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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、最も重い反物質核「反ハイパー水素4 (Antihyperhydrogen-4)」の合成に成功した、という研究成果に関するお話だよ!
なんだかものすごくゴツイ名前だけど、とりあえず単純な成果は分かりやすいよね?2011年に合成された反ヘリウム4を上回る、最も重い反物質でできた原子核の合成という成果だよ!
ところでこの実験、約16個の反ハイパー水素4を合成するために、実に約64億回もの原子核衝突実験を繰り返したんだよ!なんでそんなことをしたのかな?
実はこの実験、最も重い反物質核[注1]を合成しただけでなく、これを使って宇宙最大の謎の1つに挑もうとしたんだよね!
今回はちょっと変則パターンで、先に何に成功したのかを解説し、次に各用語の解説や、今回の研究がすごい部分を上げていくね!
CONTENTS
今回の研究を行ったのは国際研究チーム「STARコラボレーション」で、アメリカ合衆国のブルックヘブン国立研究所にある「RHIC (相対論的重イオン衝突型加速器)」を使った実験を行っているよ。
RHICは重い原子核を、光の速さの99.996%まで加速することができる加速器なんだよね!そして亜光速まで加速した原子核同士をぶつけることで、自然界では通常現れない、様々な粒子を合成する実験を行っているんだよね。
あまりにもエネルギーが大きい衝突を経験するので、原子核はそれ自体が“融けた”「クォーク・グルーオン・プラズマ (QGP)」という状態を形成するよ。このQGPが冷えていく段階で、様々な粒子が作られるよ。
今回の実験は、未だ誰も合成したことがない反原子核「反ハイパー水素4」を引き当てるために、ひたすら衝突実験を繰り返したんだよね。チーム名STARコラボレーションは、粒子を捉えるSTAR検出器の名にちなんでいるよ!
と言っても、こういう衝突実験でどういう粒子ができるのかは、エネルギーさえ足りていればどんな種類の粒子でもできる、まさにガチャと言えるものだよ。無関係なものができる確率の方がはるかに高いんだよね。
しかも、今回目的とした反ハイパー水素4は、検出器が直接捉える前に崩壊してしまうので、崩壊した後に出てくる粒子[注2]を捉え、崩壊位置を逆算することで引き当てたかどうかを確認する間接的な手法となってしまうんだよね。
ということで今回は、4種類の原子核[注3]を1秒間に1000回以上、合計約64億回も衝突させる実験を繰り返し、反ハイパー水素4という“ハイパーレア”を引き当てる実験を繰り返したんだよね!気の遠くなる実験回数だよね!
このようにして、約64億回もの衝突で生じる、数えきれないほど膨大な粒子を捉えたデータを処理した結果、たったの約16個 (15.6±4.7個) だけ、目的となる反ハイパー水素4を合成したことを示すシグナルを見つけたんだよ!
反ハイパー水素4を合成したのは、これが世界初なんだよね!また、これとは別に合成を目標としていた、似たような反原子核「反ハイパー三重水素」の合成にも成功していたよ!こちらは約637個 (637±49個) だったよ!
さて、この研究成果って何がスゴいのか、ちょっと色んな用語が乱立してて分かりにくいよね?ただ、少なくとも1つの成果は分かりやすいよ。反ハイパー水素4は、これまでに合成された、最も重い反原子核の記録を更新したよ!
もうちょっと分かりやすく言えば、最も重い反物質でできた原子核を見つけた、と言い換えることができるよ。最も重い反物質核の記録を塗り替えたのは、2011年に合成された「反ヘリウム4」[注4]以来なんだよね!
名称 | 合成年 | 備考 |
反ハイパー水素4 | 2024 | 最も重い反原子核。 |
反ヘリウム4 | 2011 | 最も重い安定した反原子核、かつ反物質。 |
反ハイパー三重水素 | 2010 | 別名「反ハイパー三重陽子」。 |
反三重水素 | 1974 | 別名「反三重陽子」。 |
反ヘリウム3 | 1970 | |
反重水素 | 1965 | 別名「反重陽子」。 |
反Λ粒子 | 1958 | |
反中性子 | 1957 | |
反陽子 | 1955 | 別名「反水素」。唯一反原子が合成されている。 |
陽電子 | 1933 | 参考。世界初の反物質の合成。 |
ということでここで話が終わってもいいんだけど、もちろんSTARコラボレーションは世界記録を樹立したくてこんな実験を行ったわけじゃないよ。
反ハイパー水素4 (と反ハイパー三重水素) が合成できると何が嬉しいのかと言えば、これがどちらも特殊な反物質核だからなんだよね。ずっと触れてなかったけど、この話のキモはハイパーという文字だよ。
ハイパーの何がハイパーなのかというと、これは「ハイペロン」という粒子を含んでいることを指しているよ。このハイペロンを含んでいる原子核の事を「ハイパー核」と呼ぶんだよね。
このハイペロンという粒子は、普通の原子核を構成している粒子である「陽子」や「中性子」のお仲間だよ[注5]。ただ陽子や中性子は「アップクォーク」と「ダウンクォーク」の組み合わせであるのに対し、ハイペロンは違うよ。
ハイペロンは1個以上の「ストレンジクォーク」を含んでいるんだよね。例えば「Λ粒子」という最も簡単なハイペロンの場合、アップクォーク・ダウンクォーク・ストレンジクォークを1個ずつ含んでいるよ。
今回合成された反ハイパー水素4は、Λ粒子の反粒子である「反Λ粒子」を含んでいるよ。ただしストレンジクォークは重い素粒子なので、数十億分の1秒という短い時間で崩壊する特徴があるよ。
問題は崩壊するまでの時間だよ。今回の実験で一番知りたかったのは、Λ粒子を含むハイパー核と、反Λ粒子を含む反ハイパー核において、崩壊するまでの時間に差があるのか、それともないのかという点なんだよね。
今回の実験の場合、お互いペアである反ハイパー水素4とハイパー水素4、および反ハイパー三重水素とハイパー三重水素、それぞれがどれくらいの寿命で壊れてしまうのか、を測ったよ。
今回の測定の結果、どれも平均寿命が約50億分の1秒 (約200ピコ秒) という短い時間で壊れたんだけど、その値は誤差の範囲内で一致してたんだよね。この結果が測りたかったんだよ!
