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政治思想は扱いづらい。
食べ物であれば好き嫌いで話が済むが、政治思想は互いに自分が正しいと言い合って譲らないからだ。
政治思想で主なものは保守とリベラルになるが、なぜこのような違いが生まれるのだろうか。同じ時代の同じ地域に生まれ育って、政治思想が大きく分かれるのはなぜなのか。
今回の記事では、保守とリベラルという政治思想が生まれる理由について、心理学的知見を元に深堀りしていきたい。
人はみな、自分が正しいと思っている。
しかし、この正しさとは心理学的にはどのようなものなのだろうか。
アメリカの心理学者、ジョナサン・ハイトらは道徳基盤理論というものを提唱した1)。
これは端的に言えば以下の3つのものからなりたっている。
・道徳にはいくつかの直感的な基盤がある。
・それぞれの直感的基盤への感受性には個人差がある。
・感受性の個人差によって、道徳性の個人差が生まれる。
これは味覚や美味さに例えると分かりやすいかもしれない。
美味い食べ物と言っても何が美味いかは人によって異なる。
美味さは、甘味や苦味、酸味など様々な組み合わせから成り立っていて、何を美味いと感じるかは、その人なりのベストな組み合わせがある。
これと同じように道徳も直感的に感じるもので、その組み合わせによって、その人の「正しさ」というものが立ち上がってくるのではないかというのだ。
そしてこの道徳的直感は、以下の6つがあるのではないかと考えられている。
・ケア
小さな子供や傷ついている人を見ると守りたくなるような感情である。動物虐待やマイノリティの迫害を許せないと感じる心はここからやってくる。
・自由
何者にも拘束されず、自由に考え、自由に行動することをよしとするような感覚である。政府による言論統制や慣習・ルールに反発を覚えることと関係している。
・公平
これは独り占めを許さず、皆で公平に分け合うような心持ちである。ただし近年ではこの公平性は、平等的公平(皆で平等に分け合う)というものと、比例的公平(仕事の成果に応じて分ける)に分けられるとも考えられている。
・権威
これは社会的序列が保たれることが大事だと感じるものである。国家であれば王室、会社であれば社長、家族であれば父母を敬うべしという感覚である。
・神聖
大事なものを汚してはいけない、というような感覚である。それは神社かもしれないし、教会やお墓、紙幣かもしれない。きれい好きである感覚と関係していると考えられている。
・忠誠
これは裏切りを許さないような感覚である。会社や国家に忠誠を誓い、身を捨てることも辞さないような心持ちがこれに当たる。
当然、これらの道徳感受性には人によって違いがあり、その違いによって政治的立場も変わってくることになる。
道徳的直感は複数ある。では、保守とリベラルはそれぞれどんな直感が強いのだろうか。
これを明らかにするため、ジョナサン・ハイトらの研究グループはアメリカ国民を対象にアンケートを行い、道徳基盤理論と政治的立場との関係について調査した。
その結果が非常に興味深い。
下の図を見てもらえばわかるように、リベラルはケアと公平の感覚が際立って強いこと
そして保守は権威や神聖、忠誠の感覚が高いことが示されている2)。

移民や性的マイノリティについての見解は、リベラルであればケアや公正の感覚が強く働くかもしれないが、保守であれば権威や忠誠、神聖といった感覚が突き動かされるのかもしれない。
すなわち同じ出来事を見ても、リベラルではマイノリティを守ることが、保守ではそれを排除することが正しいということになる。なんとも難しい話である。
ではリベラルと保守では性格傾向に違いはあるのだろうか。
人間の性格傾向を捉えるもので有名なものにビッグファイブというものがある。これは人間の性格を以下の5つの要素でとらえるものだ。
・開放性
新しいことを経験することに躊躇しないような性格特性である。食べたことのないものを食べてみる、やったことのないことをやってみるような性格がこれに当たる。
・誠実性
約束を守る、ルールを守る、一度決めたことはやりとげるといった性格特性である。いわゆる真面目な人がこれに当たる。
・外向性
いわゆるコミュ力の高さと関係する性格特性である。誰とでも打ち解けて話せる人ほど高い。
・協調性
皆とうまく協力してやっていける性格特性である。高ければいいような気もするが、職人や経営者は必ずしもその限りでないかもしれない。
・神経症的傾向
一言で言えば、病みやすさのようなものである。不安感が強く、ストレス耐性も低い。世間一般で生きていくには低いほうがいいかもしれないが、芸術家は神経症的傾向が高いとも言われている。
これらの性格傾向は様々な検査でレーダーチャートのように表される。興味のある人は以下のリンクなどで覗いてほしい。
