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(画像引用元番号①②③④)
みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、「日食中に雲が消える」という逸話を科学的に検証した研究だよ!
確かに、日食中は日光が遮られ、気温が低下することは実証されているよ。一方でそれ以外の気象現象は測定が難しいことから、雲の逸話も検証されてこなかったよ。
今回の研究は、この逸話を科学的に実証しただけでなく、将来的に行われるかもしれない "日傘" による地球温暖化対策にも影響を与えるかもしれないよ!
CONTENTS
月が太陽に重なって起こる「日食」は、普段天文学に興味がない人でもつい注目しちゃうイベントの1つだよね!これは月や地球の公転軌道の関係上、年に2回くらい発生するよ。
特に、月と太陽がピッタリ重なる「皆既日食」や、月がわずかに小さく見えることで太陽が細い環のように見える「金環食」は、1つの地域ではあまり起こらないことなので、よく注目されるよね。
皆既日食や金環食が観測できるのは、月の影 (本影) が地表に落ちている場所だよ。濃い影なので、宇宙から見ると地球に直径数十kmから数百kmもの月の影が落ちている様子が観察できるよ!
さて、皆既日食や金環食では、真昼間でも太陽の明るさがほとんどゼロになるよ。これは広い地域が短時間で一気に光源と熱源を失うという、他の自然現象では中々起こらない現象が起きていると言い換えることができるよ。
かなり分厚い曇り空であっても、太陽光の何割かは地表に届いているので、直径数十kmから数百kmの地域で、最大で9割以上の太陽光が削られるという意味で、日食という現象は相当に極端なんだよね。
その日食時に起こるとされている現象の1つとして「日食の最中に雲が消える」という逸話があるよ。より具体的には、高度の低い雲は消える一方で中程度や高い高度にある雲は残る、という話があるよ。
確かに、日食の最中は太陽光が遮られ、重要な光源と熱源を失うので、気象に影響するという可能性はなくはないよ。実際、気温が少し低下することは計測値で明らかになっているよ。
ただ、雲があるかどうかというのはより測りにくい指標だよ。日食は年に2回起こると言っても、それは地球の全ての場所で起こりうることだから、大半は目撃者がほとんどいない、海や無人地帯で発生するよ。
地上からはそもそも明かりが消える上に、先入観を持たずに雲の数を数えるのは難しいよ。平時の雲の数を知っている人もほとんどいないから、地上から雲の量を計測することは難しいよ。
また、気象衛星では雲も観測対象の1つだけど、日食中の雲を観測することは基本的にできないよ。雲を見るには日光の反射を観ているわけだけど、日食では肝心の日光が減っちゃうようね。
しかも、日食は月の影によって起こるものだけど、宇宙から見るとその範囲は狭いから、他の部分は明るいのに、日食が起こっている場所だけ暗いという、明るさを調整して撮影しにくい状況になっているんだよね。
こういうイレギュラーな状況に、気象衛星は対応していないので、測定結果はエラー値となってしまい、雲の量の変化を知ることができなくなってしまうよ。
そして、気象衛星は時間を置いて撮影しているので、日食という数分から数十分で起こる変化に対してはあまり精度の高いデータを取得していないのも、研究を難しくしているよ。
オランダ王立気象研究所のVictor J. H. Trees氏などの研究チームは、この科学的に証明されていない日食と雲に関する逸話について研究を行ったよ。
研究では、欧州気象衛星開発機構が運用している「メテオサット (Meteosat)」の第2世代の画像データを使ったよ。もちろんそのままじゃ使えないので、工夫を行ったよ。
まず、画像に補正をかけることで、見えにくくなっている雲の様子について調べたよ。また、特に解像度が低いデータについては、その補正を行うのに必要なシミュレーションを行ったよ。
また、気温が低下するという計測事実から、気温の低下が雲の発生に影響するのかどうか、大気循環を考慮したモデルを作成し、こちらでも雲の発生率を推定したよ。
つまり、データ解析とシミュレーションを両方やることで、その推測方法が妥当かどうかを検討した、というわけだね。これによって、日食前後の雲の増減に関する推定を行ったよ。
今回は日食以外による雲の増減の影響をなるべく排除するため、同じ衛星からデータが取れて、かつ地理的にも近い、アフリカ大陸で観測できた3回の日食について調査を行ったんだよね[注1]。
そして、雲の増減が日食によるものなのか、それとも別の原因なのかを調べるために、気候が似通った100日以上のデータと比較を行うことで、日食以外の不確定要素を排除したよ。
その結果、日光が15%低下した時点から雲が消え初め、日食が終わるとともに復活することが分かったよ!これまで逸話でしかなかった現象が初めて科学的に明らかにされたってことだね!
