【シリーズ バイオミメティクス】研究開発でバイオミメティクスを活用するためには?

2023.02.07

 

これまでの2回の記事①、でバイオミメティクスのイメージができてきたところで、「結局どうすれば使えるの?」「どういう準備が必要?」という核心に切り込んでいきたい。

ここが一番難しい...がとても大事である!

ネットで「バイオミメティクス」とか「バイオミミクリー」で調べると、活用例や概要がいくつかヒットする。しかし、その情報はバイオミメティクスを漠然と知りたい人にはマッチしていても、活用したい人にとっては「欲しいのはそれじゃない」と感じることもあるのではないだろうか。

なぜならば、完成した折り紙や料理を見せられただけでは、一般的には作れないから。作るためには折り方やレシピが必要である。

今回は、私の企業での研究開発経験も活かし、あまり話されないバイオミメティクスの活用プロセスについて述べていきたい。

 

バイオミメティクスユーザーのタイプ

ツールや方法について話す前に、バイオミメティクスのユーザーについて考えてみたい。どのような立場の人がバイオミメティクスを使いたいと思うのだろうか。

バイオミメティクスを使いたいと思うユーザーは大きく分けて以下の3タイプである。

・開発技術者
・研究者
・技術コンサルタント

おそらくメインで活用するのは開発技術者だろう。何か課題があって、それを解決するヒントになりそうな生物を探したい(「課題解決型」)、という場合である。

一方、生物の面白い仕組みから何か新しい製品を作れないか(「解決策ベース型」)と考える生物学者や生物関係者もいるだろう。個人的には、まだないものに対してニーズは発生しないので、明確な課題を意識せず生物の凄い能力を興味で探したり研究したりすることも重要な取り組みである。何に応用できるかは別の問題なので!とすると、所属が企業かアカデミックかでバイオミメティクスに対する接し方も変わってきそうだ。

そして、技術者と生物学者をつなぐ技術コンサルタントも考えられる。海外ではバイオミメティクス専門のコンサルタントも増えている印象がある。

立場が違えば目的が異なるように、バイオミメティクスでも若干異なってくるのである。これが異分野が必要なバイオミメティクスの難しいところ(面白いところ)だと感じている。

企業でのバイオミメティクス活用でぶつかる壁

読者の中には、バイオミメティクスを活用したくて調べている最中の人もいるだろう。しかし実際に企業で行うにはやはりハードルが高いと私自身感じている。これまでの経験から直面する課題と対策を以下にまとめた。

①どのように活用できそうな生物を探すのか
→図鑑、Youtube、論文、等
②業務時間内に生物を探す時間がとれない
→活用プロセスを説明し、多くの選択肢から適切に選ばないと効果が小さくなることを理解してもらう
③生物サンプルを経費で購入できない・飼育観察できない
→社内で難しい場合は、水族館や博物館で探す
④課題の解決手法が決められている
→課題が解決できさえすれば、実はバイオミメティクスでも問題なかったりしないか?と、考えてみる
⑤従来の最先端技術を用いた場合との優位性の比較で負ける
→従来の方法が頭打ちになる可能性やバイオミメティクスによる解決策の発展の余地、オリジナリティ(特許での優位性)、消費エネルギー、製造プロセスの簡略化などのメリットを探す
⑥面白い生物の仕組みを見つけたが、応用できる製品がわからない(何に応用するの?と聞かれる)
→何か一つでも例を提案できれば良し。

製品内部の部品単位でも必要な特徴を考えてみよう。だが、そもそも生物学者にとって、工学の課題を具体的に把握するのは難しい。思いもつかない分野で実は必要とされることも多いはずなのだが、生物の仕組みをスムーズに技術課題につなげる方法については私も模索中である。

②③④は開発現場の雰囲気や制度の問題なので、残念ながらすぐに対応できないこともあるだろう(バイオミメティクスを理解してもらえる環境に持っていけるとよいのだが...)。

生物は数百万種以上いるとされているので、探す作業だけでも時間が必要なのは想像できるだろう。

また、バイオミメティクス自体があくまで課題解決手段もしくは解決手段を探す手段なので、「この材料を使ってこの課題をこういう方向で解決しよう」などと解決手段が既に決められてしまうとなかなか割り込めない。

長期的にバイオミメティクスを活用したメリットを生み出すには、ある程度自由にアイデアを提案できる環境を作るのが必要だと考えている。

バイオミメティクス活用のプロセス

まだ不明確な印象のバイオミメティクス活用プロセスだが、いくつか提案はされている。

私自身、プロセスをスムーズにする研究もしているので楽しみに待っていてほしい!

