著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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私も多くの友人をガンで亡くしているが、今回自分がガンになって、多くの友情や理解に支えられ、少なくともゲノムだけは徹底的に調べることができ、その中から様々な作戦が考えられることを知って、結果はともかく新しい時代まで生きることが出来て良かったと感謝するとともに、自分のガンのことをほとんど知ることなく逝ってしまった友達の無念が伝わる。このように、自分のガンを知る意味でゲノム変異は最も大きな情報になるが、ガンのタイプはゲノムだけで決まっているわけではない。
例えば K-ras, p53 等のよく似た変異を持っていても、直腸ガンと膵臓ガンは区別される。これは、それぞれの臓器の発生過程で、染色体構造の変化、即ちエピジェネティックな変化によって細胞の特徴が決まったところに、ガンのゲノム変異が加わるからで、もちろん大きくエピゲノムが変化してしまうこともあるが、ゲノム変異にもかかわらず、細胞の特徴が維持されていることになる。即ち、特定のガンを知るには、ゲノムとエピゲノムを明らかにすることが必要になる。
CONTENTS
本日紹介する論文
このことを見事に証明したのが、今日紹介する京大とカロリンスカ大学からの論文で、1500例を超す急性骨髄性白血病 (AML) のゲノムとエピゲノムを徹底的に調べ、様々な細胞へと分化する血液幹細胞のガンは、エピゲノム抜きに理解できないことを示した研究で、7月8日 Nature にオンライン掲載された。
タイトルは「Chromatin landscape and epigenetic heterogeneity of acute myeloid leukaemia(急性骨髄性白血病の染色体地図とエピジェネティックな多様性)」だ。
解説と考察
研究では1500人を超す症例について、ゲノム、Atac-seq によるオープンクロマチンを調べ、一部の患者さんではメチル化DNAや、Chip-seq による super enhancer の特定、必要に応じて single cell レベルの Atac-seq まで行い、徹底的に AML のエピゲノムを解明している。(このブログで最初に Atac-seq を紹介したのが2015年だったが、あれから10年、エピゲノム検査のエースとして定着しているのに感心する。)
データは膨大で、詳細については AML やゲノム研究について知識が必要だと思う。事実、京大の小川さんたちは日本のガンゲノムを牽引してきており、特に AML のゲノム分類では大きな成果を上げてきている。その上に、今度は Atac-seq を中心にエピゲノムを加えているので、Fig.1c にまとめられたデータは、おそらくこれからの臨床にとっては情報の宝庫になるが、ここでは詳細は全て割愛して、大きな結論だけを紹介する。
まとめと感想
以上、かなり私の勝手な解釈を加えて、詳細を省いて解説した。間違っていると小川さんからお叱りを受けるかもしれないがお許し頂きたい。造血系などの複雑な階層性が存在する組織では、ゲノムだけでガンを定義するのは片手落ちであることを見事に示した研究だと思う。そして、AML だけでなく、全てのガンで、ガンを知るのにエピゲノムも欠かせないことを示していると思う。是非次世代の体がん戦略に役立てていってほしい