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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回は、今年もあの問題の賞がやってきた!2026年9月3日 (日本時間4日) に公開された『第36回イグノーベル賞』について、10賞全部を解説するよ!
また、私は過去に5年分の解説をやってるから、こちらも観てくれると嬉しいな!
CONTENTS
さて本題に入る前に、そもそも「イグノーベル賞」を知らないか、どういう主旨で贈られるのかを知らない人は多いんじゃないかな?もし知っている人がいたら、この部分は読み飛ばしてもらって構わないからね!
世界的な権威と知名度のある学問的な賞と言えばノーベル賞だけど、イグノーベル賞はそのパロディとして、1991年に『風変わりな研究の年報 (Annals of Improbable Research)』誌のマーク・エイブラハムズ編集長によって創設された賞であり、例年本家ノーベル賞の1ヶ月くらい前に先んじて発表されるものだよ。
受賞の対象となるものは「人々を笑わせ、考えさせた業績」で、1年に10賞が発表されるよ。こういう主旨なので、イグノーベル賞が贈られる研究は、パッと見の印象は面白いとか笑えるとか、正直意味がわかんない研究も並んでいたりするよ。でも、一方でこのイグノーベル賞、考えさせた業績という点が肝心だよ。
イグノーベル賞が贈られる研究は、単に面白いだけじゃなく、研究手法がとても斬新で使い道があるとか、高コストで使いづらい手法を改善したとか、予想外のインパクトがあったような、スゴい研究が受賞するんだよね!
例えば2024年のイグノーベル生理学賞は「多くの哺乳類は肛門で呼吸ができることを解明したことに対して」という授賞理由だよ。一見すると奇を狙った下ネタかな?と思うかもだけど、実はこれ大いなる可能性を秘めているんだよね。
前提として、普通の動物は肺なり鰓なりで呼吸を行うけど、一部の動物は肛門の腸粘膜で酸素交換を行う「腸呼吸」もできることが分かっているんだよね。そしてこの研究では、マウスやラット、およびブタでも、酸素を含ませた特殊な液体に浸せば、ちゃんとガス交換を行えることを実証したんだよね。
ポイントは、液体さえ用意すれば、複雑な器具が必要ない事。これまで呼吸不全を起こした患者に施す措置と言えば、人工呼吸器やECMO (人工肺) のようなものを使う必要があったんだけど、高価で複雑な機械を動かせるのは医療従事者の中でも一握りだし、台数もそんなにある訳じゃないよ。
人工呼吸器やECMOが不足する事態になったCOVID-19パンデミックの事を思い出せば、数が不足したり、そもそも近くにない地域ではどうするんだろうとなるよね。肛門による呼吸方法が人間に使えるなら、複雑な機械に頼らずとも、多くの人々の命を救えるかもしれない、という点でスゴく重要な研究なんだよ。
だから、これは私個人の考えなんだけど、研究の面白さとスゴさを両立していなければイグノーベル賞の対象とならないことから、本家ノーベル賞より受賞するのが難しいと思っているんだよ。
イグノーベル賞の受賞式は、2020年から2023年までの4年間はCOVID-19の流行を鑑みてオンライン開催をした以外は、例年アメリカ合衆国で行われていたんだけど。今年2026年はスイス連邦のチューリッヒで開催されたのよ。
これは主に、昨年からのアメリカの政治的な理由で、外国人がアメリカに入国することにリスクがあることを主な理由としているみたいね。今のところ、偶数年はスイス開催、奇数年はヨーロッパのどこかで開催することを予定しているみたいだね。
まぁこんな感じで、今年はオンライン開催以来の状況が変わった状態でのイグノーベル賞となったわけだけど、では内容が変わったのかと言えばそんなことはない! ということでまずは概要を提示し、その後に曲者ぞろいの全10賞を詳しく解説するよ。
| 生体力学賞 | アリ、鳥、ホッキョクグマ、そしてヒトにおけるキスを「非攻撃的で指向性があり、唇や口器を動かし、口と口との接触を伴うが、食物の受け渡しを伴わない同種間相互作用」と定義付けたことに対して。 |
| 経済学賞 | 上流階級の人々は、子ども達向けの飴を横取りしたり、その他の非倫理的な行為に及んだりする傾向が強いことを示す証拠を積み重ねたことに対して。 |
| 化学賞 | 胎生ゴキブリの乳タンパク質は、牛の乳タンパク質の3倍ものエネルギーを含んでいることを発見したことに対して。 |
| 医学賞 | 研究『鼻のかみ方 ―擤鼻の気体動力学的研究―』に対して。 |
| 生物学賞 | 何が毒蛇に人間を噛ませ、あるいは噛ませないのか、様々な温度や時間帯で繰り返し、毒蛇の様々な部位をそっと踏んで調査したことに対して。 |
| 物理学賞 | 飛び散らない小便器を設計するための、理論的および実験的な試みに対して。 |
| 技術賞 | 蚊の吻を高解像度3Dプリンターのノズルとして利用する先駆的な技術「死体印刷術 (ネクロプリンティング)」を開発したことに対して。 |
| 嗅覚賞 | 親にとって、赤ちゃんは素敵な匂いがするが、ティーンエイジャーはそうではないという証拠を集めたことに対して。 |
| 平和賞 | 私たちは、嫌いな人に対して意地悪な友達を大切にしていることを記録したことに対して。 |
| 土壌科学賞 | 25ヶ国以上で全く同じパンツを1000枚埋め、2ヶ月後に掘り起こしたことに対して。 |
受賞国: アメリカ合衆国、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
受賞者: Matilda Brindle, Catherine Talbot & Stuart West.
授賞理由: アリ、鳥、ホッキョクグマ、そしてヒトにおけるキスを「非攻撃的で指向性があり、唇や口器を動かし、口と口との接触を伴うが、食物の受け渡しを伴わない同種間相互作用」と定義付けたことに対して。
受賞論文: Matilda Brindle, Catherine F. Talbot & Stuart West.“A comparative approach to the evolution of kissing”. Evolution and Human Behavior, 2026; 47 (1) 106788. DOI: 10.1016/j.evolhumbehav.2025.106788

様々な動物におけるキスのように見える行動。今回の研究におけるキスの定義を満たさないものも含まれるよ。 (Credit: Matilda Brindle, Catherine F. Talbot & Stuart West / リンク)
キスというのは、全てではないにしても、多くの人間社会に見られる行動なんだよね。このキスという行動、ヒトとしての生存や繁殖において明らかなメリットは観られない一方、感染症などを伝達する恐れを考えたら、デメリットの方が大きいはず。では、どうしてキスという行動は生まれたんだろうね?
