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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、新しい原子力電池である「炭素14ダイヤモンド電池」の開発に成功した、という報告についてだよ。原子力電池と言っても、従来の化学電池とはもちろん違うし、原子力電池として有名な形式とも仕組みが異なるものなんだよね。
炭素14ダイヤモンド電池は、数十年とか数百年とかの時間スケールではほとんど出力が低下しないので、人間の寿命スケールでは事実上半永久的に電力を得続けることができるよ!さらに多くの性質が、従来の電源では中々得難い性質を持っているんだよね。
唯一の難点としては電力が少ないことだけど、それでも例えば電池交換が一生涯不要になるペースメーカーなど、様々な応用が期待できるよ!
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時計から宇宙船まで、電気は様々な機械を動かすのに欠かせないエネルギーだよね。電気を使うには、発電所で発電された電気を使う方法もあるけど、それだと機械を持ち運べる距離に限界があるよね?ということで持ち運びをする機械には、化学エネルギーを電気に変換する「電池」 (化学電池) が使われるということになるよ。
ただ、電池切れということがあるように、電池で取り出し可能な電気には限度があり、容量を大きくしようとするとあまりに大きな重量になってしまうよ。というわけで充電が難しかったり、そもそも不可能な孤島・山奥・宇宙のような環境では、自分自身で発電する方が良いという話になるよね。
このため、遠隔地にある気象観測装置や地球を周回する人工衛星には、必要な電力を得るための発電装置として「太陽光パネル」がくっついているよ。パネルが経年劣化するまで半永久的に電力を得ることができるというのは、電池にはない魅力ということになるね。
ただ、太陽光パネルは太陽光があってこそ発電ができるので、太陽から遠く離れた場所、大体木星より遠い距離[注1]では、必要な太陽光パネルの面積が非現実的になってしまうという問題があるんだよね。そこで代わりの電源として使われるのが「原子力電池」と呼ばれるものだよ。
原子力電池と言っても、普通の電池である化学電池や、核分裂反応を使う原子炉とは全く仕組みが違うよ。原子力電池では崩壊する不安定な原子核を使っていて、崩壊で生じるエネルギーを電気に変換するよ。もっとも代表的なのは崩壊熱をゼーベック効果[注2]で電気に変換する「RTG (放射性同位体熱電気転換器)」になるよ。
原子力電池が魅力的なのは、使用する原子核の種類を選ぶことによって、何十年にも渡ってほぼ同じ量の電力を得続けることができる点だよ。太陽系を離れる探査機の電池は交換できない以上、ずっと発電し続ける原子力電池はとても魅力的なんだよね。
交換不要という点は人体にも言えていて、長い寿命と耐久性を持つ化学電池が無かった時代には、RTGを使ったペースメーカーが実在したんだよ!これは化学電池の進歩により姿を消したものの、それでも10年前後で交換する必要があるんだよね。RTGは一生涯交換不要なほど寿命が長い、という点はまだまだかなわないんだよね。
ただし、原子力電池が何十年も持つと言っても、かなり長期間にわたって使用することを考えると、それでも出力低下を避けられないんだよね。原子核の崩壊は加速も減速もできないので、常に崩壊してエネルギーを出しながら、段々と量を減らしていくので、数十年も使い続けると段々と出力が低下するのを無視できなくなるよ。
例えば1977年に打ち上げられたボイジャー1号と2号は、共に半減期88年のプルトニウム238によるRTGを搭載しているよ。打ち上げからもうすぐ半世紀になるけど、当初470Wあった電力は低下し続けていて、優先度の低い装置の電源を少しずつオフにせざるを得なくなっているよ。
それでも出力低下は著しくて、ボイジャー1号と2号は2025年以降、どの装置にも電源を供給できなくなると考えられているよ。登場した当初は十分すぎる寿命を持っていたRTGだけど、それでも科学の進歩により数十年の寿命ですら足らなくなってきた感じなんだよね。
もちろん、寿命の長い原子核を使えば長持ちするけど、RTGは熱を電気に変換するという仕組みだから、あまりに寿命が長いと熱の発生量が小さすぎてろくに発電できない、ということになりかねないんだよね。だから数百年とか数千年持つRTGというのは事実上作成ができなかったよ。
ブリストル大学とイギリス原子力規制庁は、この分野で大きな発明となり得る新しい原子力電池の作成に数年前から取り掛かっていて、そしてつい先日開発に成功したことを2024年12月4日付のプレスリリースで公表したよ!開発した原子力電池は、使っている原子核の種類から「炭素14ダイヤモンド電池」と呼んでいるんだよね。
炭素14ダイヤモンド電池は原子力電池に分類されるとはいえ、崩壊熱を利用するRTGとは異なる原子力電池なんだよね。炭素14原子核は、崩壊する際にβ線という放射線を放出するんだけど、その正体は電子であり、電流の担い手と全く同じ粒子だけど、電流の電子よりずっと強いエネルギーを持っているんだよね。
この高エネルギーな電子が半導体に当たると、電子のエネルギーによって電流が流れる、という現象が起こるんだよね。これは現象だけ見れば、太陽光パネルに光が当たると発電する仕組みと似ているよ[注3]。このように、β線を利用する発電方式を「ベータボルタ電池」と呼んでいるよ。
ベータボルタ電池そのものの歴史は半世紀以上あり、それこそベータボルタ電池によるペースメーカーもごく少数ながらあったんだけど、これもRTGによるペースメーカーと同じく姿を消したよ。また変換効率の悪さから、RTGと違ってその他の分野でもあまり普及しなかった、という歴史があったよ[注4]。
今回開発された炭素14ダイヤモンド電池の特徴はこんな感じだよ。炭素14は放射性同位体であること以外は普通の炭素と同じなので、結晶構造がダイヤモンドに近い物質 (DLC; ダイヤモンドライクカーボン) を作ることができるよ。これが (多少マーケティングっぽいとは言え) 炭素14ダイヤモンド電池と呼ばれる理由なんだよね。
炭素14のβ線は、放射線としては弱い方なので、薄い膜で包んでしまえば簡単に遮断できるよ。なので発電に必要な半導体と共に、放射性ではない炭素で作ったダイヤモンドで包んでしまえば、完全に遮断できちゃうんだよね。しかもダイヤモンドなので、物理的にも化学的にも堅牢で、炭素14が外部に漏れるリスクは最小限になるよ。
さらに、炭素14ダイヤモンド電池はいくつかの点でユニークだよ。まず、使用しているのは炭素14であり、半減期が5700年という点だよ。つまり炭素14を中心に持つダイヤモンド電池は、製造時から原子核の数が半分になるのにかかる時間が5700年だということになるよ。
原子力電池のエネルギー源は放射線なので、崩壊する原子核の数が減ることによる電力の低下に繋がるけど、炭素14では半分になる時間が5700年なので、数十年や数百年の時間スケールではほとんど電力が低下しないことになるね。人間の寿命スケールの時間で言えば、事実上半永久的に電力を得ることができるというわけ!
