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2026年1月中旬。例年に比べ、冬にしては暖かい日々が続いていた。暖かさの影響か、この冬は去年と比べて、全然マンボウのストランディング情報が見付からない。その日もX(旧Twitter)でマンボウに関する情報を検索していたところ……「マンボウカワハギ」なるワードがヒットした。そのポストを見てみると、尾鰭が欠損してマンボウみたいな形態になっているカワハギの写真が掲載されていた。つまり、カワハギの奇形だ! 自然下での奇形個体は珍しい。そこで、今回はこのカワハギの奇形個体に関連したことを調べてみた。
カワハギはカワハギ科カワハギ属に属する海産魚類である。ん? マンボウ科マンボウ属マンボウと同じ状況だ……しかし、日本近海におけるマンボウ属にはマンボウとウシマンボウの2種が含まれることに対して、日本近海におけるカワハギ属はカワハギ1種しか確認されていない。調べてみるまで知らなかったが、カワハギは属レベルでもオンリーワンな魚だったのだ。林・萩原(2013)によると、カワハギは青森県から九州にかけての日本海、太平洋、瀬戸内海の沿岸に広く分布し、標準体長20cmに達する。林・萩原(2013)には、カワハギの一般的な鰭の計数形質として、背鰭(2棘条+31~35軟条)と臀鰭(31~34軟条)と胸鰭(13~15軟条)しか載っていなかった。一方、塚島・北島(1981)には個体変異は記されていないものの、背鰭31軟条、臀鰭31軟条、尾鰭12軟条、胸鰭14軟条で定数に達すると、尾鰭の情報も載っていた。
ちなみに、魚類の鰭条の本数は、鰭式で表記する場合がある。例えば、カワハギの背鰭の鰭式は「D II-31~35」である。Dは背鰭dorsal finの英名の頭文字の省略形である。棘条数はローマ数字(I, II…)、軟条数はアラビア数字(1, 2…)で示す。背鰭が分離している場合はハイフンで繋ぐというルールがある。「D II-31~35」の鰭式を言葉で説明すると、「第1背鰭は2棘条、第2背鰭は31~35軟条」という意味になる。
実際にカワハギの鰭の数を確かめてみよう。下の写真は私の手持ちにあった海響館で撮影したカワハギの写真である。動いていたのでブレブレで申し訳ない。背鰭以外の鰭は計数できなかったが、第2背鰭の軟条は32本となんとか計数できた(第1背鰭の第2棘は皮下に埋没しているらしく、写真では私も分からなかった)。写真の青色の点で示したように、鰭条は鰭の根元を見て数えるのが重要だ。第2背鰭の軟条数は確かに、林・萩原(2013)で示される背鰭の軟条数の範囲に入った。一般的なカワハギには体の一番後ろに尾鰭があるのをよく覚えておいて欲しい。

ここからいよいよ本題だ。件のカワハギの奇形個体は、2026年1月12日、Xユーザーのコウさんが、カワハギ釣りの乗合船に乗って東京湾の竹岡沖で普通のカワハギに混じって釣った。インターネット検索をしてみると、東京湾の竹岡沖は秋から冬にかけて、カワハギの有名な釣りスポットになっているようだ。よく釣りをされているコウさんも珍しいと感じたように、尾鰭を欠損している天然個体の奇形は珍しい。コウさんは珍しい個体だったので、一枚だけ写真を撮ってすぐに海に返してあげたとのことだ。

尾鰭が欠損した魚類については、以前、尾鰭欠損のホシフグについて記事を書いた。どうも遊泳様式が尾鰭にあまり依存していないフグ目などの魚類では、尾鰭欠損の奇形が多いようだ。おそらくこの理由は、尾鰭に遊泳能力を依存する魚種では、尾鰭が欠損すると致命的なので、尾鰭欠損個体が生まれてもほとんど生き残れないからだと思われる。以前の記事で紹介した尾鰭欠損のホシフグは、本来尾鰭があるはずの部位に鰭の痕跡も全く無い個体だったが、今回の尾鰭欠損のカワハギはそのホシフグとはタイプが違って、尾鰭部分にも鰭がある。このカワハギ個体は、本来あった尾鰭を補うように背鰭と臀鰭の一部が体中央に寄せ集まっているように見える。まさにマンボウ類と同じタイプの鰭の寄せ集まり方だ。レントゲン写真で鰭の寄せ集まっている部分がどうなっているのか観察してみたかった。
光の具合で見え辛いところもあるが、写真の背鰭・臀鰭の鰭条を数えてみた。写真の白い矢印で示した中央部にある鰭条の先端が伸びている部分が背鰭側か臀鰭側か非常に悩ましいところだが、ここでは背鰭に含めて計数すると、背鰭29軟条、臀鰭30軟条、双方合わせると背鰭・臀鰭複合体59軟条となった。背鰭も臀鰭も正常個体より微妙に少なく、尾鰭的な鰭条は見られない。骨格的に尾鰭の要素があったのかどうかはレントゲン写真で確認しなければ詳細は不明だが、外観的には尾鰭の要素は無さそうだった。奇形個体の鰭式はどう書けばいいのだろう? 非常に興味深い。

マンボウ類ももしかしたらこうやって何かしらの要因で尾鰭が欠損した奇形個体が生まれ、偶然にも生き残り、その遺伝子が何代にも受け継がれてその形態が固定化され、現代のような形になったのかもしれない……? 実際のところどうやってマンボウ型の魚が生まれたのかは分からないが、こういう尾鰭欠損でも生き残っている個体がいることを確認すると、こういうものからマンボウ型が生まれたんだろうなぁ~という妄想が尽きない。
ちなみに、カワハギの尾鰭欠損個体は水野ら(2002)によっても報告されているが、今回のカワハギより尾鰭が本来ある部分が凹んでいて、ポケモンのラブカスのような形状になっている。尾鰭欠損個体にもいろいろタイプがありそうだ。
奇形個体は人工的に作れるので、論文には掲載されにくいが、自然下でも低い確率で誕生する。今後もこの手の尾鰭欠損個体を見付けたら取り上げていきたい。
カワハギの
尾鰭欠損
珍しい
背鰭臀鰭
寄せ集まるや
【参考文献】
塚島康生・北島 力.1981.カワハギ仔稚魚の飼育と形態の変化について.長崎県水産試験場研究報告,7: 39-46.
水野晃秀・木熊慶吾・福本運大.2002.愛媛県宇和島市坂下津地先の魚類目録.南予生物,12: 10–26.
林 公儀・萩原清司.2013.カワハギ科,pp. 1712–1721, 2236–2237. 中坊徹次(編)日本産魚類検索 全種の同定.第 3 版.東海大学 出版会,秦野.