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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、固体の金は1万9000℃でも融けないことがあるのを実験的に確かめたという研究結果だよ。この温度は普段の融点の14倍に当たるけど、1秒あたり6000兆℃というとんでもない速度で加熱すると、液体にならず固体状態を維持するみたいなんだよね。
前提として、固体にはどう工夫しても融けて液体になってしまうという理論上の存在限界「エントロピー破局」が予測されていたんだよね。しかし今回の結果はそのエントロピー破局を避けていることから、急速で加熱すると理論上の存在限界を超えて存在し、もしかすると限界自体が無いかもしれないと示唆されたんだよね。
今回の研究結果は、信じられないほどの速度で加熱したこともすごいけど、超高温となった金が固体であることを確かめたこと、そして何より間接的な推定ではなく、直接的に温度を測定ができたこともすごいんだよね!測定方法が洗練されたからこそ、ビックリする結果が得られたと言えるよ。
※この記事で使用されている一部の画像は、筆頭著者のThomas G. Whiteさんに直接連絡をし、提供いただいた資料から、許可を得た上で使用しています。許可ありがとうございます!
CONTENTS
水は普通なら100℃で沸騰するけど、ゆっくり均一に加熱すると、100℃を上回っても沸騰が始まらないことがあるんだよね。これは「過熱」と呼ばれていて、0℃を下回っても凍らない「過冷却」の逆の現象と言えるよ。過熱状態の水は、衝撃などを与えると突然沸騰が始まる突沸が起きやすく、高温の水が飛び散って危険なんだよね。
今の話は、室温で液体である水を例にしたから、過熱は液体と気体の間、過冷却は液体と固体の間で話をしたけど、実際には過熱も過冷却も、固体・液体・気体の間で相転移をするどの境界でも起こるから、過冷却状態の気体とか、過熱状態の固体なども存在するんだよね。

1948年にカウズマンは、過熱固体のエントロピーが液体のエントロピーと等しくなる「エントロピー破局」の存在を予言したよ。これは簡単に言えば、固体が存在できる限界であり、これより高温では固体は必ず融けてしまうことを意味するよ。 (画像引用元番号④)
ではここで、次の疑問を投げてみよう。「固体はどこまで融点 (融ける温度) を超えて過熱できるのか」、言い換えれば「固体はどれくらいの温度まで存在できるのか」だね。この疑問に対して、ウォルター・J・カウズマン (1916-2009) は、1948年に出版された論文にて興味深い可能性を提示したよ。
固体と液体をそれぞれ原子のスケールで見てみると、固体は原子が規則正しく並んで動かないのに対し、液体は原子の配置がランダムで常に動き回っているよね。これを熱力学的に見れば、液体は固体と比べて「エントロピー」が高い状態だと見ることができるよ。
1948年にカウズマンは「過熱状態の固体[注1]のエントロピーが、同じ温度の液体のエントロピーよりも高くなる温度がある」という説を唱えたんだよね。カウズマンは、固体の方が液体よりもエントロピーが高くなるという逆転状態が起きると、固体はその限界温度より上では存在できず、必ず液体になると考えたよ。
カウズマンは、エントロピーを理由として固体が存在できない限界点を「エントロピー破局 (Entropy Catastrophe)」と呼び、その限界は融点の約3倍だと考えたんだよね。しかしこのエントロピー破局、今までは理論的な予測のままで、実験的には確かめられていなかったんだよね。これは主に3つの理由があるよ。
理由の1つ目は、エントロピー破局の手前側に、別の破局点がいくつも予測されていたことだよ。俗に“破局の階層 (Hierarchy of Catastrophes)”と呼ばれるほどの数があり、固体が液体化する理由がエントロピー破局によるものなのか、それとも別の理由によるものなのかを区別する必要があるんだよね。
理由の2つ目は、この“破局の階層”を迎えずに加熱させるのが難しかったこと。融点の数倍の温度まで過熱状態の固体を維持するには、文字通り“融ける暇がない”ほどの急速な過熱が必要なんだけど、これを実現するのが難しかったんだよね。
これまでの研究では、1秒あたりに換算すると数百兆℃という急速な加熱が行われているんだけど、それでも融点の1.4-2.1倍が限界で、確かに限界に近いものの、約3倍という理論予測には届いていないんだよね。この部分が妨げとなり、エントロピー破局というのが本当に起こる現象なのかが確認できていなかったよ。
理由の3つ目は、ある意味最も肝心なことだけど、数千℃を超えるような温度では、きちんとした温度と結晶構造の測定を行うことが難しいという問題があったんだよね。当然ながらそんな温度に耐える温度計は無いので、間接的な方法が取られるんだけど、考えられている方法ではあんまし正確な温度測定ができなかったんだよね。
さらに言えば、結晶構造の測定を行うことが難しいという深刻な問題があったよ。エントロピー破局を証明するには、過熱状態の固体がどれくらいの高温まで存在するのかを示さなければならないよね?つまりは固体であることを測定によって証明しないといけないんだけど、これが中々に難しい、という問題があったんだよね。
ネバダ大学リノ校のThomas G. White氏などの研究チームは、このエントロピー破局が存在するかどうかの実験を行ってみたよ。3つの困難な点を乗り越えるため、White氏らはアメリカ・カリフォルニア州にあるSLAC国立加速器研究所の「線形加速器コヒーレント光源 (LCLS; Linac Coherent Light Source)」を使ったよ。
この装置では、波長400nmの近紫外線の超短パルスレーザーでサンプルを加熱しつつ、X線自由電子レーザーという波長が短くて揃っているレーザーを照射できるんだよね。これにより、超高温に加熱したサンプルの構造を詳細に観測できるんだけど、White氏らはこれにさらに一工夫を加えたよ。