既往のプロセス(参考文献参照)を参考に、作業の分野が生物学か工学かで作成したプロセスが以下である。

解決策ベース型(生物固定)と課題解決型(課題固定)では、ターゲット設定の段階が少し異なる。
応用する生物を探すのか、解決したい課題を探すのかの違いである。

技術者が取り組む場合は、後者の課題解決型が多い。

課題解決型のターゲット設定の順序としては、解決したい課題(目的)を決める、目標となる性能キーワード(ex.耐熱性、撥水、抵抗、...)もしくはパラメータ(ex.熱伝導率、接触角、Cd値、...)を明確にする。

それらの単語で検索して生物を探す、複数見つかれば、対象生物の採集しやすさなどで優先順位をつける、となる。

ターゲット設定を終えて、生物サンプルを使った工学的検証を超えれば、あとはおそらく通常の開発に近くなる。
一つ目の記事『実は誰にでも使える新開発技術!"バイオミメティクス(生物規範工学)"とは?』でも手法について少し書いたので読んでほしい。

参考になるツール3選

ここまではプロセスについて述べたが、実際に自分で探すには途方もなく感じる人も多いだろう。
キーワードが特定できれば、そのキーワードと「Biomimetics(or Biomimicry or Bioinspired)」をセットで論文検索してみよう。

適したツールやサイトを使うと少し効率的になる。

技術者向けのツールになるが、バイオミメティクスに関する便利なサイトを3つ紹介する。

①バイオミメティクス専用のアイデア探索なら『Ask nature』

英語だが、バイオミメティクス専門サイトで、生態に加え工学寄りの解説もあるのでとても参考になる。参考論文や書籍を記載しているのも嬉しい。

例えば「light-absorbing」(吸光)と検索すると、「アンコウの皮膚が99.9%以上の光を吸収する」といった記事が表示される。反対に生物からも探せるので、生物学者にとっても役立つだろう。現在、2000以上のトピックがあるようだ。

②骨格等の内部構造や3D観察なら『CT生物図鑑』

閲覧できるサンプル数は多くないが、自分でぐりぐり動かして観察できるのが本当にとても楽しい。血管等もきれいに撮影できるのをみると、技術の発展をとても感じる。

固さもある程度判別でき、アカエイの毒針の部分が他の軟骨より固いのは納得できて面白い。ウツボのデータでは、体内に捕食された小魚の骨格が観察でき、新しい研究にも活かせる予感がある。効率的な折り畳みや強固な骨組み等で特に参考になりそうである。

③3D観察なら『Sketchfab』

フィギュアなど様々なデータがある3Dプラットフォーム。研究者や博物館がアップロードし、色付きの鮮明な生物が観察できるものが多い。

図鑑等では「肝心な部分が隠れていてわからない!」という場合があるが、3Dなら自由に観察できる。

個人的に好きなアカウントはウィーン自然史博物館で、カメの甲羅内部やアルマジロの上手く体が組み合わさって球体になる様子が観察できるのがとてもおもしろい。

最後に

バイオミメティクスは生物学と工学が関わるので、プロセスが特殊である。

しかし、目的をはっきり把握し、ツールを知っていればそこまで難しいものでもないと思う。ぜひ積極的に「バイオミメティクスで解決できないか、面白いものが作れないか」を考えてみてほしい。

 

参考文献

・ISO (International Organization for Standardization) 18458: 2015 Biomimetics — Terminology, concepts and methodology. https://www.iso.org/standard/62500.html

・Fayemi PE, Maranzana N, Aoussat A, Bersano G (2015) Assessment of the Biomimetic Toolset—Design Spiral Methodology Analysis. In: Chakrabarti, A. (eds) ICoRD’15 – Research into Design Across Boundaries Volume 2. Smart Innovation, Systems and Technologies, vol 35. Springer, New Delhi. https://doi.org/10.1007/978-81-322-2229-3_3

・Wanieck K, Fayemi PE, Maranzana N, Zollfrank C, and Jacobs S (2017) Biomimetics and its tools. Bioinspired, Biomimetic and Nanobiomaterials 2017 6:2, 53-66, https://doi.org/10.1680/jbibn.16.00010

・Helms M, Vattam S and Goel AK (2009) Biologically inspired design: process and products. Design Studies, 30(5), 606-622. https://doi.org/10.1016/j.destud.2009.04.003

 

【著者紹介】橘 悟(たちばな さとる)

京都大学大学院 地球環境学堂 研究員
バイオミメティクスワーククリエイト 代表   

X(Twitter)では記事公開や研究成果の報告などバイオミメティクス関連情報を呟きます。
パナソニック株式会社にて社会人経験を積んだのち、バイオミメティクスの研究を行うために退社し再びアカデミアの道に進む。企業への技術指導など、バイオミメティクスのアウトリーチ活動も積極的に実施。
※参考「学びコーディネーターによる出前授業」
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。バイオミメティクスの紹介や生物提案など相談可能。

このライターの記事一覧