著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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アルツハイマー病は自己免疫疾患なのか。Tau蓄積に伴い活性化されたCD8陽性T細胞が神経変性を促進する仕組みを示したNature Neuroscience論文を解説。
2023年3月、アルツハイマー病 (AD) は Tau分子に対する自己免疫では ないかというワシントン大学からの論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/21734)。この研究では、Tauopathy が起こるマウスの脳ではおそらくTauや神経細胞由来分子に対するT細胞が浸潤し、これがADの細胞死を誘導していることをマウスモデルで示していた。
CONTENTS
本日紹介する論文
今日紹介する論文は同じグループからの論文で、神経細胞を傷害するのは主にCD8T細胞で、脳内ではなく末梢リンパ組織で抗原刺激を受けた後、脳内に浸潤して神経細胞を傷害する可能性を示し、少なくともマウスでは抗原特異的免疫反応がAD等の Tauopathy に関わっていることをより明確にした研究で、9月3日 Nature Neuroscience にオンライン掲載された。
タイトルは「Priming of CD8 + T cells by peripheral dendritic cells exacerbates tau-mediated neurodegeneration(CD8T細胞を末梢の樹状細胞が刺激することでTauによる神経変性を促進する)」だ。
解説と考察
この研究でも変異TauとAPOE4を組み合わせて早期に Tauopathy が発症するモデルマウス (TE4) を用いている。自己抗原に対する免疫反応だとすると、それを処理して抗原提示する樹状細胞が除去されたマウスでは神経変性が起こりにくいはずだと考え、まず1型樹状細胞 cDC1 発生に必須の Irf8遺伝子のエンハンサーをノックアウトして cDC1 の欠損したマウス(Δ32マウス)を作成している。期待通りΔ32マウスで cDC1が除去されていることを確認した後、Δ32をTE4と掛け合わせ、Tauopathyによる神経細胞死を抑制できることを示している。このマウスでTauの蓄積を調べると、cDC1がなくても蓄積自体は進んでいるので、Tau蓄積により誘導される免疫系による神経細胞傷害が神経変性の原因と考えている。
次に、この変性に関わる細胞を特定するため single cell 解析を行い、最終的にTauが蓄積するTE4マウスでは、活性化されたCD8T細胞の脳内への浸潤が見られるが、cDC1が欠損するとこの浸潤が見られなくなることを発見する。ミクログリア反応もTau蓄積で起こるが、cDC1が欠損するとこの反応も抑えられるので、CD8T細胞による細胞傷害がTau蓄積により誘導されることが変性の最も重要な要因であることが示された。
このように cDC1とCD8T細胞という役者が揃うと最も考えられるのがクロスプレゼンテーションと呼ばれる現象だ。cDC1は外来分子を取り込み通常クラスII MHCを介してCD4T細胞を刺激するが、細胞内で分解されたペプチドの一部はクラスIにロードされCD8キラー細胞を誘導することが知られている。ガン免疫でクラスIIを発現していないガン細胞が樹状細胞により処理されキラー細胞を誘導出来るのもクロスプレゼンテーションのおかげだ。この研究でも実際にクロスプレゼンテーションでCD8細胞が誘導されるか、卵白アルブミンを用いた系で確認したあと、クロスプレゼンテーションが出来なくなるマウスを作成し、Tau蓄積による細胞変性を調べるとCD8T細胞の浸潤が防がれ神経変性が低下する。即ち、Tau蓄積により障害を受けた神経細胞から出てきた分子が cDC1に取り込まれ、クロスプレゼンテーションによって神経障害性のキラーT細胞が誘導され、神経細胞を傷害することで、Tauopathy の進行が促進されると言う可能性が示された。
cDC1は脳内に存在しないためCD8T細胞は脳内とつながるリンパ節で誘導され脳に浸潤すると考えられる。これを確認するため、Tauが蓄積したTE4マウスの脳と連結するリンパ節からCD8T細胞を取り出し、まだ Tauopathy が進んでいないTE4マウスの脳に注射すると、グリア反応が高まることを確認している。
まとめと感想
結果は以上で、2023年の論文と比べると、神経細胞変性を誘導する免疫過程がかなり絞り込まれたと思う。またMHCと結合するペプチド解析も行い、Tau由来ペプチドを始め多くのペプチドを特定しているが、これらがキラー活性を誘導しているかどうか今後の問題になっている。
神経変性疾患に抗原特異的免疫反応が関わる可能性を示す研究が増えてきており、例えば制御性T細胞を用いたADの治療まで進むかもしれない。