ヒト以外のキスについて調べてみると、大型の霊長類を始めとして、かなり幅広い動物にキスが見られるのよね。動物は分類ごとにどの辺で分化したのかが分かれているので、動物ごとのキスの行動を調べれば、キスの起源や進化、さらには理由についても何かわかる可能性があるのよ。
しかし、そもそも「キス」というのは何なのだろう? 素朴に「口と口とが接触する行動」と捉えると、たくさんの例外が見つかるのよね。多くの動物で食べ物や液体を口移しで移すこともあるし、口をぶつけながら戦う魚もいるのよね。さらには、飼い主の口を舐める犬なんかはどうだろう?
これらはとても、人間が愛情表現として行うキスとは、とても同じとは言えないよね。その意味では、キスという行動を正確に定義しなければ、そもそも研究自体が始められない、と言えるんじゃないかな? ということで研究チームは、キスを正確に定義し、その上で霊長類のキスについて分析を行ったのよ。
研究チームは、キスの定義を「非攻撃的で指向性があり、唇や口器を動かし、口と口との接触を伴うが、食物の受け渡しを伴わない同種間相互作用 (non-agonistic interactions involving directed, intraspecific, oral-oral contact with some movement of the lips/mouthparts and no food transfer)」と定義したのよね。
これは、キスの定義を人間中心的ではないないものにする試みであり、ヒトはもちろんのこと、アリ、鳥、ホッキョクグマでも当てはまるようにしているのよね。これを基準として、今度は各種霊長類、および絶滅した人類であるネアンデルタール人について、推定を行ったのよ。

霊長類におけるキスの出現や進化の推定。右側の5つの丸の左側が今回の定義におけるキスの行動が見られたことを示しているよ。 (Credit: Matilda Brindle, Catherine F. Talbot & Stuart West / リンク)
その結果、いわゆる類人猿である大型霊長類と、いわゆる猿の小型霊長類のほとんどで、キスが見られることが分かったのよね。これから示されるのは、少なくとも大型霊長類については、2150万年前から1690万年前に進化を開始した、という点なのよ。
一方でそれ以前、小型霊長類についてのキスがどの時点で出現したのか、大型霊長類とのつながりはどうなのか。これについては今回の研究では結論を出してないのよ。これはデータ不足が原因で、今後の研究次第なのよね。
興味深いのは、一度生まれたかもしれないキスが、その後一部の系統では失われた可能性が示唆されたことだね。例えば「ヒガシゴリラ (Gorilla beringei)」は、キスが観察されていない唯一の大型霊長類であり、進化の過程で失われた可能性があるのよ。
今回の研究は、正直まだまだ限界があるのよね。しかし化石として残らない、キスという習慣や行動が動物のどの時点で現れたのかを分析するという意味では、今後の発展が楽しみとも言える研究なのよ!
受賞国: アメリカ合衆国、メキシコ合衆国、カナダ
受賞者: Paul Piff, Daniel Stancato, Stéphane Côté, Rodolfo Mendoza-Denton & Dacher Keltner.
授賞理由: 上流階級の人々は、子ども達向けの飴を横取りしたり、その他の非倫理的な行為に及んだりする傾向が強いことを示す証拠を積み重ねたことに対して。
受賞論文: Paul K. Piff, Daniel M. Stancato, Stéphane Côté, Rodolfo Mendoza-Denton & Dacher Keltner.“Higher social class predicts increased unethical behavior”. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2012; 109 (11) 4086-4091. DOI: 10.1073/pnas.1118373109
非倫理的な行為、もう少し具体的に言えば、他人に危害を加えたり、法律や道徳的に好ましくない行動が現れやすいのはどういった人なのか、考えたことがあるかな? よく言われるのは、ざっくり上流階級と下流階級に分けた時、下流階級の人の方が非倫理的な行為に及びやすいというものだね。
下流階級は上流階級の人と比べると、資産などの貯えが少なく、将来に対する不確実性が高く、そして何かの脅威に遭遇しやすいことを考えれば、非倫理的な行動を取る動機が多いのではないか、と素朴に考えることはできるわけ。
しかし、これとは逆に上流階級の人こそ非倫理的な行為に及びやすいという考えもあるのよね。上流階級の人々は資産や自由度が多く、他人に縛られず行動できる独立性があるので、自己中心的な考えから非倫理的な行為に及びやすいんじゃないかと、やはり素朴に考えることができるのよ。
実際、いくつかの研究では、上流階級の人々は下流階級の人々と比べて、他社に対する認識が薄く、利己的で、資源を分け与える傾向が低いという傾向が示されているのよね。ただ、こういった研究はサンプル数が少なかったり、経済を想定したゲームをやらせるなど、実際の社会をどこまで正確にとらえているのかは未知数なのよね。
そこで今回の研究では、全部で7種類の調査を行ったのよ。例えば、交差点や横断歩道で交通ルールを守らない人はどんな車に乗っているとか、サイコロの出目で嘘を報告する人はどういう人かと言った、色んな種類の調査を行ったのよ。
イグノーベル賞で具体例が挙げられているのは、次の実験になるのよ。参加者はまず、「最もお金持ち」「最も教育を受けている」「最も尊敬される仕事をしている」という役割を与えられ、その上で自分は上流階級か下流階級なのかを評価させることで、疑似的な社会階級を与えたのよね。
このロールプレイがきちんと反映されているかは、専用の尺度で測ったのよ。次に、参加者たちは瓶詰めのキャンディーを渡された後、こう指示されるのよね。「このキャンディーは近くの部屋にいる子どもたちのものであるが、ほしければいくつかとっても構わない。」
実際にやってみると、高い社会階級にいる人は、より多くのキャンディーをとる傾向にあったのよね。これは、既に過去の研究で示された内容と一致するのよ。上流階級がキャンディーをとるってどういうこと? ってなるけど、実際にはこういうことをやってたわけだね。
もちろん、これは参加者の実際の社会階級ではなく、ロールプレイに近いものではあるんだけど、そのような擬似的な社会階級が与えられていない、他の調査と同じ傾向が示されたのよね。だから受賞文ではまとめて「その他の非倫理的な行為に及んだりする傾向が強い」と総括されているのよ。
どちらにせよ、あくまでこれは傾向であって個々の人物を評価するものじゃないのは注意しないとね。ただ、傾向としてそのようなことがあるなら、ぜひ「ノブレス・オブリージュ (noblesse oblige / 高い地位には義務が伴う)」の精神があると良いわね、と私は思うのよ。
受賞国: インド共和国、フランス共和国、日本国、アメリカ合衆国
受賞者: Sanchari Banerjee, Nathan Coussens, François-Xavier Gallat, Nitish Sathyanarayanan, Jandhyam Srikanth, 八木浩一郎, James Gray, Stephen Tobe, Barbara Stay, Leonard Chavas & Subramanian Ramaswam.
