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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、2023年に観測された“当たれば分かる”ニュートリノは、暗黒電荷を失って爆発 (蒸発) した原始ブラックホールから出てきたかもしれないというお話なのよね。なんかスゴいパワーワード出てきてるけど、これは一応本当にそう言っているのよね。
この研究は、なじみの薄いいろんな用語が並んで出てくるので、ちょっとずつ解説していくね。ただ覚えててほしいのは、もしこの考えが本当なら、私たちは原始ブラックホールの爆発を初めて目撃したのかもしれないという点で、結構大きな発見にもなりうるのよね!
CONTENTS

図1: 2023年に、もしも人体に当たればそれを感じることができるレベルの超高エネルギーニュートリノが観測されたのよね!では、そんなニュートリノはどこからやってきたのかというのが問題になったのよ。 (画像引用元番号①)
まずは、この下に貼った2024年当時の解説記事を読んでみてね。これは、地中海の底に設置されたニュートリノ観測所「KM3NeT」によって、2023年2月13日に観測されたチェレンコフ光イベント「KM3-230213A」について解説したものだよ。分析の結果、観測史上最大のエネルギーを持つニュートリノ[注1]を観測したという結論になっているんだよね。
観測史上最強のニュートリノを発見! 素粒子1個が“当たれば分かる”威力に!
チェレンコフ光やニュートリノなどの用語については、軽く注釈では説明しているけど、より詳しい説明は上の解説記事も見てね。重要というかとんでもない点は、素粒子1個が220PeV (22京電子ボルト / 0.035J) というとんでもないエネルギーを持ち、もし人体に当たれば、それを感じることができるレベルの値を持っていたという点だよ!
これと並行し、KM3NeTと並ぶニュートリノ観測所「IceCube」は、1PeV (1000兆電子ボルト) 以上の高エネルギーニュートリノを5個観測していて、その起源が注目されているのよね。例えば、物質を大量に吸い込む巨大ブラックホール周辺から高エネルギーニュートリノが出ているならば、その活動の背景を探る天体物理学の手掛かりとなるからね。
ただし、この超高エネルギーニュートリノの観測状況には疑問もあったのよ。さしもの巨大ブラックホールでも、こんなにエネルギーの高いニュートリノを放出するとは考えにくいのよね。また、ニュートリノ源が天体活動ならば、その数時間前にγ線放出イベントがあるはずだけど、これがちっとも観測されてないのよね。
加えて、220PeVという超高エネルギーニュートリノを、IceCubeではなくKM3NeTが観測したというのが悩ましいのよね。感知できる範囲でいえばIceCubeの方が上なので、KM3NeTだけがあたりを引くというのはどうも変というか、確率的にはIceCubeがもっとたくさん観測してないとおかしいということになるのよね。
こういう背景から、KM3NeTが観測した220PeVの超高エネルギーニュートリノの起源が謎になっちゃったのよね。今回紹介するのは、そんな謎に大胆な説で回答した研究になるよ。これは査読誌のPhysical Review Letters誌に掲載されたもので、査読は正しさの保証にはならないものの、少なくともプレプリントの怪しい説とは一線を画すものではあるよ。
今回、マサチューセッツ大学アマースト校のMichael J. Baker氏などの研究チームが発表した説を、あえて専門用語モリモリでまとめると、大体こんな感じになるよ。
暗黒領域 (ダークセクター) で定義される暗黒電荷を持つ原始ブラックホールは、特定の質量比で温度抑制と灰体因子 (グレーボディ・ファクター) の影響で準極限状態となり、ホーキング放射が抑制され寿命が大幅に伸びることが予想される。この準極限状態の限界に達すると、暗黒シュウィンガー効果によって暗黒電子が生成・放出され、原始ブラックホールの暗黒電荷が急速にゼロに近づく。すると原始ブラックホールの激しいホーキング放射が再開し、最終的に蒸発する。条件次第では、数PeVのニュートリノがほとんど放出されずに、数百PeVのニュートリノが放出されることがある。これにより、KM3NeTとIceCubeとの観測結果の食い違いを説明できる。
もし、この説明で納得してもらえるなら、この解説記事をこれ以上読む必要はないんだけど、まぁほとんどの人には、やたらに暗黒が出てくる不可解な文章にしか見えないよね。全ての用語を丁寧に解説するとこの解説がいつまでも終わらないので、まずは要点というか、結論に近い部分から順に話を進めるね。
「原始ブラックホール」とは、宇宙誕生直後に作られたのではないかと考えられているとても小さなブラックホールだよ。宇宙で実際に見つかっているブラックホールは小さくても太陽くらいの質量を持つけれども、原始ブラックホールは原子から惑星くらいの質量と言われているのよね。ただし、まだ確実な発見例はないよ。
