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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々Vtuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、炭素原子同士の間では初となる「1電子結合」の実証に関する解説だよ![注1] え?なにそれって思う人も多いかもだけど、実はこれ、共有結合に関して振り返って考えてみると、とてもスゴい実験的成果なんだよね!
とはいえ、そもそも共有結合ってなんだっけ?っていう感じで、化学結合の基本を忘れちゃった人も多いと思うから、その辺も含めてまずは基本から説明していこうと思うんだよ。
CONTENTS
化学の授業において、原子はその種類によって他の原子と結合するための“手”を持っており、手の本数によって他の原子と結合できる数が決まっている、というのは習った覚えがないかな?この手に相当するのは、原子の外側にある電子 (価電子) になるよ。
価電子の数は原子によって異なるけど、お互いに価電子を出し合って共有すると、強力な化学結合が成立するんだよね。異なる原子間で電子を共有することから、このような化学結合は「共有結合」と呼ばれるよ。この時、電子を手に喩えるなら、共有結合はお互いに握手をしているということができるんだよね。
例えば水素原子同士は、お互いに1個ずつ電子を出し合い、2個1対の共有結合で水素分子を形成するよ。握手は2個1対の手で成立することを考えれば、握手の喩えが出てくるのもうなづけるよね。共有結合は多種多様な化学結合の中でも極めて一般的で、学校の授業でもイオン結合と並んで習うものだと思うんだよね。
では、この共有結合を深掘りするとどうなるかと言うと、結構奥深いよ。化学についてより深く知ろうとすると、次に出てくるのは共有結合の種類だね。異なる原子同士が共有結合で握手をする場合、握手する手は1対の「単結合」のみとは限らず、2対である「二重結合」や、3対である「三重結合」の場合もあるんだよね。
ここで重要なのは、電子の数は単結合なら2個、二重結合なら4個、三重結合なら6個と偶数個なこと。まぁ確かに握手をするには偶数の手じゃないと成立しないからね。このような偶数個の電子で成立する「電子対」という考えは、1916年にギルバート・ニュートン・ルイス (1875 - 1946) が提唱したよ。

図2: 共有結合は電子対でなくても、1個の電子でも成立する「1電子結合」が1931年に提唱されていて、いくつかの実例も報告されているよ。ただあまりにも不安定な化学結合なので、炭素-炭素間で1電子結合ができるのかどうかは未実証の状態だったよ。
しかしもっと深掘りしてみると、共有結合は電子対が無ければ絶対成立しないわけではないことが分かっているんだよね。例えば、さっきあげた水素分子から、1個電子を取り去ったらどうなるかな?出し合う電子の合計が2個から1個になってしまうので、これだと電子対が作れず、共有結合が切れちゃうのかな?
実は、これでも相変わらず共有結合は維持されているんだよね!共有する電子の数が2個から1個に減っているので、確かに不安定な状態にはなるものの、それでも電子を1個共有する共有結合は維持されているよ。このような、1個だけ電子を共有する結合を「1電子結合」と呼ぶんだよね。
1個の電子でも共有結合が成立するという考えは、1931年にライナス・カール・ポーリング (1901 - 1994) が初めて提唱したんだよね。価電子が電子対を形成できないという、少し“手が足りない”状態でも共有結合が成立するという考えは、実はかなり多くの分子で見つかっており、重要な概念になっているんだよね。
ただ、やっぱり電子対による普通の共有結合と比べれば、電子対ではない共有結合は弱くなっちゃうんだよね。1電子結合はかなり不安定な例が多く、特に炭素を含む有機化合物では1電子結合の化合物を合成するのはかなり苦労したよ。そして炭素原子と炭素原子との間の1電子結合は、未実証の例の1つとして挙げられていたよ。
無数にある有機化合物は、共有結合の性質が変化することによって実に多種多様な性質を示していることを考えると、炭素原子同士が1電子結合で共有結合すればますます面白いことになりそう、と予測できるんだよね。ただこれまで、合成したよと言える確実な例はなかったよ。
炭素-炭素間の1電子結合はあまりにも不安定なので、仮に合成できたとしてもすぐに電子を手放すかどこかから引き寄せ、通常の電子対による共有結合に変化するんだよね。うまくこれを防ぎ、寿命の長い1電子結合ができれば、合成したよというのを実験的に確かめられるかもしれない、けど今までそれができなかったんだよね。

図3: 今回研究を行った島尻氏らは、2018年に「最長の炭素-炭素間単結合」の合成に成功していたんだよね。この時に合成された分子は「分子内コア-シェル構造」を構築しているので、これによって1電子結合も安定してできるんじゃない?と考えたわけ。 (画像引用元番号③)
北海道大学大学院理学研究院の島尻拓哉氏 (当時) 、川口聡貴氏、鈴木孝紀氏、および石垣侑祐氏の研究チームが発表したのは、そんな未達成だった炭素-炭素間の1電子結合の合成報告なんだよね!しかもこれ、かなり安定なので、実験的に測定して実際に1電子結合であることが証明できたという点が大きいんだよね!