授賞理由: 胎生ゴキブリの乳タンパク質は、牛の乳タンパク質の3倍ものエネルギーを含んでいることを発見したことに対して。
受賞論文: Sanchari Banerjee, Nathan P. Coussens, François-Xavier Gallat, Nitish Sathyanarayanan, Jandhyam Srikanth, Koichiro J. Yagi, James S. S. Gray, Stephen S. Tobe, Barbara Stay, Leonard M. G. Chavasd & Subramanian Ramaswamya.“Structure of a heterogeneous, glycosylated, lipid-bound, in vivo-grown protein crystal at atomic resolution from the viviparous cockroach Diploptera punctata”. IUCrJ, 2016; 3 (4) 282-293. DOI: 10.1107/S2052252516008903

“ゴキブリミルク”こと、ディプロプテラ・プンクタタのリリミップと、そこから取り出された乳タンパク質結晶の拡大写真。タンパク質結晶の大きさは、生体内にあるものとしては異例の大きさなのよね。 (Credit: Sanchari Banerjee, et al. / リンク)
動物の繁殖方法は大きく分けて3つ。卵を産む「卵生」、母親の胎内で赤ちゃんを育てる「胎生」、卵でスタートするけど孵化後しばらくは胎内にいる「卵胎生」になるんだけど、これは多くの動物のグループの中で、多い少ないはあるものの、割と普遍的にみられるのよ。
大半が卵生である昆虫においても、ごく少数ながら胎生を示すものがいるのよね。今回取り上げるゴキブリ「ディプロプテラ・プンクタタ (Diploptera punctata / 英語名を直訳すれば“タイヘイヨウコウチュウゴキブリ”)」は、ゴキブリでは唯一の胎生を示すゴキブリなのよね。
ディプロプテラ・プンクタタの母親は、「リリミップ (Lili-Mip)」と呼ばれる“ゴキブリミルク”を生成し、育児嚢の壁から分泌する能力があるのよ。これは、一度に9個から12個の胚発生と、その後の幼虫の成長に必要な、水分以外の全ての栄養素を含んでいると考えられるのよね。
胚から成長した幼虫は、急速に単純な消化管を発達させ、リリミップを消化管 (中腸) の中に蓄えつつ、少しずつ成長するのよね。ディプロプテラ・プンクタタは性成熟に至るまでの期間が43日から52日と、卵胎生なゴキブリと比べて短いんだけど、これは胎生による幼虫の成長速度の加速がカギと考えられているのよ。
ゴキブリでは唯一、昆虫でも珍しい胎生となると、どうしてこのような戦略を発達させたのかが気になるよね? 特に、その主役であるリリミップの組成は気になる所。ゴキブリミルクと呼ばれるだけあって、その中には乳タンパク質が含まれているわけだけど、その分子構造が栄養価やエネルギーに直結すると考えられるのよ。
しかし、タンパク質分子はそれ自体がとても複雑なだけでなく、分子の折り畳まれ方といった形も、性質を決定する重要な要素になってくるのよ。こうしたタンパク質の構造を見るには、タンパク質の結晶 (単結晶) を作り、X線などを当てることによってデータを取る必要があるのよ。
ほとんどの場合、生体内でタンパク質が結晶を作り、しかも分析しやすい形になっているということはないので、研究者は人工的にタンパク質結晶を作るよ。しかしごく少数ながら、生物が分析しやすい結晶を作る場合もあるのよね。これらの大半は、細胞内の限られたスペースで結晶化するため、とても小さいのよね。
しかしディプロプテラ・プンクタタのリリミップは、幼虫の消化管の中で蓄えられることから、結晶が成長し、生体内タンパク質としては異例の10×10×30µm (1µm=0.001mm) という大きさまで成長しているのよ! この大きさならば、何もいじらなくて分析可能なほど、理想的な形状をしているのよね!
研究者は、成長中の幼虫から採集したリリミップからタンパク質結晶を分離。日本の高エネルギー加速器研究機構にある放射光施設「フォトンファクトリー」と、スイスにある放射光施設「SLS (Swiss Light Source)」を駆使し、乳タンパク質の構造解析を、最小で1.2Å (0.00000012mm) の細かさ (分解能) で行ったのよ。

結晶を分析して判明した、リリミップに含まれる乳タンパク質の構造。上側には、脂肪酸のリノール酸 (紫色) とオレイン酸 (黄色) がそれぞれ挟み込まれているのよ。 (Credit: Sanchari Banerjee, et al. / リンク)
その結果、不均一なタンパク質結晶から、構造解析に必要なデータを取得することができたのよ! 「生体内で成長した天然由来であり、分析に必要な人工的な処理などの化学的な変更を行ってない、不均一なタンパク質結晶を、初めて原子レベルで構造解析した」という点で、世界初な点があるのよね。
解析の結果、リリミップにはよく知られた構造 (リポカリンフォールド) があり、リノール酸やオレイン酸などの脂肪酸とガッチリ結合しているのよね。これは結晶のエネルギー密度を高めるだけでなく、リリミップを摂取した時には結晶を成長させ、必要な時には手放すという具合に、貯蔵と放出の制御に関わっていると考えられるのよ!