このビッグファイブと政治的立場の関係であるが、様々な研究からは、リベラルは開放性が高く、保守は誠実性が高いことが報告されている 3)。平たく言ってしまえば、リベラルは新しいもの好きな人が多く、保守は真面目な人が多いということになる。
また面白いのは質問紙法だけでなく、実生活でも思想背景が透けて見えることである。
例えば、自宅寝室の写真を比較した研究では、保守傾向の強い人は寝室が比較的整頓されており、本も多く、予定表やカレンダーが貼られていること、またリベラルは旅行やアート、音楽に関わるものが多く置かれていたことが示されている 4)。
こう見てみると、やはり保守は真面目な人が多いのかもしれない。
リベラルは比較的開けた人が多く、保守は真面目な人が多そうである。ではその脳の中身はどうなっているのだろうか。
これについてはいくつかの研究が行われているが、はっきりしたことはまだ分かっていない。
一部の研究では保守は不安や恐怖に関わる扁桃体が大きく、リベラルは情報検出に関わる前帯状皮質の活動が高いとも言われているが、被験者の属性や人数を変えた実験ではこれらの結果は否定されている 5)。


また、不安感を掻き立てる画像を見せたときの自律神経の反応を調べた研究もある。これによると保守傾向の強い人ほど、画像を見たときの自律神経反応が高いことが示されている 6)。
しかし、被験者数を増やした追試では、必ずしもそうではないことも報告されており、現段階では、保守=不安を感じやすい体質、と言い切ることは出来ない。
なお、これはアンケート調査ではあるが、世界中の 2 万人ほどを対象にした研究では、保守傾向の強い人ほど、死への不安感や社会体制への不安感が強いことも示されている。
このように政治思想と神経反応の関係は定かではないが、不安感や扁桃体は曖昧な情報と関連することを考えると、保守傾向の強い人は、曖昧な状況を好まない傾向はあるのかもしれない。
ではここまでの内容をまとめてみよう。
このように道徳的基盤は多様であり、その組み合わせはさらに多様であると考えられるが、なぜそこから 2 つの政治思想が生まれてくるのだろうか、この点について次回の記事では考えてみたい。
1) Haidt, J., & Graham, J. (2007). When morality opposes justice: Conservatives
have moral intuitions that liberals may not recognize. Social Justice Research,
20(1), 98–116.
2) Graham, J., Haidt, J., & Nosek, B. A. (2009). Liberals and conservatives rely on
different sets of moral foundations. Journal of Personality and Social Psychology,
96(5), 1029–1046.
3) Gerber, A. S., Huber, G. A., Doherty, D., & Dowling, C. M. (2011). The Big Five
personality traits in the political arena. Annual Review of Political Science, 14,
265–287.
4) Carney, D. R., Jost, J. T., Gosling, S. D., & Potter, J. (2008). The secret lives of
liberals and conservatives: Personality profiles, interaction styles, and the things
they leave behind. Political Psychology, 29(6), 807–840.
5) Kanai, R., Feilden, T., Firth, C., & Rees, G. (2011). Political orientations are
correlated with brain structure in young adults. Current Biology, 21(8), 677–680.
6) Oxley, D. R., Smith, K. B., Alford, J. R., Hibbing, M. V., Miller, J. L., Scalora, M.,
Hatemi, P. K., & Hibbing, J. R. (2008). Political attitudes vary with physiological
traits. Science, 321(5896), 1667–1670.