新手法「圧力焼き入れ」で、常圧で超伝導になる温度の最高記録を更新!

2026.07.10

高温超伝導体の圧力焼き入れ サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、常圧で超伝導が起こる温度の最高記録が更新されたというお話だよ! 「Hg-1223」という超伝導体を使い、-122℃で超伝導状態になることを確認したのよ! この最高記録を叩き出すうえで活躍したのが「圧力焼き入れ手法 (PQP; Pressure-Quench Protocol)」という新開発の手法なのよね!
普通の焼き入れが、高温に熱した材料を急冷するように、圧力焼き入れでは材料を超高圧にかけた後に急減圧をするのよね。これにより、本来なら高圧をかけた時に起こる現象である超伝導転移温度の上昇が、圧力を抜いた後の常圧でも起こることが確認されたのよ!
今回の解説では、この圧力焼き入れ手法というものも含めて、30年来の最高記録を更新した意義について解説するのよ。

 

今回の研究のポイント
  • 電気抵抗がゼロな「超伝導」になる温度は、圧力をかけない常圧の環境では、30年以上記録の更新がなかったのよ。
  • 今回、その最高記録を持つ物質に対し、「圧力焼き入れ手法」という新しく開発された手法を使ってみたよ。
  • その結果、超伝導になる温度が-122℃となり、大幅な記録更新となったのよ!

 

圧力をかけないで超伝導になる温度を上げるのは難しい

物質に電気を流した時、普通は流した電気の全てが反対側に届くわけではないのよね。普通の物質には電気抵抗という性質があり、電気のエネルギーの一部が熱に変換されることで失われてしまうのよね。一見すると電気を良く通す金属であっても、電気抵抗はゼロではないのよ。

 

金属であっても電気抵抗がゼロではないということから、結構困った問題が起きているのよね。電気は現代社会を支える重要なエネルギーだけど、送電線が持つ電気抵抗のせいで、約5%が送電している内に失われてしまうのよね。この送電損失は、単純にエネルギーの無駄なだけでなく、送電線を劣化させるなどでも損失になるのよ。

 

もしも、電気抵抗がゼロな物質で送電線を作れるならば送電損失は発生しないわけだよね? そのような電気抵抗がゼロな状態を「超伝導状態」と呼んでいて、1911年に初めて見つかったのよね。それから100年以上の研究で、数千種類の物質が超伝導状態になることが判明しているのよ。

超伝導転移温度の一覧

図1: 超伝導を示す物質のうち、圧力をかけないものの最高記録は、Hg-1223の-140℃だったんだよね。 (画像引用元番号①)

 

しかし、未だに超伝導状態の送電網は見かけないよね? 大きな理由の1つは、超伝導状態は極低温の世界でしか起きないことよ。物質が超伝導状態になる温度を「超伝導転移温度」と呼ぶんだけど、大半の物質で超伝導転移温度は極めて低く、-269℃の液体ヘリウムで冷やさないと超伝導状態にならないのよね。

 

しかし、この状況は徐々に改善しているのよ。特に大きなブレイクスルーは、1987年に報告された、-196℃の液体窒素でも超伝導状態になる「高温超伝導」が見つかった件よ! -196℃は日常生活では低温かもだけど、-269℃の液体ヘリウムと比べたらずっと高温なので高温超伝導と呼ばれるのよね。

 

液体ヘリウムでしかムリだと思ってた超伝導状態が液体窒素でもできるのなら、さらに超伝導転移温度を上げることもできるかな? となるよね。物理学者が最大の目標としているのは、室温でも超伝導状態になる「室温超伝導」の実現になるのよ。これができれば、もしかすると超伝導の送電網も整備できるようになるかもね!