研究によれば、リリミップ結晶1個あたりのエネルギーは3.7×10-5J 。これは100gあたり232kcalに相当し、牛乳や母乳など、哺乳類の乳のおよそ3倍のエネルギー密度になるよ! これは、カゼインを含みながらも概ね液体な哺乳里の乳と、腸内で成長した乳タンパク質結晶の違いからくるものだと考えられるのよ。
まぁこんな感じで、この研究は天然タンパク質の構造解析がメインなのよね。中々ピンと来ないけど、世界初を達成しており、国際結晶学連合が発行する、結晶学ではトップクラスの権威がある科学誌に掲載されるにふさわしい、とてもスゴいことはしているのよ。
それはそれとして、「“ゴキブリミルク”のエネルギーが牛乳の3倍もある」というのは論文の冒頭でも拾っているなど、ウィットに富むのも確か。スゴいけど笑える研究を表彰するイグノーベル賞を受賞するのにふさわしい研究と言えるかもしれないね。
受賞国: 日本国
受賞者: (故) 海野徳二
授賞理由: 研究『鼻のかみ方 ―擤鼻の気体動力学的研究―』に対して。
受賞論文: 海野徳二 & 矢島洋.“鼻のかみ方 ―擤鼻の気体動力学的研究―”. 日本耳鼻咽喉科学会会報, 1977; 80 (1) 11-17. DOI: 10.3950/jibiinkoka.80.11
※注釈: 受賞論文は1977年に発行された会報誌です。今回の解説記事は、これを元に記述しますので、最新の医学的な知見とは異なる内容が含まれている可能性があります。
医学用語では「擤鼻」と呼ばれる、鼻を噛む行為。大人は常識的にやり方を知っている……と言われているんだけど、日本人と欧米人ではやり方が違うと言われているくらい、文化に依存しているのよね。そして大抵は親から子に教えられるもので、案外正しい鼻のかみ方は誰も知らないんじゃないかとも思えるよね。
実際のところ、はなのかみ方を早めに教わった児童は、そうではない児童と比べて副鼻腔炎にかかりにくいと言われているなど、割と正しい鼻のかみ方には需要があるわね。しかし、はっきりとしたやり方、例えば鼻は片方ずつかむのが良いのか、それとも両方一気にかむ方が良いのか、案外わからないのよね。
この会報誌を書いた海野氏は、1977年の時点でこの素朴ながらも当時ははっきりとした答えがなかった分野にアプローチ。「呼吸流量計 (Pneumotachometer)」を鼻に接続し、14歳から48歳までの男性15人を対象に測定を行い、どの程度の測定値の差が出るのかを調べたのよ。
まず、正常な時に両方の鼻呼吸をした場合、1秒間あたり1.87リットルの空気が出入りするのに対し、片方が詰まっている時に鼻を噛むと、1秒間あたり1.81リットルの空気が出入りすると測定されたのよ。一見すると大差はないように見えるけど、片方が詰まっている条件の場合、左右差が重要になってくるのよね。
詰まった側から出入りする空気は、1秒当たりわずか0.3リットル。しかし、良く通る側を抑えて、詰まった側に圧力をかけると、1秒当たり1.5リットルの空気が出入りするようになると分かったのよ。つまりは5倍もの気流を無理矢理通すことになり、その圧力で鼻水を押し出すことができる、というわけ。
この辺の経験則を自然に身に付ければ、普段私たちがやっている、片方ずつ鼻をかむという行動に繋がるわけ。ただ、児童のうちはこの辺が上手くできないこともあるので、親としてはきちんとやり方を指導することが求められるわけだね。
なお、よく言われるのは「強くかむと中耳炎になるのではないか?」という懸念だね。鼻水を押し出すには圧力が強いと良いわけで、強くかめばすぐに押し出せる。では中耳炎になるのかと言えば、1977年時点では測定機器の限界もありはっきりとしたことが実験されたわけじゃないけど、多分大丈夫では? という見解なのよ。
1977年時点で集まっていた見解を元に考えると、中耳炎の原因である、中耳に病原体が入るリスクは、鼻をかむ行為自体においては極めて稀で、仮に入ったとしても粘膜や微小な毛によって排出されるのよね。ということは、中耳炎を恐れて強くかむのを過度に抑えるのは、それは無意味という事なのよね。
また、強さだけでなく長さという観点で言うと、できるだけ長く出す方が良いという結果みたいよ。もちろん長すぎて圧力がかけられなければ意味がないので、適度な長さを会得する必要はあるけどね。また、押し出す前の息を吸う時には、あまり多く吸ったところで圧力が高まることが期待できるわけでもないよ。
全体として、正しい鼻のかみ方とは「片方ずつ押さえ、息を少し吸った状態から、強めに、しかし途切れず継続的に息を出す」ということになるのよ。
受賞国: ブラジル連邦共和国、オーストラリア連邦
受賞者: João Miguel Alves-Nunes, Adriano Fellone, Selma Maria Almeida-Santos, Carlos Roberto de Medeiros, Ivan Sazima & Otavio Augusto Vuolo Marques.
授賞理由: 何が毒蛇に人間を噛ませ、あるいは噛ませないのか、様々な温度や時間帯で繰り返し、毒蛇の様々な部位をそっと踏んで調査したことに対して。
受賞論文: (※撤回済み) João Miguel Alves-Nunes, Adriano Fellone, Selma Maria Almeida-Santos, Carlos Roberto de Medeiros, Ivan Sazima & Otavio Augusto Vuolo Marques.“RETRACTED ARTICLE: Study of defensive behavior of a venomous snake as a new approach to understand snakebite”. Scientific Reports, 2024; 14 (1) 10230. DOI: 10.1038/s41598-024-59416-6
※注釈: 授賞理由となった論文は撤回されています。理由は動物を使用した実験に対する懸念であり、研究機関の倫理委員会は、承認を受けた手法に、研究で実際に使われた手法が含まれていなかったとしています。著者全員が撤回に反対しています。この状況を踏まえ、手法の承認に意見衝突があるものの、研究結果それ自体には誤りがないという前提で解説を進めます。

ハララカと遭遇し、噛みつかれる行動を誘発する恐れの状況。 A: 直接踏む B: 年齢が若い C: 茂みに隠れており気づかず近づく D: 新しく草が刈られたばかりの場所で日光浴をしている (Credit: João Miguel Alves-Nunes, et al. / リンク)
毒蛇に噛まれるというのは、時に命を落とすこともある危険なもので、毎年何百万人もの人々に影響を与えているのよね。WHO (世界保健機関) はヘビ咬傷を、公衆衛生における重大な懸念があるにも関わらず、製薬市場での利益が出にくいことから製薬・治療の研究が進んでいない「顧みられない熱帯病」に分類しているのよ。
人間はヘビよりはるかに大きな動物なので、毒蛇が人間を噛むというのは、大抵の場合は防御的反応によるものなんだよね。でも、どのような条件が揃うと、毒蛇が人間を噛むのか、その生態や行動に関する観点からの研究は、ちょっと不足しているというのが現状なのよね。
そこでこの研究では、主にブラジル南東部に生息する毒蛇「ハララカ (Bothrops jararaca)」を対象とした研究を行ったのよ。気温や時間帯といった条件を考えながらテストを行ったんだけど、この時に、頭・胴体中央・尾に分けながら、安全靴で軽く踏むことで刺激を与えた、という点がこの研究の特徴なのよね。
この、安全靴で軽く踏むという点、および実験対象の毒蛇に若い個体を含んでいるのに申請時になかった点が、撤回の理由となってしまったんだよね。ただ方法論としては、うっかり人間が踏みそうになって、毒蛇の防御行動を招くものを想定した、ということになるよ。
この倫理的な問題は除いて考えると、結果としては「頭を踏まれる」「日中は体温が高く、夜間は体温が低い場合」など、いくつかの噛みつきやすい傾向が見て取れたよ。特に大きい違いとしては、若い個体は成体よりも噛みつく傾向が強いということだね。
実際、このハララカに限らず、一般的にヘビは小さな固体の方が噛みつきやすい傾向にあることが知られているのよ。またハララカに限ってみると、若い個体であるほど、捕食者である鳥類への毒の致死性が高いことが分かっているのよね。
このような形で、ハララカの生物学的な特徴、およびそれとは関係のない特徴の両方が、ハララカが噛みつくかどうかの傾向に影響を与えていることが示唆されたというわけ。この内容自体に間違いはないと思われることから、毒蛇対策において何らかの活かす方法に使われるかもしれないのよ。
受賞国: カナダ、アメリカ合衆国、中華人民共和国、サウジアラビア王国
受賞者: Randy Hurd, Zhao Pan, Tadd Truscott & Kaveeshan Thurairajah.
