の白血球が数万、場合によっては数十万に達する病気だ。私が医者になった頃は、骨髄移植も標的薬もまだ実用化されていない時代で、苦しんでいる患者さんに何も出来ないという経験をした。その後骨髄移植が安全に行われるようになり根治が可能になった。そして21世紀に入ってチロシンキナーゼ阻害剤イマチニブが開発され、骨髄移植もほとんど行われなくなった。素晴らしいことに、他の腫瘍と異なり、薬剤の耐性が起こりにくく、この薬剤で病気をほぼコントロールできる。とは言え、10-15%の頻度でイマチニブ耐性は起こるし、耐性が起こらない人も、薬剤を完全にやめることが難しい。

 

本日紹介する論文

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、Abl遺伝子のキナーゼ部分とタンパク質構造の変化に関わる部位に対する薬剤をうまくリンカーでつなげることで耐性の起こりにくいより効果が高い薬剤を開発できることを示した研究で、9月23日 Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「A design approach for bitopic kinase inhibitors(2領域を標的とするキナーゼ阻害剤をデザインする)」だ。

 

解説と考察

イマチニブ耐性のCMLに対して様々な新しい阻害剤が開発されている。ダサチニブなどの第二世代を経て、第三世代のポナチニブ及びキナーゼ部位ではなく構造変化に関わるポケットを標的にしたアシミニブが開発され、耐性が発生した人も治療が可能になってきた。さらに両方を併用するとより強い効果が得られることもわかってきた。ただ、新しい薬剤は特異性が低く、副作用が強い。このグループは、なんとポナチニブとアシミニブをリンカーでつなぐことで効果を高めて副作用を抑えられるのではと着想した。

 

この研究では、ダサチニブ/アシミニブ、あるいはポナチニブ/アシミニブの二つの独立した薬剤をポリエチレングリコールリンカーでつなぐことで、特異性と効果を高められないかと着想し、リンカーの長さ、リンカーを結合させる場所などを変化させ、CML細胞株の増殖阻害効果を確かめている。結果、ダサチニブとアシミニブとの組み合わせは相乗効果が全く得られないが、ポナチニブとアシミニブを特定の箇所でリンカーでつないだ PonatiLink2 が、ポナチニブ単独より高い効果を示すことを発見する。

 

この戦略が他のキナーゼにも有効かを調べるため、EGF受容体に対する2種類の薬剤についてもリンカーでつないで調べているが、Ablで見られたほどの効果ではない。シミュレーションを用いて、リンカーの長さや、キナーゼ部位と構造変化に関わる部位を阻害したときの相性などを計算し、両方の薬剤の協調性の高く、リンカーのフレキシビリティーが高いことで相乗効果が得られることを示している。

 

理論的側面はこのぐらいにして、では PonatiLink2 はCMLの根治にもつながる薬剤の可能性を開くのか。まず他の薬剤に対する耐性変異抑制を調べると、9割以上の変異体に対しても効果を示す。次に、ダサチニブによる毎日の治療に週2回の PonatiLink2 を組み合わせ3週間治療した後薬剤をやめる実験を行っている。ダサチニブ単独では7割のマウスが薬剤をやめると再発するが、PonatiLink2 を加えたグループでは再発がない。さらにポナチニブ耐性のCMLを PonatiLink2 単独でほぼ完全に抑えることが出来ることも示している。

 

次は副作用だが、様々なキナーゼの試験管内検査法で他のキナーゼの阻害活性は認められず、またポナチニブに見られるような血液系や血管内皮への毒性を含む様々な副作用はほとんど見られなかった。同じ薬剤を同量以上に使っているのに、リンカーでつなぐだけで特異性が高まり副作用が抑えられるのは驚く。

 

まとめと感想

結果は以上で、CMLの完全な治療が可能になったと結論したいところだが、大きな課題は薬剤としての性質で、おそらく腸管を通過できないポリエチレングリコールをリンカーとして使う限り経口投与は難しい。この研究でも腹腔注射を用いている、同じ薬剤をリンカーでつなぐだけで、特異性が上昇し、降下も上昇するというアイデアはおもしろいので、薬剤動態のいいリンカー法を開発するのが次の課題だと思う。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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