また、炭素14ダイヤモンド電池の製造過程で、原子力発電所の低レベル放射性廃棄物をほんの少しだけ減らせる、という点もちょっとだけメリットになるよ。イギリスの原子炉では黒鉛ブロック、つまり炭素の塊を大量に使ったタイプの原子炉が稼働していたんだよね。
黒鉛ブロックの主に中心部の方では、原子炉からの中性子を吸収して生じた炭素14が大量に含まれているんだよね。その総量は9万5000tにもなるよ!これは当然ながら低レベル放射性廃棄物なので、その管理・保管・廃棄方法が悩みのタネになるんだよね。
しかし、黒鉛ブロックを高温で加熱すれば、炭素14を含んだガスを発生させ、分離させることができるよ。放射性廃棄物を完全に無害化できないにしても、ゴミから資源を得られ、ちょっとだけ低レベル放射性廃棄物の量を減らせる、という点では、原料コストが低いしちょっとだけ便利だよね。
今回開発された炭素14ダイヤモンド電池は10mm×10mm×0.5mmという小ささであり、取り出し可能な電力はマイクロワットと極めて小さいよ。多少大型化しても、そこまで大量の発電はできないので、残念ながら炭素14ダイヤモンド電池を使った充電不要なスマートフォンとかはさすがにムリになるよ[注5]。
ただし、半永久的に電気を出し続けるというのは十分な利点で、例えばペースメーカーのように電池交換を極力抑えたい埋め込み式の医療機器への応用が考えられるよ。現在使われているペースメーカーは長くても10年くらいで電池交換が必要だけど、炭素14ダイヤモンド電池なら文字通り一生涯の取り換え不要が実現するよ!
また、ダイヤモンドは人体に対して害を与えず、放射線も十分に遮断されているよ。極端に言えば、人体に埋め込んだ電池が剥き出しになったとしても安全という利点があるよ。ペースメーカー以外でも除細動器や補聴器のような、他の埋め込みデバイスでも利用ができるかもしれないよ!
また、無人機や人工衛星のようなものでは、識別のための固有の周波数を持つ無線標識を使うことがあるよ。電波を出すには当然ながら電力がいるよけど、電波の電力源に炭素14ダイヤモンド電池を使えば、本体寿命までずっと電波を出し続けるということも可能になるはずだよ。
今回開発された炭素14ダイヤモンド電池は、炭素14を埋め込んだものとしては世界初であり、その意味ではまだまだプロトタイプだよ。研究チームは今後実用化を目指しているので、今から発展が楽しみだね!
[注1] 木星より遠い距離での電源
従来は木星探査機でもRTGを使うことが多かったものの、放射性物質の製造にかかる国際情勢やコストなどを受け、近年では効率の良い面積の大きな太陽光パネルを搭載したものも打ち上げられています。例えば「ジュノー」や「Juice」は太陽光パネルを電源とする木星探査機です。 本文に戻る
[注2] ゼーベック効果
異なる金属や半導体を繋ぎ合わせ、両端で温度差を設けると電流が発生する現象。電流を流すことで温度差を得るペルチェ効果の逆となります。 本文に戻る
[注3] ベータボルタ電池は太陽光パネルと同じ仕組み
電流のキャリアとして正孔を使う「P型半導体」と、余剰電子を使う「N型半導体」を接合した「pn接合」をすると、光が当たることで電流が発生する「光起電力効果」が起こります。光の代わりにβ線を利用するのがベータボルタ電池です。 本文に戻る
[注4] ベータボルタ電池のプロトタイプ
ごく一部のペースメーカーは、プロメチウム147を使ったベータボルタ電池でした。また2000年代から、プロトタイプとして水素3 (トリチウム) やニッケル63を利用したベータボルタ電池も開発されています。 本文に戻る
[注5] 炭素14ダイヤモンド電池でスマートフォンは動かせない
ニッケル63を利用した原子力電池はスマートフォンを動かせると主張するものもあります。しかしスマートフォンの利用電力は上下動が激しく、大きな電力が必要な際には出力不足となります。充電池を内部に入れることで調整できる可能性もあるものの、重量や交換不要性のメリットと競合します。 本文に戻る
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)