授賞理由: 飛び散らない小便器を設計するための、理論的および実験的な試みに対して。
受賞論文: Kaveeshan Thurairajah , Xianyu (Mabel) Song , J D Zhu , Mia Shi , Ethan A Barlow , Randy C Hurd , Zhao Pan.“Splash-free urinals for global sustainability and accessibility: Design through physics and differential equations”. PNAS Nexus, 2025; 4 (4) pgaf087. DOI: 10.1093/pnasnexus/pgaf087

左から1917年の小便器、現代の一般的な市販品小便器、今回設計されたコルヌコピア、ノーチラスの3Dレンダリング。下側は平均的な体格の人を想定した、排尿時に尿の当たる衝突角度を表しているのよ。黄色や赤色は、飛散しやすい30度以上の衝突角度となる領域な一方、黄緑色から青色はほぼ飛散しない30度未満の衝突角度となる領域を表しているのよ。 (Credit: Kaveeshan Thurairajah, et al. / リンク)
男性用トイレの小便器は、遅くとも紀元1000年頃には登場したと言われているけど、現在使われている小便器のデザインは、ほぼ1世紀に渡って変わっていないと言われているのよね。例えば1917年に作られた、小便器を使ったレディメイドの芸術作品の『泉 (La Fontaine)』を見て見れば、そこまで変わってないことが分かるはずよ。
ところで、小便器の問題で悩ましいのは、尿の飛散という悲惨な問題になるよ。ダジャレを言っている場合じゃなくて、飛び散った尿は細菌の繁殖や悪臭の原因となるので、公衆衛生上の問題となるのよね。床に対する飛散量は、アメリカの公衆トイレだけでも1日あたり35万リットル、なんと25mプール1杯分と推定されるのよ!
掃除をすれば解決するには解決するけど、もちろん掃除はタダじゃできないよね。清掃員という人的なコストもあれば、清掃用具や消耗品を購入するコストもあるので、まずはお金がかかる。また、人の移動や清掃用具の製造、何より掃除に必要な水は、最終的には環境コストとして支払うので、環境問題にもつながってくるのよ。
生物的な生理現象として止められない以上、公衆トイレの小便器の設計を改善し、飛散量を減らすことは、結構重要な課題になるはずなのよね。実際、オランダのアムステルダム・スキポール空港では小便器にハエのシールを貼って狙いを誘導した結果、飛散量が50-80%減少し、清掃コストが8%削減されたという結果もあるくらいだよ!
ただし、これはあくまで既存の小便器に工夫を凝らして改善しただけだし、まだそれなりに飛散しているのよね。ならば小便器自体の形を改良することによって飛散量を減らせる方が良いよね。研究チームは、理想的な小便器の形状開発に、物理学的なアプローチから取り組んだのよ!

尿という液体が壁に当たる時、どのような角度を取ると飛散しやすいのかを、理論モデルと実験の両方で検証したもの。衝突角度が30度を下回ると、最も飛散する場合と比べて約95%削減できることが分かったのよね。 (Credit: Kaveeshan Thurairajah, et al. / リンク)
まずは、液体が物体と衝突して飛散する量は、ウェーバー数 (慣性力と表面張力の比) に応じた衝突角度の臨界閾値を下回ると著しく減少するという、2019年の研究で示された点に着目。理論モデルと実験の両面で、尿は小便器に対する衝突角度が30度を下回ると、飛散量は最大値より約95%も削減できることが分かったのよ。
この衝突角度30度以下という観点から見てみると、1917年時点の小便器や、現在一般的な小便器は、衝突角度30度以上の領域が結構広くあるのよね。1人1人の放出する高さが違う上に、内圧の減少で角度が変わることを考えると、これが尿の飛散の問題に繋がっているとみることもできるのよ。
そこで、尿の衝突角度が常に30度を下回るよう、円筒座標系における放物線曲線の振る舞いを数学的に計算することで、理想的な対数螺旋となる平面曲線を計算したのよ。その結果2つのデザインが完成し、それぞれ「コルヌコピア (Cornucopia)」と「ノーチラス (Nautilus)」と名付けたのよ。
コルヌコピアは、その形状がギリシア・ローマ神話の豊穣の象徴として描かれていた角から名付けられているよ。ノーチラスはもっと直球なネーミングで、対数螺旋の形状の殻を持つ生物であるオウムガイの学名に由来するよ。

4つの便器の形状それぞれに対し、排尿を想定した実験を行ったもの。黒い点々は、床に飛び散った染色した水の飛散状況を写真に撮り、二値化処理した画像で表しているのよ。 (Credit: Kaveeshan Thurairajah, et al. / リンク)
この2つのデザインは、特に飛び散りやすい条件であるほど飛散する量を削減できるのよね。特に優れていたのはコルヌコピアで、最も差が付く条件では、飛散する量を市販品の1.4%まで削減することができるのよ! ただし、コルヌコピアは飛散量を抑えるのには優れていても、いくつかの欠点を抱えているよ。
まず、飛散を抑えるために前側にガードがあるため、掃除が難しいのよね。また、どうしても開口部の下側が高くなってしまうので、低くすると大人がする場合に飛散する量が増え、一方で高くすると子どもや車いすの人が使いにくくなる、というジレンマに陥ってしまうのよね。なので、優れているが人を選ぶデザインになるのよ。
一方でノーチラスは、飛散する量こそコルヌコピアよりわずかに多いとはいえ、実用を考えれば十分な削減率だし、多少の位置のズレがあっても問題ないから、背の低い人でも使いやすくなるよ。また、航空機や船舶のように、全体が不安定な環境ならば、間違いなくノーチラスの方が使いやすいよ。そして何より掃除も簡単よ。
尿が小便器の周りに飛び散るのを抑えれば、周りの掃除の回数も抑えられるのだから、環境コストも大幅に削減できるはず。これはちょっとした面白研究ではなく、衛生問題と環境問題を同時に解決できるという点で、かなり真面目な効果があると思うのよね。

一般的な体格の人が立ちションをした場合に、最も飛散して悲惨な状況となるように設計された曲線と、それを取り入れた野外向けの曲面のアイデア。 (Credit: Kaveeshan Thurairajah, et al. / リンク)
ちなみに、この論文は最後に面白いオチを用意しているよ。というのは、尿の飛散量が最小になる設計が分かったので、今度は尿の飛散量が最大になる設計も求められるのよね。これはもちろん小便器向きの話ではなく、むしろして小便をしてほしくない場所……例えば野外の壁なんかに対する設計思想になるよ。
どのような場所からも、尿の衝突角度が90度になる時は、それはもう悲惨なことになる。つまり、立ちションを禁止したい壁の角に、この設計のカバーか何かを付ければ、張り紙などの警告を無視した人に対する“報い”を自らに受けさせることができるのよね。論文には具体的な曲面がどうなのかという図も添付されているのよ。
受賞国: 中華人民共和国、カナダ、アメリカ合衆国、エジプト・アラブ共和国
受賞者: Justin Puma, Zhen Yang, Evan Johnston, Zixin Zhang, Xiaoyi Lan, Lingzhi Zhang, Hongyu Hou, Zixin He, Ali Afify, Megan Creighton, Jianyu Li & Changhong Cao.
