一対一なら落ち着くのに、大勢だと疲れる?――人と話す「場面の違い」を知ることで見えてくるもの

2025.02.17

 

はじめに

 「二人で話しているときはむしろ楽しいのに、人数が増えると突然気疲れしてしまう」「一対一ならうまく言葉が出てくるのに、大勢の中ではなぜか声を上げにくい」――こうした経験はありませんか? 同じ「人と話す」という行為でも、一対一のコミュニケーションと大人数でのコミュニケーションでは、雰囲気や心理的負担が大きく違ってきます。
 
本稿では、以下の対比表をもとに両者の特徴を整理しながら、特に内向性やHSP(Highly Sensitive Person)の特性、そしてASD(自閉症スペクトラム障害)当事者が抱きやすいハードルについて解説します。また、最後にはそうした苦手意識を少しでも緩和するための工夫やヒントも紹介します。「大人数が苦手だから自分には問題がある」と悩む前に、まずは場面の構造を知り、自分なりにできる対処法を見つけてみてはいかがでしょうか。

 

一対一と大人数をざっくり対比すると

一対一では相手の言葉やリアクションにじっくり耳を傾けられ、深い話にまで踏み込める一方、大人数になると会話が多方向へ飛び交い、誰がどのタイミングで話すのかが曖昧になりやすいのが特徴です。また、複数の視線が一気に集まる場では心理的なプレッシャーが高まりやすく、うまく言葉が出てこない場合も少なくありません。

 

刺激に敏感な人が受ける「大人数」ならではの負荷

●内向的な人が感じる理由

 よく言われる「内向的」「外向的」といった区分には、外部刺激の受け取り方が大きく関係していると考えられています。外向的な人は刺激を求める傾向があるのに対し、内向的な人は刺激を過度に浴びると疲れやすい面があるのです。大人数の場には、話し声や周囲の動きなどたくさんの情報があふれているため、内向的な人ほど混乱や疲労感を覚えがちになります。
 さらに、内向的な人は「一人ひとりと深く関わりたい」という気持ちを持つことが多く、複数人での会話では話題が散りやすいこともストレスに感じる要因になりえます。一対一ならしっかり相手を理解できるのに、大人数だと視線や会話が飛び交いすぎて、思いがけず疲れをためこんでしまうというわけです。

 

● HSP(Highly Sensitive Person)の特性

 HSP(Highly Sensitive Person)とは、光や音、人の声色など、あらゆる刺激を深く処理する特性を持った人のことです。大人数の会合では様々な会話が同時多発的に起こるほか、周囲のリアクションにも一瞬一瞬注意を向ける必要が生まれます。こうした状況がHSPの方にとっては「刺激過多」となりやすく、普通の人以上に疲れを感じやすくなるのです。

 

ASD当事者にとっての「対話のしんどさ」

一対一の安心感

 ASD(自閉症スペクトラム障害)の特性を持つ人は、社会的な文脈や非言語サインを読み解くことが苦手な場合が多いとされています。一対一であれば相手の反応だけを見ていれば済むので、「いつ自分が話せばいいのか」「相手が何を求めているのか」などを把握しやすく、比較的安心して話せることが多いのです。

大人数による情報混乱

一方、大人数の場では、誰が次に話すのか、どのタイミングで話を差し込めばいいのかが曖昧になりやすく、加えて人の表情や動きがいっぺんに視界に入ってきます。ASD当事者にとっては、こうした「目に見えないルールや信号」が重層的に存在する状況が大きな負担になりがちです。「いつの間にか話題が変わっていた」「気づいたら誰も自分を見ていなかった」という体験が重なると、コミュニケーション自体に苦手意識を持ってしまうこともあります。

評価不安と「役割のあいまいさ」が苦手意識を増幅

●大勢に囲まれると「どう思われる?」が気になる

一対一では相手一人からの評価だけを気にすればいいのに対し、大人数の前では多くの人からどう見られるのかが一気に意識されます。これを評価不安といい、「場違いな発言をしたくない」「失敗するぐらいなら黙っていたい」という気持ちが強くなるほど、口を開けなくなってしまうのです。こうした不安は内向的な人やHSP、ASD当事者にかぎらず、外向的な人でもイベントやプレゼンなど大勢の前では感じることがあります。

 

●役割がはっきりしないほど迷う

複数人が一堂に会するミーティングやパーティーなどでは、司会や書記、タイムキーパーなどの役割分担が曖昧な場合がよくあります。こうした状況だと、「自分がどのポジションで、いつ話せばいいのか」が見えにくくなり、特にASD当事者には大きなストレスになる可能性があります。場の空気や流れを読んで自然に発言タイミングを作るのが難しいため、「気づけばずっと黙っていた」という事態になりがちです。