 

ただ、高温超伝導の発見は確かにすごいものの、超伝導転移温度の更新は長らく停滞してたのよね。1993年に合成された、水銀・バリウム・カルシウム・銅の酸化物である「Hg-1223」 (HgBa2Ca2Cu3O8+δ) は、-140℃で超伝導状態になるんだけど、このHg-1223の記録は、その後30年以上、常圧における高温超伝導の最高記録にあったのよ。

 

なお、翌1994年にはHg-1223の水銀の一部をタリウムに置き換えると (Hg12Tl3Ba30Ca30Cu45O127) 、超伝導転移温度が5℃上昇し-135℃になることは分かっていたのよね。ただこれは、Hg-1223と基本的な性質は一緒なので、Hg-1223が超伝導転移温度の最高記録であるという状況には、あまり影響を及ぼさなかったのよね。

 

理由の1つは、高温超伝導を示す物質の複雑さにあるのよね。HgBa2Ca2Cu3O8+δなんて組成式は観ての通り複雑だけど、この複雑さによって「なんで高い温度で超伝導を示すのか?」という疑問に対する理論的な答えを出せてないのよね。これはそのまま、理論をヒントに他の物質を探すという行為にも足を引っ張ってしまうのよ。

 

一応、超伝導転移温度という1つのパラメーターだけに注目するならば、十水素化ランタン (LaH10) が-23℃で超伝導状態を示すなど、室温超伝導のニアピンはいくつか見つかっているのよ。ただしこれは、大気圧の100万倍以上のようなとんでもない圧力をかけることで実現するという点で、従来の高温超伝導とは全く違うのよね。

 

このような超高圧で超伝導状態になる物質は、圧力を抜いてしまうと超伝導状態を示さなくなるのよね。Hg-1223のような高温超伝導は、圧力をかけなくても超伝導状態になるという点で大きな違いとなるのよ。なのでHg-1223は、圧力をかけない常圧での超伝導転移温度としては引き続き最高記録を維持していたのよね。これまでは。

 

「圧力焼き入れ手法」で超伝導転移温度を上げる!

高圧化におけるHg-1223の超伝導転移温度の上昇

図2: Hg-1223は、高圧をかけると超伝導転移温度が上昇することが示されているのよね。ということは、圧力をかけた状態を、圧力を抜いた状態でもキープできれば、超伝導転移温度を上げられるのではないか? と考えられるよね。 (画像引用元番号②)

 

そんな絶対王者な状態を30年ぶりに変えたのが、ヒューストン大学のLiangzi Deng氏などの研究チームになるよ。といっても、使っていたのは相変わらずHg-1223になるのよね。Deng氏らは、Hg-1223にまつわる過去の研究の知見を元に、作り方を工夫することで超伝導転移温度を上げることができると考え、実験を行ったのよ。

 

過去の研究により、Hg-1223の超伝導転移温度が高いのは、簡単に言うと、電気を運ぶ電子同士の間で働く力の関係性 (強相関電子系) が理由であると考えられるようになってきたのよね。また、Hg-1223を31GPa (31万気圧) にかけると、超伝導転移温度が-109℃にまであがることが判明しているのよ。

 

一般に、圧力をかけると超伝導転移温度が変わるのは、超伝導状態のカギである電子同士の関係性の変化にあると考えられているのよ。ということは、圧力をかけて電子同士の関係性を変えた後、圧力を抜いてもその関係性が維持できるとしたら、圧力をかけなくても高い温度で超伝導状態になる物質を作れるかもしれないのよね!

圧力焼き入れ手法の概要

図3: 今回の実験では、圧力をかけた後に急激に抜く「圧力焼き入れ手法」という手法で実験を行ったよ。熱を急速に冷ます焼き入れの圧力版と言える手法だね。

 

そんなことできるの? と思うかもだけど、似たような状況は身近にもあるのよ。例えば硬い鋼は、鉄にある程度の炭素が含まれることで硬くなっているのよね。高温に熱した鉄はたくさんの炭素を含めるんだけど、ゆっくり冷やすと含めない炭素が逃げてしまうので、炭素の少ない鋼と炭素のスポットができてしまい、脆くなるのよ。

 

しかし、高温に熱した鋼を水に入れて急冷する「焼き入れ」という処理を行うと、炭素を多く含む鉄を作ることができるのよ。変化する暇を与えないほど急激に冷やすことで、本来なら低温では存在できない炭素を多く含む鉄を作ることで、硬い鋼を実現しているのよ。

 

高温超伝導に関しても話は同じ。高い圧力をかけた後に急激に圧力を下げると、本来なら高圧環境下でしか維持されない、超伝導状態に関わる電子同士の関係性が変化せずに固定されるため、圧力を抜いても超伝導転移温度が上がったままになると考えられるのよ。

 

Deng氏らは、高圧をかけて高い温度でも超伝導になる状態を作った後、急激に圧力を抜くことで超伝導転移温度を上げたままにできるんじゃないかと考え、「圧力焼き入れ手法 (PQP; Pressure-Quench Protocol)」という手法を開発し、今回の実験を行ったのよね。

 

今後の研究次第で更なる発展があるかも?

