地震の揺れが金塊を生む? 石英の圧電効果がカギかもしれないと示唆

2024.09.27

地震動と金 サムネ

(画像引用元番号①②③)

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々Vtuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、自然界の金塊成長のカギは地震の揺れかもしれない、というユニークな研究だよ!背景に明るい人だと「金は火山と関連しているから地震と関連しているのは当たり前では?」と思うかもしれないし、私も一瞬そう思ったけど、実は違うんだよね。

 

今回の研究は、金がしばしば「石英」に関連づいていること、石英は造岩鉱物で唯一「圧電効果」が顕著に見られることから、地震の揺れという力が電気を生み出し、電気化学的に金を還元しているんじゃないか?という結構面白い発想が展開されているんだよね。

 

まだ予備的とは言えるけど、これを確かめるための実験も行われているよ。これは気になる研究結果だよね。

 

金は (正確には) どのようにやってくる?

金の発生源

金は地球の奥深くから熱水で運ばれ、岩石の隙間などの脈で成長しているんだよね。ところが、濃度の低い金水溶液である熱水から金が成長する理由は、実は細かい部分に謎があったんだよね。 (画像引用元番号④⑤⑥)

 

」と言えば、古今東西どのような文化圏でも価値を持つものとして知られているよね?金は天然でも単体で産出することが多く、基本的に岩石の割れ目などを満たす形で存在するよ[注1]。特に大きな塊の場合、目で観て分かる大きさの金塊として存在することもよくあるんだよね。

 

金はどこから来るのか?それは主に地下からだよ。誕生したばかりの地球は全体が融けており、マグマの雫みたいな状態だったよ。ただし天体サイズのマグマの雫なので、当然ながら今と同じように重力が働いているんだよね。これにより、物質はその比重で分離される「分化」という現象が起こるよ。

 

用語としてはなじみがないかもだけど、簡単に言えば、水に対して油は浮き、鉄は沈むという話よ。なので比重が極端に重い金は、表面にはあまり残らず、地下の奥深くへと沈んでいくんだよね。もちろん、そんな地下深くに沈んでしまった金を掘り出す技術は、今の人類にはないよ。

 

ただ、地下深くに沈んだ金を直接掘り出すのはムリでも、地球自身が浅いところまで運んでくれるよ。地球内部で発生しているマントルの大循環は、熱と物質を地表へと運ぶんだよね。地下の高温高圧に晒された水は、岩石の中で良く動くと共に、金などの色んな物質を溶かす性質があるよ。

 

そして地表で熱と物質が噴き出す場所と言えば、火山があるね。火山ではマグマだけでなく、地下から熱水も運ばれるよ。岩石の隙間や脈を伝って入り込んできた熱水から金が沈殿したものが、まさに金鉱石として鉱山から掘り出されている。というのが、現在地表に見られる金の見方なんだよね。

 

なので、金が豊富に含まれている場所は、現在または過去に火山活動が見られた場所と一致することがしばしばあるんだよね。量の大小は別にして、岩石の中に金が多く含まれている高品位な脈を持つ鉱山は、火山や熱水が通った場所がそこにある、と考えて大体OKなんだよね。

 

かつて黄金の国ジパングと言われ、 (外国との金銀価値のサヤがあったという側面はあれど) 相当な量の金を掘り出していたかつての日本だけど、それは日本が火山大国であることと無関係ではないんだよね。間接的ではあるけど、金があるのは火山の恵みと言えなくはないよ。

 

地震による圧電効果は金塊を成長させるかも!?

ところがこの、熱水から金が沈殿するという説明は、概ね正しいとはされているけど、大きな謎があるよ。地下深部から供給される熱水に含まれる金の含有量は、水1kgあたり0.001g未満と極めて少ないよ。この低濃度な金の水溶液から、実際に観察される大粒の金塊ができる理由は解明されていないんだよね。

 

石英の圧電効果と金の電気化学的還元

石英は造岩鉱物の中で圧電効果が強い鉱物だよ。地震の揺れという力が働けば、圧電効果で発生した電流が金を電気化学的に還元するんじゃないか?というのが今回の説だよ。 (画像引用元番号③⑦)

 

モナシュ大学のChristopher R. Voisey氏などの研究チームは、この謎に対する面白い回答を見つけたよ。金が付着している脈には、しばしば二酸化ケイ素の結晶である「石英[注2]があるんだけど、この石英の性質が関与しているんじゃないか?と考えているんだよね。

 

石英は、一般的な岩石を構成する造岩鉱物にも数えられる、極めて普通な鉱物だけど、強い「圧電効果」が見られるという点で、他の造岩鉱物と大きく異なる性質を持っているんだよね。圧電効果は、結晶を変形させる力をかけると電気が発生し、逆に電気を流せば力が発生して結晶が変形する、というものだよ。

 

石英の圧電効果はかなり身近で、例えばクォーツ時計は、人工的に合成した石英 (水晶) の結晶に電気を流すことで振動するのを時間に変換することで高精度な時計としているんだよね。

 