普通の固体の原子の動きはほぼ無視できるけど、超高温の固体の原子の動きはかなり素早いよ。これにX線を当てれば、ドップラー効果によって波長がズレるため、このズレから温度を正確に測定することができるよ。 (画像引用元番号⑨)
X線を照射するのは、加熱されたサンプルの原子の並びがどのようになるのかを調べるためなんだけど、White氏らは原子に衝突したX線の波長を単純に見るんじゃなくて、原子の動きによって波長が変化する「ドップラー効果[注2]」も考慮して推定を行ったんだよね。
固体での原子の動きは、通常は無視できるほど遅いけど、超高温に加熱すると、X線の波長をずらすほどになるんだよね。ドップラー効果による波長のズレから、固体の温度を正確に測定することができるんだよね。そして原子の配列から、サンプルが固体の状態なのか、それとも液体なのかを調べることができるよ。

1秒あたり6000兆℃という急速加熱をすると、金は1万9000℃でも固体であったことが示されたよ!これは融点の14倍に相当し、エントロピー破局によって固体が存在できなくなると予測される融点の3倍を大幅に超えているよ! (画像引用元番号⑩)
今回の実験では、厚さ50nm (0.00005mm) の金箔を用意し、LCLS内で20兆分の1秒 (50フェムト秒) の近紫外超短パルスレーザーを照射する実験を行ったよ。1回の実験で得られる測定データはわずかであり、実験は根気強く繰り返されたんだよね。これにより、金箔は最大で1秒あたり6000兆℃という極端な加熱を受けたと推定されるよ。
実験の結果、超高温な状態となった金の温度を直接測定することに成功したよ。これほど高温での直接的な温度測定は世界初だよ!驚くべきことに、金の融点 (1064℃ / 1337K) のほぼ14倍に当たる約1万9000℃ (19000±4000K) に加熱しても、金は固体だったんだよね!つまりは、融けたことを示す証拠が見つからなかったんだよ!
復習をすると、エントロピー破局やその他の“破局の階層”に関する理論を元にすると、融点の約3倍の温度が過熱された固体の存在限界と観られていたんだよね。ところが今回の実験結果は、融点の3倍どころか14倍の高温でも固体は融けないことが示されたので、あまりにも大きな差が生じることとなったよ。
この違いはなぜ生じたのか?White氏らは、加熱速度が極端に速いことが理由であると考えているよ。1秒あたり6000兆℃という極端な加熱速度では、金は文字通り“融ける暇が無くなる”ほど急激に加熱されるため、理論的なエントロピー破局を迎えずに固体を維持し続けるようなんだよね。
実際、White氏らが、結晶格子の膨張や、電子が持てる熱の容量を考慮に計算してみると、過熱状態の固体のエントロピーが、同じ温度の液体のエントロピーに対して小さくなり続け、エントロピー破局を迎えないことがあり得る、ということが示されたんだよね。
今回の研究結果は「極端に急速な加熱を行うと、固体が存在する限界はかなり高温側になるか、もしくは存在の限界が存在せず、決して融けない可能性すらある」ことを示唆しているんだよね。本当にそこまで極端な結果となるかはもう少し研究が必要だけど、少なくとも従来の理論的予測とは違うことが起きているのは確かだよ。
今回の実験結果は「超高温での物質の振る舞いはまだまだ分からないことだらけだ」ということを示すとともに、そのような謎を提起できるだけの正確な測定ができたことがスゴいんだよね。これだけの超高温で、物質が固体であることを証明し、かつ正確な温度測定を行うというのは、従来の視点では難しいことだったからね。
今回の研究手法は、超高温での物質の振る舞いを調べる他の実験でも、何か測定を行うためのコツを提供してくれるかもしれないね。その意味では、測定を行えたこと自体も大きな成果だと言えるよ!
[注1] 過熱状態の固体
正確には、過熱状態でガラス状態となっている固体のエントロピーが、液体のエントロピーと比較されています。ガラス状態なため、ある程度規則性は残されているものの、結晶の固体と比べるとエントロピーが高い状態となっています。 本文に戻る
[注2] ドップラー効果
速度を持つ物体から発せられる波が、その速度の影響で波長がズレる現象。近づいたり遠ざかったりする救急車のサイレンの聞こえ方が典型的な例です。原子の運動の激しさは温度に換算することができるため、原子によって反射されたX線の波長のズレは、原子の運動によるドップラー効果に置き換えることができ、そして原子の運動量から温度が計算できます。 本文に戻る
<原著論文>
<関連研究>
K. Lu & Y. Li.“Homogeneous Nucleation Catastrophe as a Kinetic Stability Limit for Superheated Crystal”. Physical Review Letters, 1998; 80 (20) 4474-4477. DOI: 10.1103/PhysRevLett.80.4474
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)