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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、観測史上最強のニュートリノを発見したというニュースだよ。素粒子1個が持つそのエネルギーは220PeV (22京eV / 0.035J) と、これまでの何十倍も高威力なんだよね。このニュートリノが持つエネルギーは、1mの高さから落としたピンポン玉とほぼ同じだよ。
あまりピンと来ない?これは喩えて言うなら、太陽10個をぶつけたのと同じ威力がピンポン玉1個に込められている、っていうくらいのスケール差なんだよね!もちろんこんな威力を打ち出す“選手”が宇宙のどこにいるのかは大きな謎であり、今回は新たな手掛かりが得られた感じなんだよね。
今回の発見は、超高エネルギーなニュートリノを発見しただけでなく、発見した観測装置である「KM3NeT」が、まだ全然本気を出していないのに見つけているという点でも注目に値するよ。だからこれは多方面で大きなニュースなんだよね。
え?そもそもニュートリノが分からない?って人にも対応した記事なので、ちょっと長いかもだけど是非最後まで読んでみてね!
CONTENTS
まずは研究内容の説明に入る前に、「ニュートリノの基本情報と観測体制」という点を解説していくね。と言っても「ニュートリノは謎の多い素粒子で、観測が難しい“幽霊粒子”」って点を抑えておけば大体OKだから、もう知ってるよって人は読み飛ばしてもらってもOKだよ。
この宇宙を形づくる物質を、最も細かい単位まで分解して出てくるものを「素粒子」と呼んでいるよね。この中で「ニュートリノ (ν)」は、厳密には3種類に分けられる総称だよ[注1]。そしてニュートリノは、原子核を構成するクオークや、それ自体が素粒子である電子のように、物質の直接的な構成要素となっているよ[注2]。
ニュートリノは大抵の場合、不安定な原子核の崩壊や、核分裂・核融合のような核反応で発生するので、発生源は太陽、宇宙、岩石、原子炉、加速器など多岐にわたるよ。観測可能な宇宙におけるニュートリノの総数は1086個と、光子の1089個に次いで2番目に多い素粒子で、普通の原子より数百万倍も多いと考えられているよ。
ただ、クォークと電子が集まってできる原子とは異なり、ニュートリノでできた物体を目にすることはないのよね。例えば物質同士がぶつかるのは、物質を構成する素粒子同士に力が働く「相互作用」が必要になるけど、ニュートリノは自分自身を含め、他の物質との相互作用が極めて弱いという性質があるんだよね。
より詳しく言うと、ニュートリノは電気を帯びていないので、距離が離れていても強力に働く電磁相互作用が働かないよ。ニュートリノに働く力は、素粒子の世界だと存在しないと見なせる重力相互作用か、原子核より短い距離でしか働かない「弱い相互作用」と呼ばれる力しかないんだよね。
この性質のため、ニュートリノが原子と衝突するのは、実質的に原子核と正面衝突する場合に限られるよ。原子の大きさを野球場にたとえると、原子核はマウンドの上の1円玉くらいの大きさしかないよ。命中難易度がとても高いのは一目瞭然。だからニュートリノは原子にほとんどぶつからずにすり抜けてしまうんだよね。
実際、今この瞬間も、私たちの身体を1秒間に数百兆個のニュートリノが通過しているんだよね。しかし大半のニュートリノは、人体はおろか地球や太陽すらも貫通するので、実感することはおろか、観測するのすら大変なんだよね。中々見えないので、ついたあだ名が“幽霊粒子”とは言い得て妙だよね。
ではこの“幽霊”をどのようにしてとらえるのか。いくら原子核と衝突するのが稀と言っても、ゼロではないのが重要よ。極めて稀な確率ながら、ニュートリノが原子核と衝突すると、ニュートリノが持っていたエネルギーが変換され、μ粒子[注3]などの電気を帯びた荷電粒子が発生することがあるのよ。
さて、「何物も光の速さを超えることができない」と言うのは良く知られているけど、これは真空中での話に限られるよ。光の速さは、水などの物体を通過している時は遅くなるので、その場合には「光より速い速度で進む物体」と言うのが考えられるんだよね。
ニュートリノと原子核との衝突で発生する粒子は、しばしばそういった物体中の光の速さを超えることがあるんだよね。ここで、荷電粒子の速度が、その物体での光の速さを超えると、「チェレンコフ光」と呼ばれる光が発生するよ。超音速で飛行する航空機から発生する衝撃波と似たような感じだね。
ニュートリノそのものを観測するのは難しいので、物理学の研究ではこのチェレンコフ光を検出するよ。弱い光を捉えるセンサーを設置し、各センサーがとらえた光の強さと時間を合わせることで、チェレンコフ光を起こした荷電粒子のエネルギーや、やってきた方向を逆算することができるよ。
そして荷電粒子の方向とエネルギーから、このチェレンコフ光はニュートリノと関係があるのか、関係があるとすればニュートリノのエネルギーと、どこからやってきたのかという方向を知ることができるんだよね。ニュートリノそのものを観測することは困難なので、このような間接的な方法がとられるよ。