圧力焼き入れ後のHg-1223の超伝導転移温度の上昇

図4: 圧力焼き入れを入れると、Hg-1223の超伝導転移温度は-122℃まで上昇したよ! これは常圧での最高記録を更新したことになるのよ。 (画像引用元番号②)

記録更新後の超伝導転移温度の一覧

図5: まだ室温超伝導には届かないけど、今回の研究成果は注目すべきものがあるね!

 

今回の実験では、Hg-1223を液体ヘリウム温度の-269℃ (4.2K) に冷却しながら、10.1GPaから28.4GPa (10万1000気圧から28万4000気圧) の圧力をかけた後、急激に圧力を除去して焼き入れを行ったよ。その後に超伝導転移温度を確認すると、元が-140℃だったのに対し、圧力焼き入れ後には-122℃から-126℃まで上昇したのよね!

 

この圧力焼き入れには、圧力をかけるだけでなく、 (字面とは反対だけど) 焼き入れ時に温度を下げることも大事みたいね。今回の実験では液体窒素温度の-196℃で同じことをやる実験を行ったところ、その時の超伝導転移温度は-134℃と、確かに上昇したにはしたけど、先ほどと比べると大きな効果は得られなかったのよね。

 

ただいずれにしても、最大で-122℃で超伝導状態になるというのは、常圧の環境ではこれまでの最高記録ではあるんだよね。30年以上更新されなかったものが、これまでより18℃も超伝導転移温度を上昇させたのはとても画期的な成果なのよ!

 

一方で、今回の実験結果には限界もあるよ。圧力焼き入れ手法をして上げたHg-1223の超伝導転移温度は、室温に放置すると下がってしまうのよね。液体窒素に漬けておけば少なくとも3日間は安定なので、-73℃ (200K) 以上では圧力焼き入れの準安定状態が消えてしまうみたいなのよ。

 

次の研究課題は、圧力焼き入れによる準安定状態が室温でも安定するようなうまい方法を見つけることにはなりそうね。また、今回の実験結果からは、超伝導転移温度をさらに上昇させられるかもしれない予備的な結果が得られたのよ! 他の条件や材料で圧力焼き入れ手法を試せば、何かもっといい結果が得られるかもしれないのよね!

 

もちろん、最終目標は室温超伝導という“聖杯”になるわけだけど、今回の圧力焼き入れ手法の開発は、その目標に一歩でも近づくもの、という点で画期的なものになるのよ。今後の研究が楽しみだね!

文献情報

<原著論文>

  • Liangzi Deng, et al.“Ambient-pressure 151-K superconductivity in HgBa2Ca2Cu3O8+δ via pressure quench”. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2026; 123 (11) e2536178123. DOI: 10.1073/pnas.2536178123

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • A. Schilling, et al.“Superconductivity above 130 K in the Hg–Ba–Ca–Cu–O system”. Nature, 1993; 363 (6424) 56-58. DOI: 10.1038/363056a0
  • G.F. Sun, et al.“Tc enhancement of HgBa2Ca2Cu3O8+δ by Tl substitution”. Physics Letters A, 1994; 192 (1) 122-124. DOI: 10.1016/0375-9601(94)91026-X
  • M. I. Eremets, et al.“High-Temperature Superconductivity in Hydrides: Experimental Evidence and Details”. Journal of Superconductivity and Novel Magnetism, 2022; 35, 965-977. DOI: 10.1007/s10948-022-06148-1

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. Hg-1223のX線照射吸収2Dマッピング: 原著論文図3よりAをトリミング (CC BY 4.0)
  2. PQP後にTcが151Kとなったサンプルの温度依存性抵抗値: 原著論文拡張資料図S2 (CC BY 4.0)
    いらすとや (丸い磁石)

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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