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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、「核融合炉を使えば採算の合う錬金術が可能」だとする主張の受け止め方についての解説だよ。これを見た時、「錬金術と言えば不可能の象徴じゃないの?」とか「錬金術は理屈的には可能だけど採算が合わないのでは?」とか、色んな反応があると思うのよね。
この話は、シミュレーション研究が掲載されたプレプリントをスタートアップ企業が公開したことに基づいているよ。内容的には全くの荒唐無稽というほどではないものの、今すぐ実現する話でもないし、その他にも受け止め方には注意しないといけない点がいくつかあるんだよね。
今回の解説記事は、いつも以上に研究内容の受け止めに注意しなければならず、覆る可能性が高い内容であることに留意しないといけないよ。その上で、どう受け止めたらいいのかを解説するね。
CONTENTS
価値の低い汎用的な金属 (卑金属) から価値の高い希少な金属 (貴金属) を得る「錬金術」の研究は、古代から中世にかけて熱心に研究されてきたよ。残念ながら、化学反応での錬金術は不可能なので、メインの目的は失敗したけど、化学の基礎を築いたという点では、科学史上重要な立ち位置となるよ。
ところで、なぜ化学反応で錬金術が不可能なのか。原子の種類を変えるには、原子の中心部にある「原子核」に、非常に高いエネルギーを入れないといけないけど、化学反応で投入可能なエネルギーは小さすぎて、何も変化を起こすことができない、というのが背景にあるよ。
錬金術の時代には理解されていなかったけど、現代では、原子の中心に「原子核」があり、これが原子の性質を決定する重要な要素だと分かっているよ。原子核は「陽子」と「中性子」が何個かくっ付いていて、陽子の数は原子の化学的性質、つまりは元素の種類を決定するのに重要な要素となっているよ[注1]。
一方で原子核を調べてみると、陽子の数は一緒でも中性子の数が異なるものがあるんだよね。これらの違いを「同位体」と呼ぶよ。同位体の違いは原子核の安定性にも関わっており、この後話す、核反応による“錬金術”にも重要な役割を果たしているよ。
20世紀に入ると、原子核に高速の陽子や中性子をぶつける核反応を行うことで、原子核に含まれる陽子の数を変える、つまり原子の種類を変えることは不可能じゃないことが分かったんだよね。1934年に初めて実現されて以来、様々な核反応で原子の種類を変えることに成功しており、自然界に全く存在しない原子核を作ることもあるよ。
しかし、原子核の種類を変更することから、比喩的に“錬金術”と言われるものの、実際には核反応によって採算の合う貴金属生産をすることはできないと考えられてきたよ。むしろ、“錬金術”という喩えに引っ張られ、お金儲けが可能だと誤解する反応を見ることも珍しいので、誤解を招く喩え表現と言えるかもしれないね。
目に見えるほど大量の物質を合成するには、かなりのエネルギーを投入して核反応を維持しないといけないよ。そのエネルギーコストは最終的には電気代に跳ね返ってくるよ。核反応による“錬金術”は、苦労して貴金属を得ても、貴金属の価値自体よりも電気代の方がかかるので、お金儲けには全く向かない、と見なされてきたよ。
しかし2025年7月17日に、アメリカのスタートアップ企業「Marathon Fusion」社が、工夫すれば貴金属の価値でコストの元を取れる錬金術が可能だという主張を展開し、大きな話題を呼んだんだよね。同社のAdam Rutkowski氏、Jake Harter氏、Jason Parisi氏がプレプリントを書いており、arXivに主張の詳細が掲載されているよ。
まず、この錬金術には核融合炉 (トカマク型) が必要という前提があるよ。核融合発電はまだ実現していないけど、可能性があるとすれば重水素 (デューテリウム (2H・D) ) と三重水素 (トリチウム (3H・T) ) を核融合させる「DT反応」を使った核融合発電だろう、と考えられているんだよね。
そして肝心の金は、重金属「水銀」を原料に、核融合炉で発生する中性子線を使うことで合成する、と考えているんだよね。その大雑把な流れは下のようになるんだけど、詳細は順を追って説明するね。
まずこのアイデアは、水銀の同位体の1つである水銀198に中性子をぶつけて、最終的に得たいものである金197を合成すると言うものなんだよね。この核反応自体は可能なんだけど、採算が合うほど大量の金を合成するには、水銀に対してかなり大量の中性子線を当て続けないといけないんだよね。
そこで、大量の中性子線を放出する核融合炉の周りを囲むように水銀の層を配置し、中性子を浴びせようじゃないかというのが今回の考えの要だよ。このアイデアは、リチウム化合物で核融合炉の周りを囲み、冷却材のついでにリチウムと中性子線の反応で三重水素をついでに合成してしまおうとする試みの応用なんだよね[注2]。
Marathon Fusion社は、水銀から金を合成するスピードをシミュレーションしてみた結果、20億ワットの熱量発生で、1年あたり2トンの金を生産することができる、と主張しているんだよね!これは現在の金の価値を考えると、十分に採算が合うだろう、と主張しているのよ。