ただし、ニュートリノが原子核にぶつかる確率は稀で、チェレンコフ光自体は弱いし、無関係な現象でもチェレンコフ光は発生するのよね。なのでニュートリノを捉えるためには、検出器を3次元的に配列した、巨大な検出器が必要になるんだよね。だからニュートリノ観測装置は巨大な大きさになるのよ。
ニュートリノを検出する装置は、例えばカミオカンデやスーパーカミオカンデのように数千t、数万tの巨大水槽を用意する場合もあるけど、カミオカンデのシリーズは元々は陽子崩壊[注4]と呼ばれる全く別の物理現象を捉えるために設計されたという経緯もあるからこそ、人工的に水槽を用意しているのよね。
ニュートリノの観測を主目的にするなら、わざわざ巨大水槽を作らずとも、元々水が豊富な天然環境を使えばいいじゃないか、という考えもできるよね?このような発想の下で、深海や氷床など、天然の水の塊に検出器を配置するニュートリノ観測所が世界にいくつかあるよ。
その中の1つである「KM3NeT」が、今回の研究成果を上げた観測所だよ。「キュービックキロメーターニュートリノ望遠鏡 (The Cubic Kilometer Neutrino Telescope)」の名の通り、最終的には検出器を配置した水の体積が数km3になることを目指した観測所だよ。
KM3NeTは1ヶ所の観測所ではなく、水深数千mの地中海海底3ヶ所にそれぞれ検出装置を分散しているんだよね。先述の通り、ニュートリノによって間接的に発生したチェレンコフ光を観測することを主目的としており、周辺の水や岩盤を作る原子核に衝突したニュートリノを検出し、そのエネルギーや飛来方向を知ることができるよ。
KM3NeTが特に検出を試みているのは、非常に高いエネルギーを持つニュートリノなんだよね。観測できるニュートリノの大半はエネルギーが小さく、太陽中心部の核融合反応や原子炉の核分裂反応、あるいは宇宙線と呼ばれる宇宙を飛び交う高エネルギーの荷電粒子と大気の原子との衝突で生じていると考えられているよ。
しかし、ごく小数ながらもとんでもないエネルギーを持つニュートリノも観測されていて、目下その発生源が謎になっているという感じなんだよね。これほど強いニュートリノは、たとえ太陽が100年かけて出すエネルギーを10秒で放つ超新星爆発ですら発生しないと考えられているよ。
これ以上の天文現象となると、大量の物質を光速近くまで加速して激しい核反応を起こす、活動的な銀河中心部のブラックホールとか、超新星爆発以上にエネルギーを放出するγ線バーストなどが考えられるけど、それでも足りないのではないか?とすら思われるほどにエネルギーが高いんだよね。
なので他の仮説として、特別にエネルギーが高い宇宙線と銀河系外背景光[注5]や宇宙µ波背景放射[注6]の光子とぶつかって発生したとか、中にはその正体がよくわかっていない暗黒物質[注7]の崩壊によって生じたんじゃないか、なんて説すらあるんだよね。
どの説が正しいにしても、エネルギーが高いニュートリノの発生源は天文学を超えて物理学上の大きな謎となっているよ。そして謎を解くには、今は何よりも観測データを集めるしかないという段階なので、今は観測体制を拡大し、少しでも高エネルギーなニュートリノを観測しようとしているんだよね。
2023年2月13日1時16分47秒 (UTC) 、KM3NeTは「KM3-230213A」とラベルされることになるチェレンコフ光を観測したよ。これは深海を通過したμ粒子によって生じたものであり、その元となったニュートリノは地平線に対してほぼ水平である約0.6度の角度で突っ込み、おそらく地中海の周りの岩盤に当たったと推定されたよ。
光を検出したセンサーは全体の3分の1と、これまでのイベントの中では最大だったよ!あまりにも明るすぎたため、発生源に近いセンサーは飽和したほどだったんだよね。飛来方向とエネルギーがあまりにも高すぎることから、このニュートリノは地球やその近くで発生せず、宇宙から突っ込んできた、と推定されたんだよね。
今回観測されたニュートリノのエネルギーは220PeVと、ピンポン玉並の威力があるよ。これは太陽10個分をぶつけた威力をピンポン玉に「込めているくらいのすさまじいものなんだよね! (画像引用元番号②③)
元々のニュートリノが持っていたと推定されるエネルギーは、観測史上最強となる220PeV (22京eV / 0.035J) と推定されているんだけど、と言ってもなんかイマイチピンとこないよね。研究チームはこれを「1mの高さから落ちたピンポン玉」と同じくらいのエネルギーだと喩えているんだよね。
弱いように聞こえるかもだけど、比較対象となるニュートリノはピンポン玉よりずっと軽く、1溝分の1 (1034分の1) よりずっと小さいんだよね[注8]。スケールで言うなら、太陽10個分をぶつけた威力がピンポン玉1個に込められているほどである、というとんでもないスケール差なんだよね!