なんでこんな実験を行ったのか、重要なのはここからよ。現在の物理学の理解では、物質と反物質は、プラスマイナスが反対向きな場合もあるという点を除くと、お互いの性質はピッタリ一致しているはず、となるんだよね。
ところが、もしピッタリ同じ性質ならば困った事態になってしまうよ。物質や反物質は決して無からは生まれず、エネルギーから生まれるんだけど、この時に必ずペアで生成するはずだ、となるからなんだよね。
誕生直後の宇宙は純粋なエネルギーの塊で、膨張によって温度が下がって行くに従い、エネルギーから物質や反物質が生まれたのであろう、というのが現在の大まかな理解だよ。
ところが、必ず物質と反物質がペアで生まれるなら、お互いに出会って再び消滅してしまうよ!すると宇宙は、エネルギーに満ちてはいるものの、物質と反物質はごく薄い濃度でしか存在しないはず、となるんだよね。
ところが実際の宇宙は、物質に満ちている一方で反物質は極めて珍しいよ。物質と反物質が必ずペアで生まれる、という考えからすると、こんな偏りはおよそあり得ないんだよね!これは宇宙最大の謎の1つにあげられているよ!
現状の理解では、物質と反物質には何かわずかな違いがあり、反物質に対して物質が10億分の1だけ多く作られれば、この偏りが説明できる、とされているんだよね。
ただ、物質と反物質との間にあるわずかな違いというのが、今のところ多くは分かってないんだよね。物質と反物質の性質は、本質的に何が違うのか?それとも同じなのか?を探るのが、今回の研究の一番の目標だったわけ!
RHICで合成できるQGPというのは、まさに宇宙で物質が誕生しているころの環境を再現しているので、もし物質と反物質に性質の差があるならば、RHICの実験でそれを測れるかもしれない、となったから今回実験をやったんだよね!
ハイパー核と反ハイパー核は、この実験において大変都合がいいよ。ただの反物質核は理論上の寿命が長すぎるか、あるいはそもそも崩壊しない上に、RHIC本体に衝突してすぐに消滅してしまうので、寿命測定ができないんだよね。
これに対しハイパー核と反ハイパー核は、数十億分の1秒という短い時間で崩壊してくれるので、無関係の対消滅をする前に十分に崩壊を見守ることができるんだよね。これがとても望ましい性質だよ。
今回は新たに反ハイパー水素4を合成したことによって、ハイパー三重水素と反ハイパー三重水素のペアに加え、ハイパー水素4と反ハイパー水素4のペアでも寿命を測れるので、お互いに比較ができるようになったという点が大きな成果だよ!
長く説明したけど、ハイパー三重水素・反ハイパー三重水素・ハイパー水素4・反ハイパー水素4を合成して寿命を測った結果においては、少なくとも今回は物質と反物質には違いが見られなかった、というのが研究成果になるよ。
違いを見出すこと自体には失敗したけど、この種の研究では違いが見つからなかったことも重要だよ。物質と反物質の違いを説明するには新たな理論の構築が必要だけど、ここでズレができてはならない、という目安になるからね。
今回の研究は、単に反ハイパー水素4という最も重い反物質核を合成しただけでもすごいんだけど、それを使って宇宙最大の謎に挑もうとした、という結構壮大なものなんだよね!
[注1] 反原子核
今回の実験で合成された反ハイパー水素4は最も重い反物質でできた原子核です。単に反物質であるならば、1995年に合成された反トップクォークを始めとして、重い例が無数にあります。 本文に戻る
[注2] 反ハイパー水素4の崩壊で生じる粒子
反ハイパー水素4は約50億分の1秒の平均寿命で反ヘリウム4とπ+中間子に崩壊します。今回の実験では、STAR検出器がこの2種類の粒子がどこから来たのかを測定し、反ヘリウム4とπ+中間子が同じ点から発生している、つまり反ハイパー水素4の崩壊で生じていることを確かめることで合成を確認しました。崩壊とは無関係のπ+中間子や反ヘリウム4も発生するため、π+中間子は平均約1000個の反ヘリウム4と軌道が交差するため、突き止める作業は困難を極めます。 本文に戻る
[注3] 4種類の原子核
今回の実験では、お互いに同じ種類の元素同士である、金・ウラン・ジルコニウム・ルテニウムの原子核の衝突が実験されました。 本文に戻る
[注4] 反ヘリウム4
2011年に合成された反ヘリウム4は、反物質ゆえに普通の物質と対消滅して消えてしまうものの、理論上は安定した原子核です。このため反ヘリウム4は「最も重い安定な反原子核」であり、「最も重い安定な反物質」と表現されることもあります。今回合成された反ハイパー水素4は、そのいずれも満たしません。 本文に戻る
[注5] ハイペロンは陽子や中性子のお仲間
陽子や中性子のように、クォークが3個結合することによって生成された粒子 (複合粒子) を「バリオン」と呼びます。そして構成クォークの1個以上がストレンジクォークであるバリオンを「ハイペロン」と呼びます。なお、陽子と中性子は普通の原子核の構成要素であることから、総称として「核子」とも呼ばれます。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)