LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!

医療技術の発展に伴い、平均寿命は年々高くなっています。一方で、高齢化、介護問題などの社会問題を背景として、健康寿命の延長がこれまで以上に重要視されています。アルツハイマー病をはじめとした認知症は健康寿命を脅かす病の一つであり、罹患者の晩年の経済活動を脅かすだけでなく、家族にも大きな精神的負荷をもたらす深刻な認知機能疾患です。これまで、治療に向けた様々なアプローチがなされているものの、一度発症したアルツハイマー型認知症を治療するのは難しく、失われた脳細胞が再生することはありません。大阪市立大学の富山教授はこの課題を解決すべく、2社のベンチャー企業を立ち上げました。今回はその一社である株式会社メディラボRFPについて紹介していただきます。

アルツハイマー型認知症は神経細胞の死滅により脳が萎縮した段階で認知機能に障害が発生し、初めて発病が認識される。心情的な理由からも通院、相談が遅れることも多く、検査の時点ではかなり進行しているケースが多い病気です。
しかし発症の5年程度前にはすでに脳の萎縮は始まっており、さらに20年程前から病を引き起こす兆候は脳内で密かに進行しています。発症した時点で進行を緩和する治療法はあるものの、それまでに死滅した脳細胞は再生することがなく、認知機能が回復することはありません。つまり、アルツハイマー型認知症の問題を根本的に解決するためには神経細胞が死滅し認知機能が低下する前から予防することが重要なのです。

図1.アルツハイマー病患者の脳で起こっていること
上記の通り、発症後相当時間経過後に治療を開始しても認知機能の完全回復、すなわち根治することは大変困難です。従って「認知症治療」ではなく「認知症予防」というアプローチが大変重要になります。では認知症予防にはどういったアプローチが有効なのか?まずはアルツハイマー型認知症の原因からお話しましょう。以前はアルツハイマー型認知症の発症は老人斑形成が原因とされていました。実際に発症患者の脳を検査すると多数の老人斑が見られます。
また、タウによる神経原線維変化も多数見られ、これらが神経細胞の死、脳の萎縮を招くということがわかっています。現在ではそれらの一連の症状を引き起こす原因がアミロイドβ(略称:Aβ)と呼ばれるたんぱく質の蓄積が原因であるということがわかっています。つまり、Aβ蓄積を抑制することが、アルツハイマー型の認知症予防につながるのです。

図2.Aβが凝集して老人斑ができる
さて、アルツハイマー型認知症を根本的に予防するためのアプローチについてはわかりましたが、予防薬として広く一般に受け入れられるためにはいくつかの条件をクリアする必要があります。富山教授はその条件を以下の5つと定めました。
①安全であること
②安価であること
③自分自身で服用可能であること
④脳への移行性が高いこと
⑤原因たんぱく質の「オリゴマー」に有効であること
まず、安全であることは言うまでもありません。例え高い効果が見込めたとしても、副作用が深刻であれば継続して利用することが難しいからです。さらに一般に広く使用されるためにはコストが現実的で、日々の生活で医者や看護師の補助を受けずに自身で服用可能であることも重要です。そして何より脳に対しての十分な効果がなければいけません。ここで言う十分な効果というのが、「オリゴマー」に有効であるということなのです。
実はAβタンパク質はそれぞれ独立した「モノマー」と呼ばれる状態から、いくつかの「モノマー」が集合した「オリゴマー」という状態を形成することが知られています。「オリゴマー」となったAβこそがアルツハイマー型認知症を引き起こす原因であり、この「オリゴマー」にまで効果を発揮するかどうかが認知症予防薬として大変重要な要素なのです。
条件や目標を設定し、十分な薬効が期待される化学物質の探索が始まりました。現在はAIの活用などで探索技術も進化しつつありますが、それでも無限にある化学物質の組み合わせから上記の5つの条件を満たす物質を見出すことは容易ではありません。膨大な情報と忍耐が必要な作業です。そんな中、ある以外な症例が認知症予防薬のヒントになりました。
それはアルツハイマー型認知症とは全く違うハンセン病患者に認知症が少なく、老人斑も少ないという報告でした。このことからハンセン病薬の中にもしかしたらAβのオリゴマー化を阻害するものがあるのではないか?仮説を元に詳細な検証を行った結果、効果が明らかになった物質こそ、後に社名のRFPにもなるリファンピシンだったのです。

図3. リファンピシンの化学構造
ようやく見出した予防薬成分、しかしリファンピシンには副作用があります。継続的摂取により肝機能障害などを引き起こす可能性があるのです。これでは認知症予防薬としての5条件を満たすことはできません。検討に検討を重ねた結果、「飲み薬を目指さない」という結論に至りました。経口摂取せず、確実に脳に到達させる。たどり着いた方法が経鼻投与でした。
鼻からの投与であれば脳への移行性が高く、より安全に、より少量の摂取で効果が期待できるのではないか?検証の結果、有効性、安全性、脳移行性、など全ての項目で経鼻投与の優位性が確認されました。ようやく条件を満たす認知症予防薬にたどり着いたのです。現在、さらに改良した認知症予防点鼻薬ML1808(レスベラトロールとの合剤)を創出し、治験に向けた準備を進めています。

今回は認知症という誰にでも関わり得る深刻な社会問題の解決を目指す大学発ベンチャー企業、株式会社メディラボRFPをご紹介いたしました。同社は新薬のグローバルでの開発に向け、米国マサチューセッツ州に子会社を設立しました。2022年にシリーズA調達予定のまさにこれからの企業です。事業化に向けたパートナーも随時募集しております。ご興味をお持ちになった方はぜひお気軽にお問合せください。
アルツハイマー病の進行速度を決める原因を求めて(1月5日号 Science Translational Medicine 掲載論文)