ロボット外科手術とは?技術はどこまで進んだ?臨床工学技士が解説!

2023.09.13

みなさんこんにちは!CEなかむーです!

今回は現代医療の技術の粋を結集して作られた「手術ロボット」について解説していこうと思います。近年、日本国内においても国産の手術ロボットが登場していますが、ロボット外科手術は医師の業務負担や患者様の手術安全性も飛躍的に向上しているので医療業界でもとても話題になっています!それではご覧ください!

 

ロボット手術とは?

ロボット手術と聞くとみなさんはどのようなイメージを持ちますか?独立歩行型でAIを搭載したロボットがプログラムされた手術をものすごいスピードで施術する。そんなイメージを持つ方は多いかもしれません。

イメージ図

 

現代医療における「ロボット手術」とは、単に機械化されたロボットが単独で手術をするということではありません。もう少し正確にいうと「ロボット支援下手術」と言います。

「ロボット技術の支援の下で、人間が手術をすること」という意味なので、ロボットが自動的に手術をすることはなく、医師が手術を執刀すること自体に変わりはありません。


ロボット手術のはじまりは1990年代のアメリカです。元々は軍事技術として開発されたもので、当時湾岸戦争によって多くの兵士が負傷しており、アメリカ本土や海軍空母に滞在している医師が戦地にいかずとも負傷兵を治療できないか?と考案され、遠隔操作の技術を医療用に転用したことがはじまりと言われています。

その後民間で開発が推し進められ、1999年にアメリカのインテュイティブ・サージカル社によって解剖学者としても有名なレオナルド=ダヴィンチの名を冠した手術支援ロボット「DaVinciダヴィンチ」が開発されました。

 

その後Davinciの手術安全性と医学的な有用性が注目されはじめ、2016年において全世界導入数は3900台、そのうち日本国内保有数は250台と世界第2位の保有数となっており、日本はロボット外科手術において先進国であると言えます。

 

このロボット支援下手術が始まったころはまだ保険適応となる症例は少なく、前立腺がんなどの限局された手術のみでした。広く保険適応となったのは2018年以降で、現在では胃がんや食道がん、肺がんや子宮筋腫など幅広い診療科で導入されています。

 

ロボット手術の特徴とは?

 

Davinciシステムは医師が座り拡大視された3次元映像を見ながら操作を行う「サージョンコンソール」(図1①)、術者の手の動きを専用鉗子を使用して精密な動きをサポートする医師の手と眼を再現する「ペイシェントカート」(図1②)、電気メスなどのエネルギーデバイスを接続したり、内視鏡カメラ映像を3次元処理を行ったりする様々な映像コンポーネントを集約した「ビジョンカート」(図1③)の大きく分けて3つのシステムで構成されています。

主な特徴として以下のような機能があります。

1.高度な機械式アームの関節機能がある

ロボット外科手術専用の「鉗子」(緻密な部品を組み合わせた手用の鋼製器具)をロボットの腕に装着し、遠隔操作で術者の緻密で繊細な手の動きを再現する。従来の腹腔鏡下手術ではできなかった関節の動きが再現できる。

2.手振れ防止機能が搭載

手術時の手振れが自動で機械的に補正され、細かい精緻な作業が再現できる。ヒューマンエラーによる臓器損傷や出血を防止することができる。

3.3次元立体映像の内視鏡カメラでの没入感の実現

腹腔鏡下手術において画面越しで見ていた平坦な画像を特殊な内視鏡スコープカメラを用いて3次元的に投影し、立体視をしながら手術を行うことができる。

 

手術ロボットを使用することで安全になおかつ正確な手術が可能になるのですが、実はロボット手術において用いられる専用鉗子には人が持っている機能で再現できないものがあります。それが「触覚」です。


手術において臓器を掴んだり、触ったり、引っ張っているといった「触覚」は手術の成否を決める重要なファクターといっても過言ではありません。

専用鉗子はステンレスやカーボン素材などを使った鋼製器具です。それ故、術者は専用鉗子で臓器に触れていても触覚がないため、ロボット手術特有の上下左右、奥行きなどの平衡感覚を訓練し、常に鉗子の位置に注意する必要があります。

