バイオミメティクスとは?実は誰にでも使える新開発技術!

2022.11.14

あなたは水族館や動物園で、「この生き物すごいな!( ゚Д゚)」とか「おもしろい形!(^◇^)笑」など思わず口にしたことはないだろうか?
そう、生物はとても凄くて、とても不思議で、とてもオモろいのである。

私は修士課程でバイオミメティクスに出会い熱中した。もっと自分で生物を研究してその仕組みを技術として応用したいという気持ちが抑えきれず会社を退職し、大学の博士課程に入学して研究をしている。
そこで、今回は生物の面白さを活かした技術学問である「バイオミメティクス」についてお話したい。あまり聞きなれない言葉だと思うが、この記事を読んで「自分でも使えるかも!」と感じてもらえるととても嬉しい。

☆執筆者紹介☆

橘 悟(たちばな さとる)

京都大学大学院 人間・環境学研究科&農学研究科
京都大学大学院教育支援機構奨励研究員

パナソニック株式会社にて社会人経験を積んだのち、バイオミメティクスの研究を行うために退社し再びアカデミアの道に進む。

最近はバイオミメティクスのアウトリーチ活動として、新聞記事などの執筆、小中高生への出前授業や社会人へのセミナーを行う。
参考「学びコーディネーター事業(京都大学による高校への出前授業)

研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。バイオミメティクスの紹介や生物提案など相談可能。

☆☆☆

バイオミメティクスとは...?

一言でいうと、「生物の仕組みをモノづくりに活かすこと」である。

辞書には『生物のもつ構造,機能や運動を工学に応用して役に立つものを作り出すやり方』と書かれている。微妙な意味の違いはあるが、ネイチャーテクノロジー、バイオインスピレーション、生物規範工学と呼ばれたりもする。 

実は歴史は古く、最古の活用方法は1800年代前半まで遡る。フナクイムシという漂流木に生息する二枚貝をヒントに開発された、トンネル工事法の「シールド工法」である。フナクイムシの技術によって、イギリスのテムズ川の世界初水中トンネルが完成した。

近年では、電子顕微鏡などの分析技術の発展に伴い、生物の構造やシステムを詳しく捉えられるようになったことで、バイオミメティクスは様々な分野で注目されている。

筆者お気に入りの例3選

私たちの生活において、バイオミメティクスはどのように活用されているのだろうか?

有名どころでは、面ファスナー(ゴボウの実がヒント)や、ヨーグルトの蓋(ハスの葉がヒント)があり、意外なところでは、燃費の良い車(ハコフグがヒント)などがある。知られていない活用事例も多く、実は生活の身近な部分で活躍している。

そこで、これまで私が見てきた活用例から、お気に入りバイオミメティクス3選を紹介したい。

蚊を参考にした痛くない注射針

痒くなってから蚊に刺されたことに気付く、そんな経験が皆さんもあるのではないだろうか。

蚊の吸血は、一本の針ではなく複数の針を上手に使い痛みなく刺している。そんな蚊の驚くべき特性を参考にした注射針の開発が関西大学で進められている。

あの感覚で注射をされるのであれば、注射がとても苦手な私でも我慢できるだろう。はやく普及してほしいと切に願っている。下記リンクにて、関西大学システム理工学部さんの開発例が見られるので興味がある方はぜひ見てみてほしい。

【マイクロニードル参考事例・リンク先に動画あり】

コバンザメを参考にした水中吸盤

様々な海洋生物の体表に吸着して楽に移動するコバンザメ。このコバンザメの仕組みを利用した、容易に着脱可能な水中運搬用の吸盤が注目されている。

特徴的な小判模様は小さな棘が並んでいるものであり、その棘を立てたり寝かせたりすることで減圧を生じ、吸着している。普段私たちが使う吸盤とは少し異なるこの仕組みでは、吸着されたものが速く動くとより強くくっつき、離れたいときは吸盤側が相手より少し速く動くだけでよい。コバンザメに吸着された時は頭側に動かせば簡単に取れるのをぜひ試してほしい。

この仕組みには少し思い入れがある。私は以前ふと「コバンザメのコバン型吸盤ってきっと役割があるよな…?」と思いつき調べはじめたところ、バイオミメティクスとして開発が始まったタイミングであった…。先を越されとても悔しかったが、自分の視点は間違っていないと自信に繋がった。

【コバンザメ参考事例・動画あり(英文の関連記事)】

猫の舌を参考にした掃除機

シャープ株式会社は、掃除機のゴミ圧縮にバイオミメティクスを用いた。猫はザラザラした舌を使って毛づくろいをし、余分な毛や汚れを落とす。排泄しきれなければ毛玉を吐くが、猫にとって圧縮するに越したことはないのだろう。それは掃除機がゴミを吸うときも同じである。製品情報によると、この仕組みを活かした掃除機では、吸い込んだゴミを1/15の体積に圧縮できるそう。

お気に入りの理由は、とても身近な生物である猫の「毛玉をからめとってまとめる」という行動の原理と効果を技術として見出した点である。素直に着眼点が凄いと感動した。身の回りにバイオミメティクスの種があることをよく表した例だろう。

【ネコの舌応用 ゴミ圧縮ブレード(シャープ株式会社)】

「構造」をヒントにした例はイメージしやすいのでよく示されるが、アリがエサ等を配送する方式や、ハチが巣を作る方法といった「行動」等も技術システムの参考にされる。


バイオミメティクスをどのように使うのか?

