スーパーでバイオミメティクス調査!「新規技術に繋がる野菜・魚介7選」

2022.12.23

みなさんは「バイオミメティクス」という言葉をご存知だろうか?

バイオミメティクスは生物の仕組みや体の構造を参考に、様々な問題解決を行う技術兼学問である。技術が発展したことで、生き物を工学的に解析したり、動きや構造をより細かく観察したりできるようになったことで、近年様々な分野(例えば、宇宙開発や自動車、化粧品、建築などなど…)で注目をされている。

活用例や、より全体的なことを知りたい方は前回の記事(『実は誰にでも使える新開発技術!"バイオミメティクス(生物規範工学)"とは?』)を見て欲しい。

今回はバイオミメティクスのネタが身近にあることを知ってもらいたく、「バイオミメティクスを探す」をテーマに、実際のスーパーの陳列商品からバイオミメティクス視点で調査をしてみた。専門家や技術者だけでなく、様々な方々が「バイオミメティクス」に興味を持ってもらえると嬉しい。

 

バイオミメティクスを探すコツ

バイオミメティクス探索の着目ポイントは3つ。

①その生物にしかない特徴とそれによってできること
②不思議だと感じること
③その生物にしかできないこと(=人間にできないこと

普段とは違う視点で生物を見てみてほしい。

 

例えば、「なんでこんな形なの?」や「そんな大変そうな場所でよく生きているな」など、ふと思いがちな感覚が、実はバイオミメティクスのアイデアに繋がる。生物は環境の変化や生存競争を生き抜くために特別な技術を備えているのだ。

 

スーパーの食材は今夜の食材を買いに行く場所だけではない。バイオミメティクス探しの場所でもある。
特に魚介類は生息環境が本当に幅広いのでアイデア探索にオススメだ。
陳列されているのを眺めながら、生きていた時の姿や行動を想像して欲しい
生きていた頃の想像が難しい場合は、YouTube など動画サイトの力を借りてみよう。
スーパーで売られている生物が、実際はどのように暮らしていたのか調べてみるのはとても面白いだろう。

 

野菜・果物編

それでは「野菜・果物のバイオミメティクス」から見ていこう。

 

ブロッコリー

 

目に付いたのは「ブロッコリー」。
調理経験のある方はお分かりだろうが、ブロッコリーに水をかけるととても綺麗に水を弾く。 
よく見ると水滴の下に小さな空気の泡があり、この形状によって水が染み込まないようになっている。少し白っぽく見ているのは、水を弾くワックス成分で更にコーティングされているからである。

 

表面に撥水効果がある葉物野菜や果物は意外と多い。 
葉物野菜や果物の撥水効果は、多くのメリットをもたらす。

例えば、

・水で湿って腐らないようにするため
・虫に食べられるのを防ぐため
・ほこりや汚れを簡単に洗い流すため

である。

撥水の仕組みも様々である。
細い毛で空気を逃さない、油脂によるコーティング、細かい凹凸など多岐にわたる。ブロッコリーの他にはブドウなどの果物も有名だ。「ブルーム」という白い粒々が表面についており、果実からの水分蒸発を防ぐ効果がある。

 

サツマイモ(根菜)

 

これからの時期に食べたくなる根菜の一つである。
スーパーでいつも思うのだが、サツマイモやジャガイモ、ダイコンなどの根菜はどうしてあんなに綺麗なのだろうか土の中で成長するにも関わらず、洗えば土が綺麗に落ち、サツマイモは皮ごと食べることも可能だ。ツルツル滑るような表面でもないのに、簡単に土が落ちるのには違和感に近い不思議を感じる。品種改良されている内にそうなったのか、元からなのかはわからないが、「汚れない仕組み」として詳しく調べてみたいネタである。

野菜や果物は、可食部が守られているものや守られていないもの、種が食べられるもの食べられないものなど、本当に多種多様である。これらは栽培環境や原種の生息環境、(人による)収穫のしやすさに関係しているのだろう。

 

バナナの皮やピーナッツの皮なども構造を調べてみると何かネタがありそうだと感じたので、これは今後のネタにしてみようと思う。

 

魚介類編

次は「魚介類のバイオミメティクス」を見ていこう。

 

キンメダイ

 

キンメダイの眼は、吸い込まれそうと感じるほどに綺麗で神秘的である。
ぜひイワシやタイといった他の魚の眼と見比べてほしい。

これは深海魚特有の仕組みで、眼の奥に「タペータム」(輝板)という反射層があるためである。タペータムによって少ない光を有効的に利用することで、薄暗い深海でも周辺を視ることができる。このような眼の仕組みは集光効率を高める技術として、太陽光発電や撮影機器の分野等で応用が期待される。