授賞理由: 蚊の吻を高解像度3Dプリンターのノズルとして利用する先駆的な技術「死体印刷術 (ネクロプリンティング)」を開発したことに対して。
受賞論文: Justin Puma, Zhen Yang, Evan Johnston, Zixin Zhang, Xiaoyi Lan, Lingzhi Zhang, Hongyu Hou, Zixin He, Ali Afify, Megan A. Creighton, Jianyu Li & Changhong Cao.“3D necroprinting: Leveraging biotic material as the nozzle for 3D printing”. Science Advances, 2025; 11, 47. DOI: 10.1126/sciadv.adw9953
人類は、自然にあるものを真似する形で技術を発展させ、最近では「生物模倣技術 (バイオミメティクス)」という、生物の形そのものを真似する技術も登場するのよね。ただ、これらはあくまで人工的な模倣であり、生物そのものを使っているわけではないよ。
これに対し、生物が生み出したものを直接使うのが「バイオハイブリッド工学」という分野になるよ。生物そのものを使うということは、部品となる生物を育てればいいので、人工物を作るよりも環境負荷が小さいことがあり、しかも有機物でできているから生分解性があるなど、意外と利点も大きいのよね。
バイオハイブリット工学には面白研究もあって、例えば2023年のイグノーベル賞に『死んだクモを機械的グリッパーとして蘇らせたことに対して』なんてのもあるよ。ただ、この研究分野はまだまだ発展途上という感じで、未開拓分野も無数に残されているのよね。
未開拓の代表的な分野の1つは、プリンターにおいて液体を噴射するノズルが付いたディスペンスチップになるわね。ディスペンスチップは、その精密さの関係から金属やプラスチックでできていて、生分解性はないのよね。アメリカだけでも年間40億個使われていると推定されることから、環境負荷もかなりのものになるよ。
特に、直径が0.1mm (100µm) を下回るマイクロディスペンスチップの分野となると、まだまだ課題も多いのよ。ここは生体組織を利用した3Dプリンター、あるいは極小領域での医薬品注入や電子部品製造など、最先端技術への利用が含まれているのよね。
そして、市販品のマイクロディスペンスチップは、プラスチックなら約0.15mm (30ゲージ) 、金属でも約0.035mm (36ゲージ) の細かさが限界で、36ゲージのチップは1個当たり80ドル以上するなど、単純に値段だけでもものすごく高いのよね。ガラスなら0.001mm以下を作れなくもないけど、ただものすごく脆のいよ。
そこで研究者が目を付けたのは、蚊 (カ)の吻、つまりは針のように突き刺さるあの口なのよね。あれは刺される側としてはとても厄介だけど、技術的に見れば、液体が出入りするとても小さなノズルそのものなのよね。また、蚊は簡単に繁殖できるし、当たり前だけど生分解性。環境にも優しいわけ。
そこで研究チームは、蚊の吻を使ったマイクロディスペンスチップの開発を検討してみたのよ。名付けて「死体印刷術 (ネクロプリンティング)」! まずは液体を出すノズルとして蚊の吻を観察すると、その直径は0.020-0.025mmと、市販品を下回る細さな上に、長さも2mmと扱いやすいのよね。
蚊の吻が壊れないように液体の粘り気や押し出しの圧力を調整し、3Dプリンターのように使ってみると、印刷の解像度は約0.02µm。あの高額だった約0.035mmのノズルで実現可能な解像度は約0.04mmなので、それの2倍も細かいということになるよ!
また、まだ予備的な結果ながらも、ブタの細胞での3Dバイオプリンターを想定したゲルの印刷試験でも、結構いい性能を出したのよね。なお、蚊の吻を使う以上は寿命が気になる所だけど、常温では最短9日、14日で30%の破損率だけど、-20℃の冷凍庫内で1年保存すれば使えるなど、割と保存性も高いのよね。
全体として今回の研究結果は、蚊の吻がマイクロディスペンスチップ用途向けによく使えるのを示すのが中心という感じ。研究チームは、この生分解性チップの可能性を示すと共に、サシガメ、トコジラミ、ツェツェバエのような他の昆虫の吻でも同じようなことができるんじゃないかと考えているのよ。
受賞国: ポーランド共和国、ドイツ連邦共和国、スウェーデン王国
受賞者: Ilona Croy, Tomasz Frackowiak, Thomas Hummel & Agnieszka Sorokowska
授賞理由: 親にとって、赤ちゃんは素敵な匂いがするが、ティーンエイジャーはそうではないという証拠を集めたことに対して。
受賞論文: Ilona Croy, Tomasz Frackowiak, Thomas Hummel & Agnieszka Sorokowska.“Babies Smell Wonderful to Their Parents, Teenagers Do Not: an Exploratory Questionnaire Study on Children’s Age and Personal Odor Ratings in a Polish Sample”. Chemosensory Perception, 2017; 10 (3) 81-87. DOI: 10.1007/s12078-017-9230-x

全体の評価として、親は自分の子どもの体臭を非常に良い (濃い緑色) 、あるいは良い匂い (薄い緑色) だと感じる傾向にあったけど、その割合は子供年齢が上がるにつれて減少していったよ。14歳以上の子どもの体臭の評価は、自分のパートナーと同じ傾向を示すこと、そして親の性別と子どもの性別の一致・不一致は特に影響しないことも分かったよ。 (Credit: Ilona Croy, et al. / リンク)
親はいつまで子どもを育てるのか? これは時代や文化によって異なるけど、ただ子どもの年齢が上がるに従って、親が関与する割合は少なくなっていくことは共通しているよね? 要するに、赤ちゃんは親が全てをお世話するけど、年齢が上がれば子どもに任せても大丈夫な範囲が増えてくる、というお話よ。
親にとっては猛烈に負担がかかる育児について、どのようにそのような行動を促すのか。動機づけというのは生物学的に気になる点だよね? それを促すシグナルとして考えられるものの1つに、赤ちゃんのうちに発する匂いというのが考えられるのよ。
