【事例紹介】画像AIを有効に活用したロボットシステム

2025.04.15

こんにちは!ラボオートメーションの導入コンサルティングを行っております、MIRA山本です。これまで10回に渡りましてラボオートメーションに関する連載をしておりました。それらの記事経由で弊社のHPなどにお問い合わせをいただく機会もございました。ありがとうございます。

これまではロボティクスやAIに関する活用、自動化を進めていくうえでの見解を執筆しておりました。今回は実際に導入された装置での活用例について紹介いたします。

プロセス研究における合成装置への着手

製薬研究のひとつに合成化学があります。合成化学はさらに初期の医薬品候補となる化合物を見つけだす「創薬研究」と、それをより多くの患者の方へ届けるための物量を作れるようにするための道筋を考える「プロセス研究」にわかれます。企業や取り扱う物質によってプロセス研究者でも数量が変わってきますが、おおむね数g~数十gスケールの実験は必須の検討事項と考えてよいかと思います。

その通り道となるスケールアップ実験では決められた操作を、製造時間を考慮したタイムスケジュールで実施する必要があり、多くの時間を要します。

今回の事例:中量有機合成装置

今回のラボオートメーション事例では

  • 作業そのものが多岐にわたる
  • 各工程において専用の器具や分析器はあるが、作業途中で人が呼び戻される機会が多い

という理由で、連続した自由な時間が与えられにくいという課題がありました。

そこで、一連の操作を一部運用時間、順序の見直しもふくめ自動化させることを目的として取り組みました。
合成を行うリアクターを中心に配して、主な要素としては以下のような機能を実装しました。

  • 液体試薬を添加する機能
  • 高反応性試薬の滴下する機能
  • 温度調節機能
  • 攪拌機能
  • サンプリングする機能
  • 分液操作機能
  • 減圧濃縮する機能

そんな中、それぞれ現存の専用機や器具、ロボットアーム、センサー、電磁弁などの組み合わせていく中で非常に大きな問題が発生しました。合成時に現れる液体の分離状況を観察する段階です。

界面を画像AIで検知する

各試薬を添加・滴下して攪拌していきますと、液中に分離があらわれます。
人間が作業するときにはその界面を観察しながら、窯底にあるトの字菅にあるレボルバーで開閉して分離するという作業を行っていますが、自動化に適するため、シャフトで上下するようなオリジナルの窯底弁を製作し、それに対応させました。

初期テスト時にダミーで分離を再現した際は割と綺麗に界面が分離しているもので観察していましたが、実際の分離作業で問題が発生しました。使用試薬の性質、攪拌状況によって界面がクリアにあらわれなかったのです。斑な状態になったりグラデーションになったり、はたまた泡が多くあらわれ、界面を検知しにくくなるという現象が発生しました。

カメラ位置や照明、背景などのメカニカルの工夫でもある程度の改善は見られますが、そこから先を解決しようとすために画像AIを活用することにしました。

画像AIの場合は

  1. 色々な状況を作り出す
  2. それを画像に収める
  3. それぞれの画像を人間が見る
  4. 人間がアノテーションツールを使用して界面を線でなぞる
  5. 上記データを溜め込む
  6. 上記データを学習して画像AIエンジンを作る

というのが大まかな流れです。

今回の事例における画像AI部分は「医薬医療シーンにおける課題をAI画像解析で解決していく」ということでAIベンチャーのエルピクセル株式会社に協力いただきました。

AIベンチャーを選ぶ際のポイント

ディープラーニングが2006年に発明され、2010年前半から活用が広がり、そして2010年代半ばにはAIベンチャーが多く現れました。そこから急速に色々なところで活用がはじまり、伸展して上場した企業も多く誕生しました。

一方で、PoCで行き詰まり、忸怩たる思いをしたユーザが多く出てしまったことも否めません。特に工場などでの自動化用途では苦戦を強いられたケースが多かったと考えます。

