尾鰭欠損のホシフグを発見! 結構マンボウぽい!?

2023.02.24

 20231月上旬。兵庫ではダイオウイカ、大阪ではマッコウクジラや二ホンウナギ、神奈川ではリュウグウノツカイと、新年早々、海洋生物がニュースで取り上げられ話題になった。

 しかし、これらの話題に隠れて起きていた海洋生物の事件がもう一つある。日本海側(特に山形県・新潟県)の沿岸に大量漂着したホシフグだ。

ホシフグ・大量漂着のニュース

 死んでいた個体がほとんどだが、生きている個体も少し混じっていた。ニュースの情報を断片的に読み取っても、推定数十万個体のホシフグ(体長15cm前後)が広範囲に渡って打ち上げられていた。その後、2月には京都府や福岡県でもホシフグの大量漂着が確認されたので、この現象は日本海側で広く起きていたようだ。詳細な原因は不明だが、表層の低水温で弱体化し打ち上げられたものと推察されている。ホシフグはトゲや毒があるので、ニュースでは食べないように注意喚起されていた。

 ホシフグは全長35cmに達するフグ科モヨウフグ属に属し、日本近海では青森県以南に分布する。体全体が暗青色か青紫色で、白色点を多数有することで他種から識別される。体色・模様で他種と識別できるのは分かりやすくてありがたい。一般的な生息水深は100~400mとされ、フグ科の中では深場に住む魚だが、浅瀬に来ることもある。少なくとも小型個体は群れており、定置網で大量漁獲されたり、今回のように大量漂着することが過去にも知られている。原因は未だによく分かっていないようだが、どうもホシフグは日本各地で時折こういう大きな群れの接岸が起きているようだ。

尾鰭が欠損したホシフグ

 ホシフグは他のフグと同様に、普通の個体は尾鰭おびれがある。しかし、大量漂着した中から偶然にも、尾鰭が欠損したマンボウぽく見える珍しいホシフグの天然奇形個体が発見されたので、ここで報告しよう。発見したのは街屋さん。街屋さんは普段からビーチコーミング[注1]をされている方なのだが、「今年のこの個体ほど、見た瞬間に生きていないことと鮮度が悪いことを悔やんだことないですね…もうちょっと早く見つけたかったです…」と残念そうに発見当時のことを思い出して語った。
 2023年1月7日、新潟県北蒲原郡聖籠町きたかんばらぐんせいろうまち網代浜あじろはま付近の海岸を歩いていると、大量のホシフグが打ち上げられていた。まだニュースで取り上げられる少し前の話である。多くのホシフグの死骸の中で偶然目に付いたのが、この尾鰭欠損のホシフグだ。打ち上げ状況から見て、その確率は少なくとも数万分の一と言っても過言ではないのではなかろうか?

 これは……確かに……マンボウぽい!! いや、体が細長いからどちらかというとクサビフグか! しかし、側面から見ただけでは、奇形なのか捕食生物に尾鰭を喰われたのかは分からない……が、街屋さんは別のアングルの写真もちゃんと撮られていた。

 むっ、これは再生した痕が無いように見える・・・

 やっぱり本来尾鰭がある位置に何も無い。もし、捕食生物に尾鰭を食べられていたら、再生痕があるはずなのだが、本来尾鰭がある位置にはそのような傷は見当たらない。となると、おそらく生まれた時から尾鰭が無い先天性の奇形だと考えられる。この尾鰭欠損のホシフグは目視で推定全長25cmくらいだったとのこと。このサイズになるまで背鰭と臀鰭しりびれだけで泳いで生き残ってきたのだ。フグ科は泳ぐ時に尾鰭も使うのだが、主に使うのは背鰭と臀鰭なので、尾鰭を失っていても大きな問題はなかったものと思われる。干からび具合から考えると、死亡してから数日が経っている。もし生きた状態で発見でき、飼育できたら面白かったのではないかと思われる。この個体は現場に戻されたので写真だけの記録になるが、もしかしたら将来フグ型からマンボウ型に進化した理由を考える一つの参考になるかもしれないので、ここで簡単に報告しておこう。

尾鰭欠損したいろいろな魚類

 こうなると尾鰭欠損した魚類の写真が他にも報告されていないか?ということが気になってくる。そこで調べてみた。水野ら(2002)では尾鰭が欠損したカワハギが報告されていたが、特に欠損した理由については考察されていなかった。マンボウぽいというより、ポケモンのラブカスに似ている。石黒・西田(1998)ではイシガキダイの尾鰭欠損個体が報告されており、この個体は傷が治癒していたことから捕食者に尾鰭を食べられたものと推察されている。また、背鰭と臀鰭が体の中央の方に寄っていることから、尾鰭を補うようにこれらの鰭が発達したものと推察されていた。石黒・西田(1998)はまた、尾鰭欠損個体はフグ目など遊泳様式が尾鰭にあまり依存していない魚類に多いことを指摘している。つまり、尾鰭で主に推進力を得る魚は欠損すると生き残れないが、それ以外の鰭で推進力を得る魚は尾鰭を失っても生き残れるのだろうと推察しているのだ。

松里(1973)ではクロダイの尾鰭欠損個体が報告されており、形態的なコメントはされているが、その理由については触れられていない。総称的に骨の異常は病気や栄養不足の可能性が推察されていた。もっと詳しく調べれば論文は他にも見付かると思うが、パッと調べるとこれくらいだった。奇形は養殖魚などで人工的に作り出すことができるため、論文として掲載するところは少ないという話を聞いたことがあるので、実際は様々な魚種で尾鰭欠損が起きていたとしても論文としてはあまり残っていないのかもしれない。

 インターネット上では、カサゴ、メジナ、ハタ類の尾鰭欠損個体の映像が見付かった。これらは幼魚の時に襲われて尾鰭を失い、尾鰭を補うように背鰭と臀鰭が成長したと考察されていた。尾鰭を失った代わりに背鰭と臀鰭が体の中央に寄る現象は、マンボウ類の舵鰭形成の由来を彷彿させるようでなかなか興味深い。逆説的に、この現象がなく、背鰭と臀鰭が離れたままになっている今回報告したホシフグは、通常の尾鰭欠損個体よりもさらに珍しい事例だったのかもしれない。

 

 

 尾鰭無い

  数万分の

   一個体

    貴重なホシフグ

     新潟にいた

脚注

[注1]ビーチコーミング ↩︎

浜辺などに打ち上げられた漂着物(生物や物体)を集めたり観察すること。

参考文献

松里寿彦.1973.海産魚類にみられた骨異常について― I.広島県沿岸産の骨異常魚.南西水研研報,6: 17-58.↩︎

石黒直哉・西田睦.1998.尾鰭の欠損したイシガキダイ.魚類学雑誌,45: 43-45.↩︎

渕祐一・成松浩志・仲摩聡・寿久文・平川英敏・鳥島嘉明・野口玉雄・大友信也.1991.ホシフグの部位別毒性.食品衛生学雑誌,32: 520-524.

水野晃秀・木熊慶吾・福本運大.2002.愛媛県宇和島市坂下津地先の魚類目録.南予生物,12: 10–26.↩︎

久保田信・田名瀬英明・中坊徹次.2012.和歌山県田辺湾にホシフグが大量漂着(2 例).漂着物学会誌,10: 41–42.

松浦啓一.2017.日本産フグ類図鑑.東海大学出版部,平塚.127 pp.

福井美乃・本村浩之.2017.トカラ列島臥蛇島沖で観察されたホシフグの繁殖行動.Nature of Kagoshima, 43: 243-247.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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