面白いことに、日食による日光の強度変化のピークに対し、雲の消失や発生のピークは15分から20分ほど遅れるタイムラグがあることが分かったよ。つまり食が最大の時と雲が最も消える時にはズレがあることになるよ。
シミュレーションにより、日食中は気温だけでなく地面の温度もかなり下がることが分かったよ。地面の熱は上昇気流を発生させ、上昇気流は雲を発生させることを考えると、これはとても重要だね。
地面の温度を考慮したシミュレーションをすると、日食中には空気の流れも水蒸気の量も低下することが分かったよ。どちらも下層部で雲が発生することに重要なことから、逸話を科学的に裏付ける内容だよ。 (画像引用元番号⑧)
これを考慮すると、日食による日光の遮断によって地面が冷え、上昇気流が消えることから雲も消えることになるよ。そして、日食が終わると再び地面が熱せられることから、上昇気流が復活し、雲も再び発生するよ。
当然、地面が冷めて上昇気流が消えるまでにはタイムラグがあるので、日食の進行と雲の量にズレがあるのも納得だね!これはシミュレーションにも矛盾せず、良く説明できるよ。
さらに、上昇気流によって雲の発生に影響が出やすいのは高度の低い雲であり、中程度や高度の高い雲はあまり影響を受けないよ。これは観測結果とも一致するもので、推定が正しいことを裏付けているね!
また、雲が消えやすかったのは陸地の上の雲であり、海の上の雲はほとんど変化しなかったよ。地面と比べて海は冷めにくく、上昇気流も消えにくいことを考えると、海の上の雲が消えにくいのも納得だね。
さて、今回の研究は、単に日食で起こるユニークな現象を明らかにしただけじゃないよ。というのは将来的に行われるかもしれない地球温暖化対策にも一定の影響を及ぼすかもしれないからだよ。
地球温暖化の原因は温室効果ガスの排出なので、これを減らすことが全世界的な目標となっているわけだけど、その他の対策も色々考えられているよ。その中の1つは宇宙に "日傘" を打ち上げるものだよ。
より具体的には、地球の衛星軌道やラグランジュ点に巨大な膜を持つ人工物を展開し、地球へと入射する日光を部分的に遮るというものだよ。これにより、熱を直接遮断するというわけだね。
もちろん、これは現段階では構想レベルで、本当に行われるかは分からないよ。とはいえこの対策が実行されると、地球の一部地域では人工的な日食が観測されることになるよ。
日光の復活と雲の復活のピークにズレがあることから、日光が直接地面を温めるタイミングがあることが分かったよ。これは宇宙に "日傘" を打ち上げて地球温暖化への対策をしようと考える上で影響を与えるかもしれないよ。 (画像引用元番号③④⑩)
ここで気になるのは、今回の研究の影響だよ。自然な日食で雲が消え始めるということは、人工的な日食でも雲が消える地域が現れるかもしれない、ということになるよね。
雲は白っぽい見た目の通り、日光を強く反射する存在なので、雲が消えてしまうと地面に届く日光が増えてしまうよ。つまり日傘を展開して日光を遮断しようとしたら、逆に日射量が増えてしまうことも考えられるわけ!
実際、日食のピークが過ぎて日光が増えていくタイミングと、雲が復活するタイミングにズレがあることから、一時的に地面に届く日射量が増加するタイミングがあることが、今回の研究で明らかにされたよ!
一応、日傘による人工的な日食で遮断される日光は最大で数%であり、雲が消え始めることが判明した15%よりはずっと小さいよ。とはいえ、気象というのは十分に複雑なので、これだけで影響なしとは判断できないよ。
人工的な日食の場合、自然な日食よりも地域が広く、時間も長いことが予測されるので、果たして同じような影響があるのかどうか、というのは今のところ未知の領域ではあるよ。
今のところ断定はできないけど、将来的な温暖化対策に日光の遮断が検討されるようになったら、今回の研究も何か下地として使われる可能性はあると思うよ!
[注1] アフリカ大陸で観測できた3回の日食 本文に戻る
今回の研究で使用された観測データのうち2つは、2006年3月29日の皆既日食と2016年9月1日の金環食です。もう1つの具体的な日付は不明です。
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)
2023年4月20日に東ティモールで撮影された皆既日食: WikiMedia Commons (Autor: 東ティモール民主共和国政府)