パーキンソン病治療の新しい標的(7月8日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026.07.23

パーキンソン病 (PD) はαシヌクレインが神経細胞内で凝集し、ドーパミン産生細胞が失われることによって起こる。この細胞欠損を正常細胞を移植して補うのが、例えば我が国のアムシェプリだ。現在アムシェプリの適応はかなり進行したケースに限定されるが、そこに至るまでの進行を遅らせる治療法も重要になる。

 

本日紹介する論文

今日紹介する中国・南京医科大学からの論文は、アストロサイトでのαシヌクレインの処理を高めることで PD のシヌクレインの伝搬や凝集を抑えることが PD の治療になる可能性を示した研究で、7月8日号 Science Translational Medicine に掲載された。

 

タイトルは「Targeting of CH25H to boost p62-dependent autophagic degradation of α-synuclein in cell and mouse models of Parkinson’s disease(CH25Hを標的にしてp62依存的αシヌクレインのオートファジーを亢進することでマウスのパーキンソン病モデルを治療できる)」だ。

 

解説と考察

この研究では、PD を誘導する神経毒を注射したマウスの線条体で変化する遺伝子を調べ、発現が著明に増加する遺伝子の中に神経炎症に関わるとされているコレステロール25-ハイドロオキシラーゼCH25Hが存在するのに気づく。

 

ある意味ドンピシャの分子で今まで見つからなかったのが不思議なぐらいだが、黒質での発現は神経でなくアストロサイトとミクログリアであることもわかった。そして、様々なデータベースを用いて発現の特異性を調べていくと、PD 患者さんのiPS細胞由来アストロサイトで強く発現することも明らかになった。

 

そこで、アストロサイト特異的に CH25H をノックダウンする実験を行うと、マウスの行動性が上昇し、黒質でのシヌクレインの蓄積も低下し、ドーパミン産生細胞の喪失も抑制できることがわかった。逆に、アストロサイトで CH25H を過剰発現させると、αシヌクレインの分解が抑えられる。即ち、CH25H は神経から吐き出されたαシヌクレインを取り込んだアストロサイトでの分解を阻害することがわかった。

 

このメカニズムを生化学的に調べ、ストロサイトでαシヌクレインはオートファジーを介して分解されるが、この時にαシヌクレインに結合する p62タンパク質の結合を CH25H が阻害することを突き止める。そこで、αシヌクレイン、CH25H の p62タンパク質との結合部位を解析し、p62 の60−120アミノ酸部位に CH25H が結合してしまうことで、αシヌクレインの結合と分解が抑制されることを発見する。

この結果に基づき、p62の60−90番目の30ペプチドを設計してαシヌクレイン分解を調べると、このペプチドは CH25H のみに結合して、p62とαシヌクレインの結合阻害活性を消失させることを発見する。そして、このペプチドをマウスパーキンソンモデルに投与すると、症状の改善とともに、αシヌクレインの沈着をおさえ、ドーパミン神経の消失を抑えることを明らかにしている。

 

まとめと感想

以上が結果で、少なくともマウスモデルでアストロサイト特異的に CH25H をノックアウトする、あるいはペプチドで CH25H と p62 の結合を阻害することで、パーキンソン病のαシヌクレインの量を減らし、伝搬を抑えられる事を示したのは大きい。いずれの介入方法も、実際の人間でも可能と考えられるので、根治方法ではないが、PDという長い道のりを対象にする薬剤として開発してほしい。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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