理由として、

  • 品質管理におけるミスへの許容が難しいこと
  • リアルタイム性の追求に対する理解が追い付かなかったこと
  • モノを物理的に扱うにあたってはノイズがとても多いこと
  • シミュレーションでは追い付かないものに対する理解が足りていなかったこと

等があげられます。

ここで、

  • より厳しい環境を想定して開発が出来たか
  • チャンピオンデータ(都合のよい環境)だけで開発をしていなかったか
  • 工場内の一般ユーザが使うことを想定できたか

というところが大きな差になったと思います。ともすれば学術的に寄りすぎて、現実解との乖離が出てしまったことが行き詰まった理由になっていたのだと考えられます。(近年その課題を解決したり、そのときの不満点をむしろ解決訴求としてあげられているAIベンチャーも出てきたのは良い傾向だと思います)

そうなると、

  • その業界・アプリケーションへの理解が高いこと
  • 実装置として使いきるための精度追求が出来ること
  • ノイズの多いリアルの世界での活用を理解していること

が良いAIベンチャーを選ぶポイントになると考えます。

画像AIの開発により実現したこと

幸いエルピクセル株式会社はライフサイエンス領域への専門性が高くラボラトリーへの造詣が深いため、何のために使うのか理解がなされていました。またアルゴリズムも自社で開発しているため、単にライブラリの何かを使うよりも追い込みがなされていました。それによってしっかりと悪い条件の中での検知可能な画像AIを開発していただけました。

泡立ちが見られるもの、リアクターやシャフト分に内部付着したものなど界面観察の難しいもの

また、窯底シャフト部分だけでなく、リアクター全体の観察も行い、カメラで見ながら液量をリアルタイムで測定することも出来るようになりました。これにより、減圧濃縮においても自動動作の実現し、粉体や蒸気、泡などのノイズがある中でも認識出来るようになりました。

さらに

  • 高額な専用カメラでなくても良いこと
  • 全体観察をしながら測定も出来るということ
  • カメラ数を少なくかつ安価な装置構成にすること

が実現できました。

まとめ

今回の事例はまさにAIとロボティクスを両方活用していたとともに、研究者のクリエイティブな時間への寄与に貢献がされた良い事例になっていたのではないかと思います。AIはユーザのニーズに応じて生み出されるマーケットインプロダクトとも言えます。そして実験も含め意外なほど身近な活用が可能になりつつあります。「こんなことってAIで実現可能だろうか」というところからでも気軽に相談してみると色々なラボシーンでの自動化活路が開けると思います。私としましてもロボットやAIでラボオートメーションが進展していくことは本当に嬉しいです。

 

※今回の記事は実際に活用された事例からということでエルピクセル株式会社の許可を得て執筆させて頂きました。同社のご協力に感謝いたします。

エルピクセル株式会社

noteによる製薬会社とのインタビュー記事

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【著者紹介】山本 圭介

株式会社MIRA 代表取締役。ロボットメーカー、AIベンチャーにおける営業・事業企画・新規事業開発を経て、よりユーザーサイドにおけるオーダーメイド型の導入支援が行えればと考え株式会社MIRAを設立。
現在、医薬品メーカー等をはじめとした研究者の実験作業や分析、品質管理などで行われる各工程における産業用ロボット、協働ロボットやAIを組み込んだシステムの活用可能性の検討から構想支援、導入支援等のコンサルティングを行っています。一方で他メーカーのロボット関連製品やAIサービスの企画支援や営業支援、また、ユーザーに向けたロボットやAIに関する勉強会の開催やセミナー登壇を行っています。

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近年研究や実験作業におけるシーンでもロボット等を用いた「自動化」の流れが強くなってきていると感じています。
このシリーズでは、工場だけでなく研究所等の様々な作業のロボット導入・DX導入に携わってきた私、MIRAの山本が、ラボの自動化・ラボラトリーオートメーションをテーマに、ロボットやAIの活用について楽しく解説していきます。