暴風雨に警戒せよ! 台風はなぜ出来る!?

2023.08.28

 気温が上がる7 〜 10月頃にかけて活発に発生するものがある。虫……は、まぁそうかもしれない。とはいえ、虫が少しくらい活発になったところで私たちの日常はあまり変化しないが、こちらは一気に様変わりする。すなわち台風だ。猛烈に吹き荒れる風とつぶてのように降りしきる雨に、私たちの日常は大きく脅かされてしまう。

 それにしても台風とは不思議な気象現象だ。強烈で巨大な渦巻きでありながら、その中心はまるで何もないように穏やかだ。どうしてこのような事が起きるのだろう? 毎年やってくる気象現象の割に、改めて問われるとうまく説明できない気がする。そこで今回は、私たちの生活を散々に荒しまわる台風がどのように発生するのかを解説していく。

 

 

少し詳しく 〜海水温と熱帯低気圧〜

 そもそも台風とはなんなのだろうか? 台風とは北西太平洋上に発生した最大風速17 m/秒の熱帯低気圧だ[注1]。熱帯低気圧とはその名の通り、熱帯・亜熱帯地域に発生する低気圧のことだ。わかりやすい。

 低気圧は、気温が高い場所によく発生する。空気の分子が活発になり、分子間の距離が離れることで体積あたりの空気分子の数が減るからだ。そのため、地球の中でも気温の高い熱帯地域で低気圧が発生することはそう不自然な現象ではない。

 と、考えるのは早計だ!!

 熱帯地域の気温は確かに高い。だが、気温が高いから熱帯低気圧が発生するというならば、赤道付近は常に低気圧状態になっている筈だ。平時から気温の高い熱帯地域で熱帯低気圧が発生するためには、気温よりもさらに高い熱を持った熱源が必要だ。果たしてそんなものがあるのだろうか? 

 もちろんある。ズバリ、海水だ。

 海水がどうして熱源になるのだろうか? むしろ真夏でも冷たい海水は、熱源にはなりそうにないように思える。しかしそれは液体の時の話だ。

 気温の高い熱帯地域では、海水の蒸発が盛んだ。蒸発した水蒸気は上昇していき、上空で冷えて雲を形成する。実はこの時、熱が放出される。水が水蒸気でいるためのエネルギーが不要になったからだ[注2]

 こうして水蒸気から発生した熱が熱帯地域の空気を温め、熱帯低気圧を発生させる要因となる。水蒸気が多いほど熱も多く放出されるので、海水温が上がるほど気圧の低い低気圧になるというわけだ。

 海水の積極的な蒸発が熱帯低気圧ひいては台風を作り出す事がわかった。しかしながら、台風の中心には目と呼ばれる雨も風もない穏やかな空間が広がっている筈だ。中心が最も強いのならともかく、最も穏やかというのはなんとも不思議な話である。

 そこで続いては目が出来る仕組みについて見てみよう。目だけに。目だけに!

 

 

さらに掘り下げ 〜遠心力と目〜

 読み物ばかりも体がなまるので、たまには運動も挟むとしよう。全速力で走るだけだ。しかしながら、全速力で走っているとすぐにゴールしてしまってつまらない。ここは円形に走ってみよう。

 円の半径を徐々に小さくしていくと、ある地点から小さくできなくなる事がわかるだろう。遠心力が発生するからだ。

 あらゆる回転運動には、中心から遠ざかろうとする遠心力が働く。遠心力は回転の半径が小さいほど、運動の速度が大きいほど、大きくなる。

 それでは台風における回転運動とはなんだろうか? おそらく皆さん心当たりがある筈だ。

 すなわち、渦である。

 台風の風は中心に向かって、渦状に吹き込んでいる。この時、風の軌跡は中心に向かうほど半径が小さくなり、風速は中心に向かうほど速くなる。つまり台風の風は、遠心力が大きくなる要素を強くしながら吹いているのだ[注3]。渦の中心付近では、強い遠心力のため、風や雲もある領域から内側に向かう事ができなくなる。

 この風や雲が近づけなくなる領域こそが、目だ。風も雲も近づけないので、目の中では穏やかな気候になるというわけだ[注4]

 

 目の形成には渦状に吹き込む風が重要な事がわかった。ここで一つ疑問が生じる。そもそも、渦状の風はどうして吹くのだろう? まっすぐ吹けば良いのに。

 続いて渦が出来る仕組みについて解説していく。

 

 

もっと専門的に 〜コリオリの力と渦〜

 突然だが、赤道からまっすぐに北極に行く飛行機を考えてほしい。

 飛んでいる飛行機を地表から観測するとどうなるだろうか? 飛行機は北極に向かっているはずだから当然真北へ進むはずだ、とはならない。北上しているはずの飛行機は、なぜか西に向かって流されているように見える。飛行機が北に進む間にも、地表では自転の影響で東の方から観測することになるからだ。そのため、飛行機が通過した地点を結ぶと、あたかも不思議な力で北西に流されながら進んでいるように見えてしまう[注5]。このように移動する物体上で働く見かけ上の力を、コリオリの力という。

