純粋な金属が「自己修復」するのを世界で初めて発見! ナノスケールの疲労亀裂が自然に閉じる様子を観察

2023.07.28

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、金属が自己修復する様子が世界で初めて発見されたという驚きのニュースだよ!真空中で白金を引っ張ると、生じていた疲労亀裂が自然に閉じる様子が観察されたんだよ!

 

金属材料を使う上で疲労亀裂への対処は長年の課題であることから、何も特別なことをしていない純粋な金属が自己修復するならば、これは材料工学における大発見になりうるよ!

 

偶然の発見なので、詳しい条件面が不明という課題はあるけれども、この発見はかなりインパクトが強いよ!

 

白金の自己修復 サムネ

材料分野の長年の課題「疲労亀裂」

金属」はとても頑丈で、いろんな形状に加工しやすく、熱や電気を伝えやすいことから、橋、航空機、自動車といった巨大なものから、電化製品のカバーや電子回路に至るまで、様々な場所で使われているよね。

 

ただし、金属固有の弱点もたくさんあり、その1つが「疲労亀裂」だよ。金属疲労もその1種だね。金属材料が力や熱を受けて伸び縮みすると、目に見えないほど小さな亀裂が発生することがあるよ。

 

亀裂はナノスケール (原子が数えられるくらいのスケール) と本当に小さなものではあるけど、この小さな切れ込みが繋がったり広がることでやがて大きな亀裂に発展し、最後には金属材料そのものが破断することになるよ。

 

電子回路のはんだ付けから、橋や航空機の重要部分に至るまで、疲労亀裂は様々な金属材料を破綻させ、場合によっては多数の人命を直接奪うことに繋がるから、疲労亀裂は金属材料を扱う分野における重大な問題だよ。

 

疲労亀裂が原因の事故

頑丈で鋳造しやすい金属は大小さまざまな使い方があるけど、一方で疲労亀裂という難題を抱えているよ。疲労亀裂は、時に人命を直接奪う大事故に繋がっていることも珍しくないよ。

近年注目の「自己修復材料」とは?

ところで、材料工学で近年注目されているのは「自己修復材料」だよ。これは文字通り、疲労亀裂を消してしまう材料のことで、材料の安全性と寿命を飛躍的に伸ばすことができるよ!

 

自己修復材料がどのように疲労亀裂を消すのかは、大きく2つに分かれるよ。1つ目は、亀裂という材料の隙間を埋める工夫をしているもの、2つ目は、亀裂そのものを元に戻すものだよ。

 

亀裂の隙間を埋めるというのは比較的単純で、例えば隙間を埋める物質を入れた小さなカプセルを予め混ぜておく、という方法だよ。亀裂の発生でカプセルも破裂するので、物質が漏れて隙間を埋めてくれるというわけ。

 

これはコンクリートのような多くの材料で使える方法ではあるけど、カプセルを配合した分だけ材料の強度を低下させたり、カプセルそのものが高価であったり、リサイクルの妨げになるなど、難点もいくつかあるよ。

 

一方で亀裂そのものを元に戻す方はよりユニークだよ。亀裂を原子レベルで見れば、材料を構成する原子同士の化学結合を切断している、とみなすことができるから、化学反応があれば化学結合が復活し元に戻る、というわけ。

 

このため、特定の条件を満たすことで化学反応が進むような組成の物質で材料を作れば、小さな亀裂を勝手に埋めてくれるという、文字通りの自己修復を達成することが可能になるよ。

 

とはいえ、切れた化学結合を元に戻すという条件を満たさなければならない関係上、物質にはある程度の制限があるよ。なのでこの種類の自己修復材料は、プラスチックやゴムのような高分子 (ポリマー) 材料に限られるよ。

 

金属のような材料については、電気を通しやすい高分子材料で代わりとするか、金属と高分子材料の複合材料で行うか、といった工夫が必要で、純粋な金属による自己修復材料の開発はほとんど進んでいないのが現状だよ。

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純粋な金属の自己修復を初めて観察!

ところが今回、サンディア国立研究所のChristopher M. Barr氏などの研究チームは、純粋な金属が自己修復をする現象を発見してしまったよ!これは狙って見つけたわけじゃないから、驚きの発見だったよ!