圧電効果が見られる鉱物は石英以外にもあるんだけど[注3]、造岩鉱物であるほど豊富に存在するのは石英だけなんだよね。そして自然界には地質活動という、結晶を変形させる力で満ちているよね?ということは、石英で囲まれた脈の中では、圧電効果によって電気が流れ、電気化学的な作用で金が沈殿するということが考えられるよ。

 

地震の揺れを再現した金塊生成実験

地震の揺れを再現した環境で実験を行ったところ、金ナノ粒子はランダムに成長するというより、特定のものが成長しやすいという傾向が見られることが分かったよ! (画像引用元番号①②⑧)

 

そこでVoisey氏らは、圧電効果を発生させるような地学的作用として、地震による揺れが関与しているのではないかと考え、実験を行ったよ。天然および人工的に合成した石英を、金イオンを分離する金化合物 (金の塩化物とチオール化合物) の水溶液に浸し、地震による揺れを再現したモーターによる振動を繰り返し加えてみたんだよ。

 

すると、石英のあちこちに非常に小さな金のナノ粒子が生成されたんだよね。これは石英の圧電効果により電気化学的な反応が発生し、金イオンが単体の金に還元された、とみることができるんだよね。これ自体も新たな発見だけど、さらに実験を進めるとさらに面白いことが分かったよ。

 

実験を繰り返していくと、金ナノ粒子は石英にランダムに付着するのではなく、特定の金ナノ粒子に付着する傾向にあることが分かったんだよね!これにより疑六角形の金の結晶が発生したものもあるんだよね。Voisey氏らは、これが薄い濃度の金水溶液から大きな金塊が発生するメカニズムであると考えているよ。

 

石英は極めて電気抵抗の強い不導体なのに対し、金は金属の中でも3番目に電気を通しやすいくらいの良導体だよね。そう考えると、石英の圧電効果に発生した電流は、石英のどこかにではなく、先に付着した金ナノ粒子に対して優先的に流れる、と予測することができるよ。

 

電気化学的な還元反応は、当然ながら電気が必要なので、金ナノ粒子に対して電気が集中し、そこで金の還元反応が進みやすくなる。金の結晶が成長すればさらに多くの還元反応が働く……と考えれば、自然界で金塊がなぜ発生するのか?という点を説明できるとVoisey氏らは考えているよ。

 

ジパングは地震大国の恩恵かもしれない?

今回の研究は、石英脈の中の環境を簡易的に再現したものであり、あくまで示唆である点には注意しないといけないよ。実際に自然界で圧電効果による電気化学的な還元反応が起きていると証明したわけじゃないし、圧電効果の源が地震であるというのも、あくまで予測の範疇だよ。

 

とはいえ、圧電効果を効果的に発生させるには、何度も繰り返し力がかかる方が都合がいいので、地震が圧力の源であると考えるのは、あまりムリ筋じゃないんだよね。また、火山活動が活発な場所では地震活動も活発なので、金を含む熱水がある所に地震があることは何の不思議もないよ。

 

今回の研究は、もっと深掘りして調べる必要がありそうだという点には注意が必要だけど、それでも日本が黄金の国ジパングである理由が、火山大国であるという供給源の問題だけでなく、地震大国であるという物理プロセスも関与しているかもしれない、というのは、ちょっと面白い部分があるかもしれないよね。

注釈

[注1] 自然界での金の存在状況
自然界では、金は単体で存在することが多く、テルル化物や硫化物などの化合物は稀にしか存在しません。また砂金などは、元々は石英脈などに存在した金塊が、風化作用で分離したものであると考えられています。  本文に戻る

[注2] 石英
石英と共によく並行して使用されるのが「水晶」ですが、これは石英の結晶のうち、見た目にきれいなものを指します。どちらかと言えば日常用語であり、科学的には石英が使用されます。  本文に戻る

[注3] 圧電効果が見られる鉱物
圧電効果が見られる鉱物は石英が唯一ではなく、電気石やトパーズなどにも存在します。ただし造岩鉱物として見られるほど豊富に存在する鉱物で、これほど強い圧電効果が見られる鉱物は石英が唯一です。  本文に戻る

文献情報

<原著論文>

  • Christopher R. Voisey, et al.“Gold nugget formation from earthquake-induced piezoelectricity in quartz”. Nature Geoscience, 2024; 17, 920-925. DOI: 10.1038/s41561-024-01514-1

 

<参考文献>

     

    <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

    1. 成長した金の擬六角結晶 (EDS画像) : 原著論文Fig3dより
    2. 成長した金塊の写真 (EDS画像) 原著論文Fig5dより
    3. 地震で落ちる瓦のイラスト: いらすとやより
    4. 地球の断面図のイラスト: いらすとやより
    5. 火山の噴火と溶岩のイラスト: いらすとやより
    6. 石英上の自然金の写真: WikiMedia Commonsより (CC-BY 4.0 / Marie-Lan Taÿ Pamart)
    7. 石英の圧電効果による金の還元の概要図: 原著論文Fig2より
    8. 実験装置の概略図: 原著論文Extended Data Fig. 3より

       

      彩恵 りり(さいえ りり)

      「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
      本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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