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山口県の下関市立しものせき水族館(海響館)はマンボウの長期飼育に挑戦している世界でも稀有な水族館で(多くの水族館はマンボウが大きくなり過ぎる前に個体交換している)、2024年7月6日~10月27日までマンボウをテーマにした企画展「真・マンボウ展~マンボウにカンドウ~」を開催している。
企画展の期間も半分を過ぎ、残り時間も少なくなってきた。今回、この企画展を行うにあたり、私は積極的に海響館に協力した。なんせマンボウの特別展なんて10年に一度あるかないかの機会、様々なマンボウの知見を多くの人に知ってもらいたいと思ったからだ。
海響館の方から企画展の話が私に来た時、サイエンスカフェもしましょうとの話もあった。私もやりたいと思っていたのですぐにOKと返した。今回はサイエンスカフェを振り返る。
CONTENTS
サイエンスカフェとは、軽食しながら特定の科学的話題について気軽に専門家と話をしましょうという趣旨の一種のサイエンスコミュニケーションである。
今回、夏休みの期間にサイエンスカフェをやるにあたって一つ大きな問題があった。それは台風とバッティングしないかどうかだ。幸運にもサイエンスカフェを実施した2024年8月24日は、日本を縦断し猛威を奮った台風10号の来襲フラグがあったものの、まだ接近する前だった。
中止になったらとても悲しかったので、無事開催できて本当に良かったと思う。サイエンスカフェは定員40名のところ37名も来てくれて、私としては非常に嬉しかった。聞きに来てくれたお客さんの中には小学生くらいの子もいたのだが、楽しんでもらえたようだった。夏休みの一つの想い出になってくれていたら私は嬉しい。
サイエンスカフェは事前に来館者からマンボウに関する質問を募り、企画展担当のMCモラ氏とともにその質問に一つ一つ回答していく形で行うことになった。
開催時間は2時間で、途中1時間経過した頃に5分程度トイレ休憩を挟んだ。事前質問の回答を終えた後は、会場での質問を募ってその質問に答え、もし時間が余れば、私がチョイスした最近のマンボウの話題をスライドで紹介するという流れで行った。海響館に事前に寄せられた質問は以下のとおりである。
★マンボウは釣れますか?
★元気に泳いでいる(スピードがある)マンボウとそうでないマンボウの違いはなんですか。
★マンボウは群れを作ったりは基本的にしないのですか?(幼魚や若魚の時期も単独でしょうか)
★マンボウの小さい個体は水族館で見たことがありませんが、捕獲がそもそも少ないのでしょうか?飼育が難しいのでしょうか?
★マンボウの一番好きなところを教えて欲しいです(例えばここがめちゃくちゃ面白いとかがあれば知りたいです)
★マンボウは外見で雌雄は判別できるのでしょうか?
★マンボウの泳ぐスピードはどれくらいなのでしょうか?
★本を2017に読んだので、その後新発見がありましたら、教えてください。
★マンボウは群れますか?
★マンボウの産卵はどのように行うのですか?いつ頃?どんな場所で?
★マンボウの体重測定はどのように行うのですか?
★マンボウの糞はどこから排出されますか?
★1日にエサをどのくらい食べるか分かっているのですか?栄養を取るにはかなり食べなくてはいけない気がするのですが…
★マンボウは本当に膨らまないのですか?
★クサビフグとカクレマンボウはどこに行ったら見れますか?
★マンボウは敵から身を守る時どのようにするのですか?
★マンボウの都市伝説がたくさん生まれたのはなぜですか
★なぜマンボウの研究をしようと思ったのですか?
★マンボウ水槽の前で、マンボウはこわい、と、幼稚園生が泣いていて悲しくなりましたが、万人にマンボウの可愛さを知ってもらいたいです。先生のマンボウのイラストが、様々な種類や生態でどれもかわいいのですごいと思いますが、マンボウを描く時のポイントはなんでしょうか?
★なんであんな形なのか
★最初に見つけた人はどんな反応をして、どうしたのか
★前はちゃんとみえているのか
★大人のマンボウに天敵はいるのか
★好物はなんなのか
★泳ぎが遅くて、広い海じゃなかなか結婚できないんじゃないの
★仲間に近い魚はどのくらいいるの
★どうして、マンボウはあんなに大きくなったんですか? 大きくなっていいことは何ですか?