発見例がないのに原始ブラックホールが注目されるのはなぜかというと、今回みたいな高エネルギーのニュートリノの発生源とみられているからなんだよね。一般的にブラックホールは何も放出しないといわれているけど、実際には量子力学的な効果によって「ホーキング放射」[注2]という熱放射をすると考えられているのよね。
このホーキング放射は、ブラックホールの質量をエネルギー源とし、質量が小さければ小さいほど激しくなると考えられているのよね。恒星サイズのブラックホールのホーキング放射を見るのは無理と考えられているけど、一方で原始ブラックホールがあれば、きわめて激しいホーキング放射を見ることができるんじゃないかと予想されているのよね。
質量が小さくなるほど放射が激しくなる関係上、最終段階では爆発と形容されるほどの激しい放射が起こり、蒸発 (消滅) してしまうと考えられるのよね[注3]。高エネルギーの光であるγ線の他、高エネルギーの粒子も放出されると考えられるのよね。今回議題としている超高エネルギーニュートリノも、原始ブラックホールの蒸発ならば説明できるのよね。
つまりこの研究は、「数百PeVのニュートリノは爆発 (蒸発) した原始ブラックホールから放出されたのだろう」、もっと言えば「私たちは原始ブラックホールの蒸発をついに見たのかもしれない」という結論を出しているのよね。後で述べる通り、これが本当ならば結構重大な発見になるのよ。
ただ、単純に原始ブラックホールの存在を仮定すると、やっぱKM3NeTとIceCubeとの観測結果の食い違いを説明できないのよ。放射が激しくなる度合いの時間経過を考慮すると、数PeVのニュートリノの観測数と数百PeVのニュートリノの観測数が合わず、もっとたくさんの数PeVのニュートリノが観測されてなければおかしいとなってしまうのよね。
この矛盾について、Baker氏らは「暗黒電荷を帯びた準極限状態ブラックホール」の存在を仮定することで解決しようとしているのよね。なんじゃそらという話だけど、まずは後ろ側から。準極限とはQuasiextremalの直訳に近くて、意訳するならば「準安定原始ブラックホール」と言った方が、もう少し分かりやすいかな?
これは、爆発する寸前だけど、その直前の状態で長期間安定している、つまりは寿命が引き延ばされている状態のブラックホールを指すのよ。なんでこんなのを用意するかと言うと、寿命を引き延ばす手段がないと、原始ブラックホールの存在数と観測結果に食い違いが生じるからなのよね。
原始ブラックホールは宇宙誕生直後にしか作られなかったと考えられるので、138億年後の現在まで生き残るのに最低必要な質量があるのよね。そこから、原始ブラックホールの総量を計算してみると、今観測で知られているよりもずっと多くのニュートリノを検出しなければ計算が合わないという矛盾があるのよね。
一方で寿命が引き延ばされれば、必要な原始ブラックホールの数が少なくなるのよね。これにより、高エネルギーニュートリノの観測数に矛盾が出にくくするようにしているんだけど、一方で寿命の引き延ばし方法がちょっと変わっているのよね。それが、なんかやたらに出てきた暗黒なんとかというもの。
現状の素粒子の理論では予言されていないものの1つに、「暗黒領域 (ダークセクター)」というグループがあるのよね。これは、一見すると現在知られている素粒子とそっくりだけど、普通の素粒子とは相互作用しにくく (あるいは全く相互作用せず) 、暗黒領域内の素粒子同士で相互作用するという、鏡映しのような存在なのよね。
鏡映しなので、暗黒と頭を付けた各素粒子が存在するのよ。「暗黒電子」もまさにその1つで、普通の電子と似ているもののずっと重く、そして電子を含めた普通の素粒子とはほとんど相互作用しないので存在を知ることができないと考えられているのよね。ただ、ほとんどの性質は電子とそっくりなのは重要なポイントとなるよ。
現状のブラックホールの理論でも、ブラックホール自身はプラスマイナスの電気を帯びることができると考えられているのよね[注4]。少し専門っぽく言えば「電荷を持つ」と表現されるよ。ここで、暗黒電子は電子とそっくりなので、もし暗黒電子があれば「ブラックホールは暗黒電荷を持つ」ということも十分考えられるのよね。
では、原始ブラックホールが暗黒電荷を持つと何が嬉しいのか?Baker氏らは以前の研究で、この状態の原始ブラックホールの性質を調べると、暗黒電荷の量に対する特定の質量の割合に達すると、温度抑制と灰体因子 (グレーボディ・ファクター) [注5]という2つの影響が現れ、ホーキング放射が抑えられる、と予想したのよね。
話が飛びすぎるので温度抑制と灰体因子は割愛させていただくけど、要はホーキング放射を抑えるのがブラックホールの寿命の引き延ばしに当たるという部分だけ踏まえてもらったらOKかな?そしてこれは、暗黒電荷があることでうまく説明できる (他の引き延ばし方法と比べて条件がシンプルである) というのが、Baker氏らの見解だよ。