不用意に臓器や血管に鉗子が触れると意図しない出血が起きたり、臓器を損傷させてしまったりする恐れがあります。

私も実際にロボット手術の操作を模型を用いて行ったことがあるのですが、とにかく視ている3次元映像がとてもきれいで、立体視特有の平衡感覚がよくわからず数分で気分が悪くなったことをよく憶えています。

また、専用鉗子を用いた訓練も訓練器具を用いて行ってみたのですが、引っ張る、つまむ、なでる、離すという操作を触れている触覚がないので常に鉗子の位置を目で確認しながら行うことも非常に難しかったです。

 

DaVinciを販売しているインテュイティブサージカル社では独自の教育プログラムを用いてロボット外科医師の教育も行っています。また、国内にはロボット外科学会(J-Robo)があり、ロボット外科手術専門医といったライセンスを持つ医師もいらっしゃいます。

ロボット外科手術と臨床工学技士

このロボット支援下手術をするうえでもうひとつ大切なことは、臨床工学技士がきちんと管理し、不測の事態にも対応することができるようにしなければいけないという点です。

「常勤の臨床工学技士が配置されていること」が国に診療報酬を請求する上での必須条件となっているため、臨床工学技士が配置されていない病院ではたとえどんなに優れた医師がいても、手術をすることができません。

ロボット手術での臨床工学技士の仕事としては機器の設置、配置の準備とケーブル保護、配線接続や録画装置、電気メスなどのシステム接続などロボット手術全体のシステム運用に携わります。その他にも患者様とロボットのドッキング、術中の映像記録管理なども行っています。

 

臨床工学技士は最先端医療においても、医療機器の安全性を担保し、様々な医療機器を取り扱う手術室において常に必要な人材であるという認識を持っておく必要があるかと思います。

 

ここまできた!ロボット外科手術

2013年に導入が始まった手術支援ロボット「Davinci Si」システム。現在では第4世代の「Davinci X」、「Davinci Xi」へとモデルチェンジしています。

Siでは1本の支柱を中心に4本のアームが配置しているのに対し、Xでは天吊り支柱に4本のアームを配置したことで、ロボットアームの関節が増え可動範囲が拡大、アームを回転させて配置することもできるようになりました。

 

その結果、異なる方向から手術部位へのアプローチができるようになっています。また、ロボットアーム自体もSiと比較すると細くなり、アーム同士がぶつかること(アームの干渉と言います)が減り、より狭い空間で操作することが可能になりました。

また、術者の「目」となる3Dカメラも12mmから8mmと細くなり、より小さな傷口で手術が可能となっています。

 

そして、川崎重工業とシスメックスの共同出資企業で兵庫県神戸市に本社を置く「メディカロイド」社では2020年に日本初の国産手術支援ロボット「hinotori」が開発され、国内でも導入が始まっています。実はこの「hinotori」。漫画家で医師でもあった手塚治虫氏の「火の鳥」から命名されており、ロボット本体にはロゴとともに「火の鳥」があしらわれているんです!

写真提供:メディカロイド社

 

欧米人と比較して体格の小さい日本人にも使えるように、独自のデザインでアームをコンパクトに設置できることで、より広い清潔野で手術することが可能になったほか、術者が操作する「サージョンコクピット」は人間工学に基づき医師が疲れにくいように様々な操作姿勢に合わせられるようになっていて、Davinciにはない機能を搭載しています。

 

今後も様々な機能を搭載した手術支援ロボットが開発され、患者様にも医療従事者にも優しい医療が提供できるようになっていくと感じています!

 

いかがでしたか?次回も臨床工学技士のお仕事について深堀していきましょう!

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【著者紹介】なかむー(中村 隆志・なかむら たかし)

熊本総合医療福祉学院(現:熊本総合医療リハビリテーション学院)出身
臨床工学技士のフリーランスCE-WORKS 代表
慢性期血液浄化療法からロボット手術まで幅広く臨床工学技士業務従事。
18年の臨床工学技士経験をもとに令和3年4月に国内でもあまり事例がない臨床に携わる
フリーランス臨床工学技士として業務に従事。
病院の「外」でも働ける臨床工学技士の仕事創りに取り組んでいます。
将来の夢は臨床工学技士人材だけで会社を創ること!

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