こんな感じなので、「もし当たれば、当たった感じがするだろう」とすら言われるほどだったんだよ!もちろん、当たる確率はたかが知れているけど、普段は意識することも想像することも難しい素粒子1個の単位の世界が、日常的な感覚に近づくというのは中々とんでもないよね!
さて、これほど高エネルギーなニュートリノが発見されたからには、気になるのが発生源だよね?例えば、物質を大量に取り込み、メチャクチャな速度に加速するブラックホールを持つ「活動銀河核」は、その発生源の有力候補だよ。ただし、推定されたニュートリノの飛来方向に活動銀河核は見つかっていないんだよね。
別の可能性として、宇宙を満たす銀河系外背景光や宇宙μ波背景放射と高エネルギーの宇宙線がぶつかって生じたという説も考えられるよ。このようなニュートリノは「宇宙起源ニュートリノ (cosmogenic neutrino)」と、宇宙から来ているんだから当然じゃんと考えると、やや紛らわしい名称で呼ばれているんだよね。
もちろん単に宇宙でできたわけじゃなく、その生成方法が肝心なんだけど、とにかくこれまで宇宙起源ニュートリノは理論上の存在であり、その候補すら未発見だったので、もしかすると極めて重大な発見をした可能性があるんだよね!
もちろん、今のところはたった1つのデータのみを元にしてあれこれ考察しているので、結論を出すにはまだまだデータ不足だよ。ということで現段階では、同じくらいのエネルギーを持つニュートリノをさらにたくさん発見することが必要になってくるんだよね。
これに関しての良いニュースは、今この段階でそんなニュートリノを発見したことだよ。何しろKM3NeTは建設途中で、最終的には今の10倍の検出装置を設置する予定だからね!今後高エネルギーなニュートリノをたくさん見つけることで、高エネルギーなニュートリノの発生源を特定することができるはずだよ。
そして高エネルギーなニュートリノは、遠い宇宙で起こっている様々な物理現象を示す貴重な情報源。なのでたくさん観測することで、根本的には宇宙そのものの基本要素である素粒子について、より深く理解することに繋がることが期待できると言えるよ!
[注1] ニュートリノは3種類
ニュートリノに分類される素粒子は、「電子ニュートリノ」「ミューニュートリノ」「タウニュートリノ」の3種類があることが分かっています。ただしそれぞれの性質の差はわずかであり、総称されることは珍しくありません。 本文に戻る
[注2] 物質を形作る素粒子
直接的に物質を構成する素粒子は「フェルミ粒子」に分類されます。これに対し、これらのフェルミ粒子が物質として成り立つように相互作用を媒介する素粒子を「ボース粒子」と呼びます。 本文に戻る
[注3] μ粒子
簡単に言えば、電子の重いバージョンの素粒子。電子の約209倍の質量を持つ荷電レプトンです。 本文に戻る
[注4] 陽子崩壊
現在の理論では安定と考えられている陽子が、実際には長い時間をかけて崩壊するのではないかとする予測。その観測は未解決の物理学の謎を解くカギになりますが、未だにその証拠は未発見です。 本文に戻る
[注5] 銀河系外背景光
宇宙に存在する無数の銀河から発せられる光のこと。これらは宇宙全体をわずかながら照らしています。 本文に戻る
[注6] 宇宙μ波背景放射
宇宙空間で光がまっすぐ飛ぶようになった、宇宙誕生から約38万年後の時代からきた光。銀河系外背景光と共に、宇宙全体を照らしています。 本文に戻る
[注7] 暗黒物質
恒星などの観測可能な物質と異なり、重力でのみその存在を知ることができる物質のこと。極めてエネルギーの高いニュートリノは、重い暗黒物質の崩壊で生じるという説があります。 本文に戻る
[注8] ニュートリノの重さ
ニュートリノの真の重さは不明です。今のところゼロではないと考えられているものの、極めてゼロに近いほど小さく、0.120eV (2.14×10−37kg) より軽いと考えられています。ピンポン玉の喩えは上限値を元にしており、これよりずっと極端な状況もあり得ます。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)