そして、暗黒電荷はブラックホールが準極限状態から脱するタイミングも決めるのよね。ブラックホールが準安定状態から脱するには、持っている暗黒電荷を捨てないといけないんだけど、手っ取り早いのはブラックホールが暗黒電子とその反粒子のペアを放出することなのよね。

図5: 暗黒電荷を持つブラックホールはホーキング放射がほぼ停止するけど、暗黒シュウィンガー効果が発動すると暗黒電荷を失って一気に蒸発、高エネルギーニュートリノが出てくるのよね。今回の研究は、その条件面を突き詰めたんだよ。
ここで「シュウィンガー効果」にご登場いただく必要があるよ。これは、面積当たりの限界を超える強い電場がかかると、真空から電子と陽電子のペアが生成するという現象になるね。必要な電場が強すぎて実験で確かめられたことはないものの、電荷を帯びたブラックホールのような極端な状況では、シュウィンガー効果が発生する可能性があるのよね。
先ほども言った通り、暗黒電子は電子と似たような性質を持つので、暗黒電荷を帯びたブラックホールには「暗黒シュウィンガー効果」が働くはず。すると暗黒電子とその反粒子のペアが真空から生成され、ブラックホールが持つ暗黒電荷を奪って急速にゼロにすると考えられるのよ。
暗黒電荷がゼロになると、ホーキング放射を抑える効果が無くなってしまうので、原始ブラックホールは急激にホーキング放射を起こすようになるよ。この時、KM3NeTが観測したような数百PeVのニュートリノが放出される一方、数PeVのニュートリノは余り放出されない、という状況が発生することがあるのよね。
Baker氏らは、特定の暗黒電荷と質量の比率を持つ準極限原始ブラックホールが存在すれば、KM3NeTとIceCubeとの観測結果の食い違いが説明できるとし、その条件面を突き止めたのよね。この条件面の突き詰めが、今回発表した研究の本体となってくるのよ。
今回の研究結果は、原始ブラックホールが存在し、プラスで暗黒電荷も持っているという、2つの重要な仮定に基づいているのよね。なのでそのどちらかがポシャると成り立たない話ではあるんだけど、どちらも真面目に科学的議論に置かれているお話なので、すぐさまあり得ない話だと否定できる性質のものでもないのよ。
もちろん、すぐに否定できないことは、別に正しさの証明になるわけでもないから、ここは注意しないといけないのよ。ただ、現状の理論では超高エネルギーニュートリノの説明が手詰まりになっている部分もあるので、一見すると奇抜に思える理論にも光が当たる、という感じなのよね。
ちなみにこの理論で面白いのは、未知の重力源である暗黒物質の正体がおまけで分かってしまうという点だよ。今回の計算結果から考えると、原始ブラックホールの存在量が、予測されている暗黒物質とほぼ同じ量となるのよね!暗黒物質の正体は宇宙物理学における主要な課題の1つであることを考えれば、おまけとは言え影響が大きな話だよ。
もちろん、この話はあくまで今回の考えが正しいという前提で成立する話。この理論が直接科学的議論にかけられるか、他の研究によって理論を肯定または否定する証拠が見つかることで、その妥当性が検証されると思うのよ。
[注1] ニュートリノ
厳密には、3種類の素粒子の総称。広い意味では電子の仲間の粒子と言えますが、電荷を持たず、ゼロではないものの非常に小さな質量しか持たない素粒子です。非常に相互作用が弱く、他の物質と滅多には衝突しないため“幽霊粒子”と称されることがあります。 本文に戻る
[注2] ホーキング放射
ブラックホールの表面 (事象の地平面) で起こる放射であり、黒体からの熱放射であるかのように振る舞います。この放射は、ブラックホールの表面で仮想的な粒子と反粒子のペアが生成し、その片方を吸い込んでしまうことによって起こる、量子力学的な作用によって発生します 本文に戻る
[注3] ブラックホールの蒸発
ブラックホールがホーキング放射の末にどうなるのかについては、厳密には未解決問題となっています。質量のほとんどを失うこと自体には異論が少ないものの、完全に放射が完了し蒸発 (消滅) するのか、それともわずかな質量を残して放射が停止するのか、その他のことが起こるのかは議論が続いています。これは、量子力学と重力を統合した理論が未完成であることも影響しています。 本文に戻る
[注4] ブラックホールの電荷
相対性理論によれば、ブラックホールは質量・角運動量・電荷の3要素のみを持つ天体であると定義されます。ただしこのうち電荷については、理論上はプラスマイナスどちらかの数値に振れていることは許されていますが、実際には片方の電荷に偏っている物質を吸い込むことが稀であり、実際にはほとんとゼロなのではないかと考えられています。 本文に戻る
[注5] 灰体因子
グレーボディ・ファクターとも。ブラックホールのホーキング放射は、本来は理想的な黒体放射に近いと予想されています。しかし、ブラックホールの周りは時空の歪みが激しすぎるため、黒体放射とのズレが顕著に表れると考えられています。この補正因子のことを、理想的な黒体からズレることから灰体と呼んでいます。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)