…と、基本的なことや例はおそらく調べればでてくるのでこの辺にして、ここからは取り組み方法について語りたい。

先ほどの活用例を見て、「知っている生物だ!」と思った人も多いのでは?バイオミメティクスは誰にでも、どの分野でも、活用できる技術だと私は考えている。少し、取り組みの流れをお話しよう。

バイオミメティクスを活用する方法としては、技術課題に対し解決策となる生物を探す場合と、反対に、生物の能力から応用先の技術を考える場合の大きく二通りがある。おそらく前者の課題解決型の方が知りたい人が多いと思うので今回はそちらに着目しよう。

さて、自分が取り組んでいる分野でバイオミメティクスを活用してみたい(この課題を解決したい!)と思った時、どのように生物を探索するのか?そのためには、活用の場と似た環境に住む生物に着目する、もしくは課題に関連する技術キーワードから調査するのが良い。


課題にあった特徴を持つ生物を連想ゲーム的に考えるのである。

技術と生物をつなげる感覚で…と、言うのは簡単だが、これが一番難しいかもしれない。しかし作業としては単純に生物を探すことなので、そこまで深い知識は必要ない。(どれだけ広く、上手く探せるかは重要である。)探索には博物館や図鑑、Youtubeといったあらゆる手段を用いることが可能である。何か一種でも適した生物を見つけられれば、その生物の近縁種や同じ環境に棲む生物、などと芋づる式に広げることができる

活用方法などについてもう少し詳しく書いた新聞記事があるので、興味があればぜひこちらを読んで頂きたい。
【ネイチャーテクノロジーの手法と革新的な農業機器開発への応用 --考え方と活用方法--】
DOI: 10.14989/276334
【ネイチャーテクノロジーの手法と革新的な農業機器開発への応用 --学問の位置づけ・専門の強み--】
DOI: 10.14989/276630

さいごに

バイオミメティクスは最近では教科書や幼児向け図鑑でも紹介されている。そのため、近い将来バイオミメティクスはあらゆる分野において当たり前の開発技術の一つになると予想している。また、技術の種となる生物の新種も発見され続けている。加えて、身近な生物の生態でも分かっていないことが多く、生物の工学的な解析はまだまだ発展の余地がある。したがって、バイオミメティクスは、今後長期間にわたり重要な技術となるだろう。

生物に興味がなければとっかかりにくいとは思うが、バイオミメティクスを少しでも知ることで「他の分野の技術を参考にしてみる」という柔軟な考えを育むことにも繋がる。特殊な知識を必要とする専門技術としてではなく、数多くある分析方法・解析方法、もしくは問題解決手法の一つとしてバイオミメティクスを気軽に学んでほしい

とはいえ、体系化が不十分などの課題も多く、ビジネスでバイオミメティクスに取り組みにくいのは企業で働いていた経験から十分理解できる。現状は、まるでレシピなしの完成された料理を見せられただけで、実際に作るのは難しいというような状態である。企業で生物を研究することは確かに難しいだろう。

なので私は、企業内でもっと使いやすくなるように実用的なバイオミメティクス活用の研究も行っている。生物に詳しくない技術者も、モノづくり技術に詳しくない生物学者も気軽に取り組める...それが私の理想だ。もし「こんな仕組みがあったら使いやすい!」などのご意見、ご提案があればぜひ遠慮なく頂きたい。

最後に、一言で企業に一番伝えたいこと。「今から取り組めば宝の山」

参考文献

・岩波 生物学辞典 第5版(2013)岩波書店
・篠原現人、野村周平(2016)生物の形や能力を利用する学問 バイオミメティクス、東海大学出版部
・ブリタニカ「tunneling shield」
・Wang Y. et. al. (2017) A biorobotic adhesive disc for underwater hitchhiking inspired by the remora suckerfish. Sci Robot. 20;2(10):eaan8072. doi: 10.1126/scirobotics.aan8072

【著者紹介】橘 悟(たちばな さとる)

京都大学大学院 地球環境学堂 研究員
バイオミメティクスワーククリエイト 代表   

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パナソニック株式会社にて社会人経験を積んだのち、バイオミメティクスの研究を行うために退社し再びアカデミアの道に進む。企業への技術指導など、バイオミメティクスのアウトリーチ活動も積極的に実施。
※参考「学びコーディネーターによる出前授業」
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。バイオミメティクスの紹介や生物提案など相談可能。

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