電気メスとは? 実は「切っていない」? 熱と電気の特性が生み出す驚きの機能

2024.08.23

みなさんこんにちは!CEなかむーです!

皆さんは電気メスという医療機器はご存じですか?メスといえば外科手術や解剖の際に使用される非常に鋭利な刃物のことを思い浮かべる方は多いと思います。ただこの「電気メス」。

メスという名前が付いていますが、正確には「切っていない」ことはあまり知られていないかもしれません。実は切開と凝固をする仕組みには熱と電気が関係しています。今回はその驚きの仕組みについて深堀していこうと思います!それではどうぞご覧ください!

電気メスとは

電気メスは、電気を利用して組織を切開したり、出血を止めたりするための医療機器です。主に手術室や救急処置室などで使用されています。電気メスの開発は1800年代後半から始まり、1890年、高周波電流を生体組織の出血を止める方法に応用したのが電気メスの始まりです。

 

1926年、米国の工学博士W. T.ボビーが電気メスを開発し、アメリカの脳神経外科医で脳神経外科学の発展に貢献し、クッシング病の名前で知られているハーヴェイ・ウィリアムス・クッシング教授が初めて脳外科手術で電気メスを使用しました。

 

日本では、1935年(昭和10年)に脳神経外科医の中田瑞穂氏が脳腫瘍手術で初めて電気メスを使用しました。この電気メスは当時手術見学のため留学していた中田氏がクッシング教授の手術に感銘を受け、帰国する際に購入した器具を使用したものであると言われています。

米国・ボビー社製W.Tボビーの電気メス(印西市立印旛医科器械歴史資料館収蔵)

 

一般に電気メスといわれている機器は、正確には“高周波電気メス”と呼ばれています。手術をする際には皮膚を切開し、臓器や周辺組織の手術を行う際にも止血しながら手術できるため、現代医療においても非常に広範囲の領域で多用されている便利な医療機器です。

電気メスがないと出血がコントロールできなくなったり、綺麗な傷にならなかったりするため、手術には必ず用いられる医療機器です。

電気メスとジュール熱の関係

以下に電気メスの基本的な原理を説明していきます。

電気メスは、高周波電流を利用して組織を切開したり凝固したりする医療機器です。この過程で重要な役割を果たすのがジュール熱です。

抵抗がある導体に電流を流すことで、その導体内で熱が発生します。この熱をこのジュール熱といい、炊飯器や電子レンジ、アイロンなど身の回りの多くの家電製品などで広く応用されています。ジュール熱の単位はジュール(J)と書き、中学理科で学習する単元なのでご存じの方は多いと思います。

ジュール熱のイメージ

 

電気メスの原理

ジュール熱の発生: 電気メスの先端から高周波電流が流れると、組織内でジュール熱が発生します。ジュール熱は、電流が抵抗を持つ物質(この場合は人体の組織)を通過する際に発生する熱エネルギーです。

組織の切開: 高周波電流が流れることで、組織内の水分が急激に加熱され、蒸気爆発を引き起こします。この蒸気爆発により、細胞が吹き飛び、組織が切開されます。

凝固(止血): 高周波電流を断続的に流すことで、ジュール熱が約80℃に達し、血液やタンパク質が変性して固まります。これにより、出血を止めることができます。

 

一見「切っている」ように見える電気メスですが、実は連続した電流の流れによって組織の中の水分を加熱し、「蒸気爆発」という現象を引き起こすことで切開しています。これは熱したフライパンに水滴をたらした場合に激しく弾け飛ぶのと同じことです。

左:切開(蒸気爆発)と、右:凝固(熱によるたんぱく変性)

 

電気メスは高周波電流を用いてジュール熱を発生させているということがわかりましたね。では高周波電流等はいったいどのようなものなのでしょうか?

高周波電流は、周波数が高い電流のことを指し、特に数百Hz以上の周波数を持つ電流を高周波電流と呼びます。高周波電流は、家庭用のコンセントに流れている商用交流電流(50Hzや60Hz)とは異なり、非常に短い周期で電流の向きが変わる電流とも言えます。

どのくらい高い周波数なのかというと、家庭用のコンセント(50Hzや60Hz)に対して、電気メスでは1MHzの周波数を使用しています。これは家庭用のコンセントの実に20,000倍の周期で流れている電気です。つまり家庭用コンセントでは蛍光灯が1秒間に50~60回点滅しているのに対して、1MHzでは100万回点灯していることになります。高周波と呼ばれる所以がわかりますね。

 

なぜ電気メスはこのように高い周波数の電流を用いるのかというと、電流は周波数が高くなればなるほど人体に対する影響が小さくなるという特性があるからです。これを「人体の周波数特性」といいます。これは高周波電流が電気メスに用いられることの安全性が高いことの裏付けでもあります。

高周波電流の特徴

以下に高周波電流の特徴を示します。

表皮効果: 高周波電流は、導体の表面近くを流れる傾向があります。これを表皮効果と呼び、高周波電流が流れる導体の抵抗は、直流や低周波交流に比べて大きくなります。

電磁波の発生: 高周波電流は、電磁波を発生させることができ、無線通信やレーダーなどの技術に利用されています。また、高周波電流は、医療機器(例:電気メス)、無線通信、電子レンジなどさまざまな分野で利用されています。

1KHzまでの低周波では人体に対する刺激は同程度ですが、1KHzを超すと周波数に反比例して電気刺激が小さくなっていきます。人体の周波数特性と電撃反応については臨床工学技士の専門学校等でも学習するので、とっても大事なことなのです。

 

高周波電流を使用する医療機器には電気メスの他にも以下のようなものがあります。

高周波治療器

高周波電流を利用して、痛みの緩和や筋肉のリラクゼーションを促進するために使用されます。理学療法やリハビリテーションでよく使われます。出力の小さい家庭用もあります。

高周波アブレーション装置

高周波電流を利用して、心臓の不整脈を治療するために使用されます。心臓の異常な電気信号を焼灼することで、正常なリズムを回復させます。

高周波美容機器

高周波電流を利用して、皮膚の引き締めやコラーゲンの生成を促進するために使用されます。美容クリニックやエステサロンで使用されます。

 

まとめ

今回のポイントとしては、電気メスは高周波電流を用いてジュール熱を発生させ、組織内の水分を「蒸気爆発」させることで切開をしているということです。

また、その電流の流し方や電流の強さで切開したり、凝固させたりすることができるということがわかりました。近年美容領域でも高周波を用いた美顔器や治療装置が多く販売されていますが、皮膚障害や火傷などといった事故が増えているため、その取扱い方法についてはさらなる検討が必要だと思います。

 

次回は高周波医療機器の使用上の問題点と対策について深堀していこうと思います!

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【著者紹介】なかむー(中村 隆志・なかむら たかし)

熊本総合医療福祉学院(現:熊本総合医療リハビリテーション学院)出身
臨床工学技士のフリーランスCE-WORKS 代表
慢性期血液浄化療法からロボット手術まで幅広く臨床工学技士業務従事。
18年の臨床工学技士経験をもとに令和3年4月に国内でもあまり事例がない臨床に携わる
フリーランス臨床工学技士として業務に従事。
病院の「外」でも働ける臨床工学技士の仕事創りに取り組んでいます。
将来の夢は臨床工学技士人材だけで会社を創ること!

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