 コリオリの力は台風に吹き込む風にも影響を与えている。

 台風に吹き込む風にも、当然スタート地点がある。風のスタート地点と台風の中心は、本来ならば直線で結ばれる筈だ。わざわざ曲がりながら進む必要がないからだ。しかしながら宇宙に設置した定点カメラから風の通り道を観察すると、風は弧を描いているように観察される。実際に風が到達した台風の位置は、風がスタートした時の台風の位置より東にあるからだ。

 空気を補うため、熱帯低気圧は四方八方から大気をかき集めている。そのため、幾本もの弧を描いた風の通り道ができることになり、結果として渦が出来上がるという訳だ[注6]

 

 ここまで、台風が出来る仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 台風が近づいてきた際には、対策グッズや自治体からの情報を細かく仕入れて、命を守る行動を心がけてほしい。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが気圧に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜気圧のあれこれ〜

気圧センサ

 気圧に関する研究を行うには、そもそも気圧を測定できなければ始まらない。それでは気圧はどう測れば良いのだろうか。人工衛星? 観測所? いや、技術の進歩は手のひらの上で測定することを可能にした。それも高精度に!

 スマートフォンにも搭載可能な小型の気圧センサが開発されている。精度が高く、屋内の環境や、階段の昇降等による微細な気圧の変化も測定可能なものだ。健康の維持増進のための定期モニタリングや、小型であることを利用した観測地点の拡大など、様々な応用が期待されている。気づかないうちに測定される気圧データが、私たちの命を救っているかもしれない。

不快感に立ち向かう

 気圧の変化は天候の変化を招くだけではなく、私たちの体調にも影響を与える。低気圧が近づくと頭が痛くなる、といった気圧と体調の関連を聞いた事がある人、あるいは実際に身に覚えがある人は少なくないだろう。天気予報と連動した、頭痛予測のアプリというものもあり、気圧と体調の関連は多くの人が知るところになっている。それでは内面の変化はどうだろう?

 微高気圧環境下での気分の変化を調べた研究がある。普段より少しだけ気圧の高い環境に被験者を曝露ばくろし、前後で気分がどう変化したか調べたというものだ。これによると、曝露後の方が不安やストレスが減少していたようだ。高気圧により天候は晴れ晴れとした陽気な日になるが、気分もそのように変化しているらしい。

参考文献

  • 気象庁HP

  • 山岸米二郎. 『気象学入門』. オーム社.

  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 地学図録』. 数研出版.

  • 島畑 あゆみ, 三野 弘文. 『コリオリの力の台風への影響を正しく理解するための試行』. 千葉大学国際教養学研究 7 155-163, 2023-03.

  • 斎木 健太, 田中 健路. 『MEMS 気圧センサーを用いた気圧微変動計測システムの構築』. 自然災害研究協議会中国地区部会研究論文集 (6) 33-36, 2020.

  • 梶 克彦ら. 『気圧センサを用いたステップ認識手法』. 情報処理学会論文誌 62 (1), 235-245, 2021-01-15.

  • 櫻井 博紀ら. 『微高気圧暴露と空気質の調整がヒトの精神気分尺度と自律神経活動 に与える影響』. 日本生気象学会雑誌 2022年 59 巻 1 号 37-43.

脚注

[注1] 大西洋および東太平洋上の最大風速33 m/秒のものをハリケーン、インド洋上の最大風速17 m/秒のものをサイクロンというように、発生した場所によって使う名称を分けている。タイフーン(台風の英語表記)、ハリケーン、サイクロン……仮面ライダーは海で生まれていた!? (本文へ戻る)

[注2] このように固体から液体、液体から気体への状態変化に伴って物質に蓄えられる熱を潜熱という。 (本文へ戻る)

[注3] 実際の遠心力を求める要素には、運動する物体の質量が含まれている。しかしながら今回は、半径を小さくしながら風速が増しているから遠心力が強くなる、ということを説明したかったので省略させてもらった。 (本文へ戻る)

[注4] 目の大きさは直径20 〜 200 km程度で、勢力の弱い台風では存在しない場合もある。大きく感じられるかもしれないが、熱帯低気圧の直径が500 〜 2,000 kmもあることを考えると点のような大きさだ。目の中に入ったからといって安心せずに、防災対策はしっかり継続してほしい。 (本文へ戻る)

[注5] 反対に南極に向かって真南に進む飛行機は、南西方向に流されながら進むように見える。飛行機が真っ直ぐ進んでいないなぁと思う時は、もしかしたら自分が動いているのかもしれないと考えてみてもいいかもしれない。そんな日はこないけど。 (本文へ戻る)

[注6] 地球に働くコリオリの力は高緯度になるほど顕著になっていく。地球は球形のため、高緯度になると円周が狭くなり、進んだ距離に対する割合が大きくなるからだ。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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