一般的に、親は赤ちゃんの匂いを心地よいと感じるのよね。そしてこのような体臭の自覚は、親が生後数日、あるいは生後数時間の、自分の赤ちゃんの匂いと他人の赤ちゃんの匂いを区別できる形で、生物学的にも意味のあるシグナルである可能性が示唆されているのよね。
ただ、一般的に思春期前の子どもの体臭は心地よいモノだと評価されるらしいんだけど、それ以上の年齢の研究はサンプル数が少なく、評価が定まっていなかったのよ。子どもの体臭の感じ方の変化は、子育ての関与だけでなく、近親相姦の予防など、全体としての“親子の絆”に関わる可能性があるから、これは大きな穴なのよね。
そこで研究チームは、次のような調査を行ったのよね。ポーランドにおいて283人の親にアンケート調査を実施。嗅覚の問題や、子どもが血縁関係にないなど、研究基準を満たさない親を除外した結果、最終的に235人の親のサンプルが集まったので、分析を行ったのよ。
アンケートでは、子どもの年齢を「4歳未満 (乳児)」「4歳から8歳 (思春期前)」「9歳から14歳 (思春期)」「14歳以上 (思春期後)」の4つのグループに分け、自分の子供の体臭を心地よいと感じるかどうかについて回答してもらったのよ。
その結果やはり、子どもの年齢が幼いほど、親は子供の体臭を心地よいと感じることが示されたのよ。とはいえ、中立的以下の評価の割合が増えるとはいえ、14歳以上であっても肯定的な評価が多いことも分かったのよね。この辺が「ティーンエイジャーはそうではない」という微妙な書き口に繋がっているのよね。
ちなみに、親の性別と子どもの性別は、この関係性に影響しなかったのよね。父親にとっての男児か女児か、あるいは母親にとっての女児か男児かという違いは、年齢が上がるほど中間的以下の割合が増えていく傾向自体には影響しないことが示されたのよ。
またユニークなことに、夫が妻、妻が夫という具合に、自分のパートナーの体臭についてどう評価するか尋ねると、14歳以上の子どもとほぼ同じような傾向がみられることも分かったのよね。これは子育てにおける子供への関与度を考える上では、興味深いデータとなるよね。
ただし、一応注意しないといけないことがいくつかあるよ。例えば、この研究はあくまでアンケートベースであり、医学的な調査を行っているわけではないのよね。自分の子どもではなく、一般的な子どもをベースにした、ハロー効果が起きる可能性があるので、そこは限界があるよ。
また、これはポーランドの1ヶ国で実施された調査なので、他の国や文化圏では結果が変わるかもしれないよ。さらに、近親相姦を防ぐという潜在的な効果については、今回の結果だけでは証拠がないので、あくまで推定のまま留まることに注意しないといけないよ。
受賞国: アメリカ合衆国、アルゼンチン共和国、オーストラリア連邦
受賞者: Jaimie Arona Krems, Rebecka Hahnel-Peeters, Laureon Merrie, Keelah Williams & Daniel Sznycer.
授賞理由: 私たちは、嫌いな人に対して意地悪な友達を大切にしていることを記録したことに対して。
受賞論文: Jaimie Arona Krems, Rebecka K. Hahnel-Peeters, Laureon A. Merrie, Keelah E.G. Williams & Daniel Sznycer.“Sometimes we want vicious friends: People have nuanced preferences for how they want their friends to behave toward them versus others”. Evolution and Human Behavior, 2023; 44 (2) 88-98. DOI: 10.1016/j.evolhumbehav.2023.02.008
人と人との関係性の1つには「友人」という概念があるけど、では私たちはどのように友人を選ぶのかな? その選ぶ基準や好みは、無数の研究が無数に推定していて、1つ2つに絞ることはまぁムリよね。ただ、スゴくふんわりとしたイメージだけど、人々は「優しくて信頼できる人」を友人に選ぶ傾向があると総括できるはずよ。
では逆に、友人に選ばれにくい人は誰なのか? 友人として選ばれる傾向を調べた研究と比べると、友人として選ばれない傾向を調べた研究は少ないけど、おおむね「意地悪で優しくない人」は選ばれないとまとめることができるはずなのよね。
この辺は、論文本文で詳しく述べられていることをだいぶ端折って説明していることには注意。ただそうなってくると、「そもそも“優しい (kind)”って何よ?」という根本的な疑問が湧いてくるんじゃないかな? 要は自分に対して優しく接してくれるというのは、正確にはどういう意味なのかという話よ。
例えばな話。過去の研究では、人は「優しくて信頼できる人」を友人として選び、「意地悪そうで優しくない人」を避ける傾向にあるらしい。しかし例えば、以下のようなケースだと、どのように評価するのかが変わってしまうのではないか? と考えられるよね。
このように、友人との交流で起こる直接的な影響だけで評価するのと、最終的な結果を考慮した間接的な影響まで含めて評価するのとでは、全く評価が異なるということもありうるわけ。さて、じゃあ結局のところ私たちはどのように友人を選んでいるんだろう?
この研究では、アメリカとインドにいる人たちにアンケート調査を行い、1183件の回答を分析を行ったのよ。主な内容は「友人にどのような行動を望むか」という点で、搾取行動、悪意、無関心、やさしさ、信頼性についてと、敵対する人物と対立した時、類似性、親近感、公平性の度合いといったところを質問したのよ。
その結果、まずは予想通りの結果として、「友人は自分に優しくしてほしいし、他の人に対しても優しくしてほしい」と回答したのよね。ところが、それと共に「友人は他の人よりも、自分に対してより優しくしてほしい」という傾向も見られたんだよね。
そして最後、イグノーベル賞の受賞文にもある通り、「時には、敵対する人に対して、優しくするよりも敵対的であってほしい」と望む傾向にあることを突き止めたのよ。
こうしてみると、こうした分野の研究における“優しい”は、もっと幅広い意味を持ち、現在の研究では網羅しきれてないんじゃないかと推定することができるよね。こんな研究に対して平和賞を贈るのが、まぁイグノーベル賞らしいといえばらしいのよ。
受賞国: スイス連邦、オランダ (※オランダ王国構成国) 、ドイツ連邦共和国
受賞者: Franz Bender, Marcel van der Heijden, Atlant Bieri & Pia Viviani.