 

アジ

 

水族館などで見たことがあると思うが、アジやイワシなどは群れで泳ぐ。「なぜぶつからないのか」という素朴な疑問をもつ人もいるだろう。実は周囲の流れや振動を敏感に感じ取り、近くの魚にぶつからないように泳いでいる。 

アジ類は、身を守るためやより敏感に感じとるために、両側面にある「ゼイゴ」(稜鱗)と呼ばれる部分が固く発達していると言われている。実はこの群れをなす泳ぎ方や仕組みは、周囲を感知する技術として自動運転への応用が試みられている

【NISSAN サカナの群れから学ぶ自動運転】
https://global.nissanstories.com/ja-JP/releases/eporo

 

オニオコゼ

 

今回たまたまオニオコゼが売られていた。見た目が少しグロテスクな魚である。

背びれのトゲに毒があるものの、身はとてもプリプリで驚くほど美味しく、高級魚として扱われる。背びれのトゲがどのように刺さるのか、どのように毒を注入しているのか興味深い。ものを突き刺したり、発射したり、注射などの技術とのシナジーがあり、クラゲやゴンズイ、ハチなどが関連する仕組みを持つ。

魚でいうと、最近は「鱗」そのものの機能も注目されており、流体抵抗軽減の技術として飛行機等への導入が検証されている。鱗から飛行機へという発想の転換がバイオミメティクスの面白さと言える。

 

アワビ&ホタテ

 

スーパーには貝類も多く並んでいる。
貝は形状が多様で、貝殻の形や構造などがとても面白い

実はアワビは、シジミやアサリよりもとても硬い殻を持っている。電子顕微鏡で貝殻の断面を見てみると、アワビの貝殻では細かい板状のものが幾層にも積み重なっている。きれいな貝として有名なタカラガイと比較しても違いは一目瞭然である。(ちなみにタカラガイはハンマーで叩くと壊れたが、アワビは思い切り叩いても壊れなかった。)

実はアワビの層の隙間にはタンパク質のクッションがあり、衝撃で一層が壊れたとしても次の層へ伝わる衝撃を和らげている。これは衝撃吸収に優れている構造であり、「強化セラミックス技術」として開発されている。

ホタテは「泳ぐため」に貝殻の上下の凸凹を上手く噛み合わせる仕組みを持っている。これは冷蔵庫の熱が逃げない技術としてシャープ株式会社が応用している。

【猛スピードで移動するホタテの能力を冷蔵庫の省エネに活用】
https://jp.sharp/nature/tec/reizo/

 

ワタリガニ

 

ワタリガニが安く売られていたので観察してみた。今日は観察日和である。
ワタリガニのハサミは、細いでっぱりの中に少し間隔をあけて大きなでっぱりが規則正しく並んでいるように見える。この並び方にも意味があるような気がする。ものをつかんだり切ったりすることに使われるので、そのような行動の効率を良くしているのだろうか。

今回特に面白いと感じたのはワタリガニの脚である。
ワタリガニは一番後ろに、平たい水かきのような脚をもっている。磯でよく見る、写真右下のカニには平たい脚は見られない。

 

実は、ワタリガニは英語で「Swimming Crab」とも言われ、泳ぐことができる。平たい脚は「遊泳脚」であり、水を効率よくつかむためのフィンのような役割を持っているのだろう。プロペラのようにくるくる回して泳ぐ姿はなんとも可愛いらしいので、ぜひ動画を見て癒されて頂きたい。

さいごに

スーパーで探すバイオミメティクスはどうだっただろうか。
生活に寄り添った身近なスーパーにもバイオミメティクスの種がたくさん潜んでいる。

普段と違う目線で、生物が持つ不思議なことや特徴的なことに着目すると、不思議な部分が見えてくるものである。観察に慣れてきたら、どのような効果があれば課題解決できるのかを考えてから観察すると、より具体的で面白いアイデアが見つかるかもしれない。

スーパーで食材を手にしたら、カゴに入れる前にぜひ生き物の仕組みを観察してみてほしい。

 

 

参考文献

 

 

【著者紹介】橘 悟(たちばな さとる)

京都大学大学院 地球環境学堂 研究員
バイオミメティクスワーククリエイト 代表   

X(Twitter)では記事公開や研究成果の報告などバイオミメティクス関連情報を呟きます。
パナソニック株式会社にて社会人経験を積んだのち、バイオミメティクスの研究を行うために退社し再びアカデミアの道に進む。企業への技術指導など、バイオミメティクスのアウトリーチ活動も積極的に実施。
※参考「学びコーディネーターによる出前授業」
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。バイオミメティクスの紹介や生物提案など相談可能。

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