ただ、この話にはいくつかの注意点があるんだよね。もちろん、この研究結果は第三者がチェックする前のプレプリントであり、研究機関ではなくスタートアップ企業が主張したものだ、というのは、研究結果の妥当性以前の問題として考慮しないといけないんだけど、これ以外にも問題があるよ。
まず、誰もが一番真っ先に思いつく問題点として、まだ核融合炉は構想段階であり、運転段階に入ったものは1つもないというのが致命的だね。もちろん、核融合発電は火力や原子力に代わる新たなエネルギー源として注目されており、将来的には開発されるかもだけど、錬金術まで持っていくには何十年もかかるだろうね。
また、仮に核融合発電が実現したとしても、この方法で本当に効率的に水銀から金への錬金術が実現するかどうかは分からないよ。今回はあくまでシミュレーション研究でしかないからね。もちろん、小さな規模だったら、この核反応が起きるのは事実なので、完全な事実無根とまでは言えないよ。
でも、いざやろうとすれば、巨大な核融合炉の周りに大量の水銀を蓄えたブランケットを巻き付けるという、核融合発電の研究を行っている人でも未知な状況を作らないといけないよ。スケールアップするとシミュレーション通りにいかないことはよくある話なので、これはやってみなきゃ分からない話になるよ。
そして、この錬金術では他の放射性同位体も不純物として出てくるので、合成した金から放射性物質が十分に消えるまでの冷却期間が必要になるんだよね。これが結構長くて、安全性を担保できる最低レベルになるまで6.8年、特別な制約なく一般流通しても問題なくなるレベルになるまで17.7年はかかるよ。
ただまぁ、金というのは実物を使うよりも、資産として保管しているものの方が多いので、それくらい保管するのは大したコストではないとMarathon Fusion社は考えているんだよね。あるいは初期コストの回収のために売り出す際、放射性物質はないけど不純物が含まれているとして、安い価格で売り出すことも考えているよ。
なお、原料となる水銀198の濃度を挙げれば上げるほど、保管期間を短くすることができるよ。実際、今回の研究では、水銀198の同位体濃度を90%で計算しているけど、天然での水銀198の濃度は10%を切っているので、同位体濃縮が必要になってくるよ。この同位体濃縮も一般的にはコストがかかるんだよね。
ただ、この問題は他の問題と比べると解決しやすいと考えられるよ。水銀は、同位体に合わせた特定の波長の光を当て、酸素と結合させる光化学反応で同位体濃縮ができるので、比較的低コストで99%以上の濃縮率を達成することができるんだよね。加えて、電源はそれこそ核融合発電で賄えばいいんだから、それほど高くはならないよ。
ここからは私の意見を挟むよ。まず今回の研究は、まだシミュレーション段階なのは注意だよ。理屈上は錬金術が可能だという意味で驚きだけど、本当に実現するための障害はかなり大きいので、実現する可能性はまだ低いと言えるし、仮に実現する可能性があるとしても、その判断ができるのは何年も先になってくるだろうね。
何より、核融合炉が開発されなければ始まらない話だというのが致命的だね。もちろん、核融合発電が実現すればエネルギー革命が起こるだろうけど、それに水銀のブランケットを巻きつけた時にどう運転するのかは未知なのよね。これは、核融合炉の開発とは別に解決しないといけない問題になってくるよ。
まだ実現していない核融合炉を前提に、炉の周りを水銀で囲むという誰も考えたことのない事を試してみる。しかも、うまいこと金ができても最大17年は触ることができない。これを、スタートアップ企業が主張している……まぁ何か信じられない、胡散臭いと感じちゃう意見があるのもムリもないと思うのよ。
ただ、水俣条約などで使い道がなく、厄介な有害物である水銀を、利用価値のある金に変換できるなら、これほどありがたいことはないのよね。金の採掘はそれ自体が相当の環境負荷を招いているから、核融合発電というクリーンエネルギーのついでに環境負荷の少ない金を得られる意味でも、この主張は興味深いよ。
個人的には今回の錬金術の主張は、文化的にも興味深いと思うのよね。水銀は常温で唯一の液体金属であることから、古代から注目され、錬金術の時代でもよく使われたよ。そんな物質が現代の錬金術の原料となり金を生み出すという意味では、古の錬金術師の夢がついに叶ったと言えるかもしれないね。
[注1] 陽子の数が元素を決定
厳密には、化学反応の要は電子であるため、電子の数が元素の種類を決定します。しかし、電子の数は陽子の数によって決定されます。また、核反応では原子核が電子を失っていることもしばしばあるため、直接的には化学反応に絡まない陽子の数が元素の種類を決定する、と呼ばれます。 本文に戻る
[注2] リチウムによる三重水素の合成
リチウム6 (6Li) に中性子線を照射すると、核分裂反応によって三重水素を生成します。三重水素を天然物質から抽出するのはコスト的に非現実的であるため、このような方法で三重水素を製造し、核融合発電の燃料にすることが検討されています。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)