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生物のすごい技をモノづくりのヒントにするバイオミメティクス。しかし、学校の授業で学ぶことは少なく、実際に体験できないのが現状である。
そこで今回は、バイオミメティクスを体験できる簡単な実験を2つ紹介する。今回の記事やこれまでの観察シリーズ(オナモミやコバンザメ)などを参考に、夏休みの自由研究に挑戦しよう。
CONTENTS
一つ目の実験は、「ハスの葉」を使い、「水をはじく(撥水)」を体験できるものだ。
【実験時間】
・約15分
【用意するもの】
・ハスの葉
・砂(ブラックペッパーなどでも可)
・少量の水
・スポイト
【手順】
・ハスの葉の上に砂を少量散りばめる
・水滴をスポイトで少しずつたらす(水滴が砂に触れた時どうなるか観察する)
・ハスの葉の端を持ち、ゆっくり少しずつ傾け、水滴の動きを観察する
ハスの葉の上で水滴が砂に触れると、砂粒は水滴に吸着し、傾けると一緒に転がる様子が観察できる。
なぜこのような仕組みがあるのか。ハスは、葉の上に泥汚れがあると太陽の光が妨げられ、光合成の効率が悪くなる。そのため、雨水を葉表面ではじいて、水滴に汚れを回収させ、きれいな葉を保っている。
ハスの葉表面には微小な凹凸があり、水と葉の間の空気を逃さないようになっている。ハスの葉がもつ撥水効果を文字通り「ロータス効果」という。
また、ハスの葉やカタツムリの殻のように、自動的に汚れを落とす機能は「自己クリーニング機能」と呼ばれている。
ロータス効果を活かしたモノづくりの例が「ヨーグルトのふた」である。ハスの葉の撥水機能をヒントに、ヨーグルトをはじき付着しにくい表面になっている。
水の代わりに油だとどうなるか、指で押した表面部分は弾くのか?葉の種類を変えたら?など追加で実験アレンジもできるので、ぜひチャレンジしてほしい。
二つ目の実験は、「松ぼっくりの開閉」である。
【実験時間】
・約40分
【用意するもの】
・松ぼっくり (大きいものがわかりやすい)
・松ぼっくりと水を入れる透明な容器
・水 (容器で松ぼっくり全体を浸せる量)
【手順】
・乾燥した(開いた)松ぼっくりを準備する
・水を入れた容器に松ぼっくりを浸し、変化の様子を観察する
一般的に想像する松ぼっくりは開いており丸みをおびていると思うが、雨の日に落ちている松ぼっくりを見たことがあるだろうか?
実は雨の日の松ぼっくりは円錐型で閉じている。
松ぼっくりにある鱗のようなもの、これらひとつひとつを「鱗片」といい、湿度の違いによって開閉する仕組みを持っている。
鱗片断面は、維管束が集まった内側の維管束層と、外側の厚壁組織の、大きく2層にわかれる。維管束とは水や養分の通り道であり、厚壁組織とは、通常の細胞より強度の高い細胞が集まった組織である。
開閉のポイントは、「鱗片の組織は水分を含むと膨張し乾燥すると縮むが、乾燥による外側の収縮率は内側の10倍ほど」という点である。そのため乾燥時は外側に強く引っ張られ、松ぼっくりは開いた状態になる。
参考文献『観察することー松ぼっくりを開閉させる組織と細胞壁の構造ー』より引用、写真3。鱗片基部の横断面切片。
この実験では待ち時間が必要で少し時間がかかるが、形状の変化を簡単に観察できる。
湿度によって開閉する松ぼっくりの仕組みは、建築への応用可能性として注目されている。屋根にこの仕組みを搭載すると、室内の湿度が高くなると自動的に開いて湿気を逃がし、乾燥時は閉じることで湿度が下がりすぎないようになる。いわば、電気を使わない「自動換気システム」である。
松ぼっくり換気システムの実用化が待ち遠しい。
生物の驚くべき能力を用いるバイオミメティクス実験は簡単に行うことができ、生物の不思議に触れることができる。今回紹介した実験を通して、バイオミメティクスの面白さに触れるだけでなく、他の生物ではどうなのか?他に面白い仕組みはないか?と興味を持つきっかけになればとても嬉しい。
私たちの身の回りで、暮らしに活かせる生物がとても近くにいるかもしれない。そのワクワクを感じたなら、バイオミメティクス研究の一歩を踏み出しているといっても良いだろう。
ぜひこの夏休みにバイオミメティクス研究に取り組んでほしい。
・松ぼっくりが未来を救う. 長尾美花. 2022-01-21, バイオミメティクス研究会「人新世のバイオミメティクスー環境科学の視点からー」
・観察することー松ぼっくりを開閉させる組織と細胞壁の構造ー. 藤井智之. 2012, 森林総合研究所関西支所, 研究情報, No.103.
Dawson, C., Vincent, J. & Rocca, AM. How pine cones open. Nature 390, 668 (1997).