LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!
2024年9月3~5日に「京都大学サマーデザインスクール2024」が開催されました。京都大学サマーデザインスクールは、様々な分野のテーマで集中型ワークショップを参加者と共に行うイベントです。イベント名に「デザイン」と名づけられているように、デザイン思考を取り入れつつ課題解決やアイデア発想を進めるワークショップとなっています。
僕は実施代表者として『バイオミメティクスを追求し、生物とモノづくりの繋がりを体験しよう!』というテーマを企画し、グンゼ株式会社様のご協力のもとワークショップを実施しました。3日間のワークショップではバイオミメティクスの基礎的な学習からグループワーク、ポスター発表をチームで行いました。
今回は実施した内容を紹介し、参加者の感想からバイオミメティクスを教材として扱うことについて考えたいと思います。
CONTENTS
今回のワークショップは、「今後の研究や仕事でバイオミメティクスを発想できること」を目標として内容を設定しました。昨年は座学多めで生物を体験する時間が少なかった反省を踏まえて、今年はアイデア発想のワークや生物の能力を体験しながら学べることに重点をおきました。
3日目のポスター発表を除いた2日間のワークで、どうしたら楽しくバイオミメティクスを学べるかを、考えに考え準備しました。
参加者は学部1回生から博士後期1回生までの計6名(満員)でした。
なんと理系の学生は一人で、芸術や建築、経済など異なるバックグランドをもつ学生が集まりました。
1日目の内容:
まずはバイオミメティクスの定義、歴史、研究の種類、最新の活用事例について解説しました。
反省点としてはワークショップの構成の点。製品の紹介や触れる体験を先に行った方が参加者の興味をさらに引き出せたのではないかと思います。
■ワークショップの流れ
<1日目>
1.バイオミメティクスの基礎的なレクチャー
2.生物の観察と実験
3.実際に活用された製品や技術の紹介
<2日目>
4.解決策提案型ワーク:生物から能力を見つけ、活かす課題を探す
5.課題解決型ワーク:技術課題から解決策になりそうな生物を探す
<3日目>
6.ポスター発表
1日目。
最初の基礎的なレクチャーでは、研究で得た知見をもとに、バイオミメティクスの定義や歴史、研究の種類、最近の活用事例などを取り上げました。
続いて生物の観察と実験。生物を見て触れて体感できる、楽しい部分ですね。バイオミメティクス実験で僕がよく行う「ハスの葉の撥水実験」と「マツボックリの開閉実験」だけでなく、「ウツボカズラの水移動実験」と「オランダフウロの回転実験」を行いました。
ウツボカズラ捕虫器の縁(ペリストーム)の内側に水を垂らすと、外側に素早く水膜が広がる現象を観察しました。多分このウツボカズラの実験が、今回のワークショップの一番の盛り上がりでした(笑)。
スポイトで水を垂らす実験の様子をリアルタイムでモニターに映して全員が見られるようにしたので、水滴がきれいに外側に広がったときの歓声がおもしろかったです。ピンポイントで水を垂らすので観察が少し難しいかなぁという心配も正直ありましたが、成功も失敗もある実験だからこそ参加者の関心が高まり、盛り上がったのではないかと思います。
実験内容に興味のある方は『知的好奇心を満足させるバイオミメティクス実験 マニアックな上級編!』をぜひ読んでみてください。
知的好奇心を満足させるバイオミメティクス実験 マニアックな上級編!