授賞理由: 25ヶ国以上で全く同じパンツを1000枚埋め、2ヶ月後に掘り起こしたことに対して。
受賞論文: S. Franz Bender and Marcel G. A. van der Heijden.“Assessing soil health with underpants”. Science, 2025; 387 (6737) 936. DOI: 10.1126/science.adw0030
関連論文: S. Franz Bender, et al.“Soil health assessment using buried cotton underpants with the help of 1000 citizen scientists”. Plants, People, Planet, 2026; Early View. DOI: 10.1002/ppp3.70259

上はパンツ指数を考案した時の仮説。下は参加したスイス国民の様子。 (Credit: S. Franz Bender, et al. / Photographs by: Manuel Steinemann, Cécile Dauny, Rémy Jobin, Christian Hunger, Luisa Poggi & Yann Hautier. / 写真に写っている人々は論文掲載の許可を受けており、論文全体がCC BY 4.0ライセンスである / リンク)
※注釈: 授賞理由は25ヶ国で1000枚のパンツを埋めた話を受賞理由としていますが、今回は詳細な内容が入手できる、前段の研究を元に解説をします。このため、スイス全土における2000枚のパンツを埋めた話を中心に話を展開しています。
「土壌」とは、一般的に土とも呼ばれている、地球表面の柔らかい層になるよ。土壌の生成や維持に生命の関与もあることから、一般的に土壌とは生物と非生物的な有機物、鉱物や流体などが混ざり合ったものと考えられるのよね。その定義上、今のところ地球以外の天体に土壌は見つかっていないのよ。
土壌は生物多様性の約6割を占めていると考えられており、大量の炭素と水を貯蔵し、汚染物質の濾過や栄養素の循環を担っているのよね。また、食糧生産の約95%は土壌に依存しているなど、私たちに直結する分野においても土壌は極めて重要な立ち位置にあるのよ。
しかし、土壌に対する関心は一般的に低く、農業に従事する人でさえ正しい知識を持っているとは言えないのよね。土壌が大切な資源であるという認識に欠けたまま、私たちは土壌を浪費し、あるいは汚染しているとも言えるのよね。
ただ、そうは言っても土壌が地味であり、関心を惹かせるのが簡単ではないというのは分かること。ってことで関心を高める方法の1つとして「市民科学」という切り口がるのよね。これは、普段は研究活動をしていない一般の人々が、実際の研究に参加するというものだよ。
研究に参加した一般の人々は、普段は縁のない研究の世界に片足だけでも踏み入れることで、今まで関心が持てなかったことに関心が持てるかもしれないね。一方で研究者は、自分ではとても手が回らない広大な地域や膨大なサンプルを入手する機会が得られるので、普段できない研究ができるようになるのよ。
ただまぁ、市民科学を企画したとして、それに参加してもらうのはかなり大変よ。そもそも関心を持ってもらわなきゃ、参加者がおらず企画倒れだからね。どうやって関心を持ってもらうかというのは、市民科学において課題となってくるのよね。
たとえば、土壌科学における市民科学の例として、土にお茶のティーバッグを埋める「ティーバッグ指数 (Tea Bag Index)」というのがあるのよね。茶葉がどれくらい分解されたかを見ることで、この土壌はどれくらいの分解能力を持つのかという、土壌の健全性を測ることができるのよ。
ティーバッグは入手しやすいので、一見すると市民科学的。なんだけど、分解量を厳密に測るために石や土を取り除いてから、一般家庭にはない精密天秤で計測しなきゃいけないので、測定が大変なんだよね。また、ティーバッグを埋めて後日掘り出すという、見た目には結構地味な作業が挟まるので、訴求力に欠ける欠点があるのよ。
そこで研究チームは、ティーバッグの代わりに下着のパンツを埋める「パンツ指数 (Underpants Index)」を考案したのよ! 名前は確かに笑えるんだけど、後ほど説明する通り、これはティーバッグ指数における欠点を克服しているので、意外と優れているのよね。
まず研究チームは、ウエストバンドと縫い糸以外は綿100%でできた、同じメンズブリーフを2000枚購入。参加した1000人の一般の人々に2枚ずつ配り、土に埋めさせた後、30日後および60日後に掘り起こしたのよね。なおこの実験では、ティーバッグ指数との比較のため、ティーバッグを配布し、それも同じ条件で土に埋めたのよ。
返送されたパンツおよびティーバッグ、そして土壌サンプルを元に分析を行ったところ、こんなことが分かったのよ。まず、ティーバッグ指数で示された土壌の健全性は、綿のパンツがどれくらい分解されたのかという状況と似ており、ティーバッグ指数とパンツ指数は実質的に同等のものとして扱えることが分かったのよね!

パンツ指数の測定には、統一された条件で撮影された写真を元に面積を測るという、測定を簡易にできるメリットがあるのよ。 (Credit: S. Franz Bender, et al. / リンク)
また、パンツ指数には、ティーバッグ指数にはない利点があることも分かったのよ。分解の度合いを推定するために重さを測ろうとすると、繊維の間に食い込んだ土を除去しきれない問題があり、信頼性が少し低いのよね。しかし、重さと同等のものとして、面積という考え方ができるのよね。
背景の色を指定するなど、統一された条件で写真を撮れば、きちんと面積が測れる。パンツはそこまで分厚い布ではないため、写真から測った面積は重さと相関関係にあるはずよ。実際、研究チームは重さと面積に相関関係があることを示し、信頼性に欠ける重さより、簡単な上に信頼性が高い面積で分析を行ったくらいだからね。
統一された条件の下で写真に撮るというのは、一般家庭でもあまり難しくない話。サンプルを送り返す必要がないというのは、研究者だけでなく、参加者にとっても負担が少なくて済む話。研究者からすれば、写真撮影の条件をきちんと指示し、条件に合わない写真を除去すればいいので、測定の手間を分散できるのよ!
考えてみれば、ティーバッグ指数の場合には、厳密に石や土を取り除き、精密天秤で測る必要がある。それを考えれば、パンツ指数はだいぶ楽なのよね。
何より、「パンツを土に埋めて後で掘り出す」というシチュエーション自体が笑える話。これが真面目な科学的研究だと言うならなおさらよね。この研究に笑ったり、内容に関心を持った人は、まさに研究者の狙い通りだと言えるのかもしれないよ。
確かに、土にパンツを埋めるというのは遊び心が優先されており、科学的な厳密性が少し損なわれていると感じる人がいるかもしれないね。でも、なるべく規格化された条件で、負担が少なく、しかも笑えるので関心が惹けるとなると、これは市民科学の成功例なんじゃないかと、私は思うのよ。
イグノーベル賞は、受賞した研究内容の奇抜さやユニークさがよく注目されるため、笑える研究が新しく出てくると「これはイグノーベル賞だ」と言われることはよくあるんだよね。ただイグノーベル賞は、単純な面白さとか笑いがとれるとか、いわゆる一発ネタだけで逃げて受賞できるような内容の賞じゃないよ。
「人々を笑わせ、考えさせた業績」という主旨や、今回の受賞した研究の内容を見れば分かる通り、とてもまじめな研究に対して贈られていて、その結果や成果を考えても、この先その内容が発展しうる要素を秘めた研究なんだよね!中には既に発展した研究とかもあるよ。
授賞理由だけを聞くと、いったいどうしてそんなことをしたのか意味がよく分からない研究でも、具体的な応用とかその業界にインパクトを与える内容のもあったりするのも、イグノーベル賞が贈られる研究の特徴と言えるよ。
<イグノーベル賞の情報>