 

大人数コミュニケーションを少しラクにする工夫

一対一ならそこまで苦にならないのに、大人数になると途端に疲れを覚えたり、思うように発言できなくなったりする――これは、ある意味「自然な現象」です。なぜなら、大人数の場ではとにかく情報が多く、暗黙のルールも複雑だからです。以下に、そんな状況を少しでも乗り越えるための工夫をいくつか挙げてみます。

●情報を可視化・整理する

会議やグループディスカッションでは、ホワイトボードや付箋、メモなどを使ってテーマを明示しておくと頭の中が整理されやすくなります。話が散らばりすぎるのを防ぎ、作業記憶の負担を軽減できるでしょう。

セルフモニタリングを緩める

 「みんながどう思うか」を過度に気にしすぎると口をつぐんでしまいがちです。完璧な発言を求めるより、「大まかに伝わればOK」くらいの気持ちで臨むと、評価不安が和らぎます(Snyder & Gangestad, 1986)。

役割をはっきりさせる

司会役や記録役、タイムキーパーなどを事前に決めると、ターンテイキング(誰がいつ話すか)が見えやすくなり、発言しやすい雰囲気づくりに役立ちます。特にASD当事者には安心材料にもなるでしょう。

ターンテイキングをサポートする

司会者やファシリテーターが「○○さんはいかがですか?」と話を振るだけでも、声を出すきっかけを作れます。複数人が一斉に話し始めないように配慮することで、混乱を減らせます(Sacks, Schegloff, & Jefferson, 1974)。

●非言語シグナルを言語化する

表情や視線から反応を読み取りにくい場合は、「今の話、面白いね」「ちょっと混乱している?」など、あえて言葉で伝え合うと認識のズレが減ります。ASD当事者だけでなく、HSPの方にも有効なコミュニケーションの取り方といえます。

 

おわりに――場の違いを知り、柔軟に対処する

一対一と大人数のコミュニケーションは、情報量やターンテイキング、非言語シグナル、そして心理的ハードルなど、あらゆる面で構造が異なります。特に、内向性やHSPの特性をもつ人、ASD当事者などは、大人数の場に身を置くことで強い疲れや困難を感じやすいのが実際です。しかしそれは、決して「性格が暗い」「協調性が欠けている」わけではなく、もともとの特性と環境が合わないことによるごく自然な反応とも考えられます。
 
むしろ、「大人数が苦手なら、一対一の場を意図的に作ってみる」「グループでの議論が避けられないなら、情報の整理や役割分担などでストレスを減らす」といった工夫を取り入れれば、少しずつでも負担を和らげることができます。場面の違いや自分の傾向を理解したうえで、どのように付き合えばいいのかを探していくことこそが、より快適に人と関わるための第一歩になるのではないでしょうか。

【参考文献】

Aron, E. N., & Aron, A. (1997). Sensory-processing sensitivity and its relation to introversion and emotionality. Journal of Personality and Social Psychology, 73(2), 345–368.


 Asendorpf, J. B., & Wilpers, S. (1998). Personality effects on social relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 74(6), 1531–1544.

 

 Biddle, B. J. (1986). Recent developments in role theory. Annual Review of Sociology, 12, 67–92.

 

 Greven, C. U., Lionetti, F., Booth, C., Aron, E. N., Fox, E., Schendan, H. E., … & Homberg, J. R. (2019). Sensory processing sensitivity in the context of environmental sensitivity: A critical review and development of research agenda. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 98, 287–305.

 

Klin, A., Jones, W., Schultz, R., & Volkmar, F. (2003). The enactive mind, or from actions to cognition: Lessons from autism. Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B: Biological Sciences, 358(1430), 345–360.

 

Leary, M. R. (1983). A brief version of the Fear of Negative Evaluation Scale. Personality and Social Psychology Bulletin, 9(3), 371–375.

 

Lucas, R. E., & Diener, E. (2001). Understanding extraverts’ enjoyment of social situations: The importance of pleasantness. Journal of Personality and Social Psychology, 81(2), 343–356.

 

 Sacks, H., Schegloff, E. A., & Jefferson, G. (1974). A simplest systematics for the organization of turn-taking for conversation. Language, 50(4), 696–735.

 

Snyder, M., & Gangestad, S. W. (1986). On the nature of self-monitoring: Matters of assessment, matters of validity. Journal of Personality and Social Psychology, 51(1), 125–139.

 

Sweller, J. (1988). Cognitive load during problem solving: Effects on learning. Cognitive Science, 12(2), 257–285.

 

著者紹介:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、大学院へ進学、コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」では、脳科学に関する情報を広く提供している。

【主な活動場所】 X(旧Twitter)はこちら

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