大脳皮質で徐波睡眠を維持する介在神経(9月9日 Nature オンライン掲載論文)

2026.09.26

「深い睡眠」を脳内から作り出す細胞が見つかった? Nature最新研究で、皮質全体を同期させてslow wave睡眠を促進するSst-Chodl神経回路を特定。その発見の意義と今後の可能性をわかりやすく解説します。

本日紹介する論文

一昨日、深い睡眠時に現れる長い周期の脳波 slow wave を聴覚から操作する方法を紹介したとき、slow wave 自体が誘導されるメカニズムについてはいつか論文を紹介したいと述べたが、Nature にこれにふさわしい論文がアルバート・アインシュタイン医科大学から発表されていたので紹介することにする。

 

タイトルは「Neocortical long-range inhibition promotes cortical synchrony and sleep(新皮質の大きな領域を抑制するメカニズムが皮質の同期と眠りを促進する)」だ。

 

解説と考察

レム睡眠も、ノンレム睡眠も脳幹の睡眠誘導細胞によりスイッチが入るアクティブな過程であることが知られており、このブログでも何度も紹介してきた。しかし、このシグナルを受けて持続的に皮質全体の興奮を slow wave に同期させるためには、皮質内に存在する神経細胞も必要だ。例えば一昨日の論文で、slow wave が強まると脳全体の血流量が低下するが、これには介在神経由来のNOが関わっていることが知られている。このような皮質活動を slow wave に同期させる細胞として、ソマトスタチン (Sst) を発現する介在神経が、slow wave 睡眠時に活動することから注目されてきたが、Sst 発現介在神経は多様で、slow wave に関わる細胞をピンポイントで調べることはできていなかった。

 

この研究ではこれまでの結果から、Sst細胞中に存在する chonrolectin (Chodl) を発現する細胞がNO合成能があることがわかっており、この研究ではこの細胞に絞って slow wave との関係を調べている。Sst陽性介在神経の中からこの細胞だけを特定するため、2種類の組み換え酵素を使って、2種類の標識を発現させている。即ち両方の標識が発現している細胞を Sst-Chodl陽性細胞と特定できる。これにより細胞を蛍光ラベルすると、他の介在神経と比べてかなり広い範囲に神経投射を行っていることがわかり、皮質全体の同期に適した細胞であることが示唆された。

 

次にこの細胞の活動をカルシウムイメージングで調べると、slow wave 睡眠中に活動が高まることを確認し、予想が正しいことを裏付けている。

 

この細胞を特異的に光遺伝学を用いて刺激すると、皮質全層でネットワークの同期を誘導出来る。さらに、ノンレム睡眠中だけでなく、レム睡眠中に刺激すると同期を誘導出来る。また、強くはないが覚醒中でも一定の効果がある。重要なのは刺激した領域だけでなく、ミリ単位の領域にある興奮神経をGABA依存性に抑制することで同期させられることで、少ない細胞数で皮質全体をカバーするネットワークが存在して、全体の同期を可能にしていることが確認されている。

 

これまでの実験は、主に一次視覚野の Sst-Chodl神経の刺激による、近い領域の皮質の反応を中心に調べられているが、最後にこの回路を刺激することで slow wave 睡眠を誘導出来るか調べるため、Sst-Chodl神経全体を薬剤で刺激できるように改変して薬剤投与を行い行動を調べている。

 

結果は期待通りで、刺激剤を投与すると slow wave 睡眠が上昇し、覚醒状態が減る。一方レム睡眠も同じように上昇する。この効果は、マウスが活動しているフェーズでより強く認められる。

 

まとめと感想

以上が結果で、このネットワークを刺激するだけで slow wave 睡眠が誘導出来ることから、これが皮質を同期させるエフェクター回路として機能していることが示された。ただ、研究は始まったばかりで、この回路を抜き出して研究できるようになったことで、興奮刺激レベルの同期のメカニズムの解析も進むと期待できる。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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