といっても、この研究結果も一足飛びでできたわけじゃないよ。特に基盤となっているのは、同じく島尻氏らが2018年に達成した、これまでで最も長い炭素原子同士の単結合なんだよね。この研究で合成された単結合の長さは1.806Å (180.6pm) にも達し、これは通常の1.54Å (154pm) より17%も長いんだよね!
たった17%と侮るなかれ。炭素-炭素間の単結合の長さは1.803Å (180.3pm) が限界だとする理論もあり、わずかながらもそれを超えているということは、一部の理論に修正を迫る発見なんだよね!そして同時に、一部の理論が存在を否定してしまうほど不安定な化学結合が、実際に測定できるほど長時間安定して存在するのも重要だよ。
この結合長を達成した有機化合物の分子式は図にある通りだよ。細かい説明は割愛するけど、この分子の構造は、長くて不安定な単結合の周囲を別の分子が覆うことで、不安定な結合が壊れないように保護し、安定化させているんだよね。
島尻氏らは、このような不安定なコアを周りのシェルが保護する構造を「分子内コア-シェル構造」と呼んでいるよ。今回の研究はまさにその延長にあり、分子内コア-シェル構造なら、最長の単結合より不安定な1電子結合も保護できるんじゃないか?と考えたわけ。
解析の結果、この化合物から電子を1個だけ取り出す1電子酸化を行うことで、炭素-炭素間長い単結合が1電子結合へと変化することが分かったので、今度は実際にやってみたんだよね。すると、ヨウ素による1電子酸化により、炭素-炭素間の長い単結合がもっと長い1電子結合に変化したんだよ!
合成された炭素-炭素間の1電子結合の長さは2.921±0.003Å (292.1±0.3pm / 100K下にて) と、普通の単結合の2倍近い長さまで伸びている、めっちゃ長い共有結合だよ!これほど長いにも関わらず、結晶を100℃以上に加熱したり、溶液をそのまま放置しても安定な状態を保ったんだよね。
そしてこれだけ安定なので、単結晶X線構造解析、ラマン分光法、紫外可視近赤外光吸収分光法と、様々な分析方法で1電子結合が存在することと、詳細な性質を測ることができたんだよね。論文で「直接的な証拠 (Direct evidence)」と書けるくらい確かな証拠を積み上げられるほど安定している、というのも重要な話だよ。
島尻氏らによる今回の実験は、ポーリングによる提唱からほぼ100年かけて、炭素-炭素間でも比較的安定した1電子結合が可能であることを証明したんだよね。「電子対でなくても、1個の電子さえ共有できれば、比較的安定な共有結合は成立する」ことを示したという点で、教科書を変えるかもしれない成果だと言えるわけだね~。
ところで今回合成された分子は、1.405µm付近の近赤外線をよく吸収するんだよね。この特性は1電子結合が担っているんだけど、実はこれもポイントだよ。近赤外線を吸収する材料は、最近特に有機化合物で注目されていて、センサーやカメラなどの光学機器、あるいは太陽電池などの材料への応用が期待されているんだよね。
ただ、これまで有機化合物で近赤外線を吸収しようとすると、単結合と二重結合をいくつも使うような、複雑な分子構造が必要だったんだよね。ところが今回合成された分子は、たった1本の1電子結合が近赤外線を吸収するので、分子の大きさが段違いに小さくなるよ。
分子の大きさが小さければ、合成する手順がより簡単になったり、同じ大きさ当たりの吸収強度を高められたりなどのメリットがあるんだよね。今回の発見、単に100年分の宿題を片付けただけじゃなく、この先の応用があるかもしれない、というのは面白いところだよね!
1電子結合が予測されているものの、未だに未証明な化合物はいくつもあるし、まだ詳しく調べられていないだけで安定な1電子結合を持つ化合物がまだまだあるかもしれない、と考えれば、新たに広がった共有結合の概念から、新しい世界を広げることができるかもしれない、という点で今回の研究はその先も気になる感じだよ!
[注1] 1電子結合
論文著者によるプレスリリースでは「one-electron σ-bond」を「一電子結合」と、全て漢字表記としていますが、本解説記事では視認性を優先し「1電子結合」と表記します。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)