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これまで『ハスの葉が水をはじく実験』や『マツボックリのかさの開閉を観察する実験』など、高校の出前授業や企業でのセミナーなどで実施してきた。その二つは1年ほど前にバイオミメティクスの実験としてLabBRAINSでも記事にさせて頂いた。
夏休みにおすすめ!自由研究や教育セミナーに使えるバイオミメティクス実験
ハスとマツボックリの実験は、誰もがよく知っている植物でわかりやすいからか、僕が思っていた以上に好評である。これまでは持ちネタみたいにその二つを使ってきたが・・・もっとマニアックな実験もしたい!!と実はずっと思っていた(マニアック大好き人間)。
そこで今回は、上級編として新しい実験を二つ紹介したい。
実験といっても何かを作るのではなく、バイオミメティクス技術のアイデアになった生物の仕組みを自分で観察してみようというものである。ただ、少し細かい作業が必要だったり、肉眼で見えづらかったり、そもそも生物が手に入りにくかったり、という理由で上級編とした。
合言葉は「どうにかして手に入れよう」である。
前回よりも驚くこと間違いなしの実験で、ぜひ生物の不思議さを楽しんでほしい。
CONTENTS
まず一つ目は、食虫植物であるウツボカズラを使った実験である。

◇準備物
・捕虫器のついたウツボカズラ(大きい方が観察しやすい)
・着色した水、少量(食品着色料の黒を使用)
・スポイト
・動画撮影用カメラ
※複数人で観察したいときは、カメラの撮影画像を映し出すモニターがあると便利。
※今回はウツボカズラにNepenthes ventricosa、カメラにOLYMPUS TG-6を使用。
ホームセンターや大きめの花屋さんでたまに見かけるので、どうにかして手に入れよう。値段はピンキリだが、この実験に使えそうな大きさのウツボカズラを僕が花屋さんでみかけたときはだいたい7000円であった。
捕虫器の縁の部分を観察するので、できるだけ大きい個体のほうが観察はしやすい。

◇手順
1. 撮影用カメラの照準を捕虫器の縁(ペリストーム)に合わせる。
2. 動画撮影しながら、スポイトで縁の内側に着色水を一滴垂らす。
3. 着色水が外側に広がることを肉眼と撮影した動画で観察する。
着色した水を縁の内側に垂らすと、水が溝に沿って素早く外側に広がって水膜になる様子が観察できる。
肉眼で確認できる幅約1mmの溝表面には幅15~30µmのさらに細かな溝があり、その細かな溝の表面にはアヒルのくちばしのような形状の凹凸がある。この表面構造によって毛細管現象が効果的に働き、水は素早く内側から外側に広がる。
ウツボカズラにとっては表面が濡れていることが重要で、濡れていることで虫が滑り落ちやすくなっていると考えられる。
このウツボカズラの表面構造や常に濡れている性質を参考に、汚れを滑り落としやすくするコーティング剤や、「SLIPS」(Slippery Liquid-Infused Porous Surface)といわれる人工的な表面構造のバイオミメティクス技術が研究されている。
これらの技術は、水の輸送や、それによる鳥の糞や霜の付着抑制への期待が大きい。
たとえば自動車のライトや信号機の表面に搭載することで、汚れがつきにくくクリアな視界に保たれるといった利用が検討されている。また、航空機だと機体表面に雪や霜がつくと重量がふえてしまい燃費が悪くなるが、滑り落とす表面技術を使って付着させないようにすることが考えられている。

ウツボカズラの縁(ペリストーム)表面で水が外側に広がる様子。
筆者が運営するyoutube動画はこちら https://youtu.be/4tjqZ7D6-88?si=W9ohCC9MNaG5ltsv

表面にある微細な溝。右下が内側、左上が外側。
二つ目は、オランダフウロ(Erodium)という植物の種子を観察する。

◇準備物
・オランダフウロ属の種子
・少量の水
・スポイトもしくは霧吹き
・土、もしくは細かい砂
※土は乾燥しているものを用意する
オランダフウロは帰化植物であり、道路脇など日本の野外にも生息している。かわいらしい花をつけるので観賞用として花屋さんでも時折売られている。オランダフウロの種子はとても特徴的な形をしており、三角錐の上に、くるくるとねじれた形の板がついている。ねじれた状態の種子の大きさは、およそ15mmである。
◇手順
1. 土の上に種子を乗せる
2. スポイトで種子に水を垂らす
3. 種子の動きを観察する
オランダフウロの種子は濡れると上部がほどけるように動く。湿って種子の上部が完全に伸びた状態になると、全体の長さはおよそ40mmであった。土の上では、上部が土に引っかかることで種子の部分が回転し、ネジのように土中に少しずつ埋まっていく。
初めて観察した時は、想像より動くのが速く、3分ほどで動きが完了したのでとても驚いた。そのとき1分間隔のタイムラプスに設定していたのだが、あまりの速さに焦って途中で動画に切り替えた。
湿ると自動で土に埋まっていくオランダフウロの種子を参考に、大規模農場などで利用される空中種子散布用の種子キャリアーへの応用が研究されている。
種子が土から露出したままだと、発芽率が悪かったり、鳥にたべられたり、という問題がある一方、人力で土を被せるのも大きな手間になる。そこで、土の中に自動で埋まっていくキャリアー(運び屋)に種を入れておくことで、種子散布後に人がわざわざ土を被せる労力を削減できる。
こちらの種子を参考にしたバイオミメティクスについては過去記事でも紹介しているので、興味があれば読んでほしい。
【シリーズ バイオミメティクス】勝手に地面に潜る種子?!から開発された種子キャリアーとは


オランダフウロ種子は、湿ると上部がほどけるように動く。その運動によって、下部の種子が土中に埋まっていく。
筆者が運営するyoutube動画はこちら https://youtu.be/ObLp3VxEWtI

今回はバイオミメティクスのアイデアとなっている生物の特徴を観察できる実験を二つ紹介した。
食虫植物は観葉植物として最近人気があるように感じるので、ウツボカズラは比較的入手しやすいだろう。オランダフウロの種はドライヤーで乾燥させれば5分ほどで元に戻るので、一度入手できれば何度も実験できる。繰り返しになるが、動く速さに驚くこと間違いなしなのでぜひ自分で見てみてほしい。
今回の実験にはやや手に入りにくい植物を使っているが、バイオミメティクス技術になった生物の不思議さやおもしろさを体験するにはぴったりだと思う。
紹介した実験で、学校の教科書には書かれていない生物学を楽しんでみよう!