【2025年新論文】小笠原諸島にも「マンボウ」が出現することを確認!

2025.05.22

ウシマンボウではなくマンボウだったという珍しいケース

X(旧Twitter)は大型海洋生物の情報収集には良いツールである。今回もまたXでのポストがきっかけでマンボウ研究が一歩前進した。2025年2月中旬、私はなんとなくXのポストを眺めていたら、「父島でウシマンボウが出現した」というポストが流れて来た。小笠原諸島近海にウシマンボウが出現することは既に論文化されているので、それほど貴重な情報ではないな……と思って一緒にアップされている動画を見てみたら、ウシマンボウではなく、マンボウであった。こ、これはいつもと逆パターンだ!! ウシマンボウのことをマンボウと間違って報道されることはよくあるが、マンボウがウシマンボウと間違われることは結構珍しいケースだと思う。しかし、今回、マンボウがウシマンボウと間違われた原因は……おそらく私のせいである。詳しい話をしよう。

 

以前、私はラボブレインズに連載している記事の中で、「小笠原諸島近海に出現するマンボウ属はウシマンボウばかりである」ことを言及した。私が知る限り、小笠原諸島近海にマンボウ属魚類が出現することは少なくとも1937年から知られている。ウシマンボウが日本近海に出現することが知られていなかった時代のそれら古い文献にはマンボウが出現した旨が記されているのだが……文献には形態の記述や写真が無いために種の再検討ができず、実際のところマンボウかウシマンボウどっちを報告したのかがよく分からないのだ。一方、DNA解析やマンボウ属の形態による種判別ができるようになった時代以降、小笠原諸島近海から学術的に報告された個体は全部ウシマンボウだった。小笠原諸島近海はそもそも大型定置網が無いので、マンボウ属が漁業で漁獲される可能性も著しく低い。そんな低確率の中でウシマンボウばかりが漁獲されるのは、日本本土と出現傾向が異なり、かなり特異的である。一方、小笠原諸島近海にマンボウが出現する可能性も十分にあると考えてはいたものの今まで明確な証拠が無かったので、私は小笠原諸島近海に出現するマンボウ属は一般的にウシマンボウであると言いまくっていたのだった! なので、おそらくこの情報が小笠原諸島の人々(ダイビングショップとか)に広まっていたのだろうと推測する。私的には研究成果が広まって嬉しい話だが……小笠原諸島近海にはマンボウが出現しないという風に受け取られると流石にちょっと困る。そんな矢先、今回の情報を発見したのだった。

 

 私はすぐにネット検索をして、他に情報が出ていないかを調べた。すると、ダイビングサービスKAIZINさんのショップがこのマンボウと遭遇したことを知り、早速メールを送ってみた。実は2011年、私は小笠原諸島のマンボウ情報を求めて父島に行き、自転車で父島を1周して、島にあるほぼすべてのダイビングショップに聞き取り調査を行ったことがあった。この時、KAIZINさんのショップにも行き、情報を提供してもらったことがあったのだ! 調査後も何回かメールで情報を頂いていたが……今回メールしたのは10年以上ぶりだった。もう覚えていないだろうなとダメ元でメールを送ったのだが、KAIZINさんからはすぐに返事が来て、私のことを覚えて下さっていた! ありがたい話である。そこで早速、今回の個体について詳しい話を伺った。

 

今回発見されたのは、個体変異のマンボウ

今回の個体は、2025年2月12日、父島の西側沖でスキューバーダイビングしていたところ、水深5~8 mで遭遇した。ダイブコンピューターで計測された遭遇時の現場水温は20 ℃。小笠原諸島は本州で雪が降りまくっている真冬でも暖かい。マンボウが出現しても全然おかしくない水温だった。

詳しくは論文を見て頂きたいのだが、この個体は、推定全長210cm前後と十分に大きく、舵鰭が波打つこと、下顎下部が隆起していないこと、胸鰭後方の体表に盛り上がったシワがあることから外観的にマンボウと同定された。ウシマンボウではなく、マンボウである! しかし、この個体は頭部が少し隆起していた。

 

頭部が隆起するのはウシマンボウの特徴であるのだが、実はマンボウの中にも稀に頭部が少し隆起する個体がいる。いわゆる個体変異だ。興味深いのは、マンボウの頭部の隆起と、ウシマンボウの頭部の隆起は形状が異なる。マンボウの頭部の隆起はなだらかである一方、ウシマンボウの頭部の隆起は急激に盛り上がっているのだ。パッと見ではどちらも同じように見えるかもしれないが、じっくり論文を見て観察して頂けると私の言っていることが分かって頂けるはずだ。今回父島沖で撮影されたマンボウの個体変異と同じタイプの剥製が、国立科学博物館上野本館に展示されている。国立科学博物館上野本館のマンボウの個体変異の剥製については、以前の記事で詳しく解説しているので興味が湧いた方は是非そちらもご覧あれ。

過去の情報から、小笠原諸島に出現したウシマンボウとマンボウの海面水温を比較してみると、ウシマンボウ6個体は23~31℃であったことに対し、マンボウ1個体は20℃であった。個体数が少な過ぎるので何とも言えない部分もあるが、マンボウはウシマンボウより低い水温に出現するという一般的な傾向が示されているのかもしれない。大陸から離れた外洋に出現するマンボウ類が一体どんな生態をしているのか? 何故本土と違って小笠原諸島ではマンボウよりウシマンボウの方が圧倒的に出現率が高いのか? 今後も小笠原諸島は注目すべき調査地点である。

 

 小笠原 

  マンボウ出現 

   冬季だけ? 

    ウシマンボウ多々 

     特異な海域