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みなさんこんにちは!CEなかむーです!今回は病院でもよく見かける最もポピュラーな医療機器「輸液ポンプ」について深堀してみたいと思います。時代とともに使用する薬品の形態が変化してきたことで進化してきた医療機器、輸液ポンプ。その起源や、似た名前の「シリンジポンプ」との違いを説明していきます。
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ポンプとは、液体や気体を吸い上げたり送ったりするための機械装置のことを言います。機械的なエネルギーで陰圧や陽圧といった圧力差を発生させ、液体や気体の運動エネルギーに変換し、それらを移動させることを目的としています。血液を液体とするならば私たち人間や哺乳類といった動物の心臓も一種のポンプと言えます。
「ポンプ」の語源は、15世紀初頭の「pumpe」という言葉で、諸説ありますが中世オランダ語の「pompe」(水道、パイプ)またはドイツ語の「pumpe」(ポンプ)から来ています。これらの言葉はどちらも北海の船乗りたちの言葉で、おそらく水中のピストンの音を真似た擬音語かもしれないと言われています。
英語で最初に使われた例は、船から船底水を排出する装置に関するものです。また、ポンプ自体は非常に古くから存在していますが、言葉としての「pomp」は1670年代から「ポンプを使う行為」として使われています。このように、ポンプの言葉の起源は、その機能と音から派生したと考えられています。
輸液ポンプの起源は、注射療法の発展と密接に関連しています。注射療法の起源は17世紀に、William Harveyが「血液循環の原理」を発見したことが始まりとされています。その後、1658年にSir Christopher Wrenがガチョウの羽軸とブタの膀胱を用いてイヌの静脈内に溶液を投与したことが、現代の輸液療法の始まりとされています。
輸液製剤協議会webサイトより(提供:日本医科大学 腎臓内科名誉教授 飯野靖彦先生)
その後の輸液の歴史を辿ってみると、実は注射液を入れる「容器の開発」とともに進化しました。輸液は当初、大型のガラスアンプルに入っており、現在の経腸栄養剤のようにイルリガートルに移し換えてゴム管の輸液セットで投与されていました。
その後、ゴム栓付きバイアル瓶と塩化ビニル製のディスポーザブル輸液セットの登場で、現在のようなバイアル瓶と輸液セットによる輸液投与が普及しました。
ガラスバイアル瓶は重く衝撃に弱かったため、プラスチック製剤が開発されると、透明度が高く丈夫なプラスチック容器は一気に普及しました。この容器の進化に伴って現在では輸液ポンプを使用して、より正確かつ安全に輸液を行うことが可能となっています。
昭和初期のガラス点滴筒(左)とプラスチック点滴パック(右)
輸液ポンプは、設定した時間あたりの流量で持続的に輸液や薬剤投与をコントロールすることができる医療機器です。主に投与量を正確に管理することが必要な方や、心不全の方、高齢者や小児などで多岐にわたる症例で使用されます。
輸液ポンプには主に流量制御型と滴下数制御型の2種類があります。流量制御型は、ペリスタルティック方式とも言いますが、送り出す流量が一定になるようにポンプの速度を制御しています。よってこのタイプの輸液ポンプでは、汎用の輸液ポンプは使用できず、機器固有の「専用輸液セット」を使用することが条件となります。
滴下数制御型は、点滴プローブにより滴下数を監視することで、投与量をコントロールしていますが、投与する薬液の粘度によっては正確な滴数を計測して投与することができないというデメリットもあります。一般的には成人用で20滴/1mlで使用されていますが、小児用輸液セットは60滴/1mlという精密な流量精度となっています。
流量制御型輸液ポンプのしくみ
滴数制御型輸液ポンプには滴数カウンターがある
このように病院やクリニックでもよく見かける輸液ポンプですが、使用には細心の注意が必要です。使用方法を一歩間違えてしまうと体内に輸液が急速に投与されてしまい、薬液の種類によっては血圧や心機能といった循環動態を変えてしまう可能性もあります。
また、抗がん剤などの皮膚や組織に対して刺激の強い薬液が血管外に漏れ出てしまう血管外漏出が起こっても、輸液ポンプは点滴漏れを感知することができないため、輸液がそのまま押し出されてしまったことによって皮膚障害などを引き起こします。
場合によっては皮膚が壊死することもあるため、看護師さんは点滴治療時には定期的に皮膚の状態や痛みを観察しながら行っていて、安全に薬液が注入できているかどうかを常に把握しながら業務を行っています。
輸液ポンプの数字の入力は間違いやすい!
また、輸液ポンプに関連したヒヤリハットといったインシデント事案は新人ベテラン問わず、業務の経験年数によらず誰でも引き起こすことがあるのが特徴的です。
具体的なインシデントとしては輸液ポンプを設定する際に使用する輸液の予定量と流量速度を入れ間違えてしまうことなどがあります。
ポンプの正面は図5のようになっていますが、量と速度を入力する操作部となっているため、誤って数値を誤入力してしまうことがとても多いのです。これらを予防するために複数回指差し呼称をしたり、看護師2名で確認をしたりするなどの対策をとって薬液を安全に投与できる体制を整えることも必要です。
輸液ポンプ(左)とシリンジポンプ(右)
輸液ポンプと並んでよく使用される注入ポンプとしてはシリンジポンプがあります。シリンジポンプは、静脈注射を行うための医療機器で、特に微量の薬剤を精密に注入する際に使用されます。シリンジポンプは、手術室や集中治療室などで、麻酔薬や昇圧薬、鎮静薬などの精密持続注入を必要とする薬剤(薬剤の半減期が短い)が多用される場面でよく使用されています。
また、研究所や大学などでは動物実験においても多用されています。シリンジポンプの特徴として、剛性のある注射器を使用するため、正確な輸液注入が可能かつ正確な時間で厳密に注入することが可能です。
しかし、輸液ポンプのように気泡を検知する気泡センサーなどの屈折率のセンサーは搭載できないため、空気の混入を検知することはできません。おおまかに分類すると栄養剤や抗生剤などの点滴は輸液ポンプ、麻薬や循環器系のお薬など微量でも強い効果を発揮する薬品の精密注入にはシリンジポンプと憶えておきましょう!
身近な医療機器の歴史を読み解いていくととても面白いですよね。今後も臨床工学技士の視点で医療機器について深堀してみたいと思います!
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