 

とはいえ、これは全くの予想外というわけではなかったよ。というのは今から10年前の2013年、マサチューセッツ工科大学のG. Q. Xu氏とM. J. Demkowicz氏が、理論的な金属の自己修復について言及していたからね。

 

ただし今回の研究は、その理論に基づいて金属の自己修復を見つけようとしてたわけじゃないから、大部分は予測の外にあり、実際に発見できて研究者も大変驚いたよ。

 

実験では、真空中で「白金 (プラチナ)」の箔を毎秒200回のペースで繰り返し引っ張り続けながら、その時に発生するナノスケールの疲労亀裂を透過型電子顕微鏡で観察する、というのを行っていたよ。

 

白金の自己修復を観測

真空中で白金の箔を引っ張り、亀裂がどのように広がるのかを観察していたところ、亀裂が自然に融合する様子を偶然撮影したんだよ!更に引っ張り続けると別の亀裂が発生したけど、それが走る方向は融合した場所とは全然違うので、これは金属が自己修復したとみなされたんだよ!このような観察結果は世界初だよ! (画像引用元: 原著論文 Extended Data Fig1 & Supplementary Video 1)

 

すると、実験開始当初は、予想通り小さな亀裂が発生したんだけど、実験開始から40分後、まるで亀裂の発生の様子を逆再生したかのように、亀裂部分が自然に融合して元に戻ったよ!

 

その後、亀裂は全く別の部分で発生したことから、これは亀裂がふさがったように見えるのではなく、実際に金属が自己修復したのを観察した、という風に解釈したわけだよ!

 

面白いことに、亀裂が発生して自己修復するまでの間、かけた力はずっと引っ張る力であり、方向は全く変えていなかったよ。直感的には亀裂は広がっていく一方であるのに、引っ張る力で自己修復するのはとても面白いね!

 

金属の自己修復の理論

金属の自己修復現象は、実は2013年に予言されていたよ。そこで今回の実験結果を元に理論を再検討したところ、理論と実験の結果がほぼ一致することが分かったよ!亀裂を埋めるのは、別の場所から移動してきた原子によるもので、力がかかり続けることによって発生することが説明できたよ! (画像引用元: 原著論文 Supplementary Video 1 & Video 2)

 

2013年には金属が自己修復しうる、と予言していたとは言ったよね?実はこれ、金属を引っ張り続けると自己修復しうると予言してたわけ!今回の実験で、理論と観察結果がよく似ていたことも分かったよ!

 

この理論によれば、金属を構成する結晶面の境目が亀裂に接すると、原子が移動して亀裂の隙間を埋めることがある、と予言していたわけだけど、今回の自己修復現象はこの説明でうまく行くことがわかったよ!

 

今回の実験結果は、何も特別なことをしていない金属が自己修復をすることを初めて観測した事例であり、他にも同じような現象が起きている可能性もあるよ。これは金属材料の分野において革命的ともいえる発見だね!

 

他の金属でも見られるのか、真空以外でも起こるのかはまだ不明

ただしもちろん、今のところこの発見は革命的とは言えても、本当に金属材料に革命を起こすかまでは強く言えない感じだよ。これは予期せぬ発見であり、いろいろと正確な状況が分かっていないからね。

 

例えば、今回の実験では白金を使ったわけだけど、白金以外の金属でも自己修復をするのか、純粋な金属と複数の金属が混ざった合金では違うのかなど、様々な金属材料に一般化できるのかは全く判明していないよ。

 

また、今回の実験は真空中で行われたという点が立ちはだかるよ。明らかに多くの金属は空気中で使用されるし、空気には金属元素と結合しやすい酸素などの物質がたくさん存在するからね。

 

今回の自己修復が、真空中という何も邪魔ものがいない環境じゃないと見られないのか、それとも空気中という悪条件でも実現するのか、というのは実用化の上で大きな課題となるよ。

 

ただしこの点については、元々真空である宇宙空間で使用される宇宙船や探査機においては全く問題にならない可能性もあることから、数十年運用される惑星探査機には応用される可能性があるよ!

 

他にも、いくら理論的に予言されていたとは言え、実際の金属に当てはめて現象を解明するのはとても困難なので、他の材料や環境で応用を試みるには、理論面の理解と発展がそれなりに必要になってくるよ。

 

ということで、今回発見された金属の自己修復は、大発見には違いないけど、エンジニアを悩ませている疲労亀裂をすぐには解決しないよ。しないけど、これからの発展は大いに期待したいところだよ!

 

もしナノスケールの疲労亀裂がほんの少しでも自己修復するなら、それだけで金属材料の寿命が大幅に向上するし、亀裂が発展したことによる事故の確率も下げてくれるよ。

 

今回の研究結果が単発に終わらず、更なる発展があれば、世の中はよりよくなる、と言っても過言じゃないから、これからも期待したい研究だね!

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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文献情報

<原著論文>

  • Christopher M. Barr, et.al. "Autonomous healing of fatigue cracks via cold welding". Nature, 2023. DOI: 10.1038/s41586-023-06223-0
  • G. Q. Xu & M. J. Demkowicz. "Healing of Nanocracks by Disclinations". Physical Review Letters, 2013; 111 (14) 145501. DOI: 10.1103/PhysRevLett.111.145501

 

<参考文献>