1日目の最後は、バイオミメティクスを活用した製品や技術の実物を紹介しました。実際に現物に触れて観察することで、生物とモノづくりの結びつきを想像しやすくなり、より現実味が増すので良いですね。
今回のイベントで以下の貴重なサンプルを貸与いただきました、
シャープ株式会社 様
『イネの葉の凹凸形状をケース底面に採用した野菜室/冷凍室ケース』
『テントウムシの羽根形状応用 空気清浄機 シロッコファン』
ありがとうございました。
イベント2日目は、以下の二つの流れに沿って、バイオミメティクスのアイデアを自ら発想するワークを行いました。
<A.解決策提案型アプローチ:生物から能力を見つけ、活かす課題を探す>
1.凄いと感じる生物を決める
2.生物の能力を見つける(予想)
3.生物の能力を調べる
4.何に活かすか考える
昨年度も感じましたが、生物を専門としていなくても、各々知っている生物や好きな生物が結構違うので、一人ひとりがおもしろいアイデアを提案していました。
たとえば、
・カタツムリの粘膜を参考にした、乾燥を防ぐラップや医療用シート
・ペンギンの血流を参考にした、温度調節システム
・アシナガバチの巣の構成材料を参考にした、強固なエコ資材
・トビウオのヒレ展開を参考にした、新型ドローン
・ミイデラゴミムシの膜構造を参考にしたフィルム
などが提案されました。
「噴射するミイデラゴミムシの膜構造」が個人的MVPです。
僕も知らない生物の能力を知れるワークなので、とても勉強になりました。
<B.課題解決型アプローチ:技術課題から解決策になりそうな生物を探す>
1.課題の理解
2.生物を探すための用語に置き換える
3.生物の探索
4.生物の絞り込み、詳細調査
今年はグンゼ株式会社様から課題を提供して頂き、解決のヒントになりそうな生物を調べてアイデアの提案を行いました。企業が扱う専門的な技術課題のため、質問や対話を通じて生物を活かす方向性を模索し、従来の開発とは異なる新たなアイデアを提案できたと思います。
3日目はポスター発表でした。遠くからでもわかるようなイラストや、バイオミメティクス製品の展示、見学者が実験できるスペースなどを設けたブースができ上がりました。
特に、ハスの葉やオランダフウロの種を見学者に体験してもらうのは昨年度にはなかったもので、よりワークの内容やバイオミメティクスについて楽しんでもらうために設置しました。ポスターの解説は学生に任せていたので、僕は、ハスの葉の想像以上の撥水効果やオランダフウロの湿るとほどける動きに驚く見学者の様子を少し離れたところからニヤニヤしながら眺めていました。
見学に来られた企業の方や研究者から直接声をかけられることが去年より多かったのも嬉しかったです。
他のチームのポスター発表もとても面白くて、ワークの内容や発表の仕方など今後の参考にしたいと思います。
個人的に印象深かったのは、不便益のあるサービスのデザインというチームで提案されていた、「本日のレシピを決めるガチャガチャ」で、レシピを調べて決めるのはめんどくさいなぁと時々思うので、普通に欲しいサービスですね。
さて、教材としてのバイオミメティクスについて考えたいと思います。
以下に今回のワークショップ参加者の感想からは、生物とモノづくりの関係に着目したものが多かった印象です。
■参加者の感想
・身近な生物をいつもと違った視点で捉えられて面白かったです。
・課題解決型ワークのほうで、本当にグンゼ様が抱えている問題を扱ったところが楽しかった。リアリティをもって取り組めた。
・分野を繋ぐ考え方やその問題を知ることができました。自分の研究でもそうした視点をもって取り組んでいきたいと思いました。
・今回のワークショップは非常に空気感が良く、各人が自由な発想をしやすい状況にあったと思うし、自分自身学びも多かった。
・バックグラウンドの違いでこんなに面白いアイデアが出てくるのかと気づけた。
・生き物の生存戦略はすごい。
これまで行ってきた高校生・大学生向けの出前講義やワークショップで得られた感想から、科学や生物に興味をもつ最初のきっかけとしてバイオミメティクスは良さそうだと感じていました。
というのも、身の回りの製品や暮らしを支える技術に生物が関わっているのをバイオミメティクスでは知ることができ、学校で勉強していることがどう活きるか少し想像できるようになるようです。
さらに、個々の生物のおもしろい生態とか不思議な特徴とかも、学習者の好奇心を刺激しやすいように感じています。
学校で扱うには、どの科目に含めるかなどの課題もありますが、最近広がりつつある分野融合型の分野の学びとして、バイオミメティクスを知れる機会を増やしていきたいなと思います。
今回のワークショップでは、実施者・参加者とも専門が多様であり、僕自身も多くの学びを得ることができました。また、研究に活かしたいと感じるヒントも数多く得られました。
そして、様々な所属の学生たちが参加してくれたことから幅広い層がバイオミメティクスに関心を寄せていることを実感し、改めてこの分野の可能性を感じました。
来年も実施できるなら、自然探索や博物館見学など他にもワークでやりたいことがあるので、今回とは少し趣向を変えて臨みたいと思います。
そして、話は変わって私事ですが、12月初旬に初めての単著書籍を出版します!
『バイオミメティクスは、未来を変える』(WAVE出版)
高校生以上の一般読者に向けた読み物ではありますが、論文をベースに25以上の最新の活用事例を掲載し、今回のワークのようなアイデア発想についても書きました。「バイオミメティクスをもっと知りたい!」など興味があればぜひ、読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
本の内容や執筆については発刊後に記事にしようと思うので、お楽しみに。