マンボウ研究者、島根大学隠岐臨海実験所を利用してみた

2024.09.20

2024年1月、私は海とくらしの史料館(海くら)の企画展「マンボウ祭」の講演で境港に行く際に、今年は対岸に位置する隠岐諸島 に行ってみようと思った。その旨をX(旧Twitter)でポストしたところ、島根大学隠岐臨海実験所に在駐されている吉田さん(吉田真明准教授)の目に留まり、隠岐諸島に関する情報を色々教えていただいた。

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隠岐臨海実験所

隠岐の島に隠岐臨海実験所という実験所があることをこの時初めて知り、どういう場所なのか興味が湧いたので、施設見学できないかと吉田さんに尋ねたところ、大歓迎との返事が来たので、行ってみようと考えた。吉田さんとのやり取りはさくさく進み、むしろ見学するどころか宿泊させてもらえることになった。

吉田さんは、建物は古いが格安で泊まれると謙遜していたが、私的には建物が古いことより安く泊まれることの方が重要だった。何故なら、隠岐の島のホテルや民宿は基本的に1泊1万円以上するため、ちょっと高いな……と感じていた。実際、実験所には2泊したのだが、隠岐の島の一般的な宿泊料金の半分以下で済んだ。めちゃくちゃリーズナブル!

そんな実験所がどんな場所だったのか、今回は紹介したいと思う。

研究活動を行う人が宿泊利用もできる

隠岐臨海実験所は島根大学が持つ実験所で、隠岐の島町の加茂地区にある。公式サイトに利用に関する詳しい話が載っているが、島根大学に所属していなくても、隠岐の島で研究活動を行うのであれば宿泊利用が可能なのだ! 窓口が広い!

隠岐の島で生物調査を行う場合はもちろんのこと、団体のエクスカーションや勉強会でも利用できるらしい。これは生き物好きにとってはとても嬉しい話ではないだろうか? しかしながら、最も重要なのは事前相談だ。隠岐臨海実験所で何がしたいのかを公式サイトにある担当者に連絡して、担当者がOKと言えば宿泊利用できるし、ダメと言われたら単純にできない。

私は今回、実験所の施設見学・研究の打ち合わせということで利用させていただいた。

私が今回実験所を利用したのは、2024年5月19日~21日だった。隠岐の島の西郷港にフェリーが到着し、吉田さんと合流。夜はローカル品を食べたいと希望していたので、ローカルスーパーに車で連れて行ってもらった。夕食を買った後、いよいよ隠岐臨海実験所に向かうことになった。

こちらが隠岐臨海実験所である。私が気付かなかっただけかもしれないが、建物の入り口に表札や立札のようなものが何も無かったため、一見すると何の施設なのか分からない。



また、実験所の直前にはトンネルがあって建物は遠くから見えず、本当にこの先でいいのか初めて来る人は戸惑うことも多いらしい。

今日もまた歩くマンボウ博士

隠岐臨海実験所は隠岐の島で格安で宿泊できる大きなメリットがあるが、一方でフェリー乗り場から遠いというデメリットがある。この点について、私は実際に歩いて検証してみた。

隠岐臨海実験所⇒フェリー乗り場に向かって歩いて行くと……おそよ1時間30分前後掛かった。YAMAPで行動記録を取って投稿したポストが以下である。

 

私は普段から徒歩で移動することが多いので、このくらいの歩きは問題無いのだが、雨など天候が悪い日は確かに不便だなと思った。ちなみに、実験所の公式サイトではレンタカーを使うことを強く推奨している。

一応、フェリー乗り場から公共のバスで実験所に行くことも可能だが、「ポートプラザ前」(西郷港フェリーターミナル前)⇒「隠岐病院」⇒「加茂」と2回乗り換えた後、20分ほど歩いて実験所に辿り着く。バスの時刻表は、バスNAVITIMEのアプリで確認できるが、本数が少ない。ちょっとややこしそうだったので、結局、私はGoogle地図やYAMAPを使って歩いた。