★マンボウが持つ生態のなかで、澤井先生が1番好きなものについて知りたいです
★マンボウ科の独特な形の稚仔魚は、プランクトン採集時やマグロなど有用大型魚の胃内容物から知られてきましたが、そもそもあの形の稚魚をマンボウ(当時)と同定した根拠やエピソードなどについてご存知でしたらお教えください。
マンボウに関する質問が多いが、私に対する質問も少しあった。マンボウ研究者として知られているのは嬉しい限りである。この記事ですべての質問に対する答えを書くことはできないが、どういう感じでサイエンスカフェが行われたのかは紹介したい。
サイエンスカフェが行われた場所は海響館内にある「イルカの見えるレストラン」だ。その名の通り、レストランに入ると窓からイルカの泳いでいる姿が見える。イベントが始まってからキュィキュィと音が聞こえてきて、初めはMCモラ氏のマイクと近いからマイクが反響し合っているのかなと思っていたのだが、どうもイルカの鳴き声であった。
サイエンスカフェが始まり、MCモラ氏が先に登壇、その後、私が登壇した。どちらの衣装もクセがある。私はフェリシモで買ったマンボウ服を今回のイベントでも使った。お客さんが見ていた光景は以下のような感じである。
最初、お客さんは机に置かれている軽食を食べることもなく我々の話に聞き入ってくれていて、思わず自由に食べて下さいと促したりもした。
スライドでマンボウの形態の話をするのも良いのだが、標本がある場合はその実物を見ていただきながら話した方が印象は強くなる。海響館にはマンボウとクサビフグの剥製があったので、両方を使わせていただいた。
マンボウは頑張れば個人でも標本を入手することはできるが、クサビフグは神出鬼没なので、入手することは難しい。クサビフグの標本を持っている施設は少ないので、今回のサイエンスカフェで実物を見ることができ、さらには触れることができたお客さんは非常にラッキーだったと思う。
質問の中にはマンボウをどうやったらカワイイ感じに描けるのか?というものもあったので、ホワイトボードも用意してもらって、実際に絵を描くこともした。
パソコン上では試行錯誤しながらイイ感じに絵を描くことはできるのだが、実際に絵を描くとなるとなかなかイイ感じの比率が難しい。
絵を描いたついでに、マンボウ科5種の形態的差異についても解説した。今回の企画展の大きな目玉である、前回の記事でも紹介したアダピスさん作のマンボウの大型模型についてもサイエンスカフェで解説した。会場が離れているため、マンボウの大型模型の実物をレストランに持って来られなかったのは少し残念だったが、その分、ミニチュア模型が活躍してくれた。
巨大マンボウ模型製作の裏側!海響館の企画展「真・マンボウ展~マンボウにカンドウ~」より
事前募集した質問をすべて回答し終え、会場からの質問を募集した中で、印象が強かったのは「マンボウの学名のMolaはどういう意味ですか?」という小学生の子からの質問だった。
小学生なのにそんな難しいことを聞くの?と私もビックリ。私は「石臼という意味だよ」と伝えたものの、小学生の子が石臼を知っているのかが分からず、とりあえずホワイトボードに絵を描いてみた。最終的にはパソコンでググってどういうものなのかをスタッフ一同で教える形になった。
また、会場にはマンボウをCTスキャンしたいという大学生の子もいて、なかなか今後が楽しみだった。未来ではマンボウをCTスキャンできて何か面白い発見をしているだろうか? やりたいことが実現しているといいなと思う。
会場からの質問も終わり、時間が少し余ったので、今回のイベントに関連して、海響館のXアカウントを私がバズらせてしまった話 をした。これは2024年5月末に海響館がXに投稿したミズクラゲを食べるマンボウの動画に私が反応し、その結果、その動画自体に学術的に重要な価値があることがX上で知れ渡り、大規模拡散され、海響館が様々なマスメディアから取材を受けることにまで発展した騒動の話である。
私が反応する前と後では海響館のポストの閲覧数が1801倍も違っていたので、海響館の認知度向上に大きな貢献をしたと自負したい。海響館の職員の方も喜んでいたので、良いバズりだったと私は思った。
今回のサイエンスカフェは特に難しい議論は無く、来館者の知りたいことについて、私の知っていることを話すという形式だったが、見た感じ皆さん満足して下さったような気がした。私も久々に多くの人とマンボウトークができて楽しかった。また海響館でイベントをする機会があればやりたいところだ。読者の方々の要望が強ければ割と早く実現できるかもしれない。是非、海響館にリクエストして欲しい!
最後にサイエンスカフェ参加者と集合写真をパシャリ。楽しい時間を頂いて、レストラン、企画スタッフ、参加者の皆様に大きく感謝だ! 企画展自体はまだ10月27日までやっているので、気になった方は是非足を運んで欲しいと思う。
海響館
サイエンスカフェ
企画展
シツモンナンモン
カイトウコウトウ
下関海洋科学アカデミー(編).2022.2001-2021 海響館20周年記念誌.下関海洋科学アカデミー,下関市,129pp.