こちらは実験所の玄関である。下駄箱に靴を入れて、スリッパを借りて中に入る。下駄箱の隣には、隠岐の島に関する本や実験所の研究成果が並んだ棚があった。

 

私が宿泊した部屋は2階にあり、こちらが2階へと行く階段である。学会発表などで使ったと思われる研究成果のポスターがいくつか貼られていた。こういうのを見ると、実験所に来たなぁという実感が増す。私も他の実験所に長期滞在した時は、自分の研究をポスターにして展示してもらったことがあった。

 

私がお借りした部屋である。

 

私は一番奥の畳のエリアとベッドを利用させて頂いた。今回は一人で部屋を利用できたが、人数が多い時はドミトリー的な感じで利用するのだろう。部屋にはロッカーやコンセントもあった。しかし、電波はギリギリ1つ立っている程度であまりインターネットはさくさく動かない。夜は謎のミシミシ軋む音が一晩中聞こえていたが、寝れないほどの大きな音ではなかった。あと、住んでいる人がいるので、夜中でも時々人の動く音がする。

 

トイレは1階にも2階にもあり、綺麗で普通に座って用を足せる便器だった。トイレが和式ではなかったことを考えると、それほど古い建物とは思わない。1階に戻って、玄関から入って左手に進むと食堂になる。

階段を降りたところにある籠は、寝る時に使った枕カバーとベッドのシーツを入れるところである。宿泊部屋にどこに何を入れたらいいのか詳しいパネルがある。実験所を出る時にそれぞれ使った物をそれぞれの籠に入れる。

食堂は広いスペースがあり、食器や調味料を使ってもいい。炊飯器、電子レンジ、冷蔵庫も借りることができ、ガスコンロも使うことができる。ただし、自分で使った物は自分で洗って拭いて元の場所に戻すのがルール。ゴミはいくつかの仕分けがあるので、分別に従って捨てる。こういう食堂を利用したのは久々だったので、懐かしい感じがした。ちなみにこの食堂はwifiが飛んでいるので、インターネットを使うなら、宿泊部屋より食堂の方が良い。

食堂に入る手前の左手に風呂場がある。銭湯みたいに男子入浴中、女子入浴中の札が掛かっているので、それをよく確認してから入る必要がある。事前にお湯を張ってお風呂に浸かることも可能だ。シャワーは昔ながらのタイプなので、お湯と水の蛇口をイイ感じに捻って温度を調節する必要がある。

以上が私が今回メインで利用した実験所のエリアだ。ご飯を買う場所が離れていること以外は、全く不自由しない。ちょっとした田舎暮らしを体験できる。今回、私は実験しに行った訳ではないので実験室の方は使っていないのだが、顕微鏡や船、シュノーケリング一式などなど、実験所にある備品は相談すれば使えるようだ。

 

かなり充実していて、何が借りられるかの詳細は公式サイトのこちらのページを確認してほしい。また、実験所の裏手はすぐ海になっていて、採集したものをすぐ実験所に持ち込めるようになっている。

 

吉田さんの話によると研究者の利用は時々あるのだが、毎年定期的に調査に来るというような固定客はほぼいないのだそうだ。

現在、在籍スタッフは教員と学生を含めて7名。吉田さんは外部の人にもこの実験所をもっと活用してほしいと積極的に活動している。逆説的に考えると、利用者が少ない今は意外に穴場かもしれない。隠岐の島に来て、何か学びたい、発表したいという読者の方がいらしたら、隠岐臨海実験所に連絡してみるのもいいかもしれない。

 

 島根大
  隠岐実験所
   ご紹介
    町から遠いが
     施設は充実

参考文献

吉田真明.2022.水産研究のフロントから:島根大学生物資源科学部附属生物資源教育研究センター 海洋生物科学部門(隠岐臨海実験所).日本水産学会誌,88(3): 187.

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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